年下だけど年上です

あべ鈴峰

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黒幕の名は?

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売人を捕まえようと 部屋に乗り込んだが 魔法無効ということで 苦戦を強いられていた。
 役立たずな自分を 歯がゆく思っていると、騒ぎを聞きつけた手下どもが この部屋に向かってくる足音が聞こえる。
 その足音は 売人にも聞こえているようで 笑みが浮かぶ。
「ふふっ、 これで終わりだ」

 その言葉が重くのしかかる。 まずい状況になった。売人 一人でも苦戦してるのに、 これで手下どもまで加わったら・・。
「クロエ」
ネイサンが 売人と戦いながら 私の名前を呼ぶ 。その声は 逃げようと言っている。
 でも、逃げるために 外へ出たら 挟み撃ちに会う。 売人が 私のことを 『お嬢ちゃん』と呼ぶくらいだから、子供だと見逃してくれるかもしれない 。でも、ネイサンの性格からして 私を一人残して自分だけ 逃げるなど出来ない。
(どう考えても 私は足手まといだ)

「 命あっての物種だぞ」
殺さないと 約束するかのように 売人が言う。
 私だって 何が何でも 生き延びたい。
 その為には 一秒でも早くここから逃げるしかない。
「ぐぐっ」
 本当に撤退するしかないの? 
でも、そうしたら これまでの苦労が報われない。 このまま引き下がったら、 被害者たちに合わせる顔がない。 それに そうなれば 売人に 深く潜られてしまう。 そうなったら見つけることは困難だ。 だから、どうしても このチャンスを逃したくない。 しかし、現実に考えて今の私では 手下どもを足止めも時間稼ぎも出来ない。

でも、手下どもが来るまで まだ時間がある。
「 クロエ!」
 ネイサンの切羽詰まった声に振り返る。
ネイサンが諦めろと首を横に振る。 諦めたくないクロエは、ネイサンの言葉を拒む。
ネイサンが 何を焦っているのかは知っている。
 まずは ネイサンの心配事を取り除いて 戦いに集中してもらう。 どうしても無理ならば その時は逃げよう。だから、それまでは 戦う。

そう覚悟を決める。 
まずは、 脱出口を 作らないと。 
どうやって作る? 場所は?何を使って?
 キョロキョロしていたクロエの目に 甲冑が入ってくる。クロエは、 甲冑を倒して一番重い兜を掴むと 助走をつけてガラスの壁 めがけて 投げ飛ばす。
「とりゃ!」
割れこそ しなかったが、バリバリと大きな音を立てて ヒビが入った。 よし、これで 脱出口を作った。 これでギリギリまで戦える。
「 ネイサン様。ファイト!」
クロエは ネイサンに向かって親指を立てる。

「 おい、おい。お前のところの お嬢ちゃんは 何者だ?」
 そんな私を 売人が呆れたような 感心したような複雑な顔で ネイサンに話しかけている。
 ネイサンが 満面の笑みを浮かべて何か言っている。ネイサンが 何と返事をしたか 気になるところだか、 今は時間がない。

手下どもが  簡単に入ってこれないように 椅子や甲冑を飾ってあった台などを 扉の前に どんどん積んでいく。 その間も手下どもの足音が近づいてくる。
どうなったかとネイサンを見ると 決着がついてなかった。 時間切れだ。 しかし、逃げたくない と思ってしまう。でも、何かで手だてが あるわけではない。 私のつまらない正義感で ネイサンを危険には晒せない。でも・・。

 大急ぎで甲冑の手甲を掴んで 扉の所へ戻ると 野球のバッターのように構えて、手下どもを待つ。
『大丈夫ですか?』
『剣の音は聞こえたので』
 手下どもの声が聞こえる。
開かないとドアをガチャガチャ言わせながら、揉めている。
『なっ、何だ?開かない』
『どけ、俺が開ける』
 
積んであったものがグラグラしている。
 「クロエ!」
売人を押さえ込んでいるネイサンが大声を出す。 ドアが押し開けた手下どもが 私は見て驚いて立ち止まる。
「お前達は、何者だ?」
「いったい、どこから入ってきたんだ」

「クロエ!」
ネイサンの焦れたような声に諦める。
 ここまでか・・。
「 分かりました!」
腹立ちまぎれに手下どもに、手に持っていた 手甲と魔法石を投げると、 ガラスの壁に向かって駆け出す。次の瞬間 パァーンと言う 何かが弾けるような音が背後から聞こえる。
 何が起きたのかと振り向くと 手下どもが 檻のようなモノに閉じ込められていた。
『何をした!』
『ここから出せ!』
手下どもが 柵を揺すって怒鳴り散らす。

 訳の分からない状況に眉をひそめる。
 なんで?だって、この部屋は魔法が・・。
考えているとネイサンが火を出したこと思い出た。
「なっ」
捕まった手下どもの姿に瞠目する売人の姿に笑みを浮かべる。
そうか。この部屋以外では魔法が使えるんだ。
予定とは違ったが、役に立った。
正義は勝つ!形勢逆転だ。

