身代わり花嫁は妖精です!

あべ鈴峰

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補闕

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 フィアナは、パーティーに主席するのを反対しているアルと ドレスショップに買いに来ていた。
「どう考えも パーティーに行く必要はない」
アルを無視して、ラックにかかっている見本のドレスを見ていた。
(そう言うけど、これ全部 アルがカタログから選んだものだ)
返事をしないのにアルが、懲りずにまた聞いてくる 。
「本当に出席するのかい?」
(これで何回目だろ)

 つい先日ビビアンからから、2通の手紙が届いた。一通は、うぐいす色の封筒にすみれの絵が描かれている私宛の物。もう一通は、アルとの連名で書かれて招待状だ。
色こそ白で平凡だが、赤と金のストライプのリボン。ピンクと紫の小さな花束に、金のボールチェーンがアクセントで付いている。見るからに豪華な物だ。ロージーたちが私の周りに集まり、何の招待状が興味津々で見守っている。 ペーパーナイフで蝋を剥がして中のカードを取り出す。

『婚約式に ご招待いたします』

 最初の一文に思わず絶句する。
「こっ、婚約!?」
頻繁に我が家に訪れていたが 、そんな話全く聞いてない。内緒にされたことに対して、裏切られた気持ちになるというよりは、怪しさを感じる。
「一体、どう言うことでしょう?」
「そんなの友達なんだから、当たり前でしょ」 
「違うわ。きっと周りの人から同情されたくないからよ」
「そんなことで婚約するの?」
「プライドの問題よ」
いつのまにか 皆が、あれや これやと、ビビアンが招待状を送った理由について喋り出した。 しかし、私はその中に正解があるとは思えない。
きっと私たちが想像もつかない理由に違いない。
(う~ん。何だろう……)


 私宛の手紙の内容も婚約式に出席しろというものだった。
(パーティーか……)
脳裏にあの日の出来事が浮かぶ。
行きたくない。 だけど、行かなければいけない気がする。それに、婚約相手の名前を誰に聞いても知らなった。
そんな謎の人物が相手と婚約。ビビアンの性格では 嘘の婚約するなんて無理だ。それなら見たいと思うものだ。
それなのにアルは首を横に振る。
また、同じことが起こるかもしれないという不安と、元婚約者の婚約式に 元婚約者が、それぞれパートナーを同伴して同じ会場にそろう事とで、人々の好奇の目に晒される。その事に不満を持っている。

 カタログを見ていたアルがパタンと閉じるとテーブルに、放り投げる。
「やっぱり反対だ」
フィアナは、くるりと振り返ると両手に持っているドレスを突き出す。
「どっちが 似合うと思う?」
「色は右、デザインを左」
パッと見ただけで即答する。そんなアルがおもしろい。

「なんで招待するのか、意味がわからないよ」
フィアナは靴の置いてある場所に移動すると2足の靴を手に取る。
「どっち?」
「右」
店員に右の靴を渡すと今度は 帽子のところへ向かう。
「今からでも断ろう」
「どっちが良いと思う?」
「どっちも駄目」
「ダメ?」
アルが帽子をつかむと両方とも店員に渡す。 
「パーティーは夜だから、帽子はいらないよ」
(なるほど……)
「この後、宝石店に行こう」
アルが グイッと私の腰を掴んで引き寄せた。
「好きなものを全部買ってあげる」 
嬉しそうに微笑むアルを見て、フィアナは口角を思い切り上げた。
(結局、出席するのね)
「そんなに、いらないわ」
また店ごと買われては大変だと釘を刺す。するとアルがニヤリと笑う。
「店に行ってから決めればいいさ」
 その笑顔に呆れる。
買う気満々だ。


***

 フィアナは お母さんと、もうしゃべれないが、教会によく足を運んでいた。
(ここに来るだけで落ち着ける)

 馬車を降りて 母の元へ行こうとしたが足を止めた。眩しくて大きな光が、ラフィアナの木を上下しながらグルグルと回っているのを見たからた。 尋常じゃない。
「なんなの?」
目を凝らしても、ただ光が浮遊しているようにしか見えない。
妖精の力を完全に失くし人間になった私にも見えるんだから、人間界の生き物だと思うけど……。自ら光る生き物など見たことも聞いたこともない。
居なくなるまで待つ? いやお母さんに危害を加えようとしているなら、助けなくちゃと 小さく頷く。
「 ……… 」

