身代わり花嫁は妖精です!

あべ鈴峰

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食言

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ビビアンは、フィアナに言われて、すっかり自分の入れ替わりの事を聞くのを忘れていたことに気づいた。
(まったく、私としたことが……)
教会に戻る前に 妖精王の家を訪ねて聞いてみよう。すると、ちょうどナポレオンに乗って戻ってきた妖精王を見つけた。


早速、自分の疑問をぶつけた。 
(方法が他にあるならフィアナの羽を渡したくない)
しかし、妖精王が首を横に振る。
「無理だ。フィアナが 人間の食べ物を食べた時点で、入れ替わりの条件が
満たされなくなった」
「入れ替わりの条件?」
 あっ、そうか……。
私とフィアナの関係が、人間と妖精じゃなくて、人間と人間になったんだ。だから、幾らフィアナの額にぶつかってもダメだったのね。
納得したことで一つ疑問が解決した。

「でも、どうして私が人間に戻るのにフィアナの羽が必要なの?」
妖精王なんだから 魔法でパッと戻してくれればいいのに。 そのことを不満に思って口にする。もしかして……威厳
を見せようと、もったいぶってる?
まさか、土下座でもさせる気じゃないでしょうね。
「 ……… 」
妖精王が何か言いかけて口を開けたが、口を閉じると、無言でマントを捲り背中を見せた。
「えっ?」
 驚いたことに、背中には妖精の象徴とも言える羽が無い。 これではただの小人だ。
「先の伯爵に羽を取られて、ここから出られなくなった」
「なっ、なるほど……」
淡々と言うけど、最初に会った時の人間に裏切れたことを、ぶちまけた時のことを思い出した。

道理で飛べないはずだ。ナポレオンの 背中に乗っていたのはそういう理由だったのね。妖精王と言えば一番強いはずなのに……。
人間に簡単に羽を取られてしまうくらいだから、思ったよりお人好しなのかもしれない。
妖精王がマントを元に戻すと、律儀に紐を結び直している。
「妖精の力を取り戻すためには、新しい羽がいる」
(まさか、妖精の力の源が羽だったとは……)
でも確かに、羽から金色の粉が舞う。

妖精王の言葉を思いだしてハッとすると、自分の羽を取られまいと距離を置いた。脳裏に、アリに運ばれていく蝶の姿が浮かぶ 。 あの蝶も片方の羽がなかった。このままだと、私もあの蝶と同じになってしまう。いや、私は両方の羽だから、もっと悲惨な姿だ。
そんな姿になりたくない。
「まさか! 私の羽を!」
すると、妖精王が小馬鹿にしたように鼻を鳴らす。
「ふん。誰が、お前のしょぼい羽などいるものか」
「しょぼいって!」
人のことを馬鹿にできるの。羽の無い妖精王に言われたくない。ムッとして腕組みして睨みつける。数は少なくても妖精は他にもいる。それなのに今の今まで、羽を調達できないくせに、選り好みをするとは生意気だ。

「じゃあ、どうやって羽を調達するのよ!」
「簡単だ。フィアナの羽を持ってこい」
「やっぱり!」 
あなたの考えはお見通しだと、妖精王を見下す。なんて男なの。もうすぐ死ぬから羽など必要ないと思っているのね。見損なった。そんなんだから、誰も助けに来ないのよ。
顎を上げて妖精王を見据える。
「今度はなんだ」
妖精王がうんざりした顔で聞いて来る。うんざりするのはこっちよ。妖精王だからと顔を立ててやったのに。ここまで性悪だったとは。
「私にフィアナの羽を毟って来いって言うつもりね!」
絶対お断りだ。
自分がされたことを、いくら妖精王といえ、他人に強要するなんて最低だ。
「はぁ~」
妖精王が片手で額を押さえて、大きくため息をつく。小馬鹿にされたようで腹が立つ。