「ネイサン様。今のうちに」
 ネイサンが頷くと動揺している売人の剣を弾き飛ばす。クロエは、売人に また使われないようにと、すかさず剣を拾い上げる。 これで手も足も出まい。
振り向いた時には、すでに決着がついていて ネイサンが 売人の首に剣を突き付けて、制圧下していた。一番の見どころを見逃したらしい。
『 売人様 』
『大丈夫ですか? 返事をしてください』
 クロエは 騒ぎ立てる手下どもをドアを閉めて見せないようにする。 うるさいだけだ。

「売人だという証拠は 挙がっている。観念しろ」
「・・・」
 そう言っても売人は 顔を背けて 素直に言いそうにない。 見くびられたと思ったネイサンが 剣を売人の首筋に めり込ませる。
「 お前に『双子石』を渡した人間の名前を言え。 協力してくれるなら悪いようにはしない 」
「・・・」
それでも売人は、何も答えない。
少しでも力を入れれば 切れると分かってるのに、売人が命乞いしない。 死んでもいいと思ってるのだろうか? それとも、何か言えない事情が あるんだろうか?

『双子石』を売っていたのだから、その罪は重い。死刑だってありえる。それなのに、その落ち着きは どこから?
売人の表情を見る。
そうじゃない。まだ、諦めていないんだ。
檻に閉じ込められた者以外にも手下は居るだろう。 だから、助けが来るのを待っているんだ。 そうは させない。
しかし、どうしてら 良いんだろう?
応援が来るわけでも無い。だから、二人で 何とかしないと。どうしたら・・。

「黙っていても 罪は消えないぞ」
「ネイサン様。ちょっとすみません」
「なっ」
 クロエは 取り調べ中のネイサンのポケットを探って魔法石を探す。体をまさぐられてネイサンが  目を白黒させて 動揺する。
売人も 驚いて私を見ている。
「クッ、クロエ。なっ、なんだ?」
「あー、そのまま。売人を尋問してて ください」
 クロエは、そんな二人を無視してポケットに入っていた魔法石を全部 取り出すと その足で ガラスの壁を蹴って穴を開けると、そのまま建物の外に出る。

クロエは、地面に並べた魔法石に、次々とヒビを入れて 元に戻す。
バスケットにブランケット。救急箱、傘、着替え、鉤爪フック。
 あった!お目当ての鉤爪フックを見つけると 抱えるようにして家の中に戻る。
ネイサンより先に私の私の意図に気付いた売人が 逃げようとしたが、すぐにネイサンに取り押さえられる。
「大人しくしろ」
「ネイサン様。これで縛って他の場所に行きましょう」
 ここに居たら、いつ手下どもが 来るかわからなくて、危険だ。
「そうしょう」
ネイサンが 手際よく売人を縛り上げる間に 勝利品として 火炎剣をつかむ。 今度出かけるときは 念のため持ち歩こう。

***

 場所を移動したことでさすがの売人も観念したようだ。
「 お前に『双子石』を流したのは誰だ?」
再度 尋ねると売人が ネイサンを 見てから重い口を開く。
「・・ フィリップ国王だ」
「嘘をつくな!」
ネイサンが 即座に否定する。
国王。つまり、ネイサンのお父さん?
ネイサンが 身を震わせている。よほど、赦せないのだろう。

「 もちろん。直接やり取りしたのは国王じゃない。だが、俺が見た書類には 国王のサインが あった」
 「仮に、そうだとして、なら、なぜ私に調査を任せるんだ。そんなの矛盾している」
信じないとネイサンが売人を睨みつける。
しかし、 売人が本当だと訴える。
「本当だ。でなければ、こんな森の中に大きな建物を建てられるはずがないだろう」
売人 の言葉に 強ち嘘だと思えなくなる。

 確かに、あの高い塀を作るだけでも 相当の大金が 必要になる。そんな事が出来る金持ちは限られる。
「 信じない!父上は、そんな人間ではない」
 珍しく感情的になったネイサンが 売人に 詰め寄る。 しかし、売人が さらにネイサンを追い詰める。
「 本当だ。ちゃんと手紙には 紋章まで あった」
 「そんなの・・ 偽物に 決まったいる・・」

ネイサンが唇を噛み締める。
自分の父親が主犯だと言われても信じたくないだろう。 だが、私としては国王と思われる人物が、この売人に紋章入りの紙にサインまでしてある書類を見せたことが逆に怪しい。
 売人の代わりを探そうと思えば、いくらでも見つかる。つまり、使い捨ての駒だ。

その使い捨ての駒に 自分の正体を明かすだろうか?国王なら自分の名前は出さずに、他の大臣とかに命令して 自分は手を汚さないというのが普通だ。私なら、そうする。でなければ、国王の座を揺るがしかねない大スキャンダルに、なってしまう。それに、国王自ら こんな田舎に お忍びで来るとは思っ考えにくい。 と言う事は 誰かに自分の代わりに働いてくれる者に任せるはずだ。その国王の代理をしていた者の名前を聞けば関与の有無がわかる。 ネイサンの代わりに 真偽にを確かめようと聞く。
「 その手紙を見せてくれた人は誰ですか ?」
「それはチャールズ・バリンという男だ」
「そんな・・」
 売人の口から出た 名前にネイサンが ガクッと膝をつく。
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