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星空を屋根に
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上級貴族の家から森を突きって街に戻ってきたクロエは、ネイサンの案内で 小さな家が立ち並ぶ住宅街に辿り着いた。 その中の一軒のドアをネイサンがノックする。 すると、誰か 確かめるように少しだけ ドアが開く。
「ネイサン王子。お待ちしておりました」
ドアが大きく開くと中年の男が、そう言って迎え入れてくれた。ネイサンに続いて中に入ると家人たちが笑顔で椅子を勧めてくれる。
クロエは、 言葉に甘えて座る。
やっと、休める。家人に気づかれないように 家の中を見回してみる。 どこを見ても普通の家だ。住んでいる人も普通っぽい。 この人たちが 上級貴族から私たちを守ってくれるの? こう言ってはなんだが、心もとない。
出されたお茶とお菓子を交互に口に入れながら、ネイサンの話しに聞き耳を立てる。
「 娘さんの加減は、どうですか?」
「 ありがとうございます。だいぶ良くなりました」
ネイサンに向かって 礼を言う男の人の姿に、 おや?と思う。この街に知り合いは いないと言っていた。 となると、私の目を盗んで治療していた事になる。
なるほど。こうやって協力者を得ていたのか。
相手は命の恩人。裏切るはずがない。
なかなか あくどい方法だ。しかし、 直属の部下が居ないネイサンにしてみれば、 そうするしかないのかも。 こういう時ネイサンを可哀想だと思う。
( 誰にも頼らず。ずっと一人で解決してきたんだ )
協力者が毎回見つかるとも限らない。苦労したことだろう。 やはり、ネイサンには味方である私が 必要だと改めて思う。
しばらく家人と話をすると ネイサンが戻ってきた。 と思ったら、お茶にも手をつけずに出て行こうとする。
「 クロエ。行くぞ」
「えっ、あっ、はい」
( この家に泊まるんじゃなかったの?)
すっかり、くつろいでいたクロエは、急いでネイサンの分のお茶を飲み干して、 残ったお菓子を手に抱えて 後に続く。
「ごちそうさま。ありがとう」
慌ただしく挨拶をすると、ネイサンに ついて行く。
***
ネイサンに追いついたクロエは、 もらってきたお菓子をネイサンに手渡す。
上級貴族の家で出されたお茶を最後に何も食べていない。腹が減っては何とやらだ。
「ネイサン様、なんであの家に立ち寄ったんですか?」
連れ回されてばかりでは ネイサンの考えが理解できない。
歩きながらネイサンが、どうしてかについて話してくれた。 先ほどの男の人は、あの上級貴族の所に出入りする庭師だそうだ。
上級貴族が嘘をつくのは織り込み済みで、 合っているかどうか すり合わせの為に、その庭師から売人の名前を教えてもらったらしい。
最初から庭師に 聞けば良いのでは?と聞くと。『 本当に上級貴族が紹介したか確かめる必要がある。それに罪を確定するには、裏付けが必要だ』と説明された。 何事も複雑な手続きが必要なのね。 だが、ここでネイサンが緻密な策略家だと知った。 つまり、この町に来る時点で誰が紹介者が予想してたという事になる。 しょっちゅう書類を読んでいるは、そういう事なんだ。一人で解決するために、A案が駄目だったら、 B 案というように 先々のことまで考えて行動しているんだ。
用意周到という言葉が頭に浮かぶ。
そう思ってたのに・・。
気づけば街を出て 明かりの一つもない真っ暗な場所に来ていた。 どんなに目を凝らしても何も見えない。
ピーター さんの姿もない。
月さえ雲に隠れて足元さえ見えないほど闇が深い。 その闇の中から鳥の鳴き声が聞こえる。
(不気味だ・・)
早く移動したい。
私に対しても用意周到であってほしいものだ。
そう思っているとネイサンが胸のポケットからスカーフのようなものを取り出す。
「 それは何ですか?」
「簡易の魔法陣だ」
「おおっ!」
やった!と指先を叩いて拍手する。
これは期待できる。きっと転移魔法だ。 スカーフを地面に広げるとボーッと光です。 すると、ネイサンが私をひょいっと横抱きする。
なぜ私を抱っこする?と思っていると 光が強くなる。 眩しさに目を閉じて、光が消えると今度は ひょいと降ろされる。
着いたの?早い。一瞬だ 。
どこに連れてきてくれたのかと期待してキョロキョロする。
ホテル?知り合いの貴族の家?それとも別荘 ?