 好奇心と恐れを抱きながら、詳しく見ようと近づいた。すると、光が前触れもなく、方向を変えて私の方に向かってきた。
(うっ、こっちに来た)
ビックリして身を守るように頭を抱えた。しかし、ぶつかることなく目の前で止まった。
身を強張らせてたまま じっとしていたが、何もしてこない。よく見るとその光に馴染みがある。
(こんな光の人いたかな?)
知り合いの妖精かと思って 声をかけようとすると
「あの……」
光の中から若い男の声が 聞こえてきた。
『お前がフィアナか?』
「はい。そうです」
(何で私の名前は知っているの?)
男の妖精の知り合いは居ない。警戒しながら返事をする。
誰だろうと目を細めていると、光の中から出てきた何かが額に当たった。と同時に見えなかったものが急に見えるようになった。
「妖精王!」

 大きい男の妖精が浮かんでいた。金のクラウンを被って、風のマントをまとっている。 一目で目の人物が誰だか分かる。妖精王だ。言い伝え通りの姿をしている。元妖精としてはその姿から畏怖の念に駆られる。見惚れる。
ビビアンから品性が無いと聞いていたけど、礼儀正しいし、見た目も威風堂々としていて、妖精王と言う感じだ。
『そうだ』
「お会いできて光栄です」
スカートを つまみ膝を曲げて敬意を表す。すると、妖精王が應揚に頷いた。
『お前のおかげで、自由の身になれた。感謝している』
(えっ?)
そう言って妖精王が頭を下げた。
あたふたと自分も頭を下げた。
「いえ、こちらこそ。ビビアンの事、有難うございました」
『気にするな』
(ビビアンを人間に戻すことなど、妖精王にしてみれば些事なのかもしれない)
素っ気ない態度が如何にも妖精王らしい。でも、どうして妖精王が態々お母さんを尋ねて来たのだろう。もしかして、私が掟を破ったから お母さんにも罰を与えるとか? そう考えるだけでゾッとする。罰なら私が受ける。
「もうし……」
言い訳を口にしそうになって、慌てて口を閉じる。お母さんが 古い妖精ほど気まぐれだから注意するように言われた。もし、別の用件で来ていたのなら藪蛇になる。
(それと無く探りを入れてみるう)
「あの……今日はどうして此処に?」
『まぁ、……ちょっとした気まぐれだ』
私の問いに妖精王は言葉を濁した。明らかに聞かないで欲しいと言う態度をとっている。どうやら 掟を破った件では無いようだ。取り越し苦労だったと胸を撫で下ろす。

 安心すると急にその理由に興味がわく。
(妖精王が言いにくい事ってなんだろう)
しかも、お母さんのところに来たということは、お母さんは関係者?
「……どんな事ですか?」
「…………」
何気なく問うと妖精王が真面目な顔で私を見詰める。
(なっ、何?)
聞いたのは悪かった? 機嫌をそこね
たかと、内心びくびくしながら身構えていると、返事は思いもよらぬ言葉を言った。
『私の力が効いているうちなら、母親と話せるぞ』
「えっ?」
『どうした。時間が無くなるぞ』
なんだか煙に巻かれた感はするけど、 お母さんと喋るチャンスを逃せない。 無理に聞き出すのは良くない。
「えっ? あっ、はい。ありがとうございます」
フィアナは急いで礼を言うと弾む足取りで駆けだした。ひと月ぶりに話が出来る。言いた事がいっぱいある。どれから話そうかと考えると、自然と笑みが浮かぶ。


妖精王は無言で暫く楽しそうな母娘を見つめていたが、頷くとその姿を消した。
(この親にしてこの子ありか……)

*****

 高い天井から吊るされているシャンデリアが照らすホールには、冬だというのにたくさんの生花が飾ら、れきらびやかさを増していた。
その下を美しく飾った男女が、おもいおもいに踊っていた。
豪華絢爛とは、このことかと思わせるほど、これでもかと、お金が使われている。 王族でもこんなに派手なことはしないと招待客が圧倒されていた。 

 しかし、その中で 見劣りせずひときわ目立っていたのは、ルビーのようにきらめく赤い髪を結い上げ、瞳の色に合わせたリーフグリーンのドレスを着て、小さなダイヤモンドをつなぎ合わせたイヤリングにネックレス。そして、親指ほどの大きさのあるダイヤモンドの婚約指輪をしたビビアンだった。前回から半年、人生2回目の婚約式を挙げていた。

 ビビアンは婚約者と踊っていたが、目はフィアナとアルフォンに 向いていた。今のところトラブルはない。
しかし油断は禁物。絶対この中にあの女の手下が紛れ込んでるはずだ。
二人が踊っている様子をつぶさに観察していると、婚約者が文句を言ってくる。
「フィアナじゃなくて、婚約者の私に気をつかってくれよ」
ビビアンは文句を言う自分の婚約者を睨みつけた。
私は頼まれたから仕方な~く、婚約を OK しただけだ。好きで婚約したんじゃない。
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