「何よ!」
怒る私を見ながら、呆れたように妖精王が語りだす。
「そんな事するはず無いだろう。フィアナの羽が欲しいのは、完全な人間になると、羽が自然と抜けるからだ」
「 ……… 」
妖精王の説明に眉をひそめる。
どうしてこのタイミングで、フィアナが人間になるの? 
( ……… )
全て、妖精王の都合のいいように進んでるいる気がする。 今まで身に起こったこと全てが、仕組まれたように感じる。偶然では片付けられない。だって300年何もなかったんだから。
「もしかして……。フィアナと私を入れ替えたのは、あなたのしわざなの?」
「なんで、そうなる」
愕然とした表情を妖精王がした。
しかし、妖精王が、問題を解決するために 私たちを利用したとも考えられる。やたらと羽の話をしていたことも合点が行く。なんて腹黒い男なの。
「羽よ。羽欲しさにフィアナを……」
「見当違いも甚だしい。私は羽を取られて力が発揮できない」
本当は妖精の力を持ってるんだ。
それが証拠だとビビアンは猫を顎でしゃくった。 猫を眷属にして従わせているんだ。でなかったら簡単に言うことを聞くのはおかしい。
「嘘よ。 ナポレオンに乗って、しょっちゅう出かけてたし、何より羽がないのに私たちに起こったことを知っていたじゃない」
「それとこれとは別だ。人の話を素直に信じたらどうだ」
「信じられるわけないでしょ」
猫に乗ったままの妖精王がこれ見よがしに、 首を左右に振る。
しかし、ビビアンは胡散臭そうな目で見続ける。
「はぁ~。被害妄想だ」
「信じて欲しかったら 証拠を見せて」
「信じる、信じないはお前の勝手だ」
可愛げが無い。
何処かなげやりな態度に、良心がチクリと痛む。
(話してくれれば 聞いて、やらない事もないのに……)

頭から疑ってかかってしまったかな?
その場を取り繕うような言葉を探していると 妖精王が些事のことだと手で払う。
「そんなこと、どうでも良い。どっちにしろ。人間に戻りたいなら 私に協力するしかないんだから」
「っ」
妖精王がニヤリと片方の口角だけを上げる。
もちろん戻りたい。
しかし、余裕の笑みを浮かべる妖精王
に対するプライドが邪魔して、素直になるのは難しい
妖精王の言いなりになるのは負けた気がする。 しかも、私の信頼などいらないと言ってるんだから余計に意固地になる。
「人間に戻りたいだろう」
「 ……… 」
妖精王がニヤニヤしながら言って来る。ビビアンは口を真一文字にして無言で妖精王を睨みつける。こう言う上から目線が一番嫌いだ。だからと言って、プイと立ち去るのは愚かな事だ。
入れ替わる条件が変わってしまったんだから、私たちの力ではどうにもできない。悔しいが仕方ない。分かったと頷く。

どうせ人間に戻れば縁が切れるんだから、今だけの辛抱だ。
「じゃあ、説明するからよく覚えろ」
「 ……… 」
命令口調に言い返したくなったが我慢した。その代わり返事をしないと言うささやかな抵抗をした。妖精王はその事に目を瞑って一方的に続けた。
「妖精は朝の光で生まれて、朝の光で消えて行く。お前のすることは、フィアナの所に行って 抜け落ちた羽を私のところまで持ってくることだ」
つまり毎朝フィアナの所へ行けばいいのね。それは問題ないけど、羽が欲しいと言い出すことに抵抗を感じる。

まるで物乞いのようだ。今まで1度も他人の物を欲しいと言ったことなどなかったの……。
「そしたら、人間にしてやる」 
取りあえず、トライしなくちゃ。
フィアナも私が 人間に戻るためだと言えば喜んで協力してくれるだろう。

*****

目を開けると闇が自分を見返していた。フィアナは、どうして目を覚ましたか分からなかった。けれど、気にせず もう一度眠ろうと目を閉じるると、
アルを求めて寝返りを打つ。
しかし、温かさは無く、冷たいシーツが そこにあった。隣に寝ているはずのアルの姿がない。
(どこへ行ったの?)
起き上がってアルの姿を探す。しかし同じく闇だけで アルが居ない。

今まで、こんなことはなかった。心がざわついて落ち着かない。
トイレなのかとしばらく待ったが、ドアが開く音も足音も聞こえない。
こんな夜中に何処へ。
そう思った途端、フィアナの血の気が一気に引く。
(私のことが重荷なの?)
だから、一緒に居たくなくて逃げたの?

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