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第2章 アナタに捧ぐ鎮魂歌

3 新緑のブレスレット①

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 加護が消えたということは。魔法が使えずあらゆるチートがなくなったということで…。

「やったー!!これで僕は一般人!!」

 僕は諸手を上げて喜んだ。

「君という奴は…」

 ギルフィスが死んだ魚の目をして呆れているが、そんなこと構うもんか。これで理想のお独り様生活が見えたも同然だ。わーい。

「とりあえず、フードを被った方がいい。その姿は不味いだろう」

 あ、そか。魔法使えないんじゃ偽装も解けるのは当然か。指摘され、僕は急ぎフードを被る。
 人は多いが、祭りと隅にいたおかげで、足を止めてまでこちらを見る人はいないから、助かった。…子供は、まあ仕方がない。

「しっかし、これではギルフィスさんともお別れですねー」

 ピキッ。

 満面の笑顔で言い放った瞬間、空気が凍りつく音がした。

 え、だって、勇者じゃなくなったら魔王様に会う理由がなくなるじゃないですか。

 おかしなこと言っただろうかと首を傾げたら、魔王様から溢れるドス黒いオーラがっ!?せっかく泣き止んだ肩の子供がまたぴるぴるし出しているから、やめてあげて下さい。はい、僕のせいですね。謝罪させて頂きます!!

「冗談ですよ、冗談。社会見学打ち切るような発言して申し訳ありませんでした!」

「君という奴はどこまで……。いや、ここで話す内容じゃないな。場所を移そう。まずは、この子供をどうにかしないと」

 疲労感漂うギルフィスは自分の頭にしがみつく子供を、落とさないよう器用に片手で支え、それらしき人影を探す。
 子供も涙目ながらに離されまいと大人しくしているし、これは意外な組み合わせだ。

 …うーん。見た感じやっぱり普通の子供、だよな?あの新緑色の髪はなんだったんだろう。見間違えで片付けるには、この左手首にはまっているブレスレットの存在の説明がつかない。

「おい、お前。親はどうした?」

 ギルフィスの問いかけに子供は首をふるふると横に降る。

「どこからきたか、分かるか?」

 ふるふる。

「迷子の自覚は?」

 こくん。

「………」

 どうやら子供はこれ以上泣かないよう、頑なに口を閉じ我慢しているらしい。この様子じゃ、ブレスレットと関係性は薄そうだな。

「仕方がない。祭りなら何処かに迷子を預かるところもあるだろ。そこまで連れて行くか」

「意外と面倒見がいいんですね」

「普通だろ?それに、いつまでもここにいたら、彼奴らに見つかるからな」

 最後の方は口早で聞き取りにくかったけど、しっかり聞こえた。
 
 そこで初めて、僕は今更ながらリヒターとアッシュの姿がないのに気づく。
 もしかしなくても、今も、二人は僕を探し回ってくれているんだろうか。ん?それなら、見つけてもらうまで留まっていた方が良いのでは?

「ギルフィスさー」
「ほら、手」

「あ、はい」

 言いかけて、差し出された手のひらに条件反射で自身の手を乗せてしまった。こらっ、僕はアッシュじゃないぞ!(ルトさん酷い(泣)←byアッシュ)
 重なった手のひらに、満足げに笑んだギルフィスはそれを握りしめ歩き出す。

「見つけたのに、また迷子になったら困るしな」

「ええっ、僕が迷子!?」

 わっ、危な。転ぶから、急に引っ張るな。

「自覚がない分、子供よりタチが悪い」

 右手で肩で子供を支え、左手で僕の手を握るギルフィスが器用に肩をすくめて見せる。
 迷子じゃなくて、人の密集地から避難しただけなんだどな。この調子じゃ言っても多分、納得して貰えなさそうだ。

 手を引くギルフィスが、意気揚々と進む様を横目に見つつ、子供じゃないのにと、僕はひっそり息を吐く。

 うーん。こういう強引さは魔王様らしいかもしれない。










 頭の中で、結果、過程、それに必要な因子を思い浮かべ、魔力で編み上げ解き放つ。編み上げが緻密であればあるほど、威力や効果は増しより強大な力として具現化する。

「んー…、やっぱりダメか」

 テーブルの上に置かれたガラスのコップに向かい集中して見るが、コップは水の一滴も入っておらず、置いた時同様空のままだ。

 左腕を持ち上げて、手首に光る細身の金属製のブレスレットを見る。
 素材は恐らく魔法金属ミスリル。蒼銀に円が細かく幾何学模様に刻まれ、砂つぶよりは大きく小石より小さい魔石?が、等間隔で埋め込まれている。仄かに石が新緑色の光を放っているのが、かなり気になる。

「それが恐らく、フタになっているんだろうな」

 
 僕の様子をベッドに座り、茶トラ猫の腹をモフモフしながら見ていたギルフィスが答える。
 茶トラ猫は魔王様のモフテクにすっかり陥落し、あられもない格好で伸びて喉をぐるぐる鳴らしている。まな板の鯛ならぬ、ベッドの上の猫だ。
 そりゃあ、いくら人懐っこいとはいえ、初対面で捕まえて、人のベッドに突っ込むなんて所業出来ませんよね。子供に引き続き、魔王様の意外な能力(?)に脱帽です。

 あの後、子供を主催者側に預けた僕達はギルフィスの転移魔法で宿泊している宿に戻ってきた。リヒターとアッシュに関しては事前に一定の時間を決め、見つからない場合は宿に戻るように取り決めてあると聞き、二重遭難の心配はないようで一安心だ。

「フタですか…」

 まじまじとブレスレットを見つめる僕に、ギルフィスは頷いて見せる。

「ああ。ブレスレットとの魔石が光っているのが分かるだろ?それが装着者の魔力を吸い上げ、加護を消し去る、いや、正しくはかなり強力に封印しているようだな」

「と、いうことは加護自体は消えていないということですね」
 
 さすが魔族の王様。魔力の流れや魔法の展開を見る力に長けてらっしゃる。
 後天性ならともかく先天性の加護が突然なくなるなんて、おかしいと思った。チッ。

「残念だがそういうことだ。というか、神殿が選んだ勇者が突然力がなくなったからと、すぐにお役御免になることはないからな」

「嫌だなぁ。冗談だって言ったじゃないですか」

 社会見学が打ち切られそうになったからって、そんな胡乱な眼差しで人を見ないで下さいよ。

「で、本音は?」

「一瞬本気で喜びました!」

「………」

「………」

 ギルフィスさん。真顔で答えたからって、イタイ沈黙は勘弁してくれませんかね。













ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
続きます。
☆ 次回ちょーっとだけ無理矢理な性描写が入るかもしれません。入ったら題名に印をつけます。
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