雲が流れて月が辺りを照らす。
見えるものすべてが自然。 嫌な予感がする。
人工物がひとつも無い。さっきの場所と何一つ変わらない。森か平原かの違いだけだ。
(・・野宿 一択なの?)
いや、違う。 自分の頭に浮かんだ考えを否定する。
それで転移魔法を使った意味がない。
でも・・ネイサンが無駄なことをすると思えない。 それでも、どうか違って欲しいと一縷の希望を抱いて聞いてみる。
「 ここから、どこへ行くんですか?」
「 行かない。ここで一夜を明かす」
嘘でしょと、ネイサンを見つめる。
転移魔法が使えるなら、もっといい場所に 行けるのに、なんで 外なの?ピクニックじゃないんだから。 贅沢は言わない。せめて、雨風しのげる屋根があればいい。 それが 無理なら洞穴でもいい。
こうして隠れる場所も無い。見渡しの良いところだと 敵に見つかりそうだ。
安心して寝れる場所が欲しい。
他の場所にしてほしいと無言で ネイサンを見つめる。
「・・・」
「クロエ。ここに おいで」
少しだけ平らな場所にネイサンが座ると誘うように自分の横をポンポンと叩く。 今日は とっても疲れた。一生分の経験をしたと言っても過言ではない。それだけ波乱万丈な1日だった。 それなのに最後が、この場所?
クロエは 座らずに半べそで矢継ぎ早に質問する。「ご飯は、どうするんですか?お腹ペコペコです。 飲み物は、あるんですか?喉がカラカラです。 ベッドは、どこですか?疲れて くたくたです 」
すると、ネイサンがポケットから魔法石を取り出して 言ったそばから ヒビを入れて目の前に出す。バスケットに、水筒に、ブランケット 。
それが、ご飯、飲み物、ベッドと言いたいの?
ネイサンが 自慢げにバスケットの蓋を開けて中身を見せる。
「ほら、クロエの大好きなハムサンドとアップルパイもあるよ」
食べ物で つろうとするなんて、私は子供じゃないと ムッとする。
しかし、ネイサンが ほらほらと バスケットを小さく何度も 掲げてすすめて来る。
(・・・)
現実を目の当たりにしてクロエは 諦めると ネイサンの横に座る。それくらい分かる。
どんなに、わがまま言っても 何一つ変わらない。
「はぁ~」
クロエは ため息をつく。
もう 文句をいう気力もない。
「クロエ。空を見上げてごらん。 星を見ながら寝るなんて素敵じゃないか?」
私の機嫌を取るようにネイサンが空を指差す。
つられて、私も空を見る。
「星がキラキラ・・して・・」
しかし、雲に 覆わて星どころか、月さえ見えない。ネイサンが人形のように 不自然に首を動かして私を見る。
「そうですね、見えたら素敵でしょうね。見えたら!」
ネイサンが、ごめんと言うように私に向かって頭を下げる。
「クロエ。今夜だけだから 我慢してくれ」
もちろん。ワザとでないことは分かっている。
ネイサンは、いつだって私に対して優しい。
これも 早く売人を捕まえたいからだろう。
それは私も同じ気持ちだ。
