年下だけど年上です

あべ鈴峰

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ヒントは、青い鳥

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朝寝坊しているネイサンを見て、これは その美しい顔を堪能できるチャンスだと まじまじと観察していると
「もう、十分だろう」
 ネイサンが目を閉じたまま言う。
(起きてたの?)

「うっ」
起きるのを我慢してたんだと知って、思わず顔がひきつる。
顔に息がかかるくらい 間近で 見ちゃた。
 自分の大胆な行動に気付いて、青ざめる。
(いったい、どこから起きてたんだろう)
 調子に乗ってた。 どうしよう・・。全く何やってるのよ。私の馬鹿!
 このままでは、ただの痴女だと思われる。
 
 「なっ、何 言ってるんですか。おっ、 起きないから・・。こっ、この前みたいに、病気になったんじゃないかと 心配してたんですよ」
 しどろもどろに なりながら、それらしい理由を言う。
「そうか・・」
 ネイサンが 起き上がったけど、こっちを見ない。ネイサンも気まずいんだ。 
私も、まともに顔を合わせられない。

ネイサンが 髪をかきあげると赤くなった耳が見えた。恥ずかしかったのね。 
そりゃ、そうね。
ネイサンの勘違いだと手を払う。
「そっ、そうですよ。やだなー。もうーははっ・・・はっ・・はっ・・」
( 穴が あったら入りたい)
「・・・」
「・・・」
 沈黙に耐えきれずに 立ち上がると そそくさと、その場を離れる。
「朝食の用意しますね」

ネイサンから隠れて バクバク言ってる心臓を押さえる。
(焦ったー)
 なんとか取り繕ったけど。信じてくれたかどうか・・。二人きりになったら きっと、さっきの事を お互いに 思い出しそう。 
こうなったら、移動中は 寝たふりをしよう。

 (早く、ピーターさん来て!)
クロエは、 手を組むと空に向かって祈る。

*****

売人が 住んでいると思われる山を ネイサンと二人で何時間も探し続けている。
 しかし、一向に手がかりさえ 見つからない。
クロエはネイサンと一緒に 庭師が書いてくれた地図を見る。
この辺りに 売人の屋敷が、あるはずなのに・・。 同じようなところを迷っている 気がする。
 どこも かしこも、似たような木ばかり。

 やはり、このメモ書き程度の地図では お手上げだ。ネイサンの眉間のシワも深い。
 行き詰まっている時は、気分転換が必要だ 。
「ネイサン様、茶休憩しましょう」
 一息入れようと、適当な場所を見つけると ポットに茶葉と ひびを入れた熱湯の魔法石を入れる。 ほどなくして、紅茶のいい匂いがする。
 テキパキとカップを用意すると、お茶を注ぐ。

「 魔法で何とかならないんですか??
「 それは駄目だ。魔力を感知されたら、相手に気づかれる」
 こういう時こそ自分の実力を見せるチャンスなのに・・。
穴が開きそうなほど地図を睨んでいるネイサンにお茶を差し出すと、 地図を受け取り 自分も手がかりは ないかと見てみる。
 「目印のようなものは ないんですか?」
「う~ん。屋敷は 何でも山の中腹にあるとしか 聞いてない」
 山の中腹・・。
 なるほど、山の中に番地は存在しない。
庭師も売人の家を訪ねたことは無いだろう。
 となると、この地図自体 適当なのね。
でも・・手がかりは、これしかない。

 もう一度、地図を見る。
「・・・」
 駄目だ。何一つ、読み取れない。
 食料や日用品の調達だってあるのに 売人たちは、どうやって行き来してるんだろの?
馬車が通れるほどの幅のある道ならば、私たちが見つけられない はずはない。
 まさか、全部 売人自ら一人で全部してる?
否 、いや、いくらなんでも それは無いと、自分の考えを手で払う。

 きっと私達に分からない目印があるだ。
 目印ねぇ・・。
木に傷をつけたりとか、リボンを結ぶとかしか思いつかない。 でも、それらしい物は 無かった。
でも ヒントは、この森の中にあるはずだ。
 木で無いならと、空をと見上げる。
雲一つ 青い空が広がっている。 夜なら星を見て 目的地に たどり着けるけど・・。

 後は・・地面。 まさか、パンくずを道しるべに? いや、それだと鳥に食べられて 家に帰れない。
( 何を考えてるの!もっと真剣に考えなさい) 脱線しそうな自分を戒める。

 じゃあ、小石は?
小石か・・食べられはしないが 動物や風で動いてしまう。 変わった形の岩とかも 無かったし・・。

でも、他に見落としてるところは無いと思うんだけど・・。 答えを探すように、その辺を見ていると 自分が つけた足跡に目が留る。 
土が、ふかふかだから 靴底の模様まで くっきり・・。 そうか。分かったと指を鳴らす。
パチン!
「ネイサン様。獣道ですよ」
「 獣道?」
「 いわゆる生活道路です」
 獣は無意識に 歩きやすい場所を選んで歩く。
そのことが 習慣になって、地面が踏み固められてできるのが獣道。 それの人間版だ。

 私の考えにネイサンもピンと来たようで 眉間のシワが消える。
「よし、それじゃあ、その獣道を探そう」
「 ポイントは、人が一人通れるくらいの幅で 地面が硬くなっていることです」
 慌ただしくお茶の用意を片付けると ネイサンが左を指差す。
「 私は、こっちがを探すから クロエは反対側を手分けして探そう。 見つかったら笛を吹け」
「了解です」
敬礼すると 左右に別れる。

*****

無事、けもの道を探して森の中を歩いていくと、突如として 高い壁が現れた。
 私たちの侵入を拒むように、そそり立っている。 (やっと、見つけたけど・・)
 こんな城壁で囲まれている屋敷に乗り込めるんだろうか?
「 ここですね」
「ああ、 まずは入り口を見つけよう」
方法を考えるのは後だ。

