巡り巡って風車 前世の罪は誰のもの

あべ鈴峰

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第三十七集

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 容容は天祐さんの気まぐれか、よく理由はわからないが洋服を買ってもらった。
どんな服が出てくるだろうとハラハラ、好みの服だといいなとドキドキ。出できたのは予想を上回る品だった。

薄いピンク色にレースの付いた可愛らしい柔らかなワンピースだ。新品の匂いがする。
(とっても可愛い……)
「どうだ。気に入ったか? 私の見立てだ」
天祐さんの声に振り返るとドヤ顔で笑っている。その顔に口が緩む。絶対自分では買わないが、こんな服が着たいと思っていた。自分の胸に当ててみる。自分のための服など本当に久しぶり。とっても嬉しい。箱を覘くとまだ中に沢山あった。残りのダンボールに目が向く。こっちのも満杯だったら……。
駄目だ。こんなに貰えない。
「こんなに要りません」
そう言ってワンピースを箱に戻した。
「何だ。気に入らないのか?」
「………」
(いいえ、もしこれが着られたらお姫様になった気分だろう)
でも駄目だ。もらう理由が無い。でも、自然と目が行く。要らないと、直ぐにそっぽを向いて欲しがる気持ちを我慢した。
「いっ……二着だけで十分です」
「遠慮するな」
しかし、そんな私の気持ちを無視して天祐さんが何かを探しているのか 次々と箱を開けた。そっちにも女物が入っている。同じく新品らしく全部ビニールに入っている。
「こんなにどうして買ったんですか?」
意味も無く買うはずが無い。女物だから間違って買ったとは思えない。
「えーと…… あった。あった」
振り向いたその手には靴があった。
「制服だ」
「制服?」
何を言っているのかと全く伝わってこない。
「メイドにはメイド服が必要なのだろう?」
あっ!
その言葉に王元さんの顔が浮かぶ。

 この前会った時、会うたび同じ服を着ているから制服かとからかわれた。王元さんの口車に乗って買ったに違いない。
心の中で溜め息をつく。
この時代では当たり前と言われたら、武侠の時代で生きて来た彼が疑うはずが無い。納得した。でも……下手に指摘すると二人の関係が悪くなりそうだ。
「容容は何色が好きだ?」
そんな事考えも聞かれたことも無かった。
「……水色かな?」
「だったら、今度買ってやる」
「良いです。良いです。これで十分です」
乗り気の天祐さんを止めようと両手を振って断る。これ以上は悪い。罰が当たる。

3の68

 東宮から出てきた俊豪の顔は険しく 無意識に 早足になっていた。その為、従者の応時が近づいて来たことに気づかなかった。
頭は他のことでいっぱい。
(まさかこんな事を頼まれるとは……)
適任者は他にも沢山いるだろう。
何故私なんだ。解せない。
「何の話だったんですか?」
「っ」
急に声が聞こえてきた応時の声に立ち止まった。目を輝かせている。何でもかんでも知りたがりの男だ。無視した。しかし、応時が隣を歩きながら、ひそひそと話し掛けて来る。
「ケチケチしないで教えてくださいよ」
「ケチケチ……」
ギロリと睨みつけた。口にしたくもない。もしかしたらそう言う相手が現れるたび頼んでいるのか? それとも、今回、たまたま私の番ということか?
「俊豪様~」
ただをこねるような物言いに諦めた。
「皇太子の様子が怪しいそうだ」
「怪しい?……」
応時がきょとんとして私の顔色を伺う。しかし、ピンと来たのかパッと顔が明るくなる。
「つまり……新しい女を調べてこい。そういう事ですか?」
そうだと頷くと応時がガッカリした顔になる。同意だ。私も浮気調査などやりたくも無い。
「女が出来るたび、一々相手にしていたら身が持ちませんよ」
皇太子 も いずれは皇帝になる。皇帝になればたくさんの妃を迎える。それなのに……。
今から心配だ。
「そんな事、妃殿下だって分かっているさ」
英雄色を好む、では無いが玉の輿に乗ろうとする女たちは多い。あの手この手で皇太子に近付く。皇太子は移り気で有名だ。たいてい三か月。もって半年で、次の女に目移りする。それ以上に続いた徐有蓉だけ。結局別れたが。