「 分かりました。でも、どうしてここなんですか?」
理由もなく、この場所を選ぶとは考えにくい。
「実は、ここでピーター と待ち合わせをしている」
「 ピーターさんと?」
そういえば、ピーターさんの姿を見ていない 。上級貴族の家に送り届けてもらった時が最後だ。 ネイサンが立ち上がると 周りの景色は見せるように手を広げる。
「 覚えてないか?この場所でピーターと」
「あっ!」
そう言われて みれば 見覚えがある。
クロエは、 ぽんと手を打つ。思い出した。
暗くて気づかなかったが、私が寝ちゃって置いてきぼりにされた場所だ 。
なんことだ。二人とも そんな前から脱出計画を準備していたんだ。
その 周到さに改めて感心する。
「馬車が無くなると、これから先が大変だから、念のため 別行動してもらったんだ」
「だったら、最初から言ってください」
「・・ そうだな。今度から そうするよ」
そういう事なら仕方ない。納得したと頷く。
馬車が手に入らなかったら 移動はずっと歩きだ。 そうなれば 相手に逃げる時間を与えることになる。 事件解決にはスピードは大事だ。
*****
ブランケットを独り占めして寝ているクロエを 背後から包み込む。規則正しい呼吸音に生きていると安堵する。
怪我が無くて 本当に良かった。
もしかしたら クロエを失っていたかもしれない。 敵に囲まれた時はヒヤリとした。 まさか、あそこまで大人数で待ち構えていると思わなかった。
私の計算ミスだ。
そのせいでクロエに怖い思いをさせてしまった。
しかし、今日のクロエに驚かされた。 度胸があると言うか・・何と言うか・・。
敵に対峙した時も 怖がっていたが 泣き叫んだりしなかった。 それだけでも凄いのに 短い時間で
自分を取り戻して 戦おうとていた。
それは頼もしいことだが、 私にとっては怖いことだ。クロエを 危険にさらすの本意では無い。
クロエは いつも笑っていてほしい。そのためなら私は どんなことでもする。
私の覚悟など知らず腕の中で 寝ているクロエを見て微笑む。
こうしていると子供なのに、目を開けた途端 大人になる。今日も なんだかんだ言っても 最後には理解してくれた。 自分の半分の年なのに・・。
本当は 甘やかして大切に守らなくちゃいけないのに、 頼んだことを上手にこなしてしまうから。
まだ幼いと分かっているのに・・。
自分勝手な都合で巻き込んでしまう。
(・・・ もう少しだけ力を貸してくれ)
クロエの額に おやすみのキスをすると自分も目を閉じる。
まだ 先は長い。これからが本番だ。 少しでも休んでおかないと。
*****
寒さに目を開けると空には紫色の雲が流れている。
( もう 朝なのね)
目をこすりながらネイサンを探そうと起き上がると 隣でまだ寝ているのを見て目を丸くする。
朝寝坊とは珍しい。いつも私より早起きして、完璧な見なりで 出迎えるのに・・。
まさか、病気?
額に手をやる。熱は無い。
( ・・疲れてるのかな?)