壁伝いに歩きながら門を目指す。
 しばらく歩くと門が見えてきた。
 そっと、顔を出して 様子を見る。
既に上級貴族から連絡が入っているのか、 武装し門番が二人立っている。 その上、門も閉まっている。 思ったより警備が厳しい。

 私の予想だと 出入り出来るのは、 正面に見えるこの門だけだ。
「どうします?正面突破しますか」
ネイサン の実力なら、簡単にやっつけられる。 クロエは、剣を手にかけて戦う気概を見せて、 やるならやるとネイサンを見るが、首を 横に振って断られる。

「 今、ここで騒ぎ起こしたら証拠を処分されるかもしれない」
 確かに、最悪 売人が 逃げるかもしれない。
 しかし、魔力も使えない。敵を倒すのもダメ。 では、どうやって中に侵入するの?
 地面を掘る?それとも空から?
 腕組みして策を考えているとネイサンが いつのまにか歩き出している。
「ちょっと、待ってください」
置いていかないでと、慌てて 追いかける。

東側の壁に移動するとネイサンが身を屈めて あたりの 様子を伺うとポケットから魔法石を取り出す。 しかし、あのポケットに 魔法石が 一体何個入ってるんだろう。
その事に 感心するがも、半ば呆れる。

ひびを入れると魔法石がロープ付きの 鉤爪に変わる。
そりゃ、方法としては アリだけど。
壁の高さは ゆうに50 M を超える。 いくらなんでも無理では?
 しかし、ネイサンが フックをぶんぶん振り回す。本気なんだ。クロエは、フックが、当たらないように そばを離れる。

ネイサンが 投げたフックが、一回で壁を越える。
「凄っ!」
見事に成功して 拍手する。
やはりネイサンは、やる男だ。 
ネイサンが、フックが外れないか確かめると私を手招きする。やっぱり 私も登るのか・・。
 白くて柔らかい自分の手を見る。
 こんなことなら、食事を抜いて、少しでも体重を軽くしておくべきだった。

後悔しているとネイサンが、乗れと言うように、しゃがみ込んで背を向ける。 おんぶ?
やった!と、その大きな背中に飛びつくと ネイサンがスイスイと登っていく。 私は、しがみついているだけで良い。従者なのに こんなに、楽させてもらって申し訳ない。

***

 壁の頂上に着くと ネイサンが 鉤爪フックを逆に取り付けている。 クロエは、頂上から その景色を見ていた。四方を壁で囲まれている わけでは無かった。 北側に大きな湖があり、 それを自然の 防壁にしている。
「クロエ、降りるぞ」
「はい」
ネイサンの言葉に分かったと頷く。ネイサンが足で壁を蹴ってリズミカルに降りていく。
 救助隊の人が、やるやり方だ。

ネイサンの背中から降りたクロエは、 使用人たちに見つからないように すぐさま植え込みに隠れる。 ネイサンがロープを外すと巻き取って片付けている間に、クロエは 屋敷の様子を伺う。

大きな屋敷だか、人の気配がない。 使用人たちは、どこだろう?
 自分の屋敷の間取りと 方向を考えて 主である売人の部屋は、 どこかと考える。
屋敷の大きさは、いろいろあっても 部屋の種類は同じだし、間取りも大して変わりはしない。
 この時間なら来客が いない限り 執務室で仕事だろ。

執務室と 応接室は、そう遠くない場所を選ぶ。 応接室は来客に自分の力を見せつけるために 景色のいいところを選んだり、 自慢のコレクションを並べたりする。

 景色の良いところか・・。
ネイサンの背中から 見た景色を思い出す。
 あの湖なら自慢の一つになるだろう。 と、言うことは応接室は北側にある可能性が高い。
 隣に来たネイサンに早速 自分の考えを言う。
「ネイサン様、執務室は、北側にあると思われます」
「 わかった。じゃあ北側に行こう」

****

 家の中に侵入するとネイサンが指をパチンと鳴らして 小さな炎を出す。 何を怒るのかと思っていたが、手のひらを閉じて消してしまう。
「魔法を使っても平気なようだ」
 その言葉にクロエは頷く。 警報も鳴らないし、人が来る気配もない。 魔法が使えるかどうか確かめた だけのようだ。

奥に進みながら、ぴったりとネイサンの後ろついて行く。ネイサンが二歩進むなら私も二歩。
右に曲がるなら私も右。
走るなら、私も走ると 相棒よろしく同じ動きをする。
 屋敷の中は、がらんとしていて 誰も 見かけない。外と違って警備が緩い。

探すと言っても ドアにプレートが貼ってあるわけじゃないから しらみつぶしに あたるしかない。
二人でドアの左右に分かれ壁に張り付くと ネイサンが開けるぞと、私を見る。私が頷くと、ネイサンがドアを開ける、
 さっと中を覗く。 しかし、誰も いない。
ほっとして緊張く。次の部屋だ。そう思って次々とドアを開けた。 しかし、全部空振り。

緊張が続いて 気力が尽きそうだ。
 こういう緊張しっぱなしの状態は疲れる。集中力を持続するのも だんだん難しくなった。
こっちが 責めてるんだから この前みたいに 敵に、待ち伏せされたりしない。 そう言い聞かせても 全然 リラックス出来ない。

でも、一番の理由は、売人の部屋か分からないことだ。ジリジリと無駄に時間だけが過ぎていく。
こうも見つからないと、私の考えが甘かったのかと 焦る。
(今からでも別の方向に進む?)
 不安になったクロエは、相談しようかと思っているとネイサンが片手を あげて止まるように 指示する。
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