「それで妃殿下は誰を調べて欲しいと仰せ何ですか?」
「人ではなく、家だ。皇太子が国境近くに家を買ったらしい」
「国境ですか? 通うのも大変でしょうにどうしてでしょう?」
「問題なのは、それをもう売り払った事なのだ」
皇太子が家を買い与えるのは初めてじゃない。問題なのは妃殿下がどんな女か確かめる前に別れてしまったことだ。
妃殿下は七歳で婚約した時から自分を蹴落とそうとする女達を見て来た。夫を見る女の目だけで本気かどうかさえ分かるらしい。

 皇太子が飽きても相手が付きまとう時は妃殿下が代わりに処理して来た。自分では後始末はしない。だから今回の皇太子の行動が解せない。囲おうとして買ったとか、手切れ金で渡したとか、それなら分かる。
「皇太子殿下は何の為に家をお求めになたんですかね?」
「そこだよ。妃殿下が心配しているのは、その理由だ」
他はともかく、皇太子の件に関しては好意があるかどうか感じておられるのは間違いないだろう……。それでも妃殿下の命令を断る事など出来るはずもない。宮仕えの悲しさだ。立ち止まるとクルリと振り返って応時を見た。
「応時。皇太子の行動を見張れ」
「御意」
応時が拱手して立ち去った。
そういえば徐と別れた時 手入れ金のようなものを渡したと聞いたことがなかったな。
何も出てこなければいいが……。
皇太子暗殺事件未遂を発端に皇室は荒れている。

3の69
 王元は容容と今日はパンケーキ屋で待ち合わをしていた。真っ白い壁にパステルカラーの絵、テーブルも白い。店員もミニ丈のメイド服。そんな可愛いが満載の店だ。
(インスタで探した)
それでも 気にしなかった。それよりも、手渡されたメニューを見ながらどれにしようかと迷う。どれもこれも食べたい。正直に言えば全皿注文したい。『スイーツ男子』は認知された。しかし、この見た目がそれを許さない。
(俺自身その辺の事は弁えている)
自分の周りに居るのは野郎ばかり。居ても水商売の女。この店には似合わない。堅気の知り合いは彼女だけ。今日だって容容ちゃんとの約束がなければ、店に入る事も出来なかっただろう。これも天祐兄貴のお蔭だ。そんな事を思っていると目の前に人が立つ。見上げると容容ちゃんだった。可愛らしいワンピースを着ている。つやつやの髪を束ねてほぼずっぴんの顔は血色がよく体にも肉が付きすっかり元気になった。最初に会った時とはまるで違う。そんな彼女を見ていると映画の「マイフェアレディ」を思い出す。
「お待たせしました」
「ううん。俺も今来たとこ。今日の格好可愛いね」
「あっ、ありがとうございます」
頬を赤らめてもごもご言う姿が初々しくて好感が持てる。


3の70

 写真を撮っている王元さんを見流しながら自分の目の前に置かれた皿に見惚れていた。
何だかんだで王元によく奢って貰っている。知れば知るほど良い人だ。白に皿にフワフワのパンケーキ、その上には色んな果物が小さくカットされて乗っている。その横にはたっぷりの生クリーム。そして、それを隠すように粉砂糖が振る掛けてある。食べるのが勿体無いほど綺麗だ。ずっと眺めていたい。
すると、先に食べていた王元さんが話しかけて来た。
「ところで兄貴に困らされてない?」
「えっ? はい。大丈夫です」
「そうならいいけど」
どこか不満そうな口調に笑みが浮かんでしまう。王元さんがお世話している時はよっぽど大変だったんだ。
「はぁ~俺も兄貴みたいな暮らしがしたいよ」
ため息交じりにそう言うとパンケーキを半分に切り分けた。自分は六等分に切り分けた。
暮らし!? 貴族みたいな暮らし? それとも堅気の暮らし? そっちの人たちは 羽振りがいいと聞く。 ギラギラに輝くネックレスも腕時計も、お金持ちっぽい。顔立ちだって悪くない。背だけだって高い。
う~ん。王元さんに無くて天祐さんにあるもの。いっぱいありそうでなさそうだけど……。
「どんな暮らしですか?」
四分の一にカットしたパンケーキをグサリと刺す。
「ただいまって言ったらお帰りって言って貰える暮らし」
「あっ」
そう言うと口に放り込んだ。もぐもぐと食べている姿を見ながら私も分かると頷いた。
同じように自分も口にしたいろんな甘さが口の中でハーモニーを奏でている。誰かが待っていてくれる。一人じゃない。それって……とっても幸せな事だ。天祐さんと出会ってから目まぐるしい日々を送っていて、いかに自分が恵まれているか忘れていた。私は天祐さんの家路の先に灯る灯りになっているだろうか。
もしなれていたらいいな……。
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