こうして一晩たってみると 八つ当たりしてしまったと 反省する。 苦労したのはネイサンも 同じなのに、駄々をこねてしまった。 やっぱり 私の中に子供だからと言う 甘えがあったのかもしれない。 そんな私に、頼れと言われても愛想笑いしか 出ないだろう。
ここはやはり、地道に実績を重ねていくしかない。『 戦力としては考えていない。でも 他のことでは期待している』と言っていた。
まずは、そこからだ 。
しかし、ネイサンが起きない。
起こそうと思ったが、これは その美しい顔を堪能できる 絶好のチャンスだ と 止める。
こういうことでもないと 間近で見れない。
クロエは、口角を思いっきり上げる。
「ふふっ」
両肘をついて寝転ぶと 足を上げて、ぶらぶらさせる。まさに、眼福のひととき。
本当に美形だ。 女の私が嫉妬しちゃうくらい。 まつ毛が長くて、羨ましい。 指で凛々しい眉を撫でてから、 鼻に移動する。
鼻筋を通り、唇は・・薄い? 普通?どっちかなと考えていると
「ネイサン王子。お待ちしておりました」
ドアが大きく開くと中年の男が、そう言って迎え入れてくれた。ネイサンに続いて中に入ると家人たちが笑顔で椅子を勧めてくれる。
クロエは、 言葉に甘えて座る。
やっと、休める。家人に気づかれないように 家の中を見回してみる。 どこを見ても普通の家だ。住んでいる人も普通っぽい。 この人たちが 上級貴族から私たちを守ってくれるの? こう言ってはなんだが、心もとない。
出されたお茶とお菓子を交互に口に入れながら、ネイサンの話しに聞き耳を立てる。
「 娘さんの加減は、どうですか?」
「 ありがとうございます。だいぶ良くなりました」
ネイサンに向かって 礼を言う男の人の姿に、 おや?と思う。この街に知り合いは いないと言っていた。 となると、私の目を盗んで治療していた事になる。
なるほど。こうやって協力者を得ていたのか。
相手は命の恩人。裏切るはずがない。
なかなか あくどい方法だ。しかし、 直属の部下が居ないネイサンにしてみれば、 そうするしかないのかも。 こういう時ネイサンを可哀想だと思う。
( 誰にも頼らず。ずっと一人で解決してきたんだ )
協力者が毎回見つかるとも限らない。苦労したことだろう。 やはり、ネイサンには味方である私が 必要だと改めて思う。
しばらく家人と話をすると ネイサンが戻ってきた。 と思ったら、お茶にも手をつけずに出て行こうとする。
「 クロエ。行くぞ」
「えっ、あっ、はい」
( この家に泊まるんじゃなかったの?)
すっかり、くつろいでいたクロエは、急いでネイサンの分のお茶を飲み干して、 残ったお菓子を手に抱えて 後に続く。
「ごちそうさま。ありがとう」
慌ただしく挨拶をすると、ネイサンに ついて行く。
***
ネイサンに追いついたクロエは、 もらってきたお菓子をネイサンに手渡す。
上級貴族の家で出されたお茶を最後に何も食べていない。腹が減っては何とやらだ。
「ネイサン様、なんであの家に立ち寄ったんですか?」
連れ回されてばかりでは ネイサンの考えが理解できない。
歩きながらネイサンが、どうしてかについて話してくれた。 先ほどの男の人は、あの上級貴族の所に出入りする庭師だそうだ。
上級貴族が嘘をつくのは織り込み済みで、 合っているかどうか すり合わせの為に、その庭師から売人の名前を教えてもらったらしい。
最初から庭師に 聞けば良いのでは?と聞くと。『 本当に上級貴族が紹介したか確かめる必要がある。それに罪を確定するには、裏付けが必要だ』と説明された。 何事も複雑な手続きが必要なのね。 だが、ここでネイサンが緻密な策略家だと知った。 つまり、この町に来る時点で誰が紹介者が予想してたという事になる。 しょっちゅう書類を読んでいるは、そういう事なんだ。一人で解決するために、A案が駄目だったら、 B 案というように 先々のことまで考えて行動しているんだ。
用意周到という言葉が頭に浮かぶ。
そう思ってたのに・・。
気づけば街を出て 明かりの一つもない真っ暗な場所に来ていた。 どんなに目を凝らしても何も見えない。
ピーター さんの姿もない。
月さえ雲に隠れて足元さえ見えないほど闇が深い。 その闇の中から鳥の鳴き声が聞こえる。
(不気味だ・・)
早く移動したい。
私に対しても用意周到であってほしいものだ。
そう思っているとネイサンが胸のポケットからスカーフのようなものを取り出す。
「 それは何ですか?」
「簡易の魔法陣だ」
「おおっ!」
やった!と指先を叩いて拍手する。
これは期待できる。きっと転移魔法だ。 スカーフを地面に広げるとボーッと光です。 すると、ネイサンが私をひょいっと横抱きする。
なぜ私を抱っこする?と思っていると 光が強くなる。 眩しさに目を閉じて、光が消えると今度は ひょいと降ろされる。
着いたの?早い。一瞬だ 。
どこに連れてきてくれたのかと期待してキョロキョロする。
ホテル?知り合いの貴族の家?それとも別荘 ?
