27 / 58
第2章 アナタに捧ぐ鎮魂歌
3 新緑のブレスレット①
しおりを挟む加護が消えたということは。魔法が使えずあらゆるチートがなくなったということで…。
「やったー!!これで僕は一般人!!」
僕は諸手を上げて喜んだ。
「君という奴は…」
ギルフィスが死んだ魚の目をして呆れているが、そんなこと構うもんか。これで理想のお独り様生活が見えたも同然だ。わーい。
「とりあえず、フードを被った方がいい。その姿は不味いだろう」
あ、そか。魔法使えないんじゃ偽装も解けるのは当然か。指摘され、僕は急ぎフードを被る。
人は多いが、祭りと隅にいたおかげで、足を止めてまでこちらを見る人はいないから、助かった。…子供は、まあ仕方がない。
「しっかし、これではギルフィスさんともお別れですねー」
ピキッ。
満面の笑顔で言い放った瞬間、空気が凍りつく音がした。
え、だって、勇者じゃなくなったら魔王様に会う理由がなくなるじゃないですか。
おかしなこと言っただろうかと首を傾げたら、魔王様から溢れるドス黒いオーラがっ!?せっかく泣き止んだ肩の子供がまたぴるぴるし出しているから、やめてあげて下さい。はい、僕のせいですね。謝罪させて頂きます!!
「冗談ですよ、冗談。社会見学打ち切るような発言して申し訳ありませんでした!」
「君という奴はどこまで……。いや、ここで話す内容じゃないな。場所を移そう。まずは、この子供をどうにかしないと」
疲労感漂うギルフィスは自分の頭にしがみつく子供を、落とさないよう器用に片手で支え、それらしき人影を探す。
子供も涙目ながらに離されまいと大人しくしているし、これは意外な組み合わせだ。
…うーん。見た感じやっぱり普通の子供、だよな?あの新緑色の髪はなんだったんだろう。見間違えで片付けるには、この左手首にはまっているブレスレットの存在の説明がつかない。
「おい、お前。親はどうした?」
ギルフィスの問いかけに子供は首をふるふると横に降る。
「どこからきたか、分かるか?」
ふるふる。
「迷子の自覚は?」
こくん。
「………」
どうやら子供はこれ以上泣かないよう、頑なに口を閉じ我慢しているらしい。この様子じゃ、ブレスレットと関係性は薄そうだな。
「仕方がない。祭りなら何処かに迷子を預かるところもあるだろ。そこまで連れて行くか」
「意外と面倒見がいいんですね」
「普通だろ?それに、いつまでもここにいたら、彼奴らに見つかるからな」
最後の方は口早で聞き取りにくかったけど、しっかり聞こえた。
そこで初めて、僕は今更ながらリヒターとアッシュの姿がないのに気づく。
もしかしなくても、今も、二人は僕を探し回ってくれているんだろうか。ん?それなら、見つけてもらうまで留まっていた方が良いのでは?
「ギルフィスさー」
「ほら、手」
「あ、はい」
言いかけて、差し出された手のひらに条件反射で自身の手を乗せてしまった。こらっ、僕はアッシュじゃないぞ!(ルトさん酷い(泣)←byアッシュ)
重なった手のひらに、満足げに笑んだギルフィスはそれを握りしめ歩き出す。
「見つけたのに、また迷子になったら困るしな」
「ええっ、僕が迷子!?」
わっ、危な。転ぶから、急に引っ張るな。
「自覚がない分、子供よりタチが悪い」
右手で肩で子供を支え、左手で僕の手を握るギルフィスが器用に肩をすくめて見せる。
迷子じゃなくて、人の密集地から避難しただけなんだどな。この調子じゃ言っても多分、納得して貰えなさそうだ。
手を引くギルフィスが、意気揚々と進む様を横目に見つつ、子供じゃないのにと、僕はひっそり息を吐く。
うーん。こういう強引さは魔王様らしいかもしれない。
頭の中で、結果、過程、それに必要な因子を思い浮かべ、魔力で編み上げ解き放つ。編み上げが緻密であればあるほど、威力や効果は増しより強大な力として具現化する。
「んー…、やっぱりダメか」
テーブルの上に置かれたガラスのコップに向かい集中して見るが、コップは水の一滴も入っておらず、置いた時同様空のままだ。
左腕を持ち上げて、手首に光る細身の金属製のブレスレットを見る。
素材は恐らく魔法金属。蒼銀に円が細かく幾何学模様に刻まれ、砂つぶよりは大きく小石より小さい魔石?が、等間隔で埋め込まれている。仄かに石が新緑色の光を放っているのが、かなり気になる。
「それが恐らく、フタになっているんだろうな」
僕の様子をベッドに座り、茶トラ猫の腹をモフモフしながら見ていたギルフィスが答える。
茶トラ猫は魔王様のモフテクにすっかり陥落し、あられもない格好で伸びて喉をぐるぐる鳴らしている。まな板の鯛ならぬ、ベッドの上の猫だ。
そりゃあ、いくら人懐っこいとはいえ、初対面で捕まえて、人のベッドに突っ込むなんて所業出来ませんよね。子供に引き続き、魔王様の意外な能力(?)に脱帽です。
あの後、子供を主催者側に預けた僕達はギルフィスの転移魔法で宿泊している宿に戻ってきた。リヒターとアッシュに関しては事前に一定の時間を決め、見つからない場合は宿に戻るように取り決めてあると聞き、二重遭難の心配はないようで一安心だ。
「フタですか…」
まじまじとブレスレットを見つめる僕に、ギルフィスは頷いて見せる。
「ああ。ブレスレットとの魔石が光っているのが分かるだろ?それが装着者の魔力を吸い上げ、加護を消し去る、いや、正しくはかなり強力に封印しているようだな」
「と、いうことは加護自体は消えていないということですね」
さすが魔族の王様。魔力の流れや魔法の展開を見る力に長けてらっしゃる。
後天性ならともかく先天性の加護が突然なくなるなんて、おかしいと思った。チッ。
「残念だがそういうことだ。というか、神殿が選んだ勇者が突然力がなくなったからと、すぐにお役御免になることはないからな」
「嫌だなぁ。冗談だって言ったじゃないですか」
社会見学が打ち切られそうになったからって、そんな胡乱な眼差しで人を見ないで下さいよ。
「で、本音は?」
「一瞬本気で喜びました!」
「………」
「………」
ギルフィスさん。真顔で答えたからって、イタイ沈黙は勘弁してくれませんかね。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
続きます。
☆ 次回ちょーっとだけ無理矢理な性描写が入るかもしれません。入ったら題名に印をつけます。
0
お気に入りに追加
1,038
あなたにおすすめの小説
せっかく双子で恋愛ゲームの主人公に転生したのに兄は男に妹は女にモテすぎる。
風和ふわ
恋愛
「なんでお前(貴女)が俺(私)に告白してくるんだ(のよ)!?」
二卵生の双子である山田蓮と山田桜がドハマりしている主人公性別選択可能な恋愛ゲーム「ときめき☆ファンタスティック」。
双子は通り魔に刺されて死亡後、そんな恋愛ゲームの主人公に転生し、エボルシオン魔法学園に入学する。
双子の兄、蓮は自分の推しである悪役令嬢リリスと結ばれる為、
対して妹、桜は同じく推しである俺様王子レックスと結ばれる為にそれぞれ奮闘した。
──が。
何故か肝心のリリス断罪イベントでレックスが蓮に、リリスが桜に告白するというややこしい展開になってしまう!?