雲が流れて月が辺りを照らす。
見えるものすべてが自然。 嫌な予感がする。
人工物がひとつも無い。さっきの場所と何一つ変わらない。森か平原かの違いだけだ。
(・・野宿 一択なの?)
いや、違う。 自分の頭に浮かんだ考えを否定する。
それで転移魔法を使った意味がない。
でも・・ネイサンが無駄なことをすると思えない。 それでも、どうか違って欲しいと一縷の希望を抱いて聞いてみる。
「 ここから、どこへ行くんですか?」
「 行かない。ここで一夜を明かす」
嘘でしょと、ネイサンを見つめる。
転移魔法が使えるなら、もっといい場所に 行けるのに、なんで 外なの?ピクニックじゃないんだから。 贅沢は言わない。せめて、雨風しのげる屋根があればいい。 それが 無理なら洞穴でもいい。
こうして隠れる場所も無い。見渡しの良いところだと 敵に見つかりそうだ。
安心して寝れる場所が欲しい。
他の場所にしてほしいと無言で ネイサンを見つめる。
「・・・」
「クロエ。ここに おいで」
少しだけ平らな場所にネイサンが座ると誘うように自分の横をポンポンと叩く。 今日は とっても疲れた。一生分の経験をしたと言っても過言ではない。それだけ波乱万丈な1日だった。 それなのに最後が、この場所?
クロエは 座らずに半べそで矢継ぎ早に質問する。「ご飯は、どうするんですか?お腹ペコペコです。 飲み物は、あるんですか?喉がカラカラです。 ベッドは、どこですか?疲れて くたくたです 」
すると、ネイサンがポケットから魔法石を取り出して 言ったそばから ヒビを入れて目の前に出す。バスケットに、水筒に、ブランケット 。
それが、ご飯、飲み物、ベッドと言いたいの?
ネイサンが 自慢げにバスケットの蓋を開けて中身を見せる。
「ほら、クロエの大好きなハムサンドとアップルパイもあるよ」
食べ物で つろうとするなんて、私は子供じゃないと ムッとする。
しかし、ネイサンが ほらほらと バスケットを小さく何度も 掲げてすすめて来る。
(・・・)
現実を目の当たりにしてクロエは 諦めると ネイサンの横に座る。それくらい分かる。
どんなに、わがまま言っても 何一つ変わらない。
「はぁ~」
クロエは ため息をつく。
もう 文句をいう気力もない。
「クロエ。空を見上げてごらん。 星を見ながら寝るなんて素敵じゃないか?」
私の機嫌を取るようにネイサンが空を指差す。
つられて、私も空を見る。
「星がキラキラ・・して・・」
しかし、雲に 覆わて星どころか、月さえ見えない。ネイサンが人形のように 不自然に首を動かして私を見る。
「そうですね、見えたら素敵でしょうね。見えたら!」
ネイサンが、ごめんと言うように私に向かって頭を下げる。
「クロエ。今夜だけだから 我慢してくれ」
もちろん。ワザとでないことは分かっている。
ネイサンは、いつだって私に対して優しい。
これも 早く売人を捕まえたいからだろう。
それは私も同じ気持ちだ。
「 分かりました。でも、どうしてここなんですか?」
理由もなく、この場所を選ぶとは考えにくい。
「実は、ここでピーター と待ち合わせをしている」
「 ピーターさんと?」
そういえば、ピーターさんの姿を見ていない 。上級貴族の家に送り届けてもらった時が最後だ。 ネイサンが立ち上がると 周りの景色は見せるように手を広げる。
「 覚えてないか?この場所でピーターと」
「あっ!」
そう言われて みれば 見覚えがある。
クロエは、 ぽんと手を打つ。思い出した。
暗くて気づかなかったが、私が寝ちゃって置いてきぼりにされた場所だ 。
なんことだ。二人とも そんな前から脱出計画を準備していたんだ。
その 周到さに改めて感心する。
「馬車が無くなると、これから先が大変だから、念のため 別行動してもらったんだ」
「だったら、最初から言ってください」
「・・ そうだな。今度から そうするよ」
そういう事なら仕方ない。納得したと頷く。
馬車が手に入らなかったら 移動はずっと歩きだ。 そうなれば 相手に逃げる時間を与えることになる。 事件解決にはスピードは大事だ。
*****
ブランケットを独り占めして寝ているクロエを 背後から包み込む。規則正しい呼吸音に生きていると安堵する。
怪我が無くて 本当に良かった。
もしかしたら クロエを失っていたかもしれない。 敵に囲まれた時はヒヤリとした。 まさか、あそこまで大人数で待ち構えていると思わなかった。
私の計算ミスだ。
そのせいでクロエに怖い思いをさせてしまった。
しかし、今日のクロエに驚かされた。 度胸があると言うか・・何と言うか・・。
敵に対峙した時も 怖がっていたが 泣き叫んだりしなかった。 それだけでも凄いのに 短い時間で
自分を取り戻して 戦おうとていた。
それは頼もしいことだが、 私にとっては怖いことだ。クロエを 危険にさらすの本意では無い。
クロエは いつも笑っていてほしい。そのためなら私は どんなことでもする。
私の覚悟など知らず腕の中で 寝ているクロエを見て微笑む。
こうしていると子供なのに、目を開けた途端 大人になる。今日も なんだかんだ言っても 最後には理解してくれた。 自分の半分の年なのに・・。
本当は 甘やかして大切に守らなくちゃいけないのに、 頼んだことを上手にこなしてしまうから。
まだ幼いと分かっているのに・・。
自分勝手な都合で巻き込んでしまう。
(・・・ もう少しだけ力を貸してくれ)
クロエの額に おやすみのキスをすると自分も目を閉じる。
まだ 先は長い。これからが本番だ。 少しでも休んでおかないと。
*****
寒さに目を開けると空には紫色の雲が流れている。
( もう 朝なのね)
目をこすりながらネイサンを探そうと起き上がると 隣でまだ寝ているのを見て目を丸くする。
朝寝坊とは珍しい。いつも私より早起きして、完璧な見なりで 出迎えるのに・・。
まさか、病気?
額に手をやる。熱は無い。
( ・・疲れてるのかな?)
こうして一晩たってみると 八つ当たりしてしまったと 反省する。 苦労したのはネイサンも 同じなのに、駄々をこねてしまった。 やっぱり 私の中に子供だからと言う 甘えがあったのかもしれない。 そんな私に、頼れと言われても愛想笑いしか 出ないだろう。
ここはやはり、地道に実績を重ねていくしかない。『 戦力としては考えていない。でも 他のことでは期待している』と言っていた。
まずは、そこからだ 。
しかし、ネイサンが起きない。
起こそうと思ったが、これは その美しい顔を堪能できる 絶好のチャンスだ と 止める。
こういうことでもないと 間近で見れない。
クロエは、口角を思いっきり上げる。
「ふふっ」
両肘をついて寝転ぶと 足を上げて、ぶらぶらさせる。まさに、眼福のひととき。
本当に美形だ。 女の私が嫉妬しちゃうくらい。 まつ毛が長くて、羨ましい。 指で凛々しい眉を撫でてから、 鼻に移動する。
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