さらには他の攻略対象男性キャラ達までも蓮に愛を囁き、攻略対象女性キャラ達は皆桜に頬を赤らめるという混沌オブ混沌へと双子は引きずり込まれるのだった──。
要約すると、「深く考えては負け」。
***
※桜sideは百合注意。蓮sideはBL注意。お好きな方だけ読む方もいらっしゃるかもしれないので、タイトルの横にどちらサイドなのかつけることにしました※
BL、GLなど地雷がある人は回れ右でお願いします。
書き溜めとかしていないので、ゆっくり更新します。
小説家になろう、アルファポリス、エブリスタ、カクヨム、pixivで連載中。
表紙はへる様(@shin69_)に描いて頂きました!自作ではないです!
姫を拐ったはずが勇者を拐ってしまった魔王
ミクリ21
BL
姫が拐われた!
……と思って慌てた皆は、姫が無事なのをみて安心する。
しかし、魔王は確かに誰かを拐っていった。
誰が拐われたのかを調べる皆。
一方魔王は?
「姫じゃなくて勇者なんだが」
「え?」
姫を拐ったはずが、勇者を拐ったのだった!?
食事届いたけど配達員のほうを食べました
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
なぜ自転車に乗る人はピチピチのエロい服を着ているのか?
そう思っていたところに、食事を届けにきたデリバリー配達員の男子大学生がピチピチのサイクルウェアを着ていた。イケメンな上に筋肉質でエロかったので、追加料金を払って、メシではなく彼を食べることにした。
ちっちゃくなった俺の異世界攻略
鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた!
精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!
転生先がハードモードで笑ってます。
夏里黒絵
BL
周りに劣等感を抱く春乃は事故に会いテンプレな転生を果たす。
目を開けると転生と言えばいかにも!な、剣と魔法の世界に飛ばされていた。とりあえず容姿を確認しようと鏡を見て絶句、丸々と肉ずいたその幼体。白豚と言われても否定できないほど醜い姿だった。それに横腹を始めとした全身が痛い、痣だらけなのだ。その痣を見て幼体の7年間の記憶が蘇ってきた。どうやら公爵家の横暴訳アリ白豚令息に転生したようだ。
人間として底辺なリンシャに強い精神的ショックを受け、春乃改めリンシャ アルマディカは引きこもりになってしまう。
しかしとあるきっかけで前世の思い出せていなかった記憶を思い出し、ここはBLゲームの世界で自分は主人公を虐める言わば悪役令息だと思い出し、ストーリーを終わらせれば望み薄だが元の世界に戻れる可能性を感じ動き出す。しかし動くのが遅かったようで…
色々と無自覚な主人公が、最悪な悪役令息として(いるつもりで)ストーリーのエンディングを目指すも、気づくのが遅く、手遅れだったので思うようにストーリーが進まないお話。
R15は保険です。不定期更新。小説なんて書くの初めてな作者の行き当たりばったりなご都合主義ストーリーになりそうです。
涙の悪役令息〜君の涙の理由が知りたい〜
ミクリ21
BL
悪役令息のルミナス・アルベラ。
彼は酷い言葉と行動で、皆を困らせていた。
誰もが嫌う悪役令息………しかし、主人公タナトス・リエリルは思う。
君は、どうしていつも泣いているのと………。
ルミナスは、悪行をする時に笑顔なのに涙を流す。
表情は楽しそうなのに、流れ続ける涙。
タナトスは、ルミナスのことが気になって仕方なかった。
そして………タナトスはみてしまった。
自殺をしようとするルミナスの姿を………。
雫
ゆい
BL
涙が落ちる。
涙は彼に届くことはない。
彼を想うことは、これでやめよう。
何をどうしても、彼の気持ちは僕に向くことはない。
僕は、その場から音を立てずに立ち去った。
僕はアシェル=オルスト。
侯爵家の嫡男として生まれ、10歳の時にエドガー=ハルミトンと婚約した。
彼には、他に愛する人がいた。
世界観は、【夜空と暁と】と同じです。
アルサス達がでます。
【夜空と暁と】を知らなくても、これだけで読めます。
随時更新です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる