身代わり花嫁は妖精です!

あべ鈴峰

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詮術

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ビビアンが 人間に戻ることにしたから、協力して欲しいと訪ねて来た。
どうやってするのかと思ったら、入れ替わったときのシーンを再現をするとのことだった。

パチン!
額に感じる衝撃に閉じていた目を開ける。すると、目の前をビビアンがフラフラとゆっくり回転しながら下りて来て ポテッとテーブルにひっくり返えった。
「ビビアン! 大丈夫?」
「う~ん」
無事なようだ。その事にホッとする。

フィアナは目を回して倒れたビビアンに濡れたハンカチを押し付けながら無茶する人だとつくづく思った。
入れ替わる方法は、私の額 目掛けてビビアンが全速力で体ごとタックルする事。
確かに正面衝突みたいにぶつかって入れ替わったけど……。


考えは間違ってるとは思わない。だけど……。私は軽くデコピンされるくらいの痛みだが、ビビアンはその度に 衝撃で 引っくり返る。彼女にとって力を加減すると言う事は妥協と思っているようで、やる度に強くなる。
既に五回もやったが、全部失敗している。
(普通は、1、2回で諦めるか、方法を変えたりするのに……)

付き合うのは嫌では無いが、このままではビビアンの体が壊れてしまう。
何とか止めさせたいが……。
迷うところだ。言葉を間違えると誤解を与えかねない。 代案を言わないと方法を変えようとは思わないだろう。 
何と言えばいいんだろう。
そんなことを考えているうちに、ビビアンがハンカチを払いのけて立ち上がる。 
そして、キリッとした顔で私は見た。
「もう1回!」
「ビビッ……」
そう言うと私の心配など知らずに反対側に飛んでいく。
毎回ハイテンションで頼まれると断り切れない。
気づけば、私に向かってかけっこするみたいに腕を前に構えて、 スタートしようとしている。 最初はテーブルの端から端だったのに、ずいぶん遠くへ行っている。今では目を凝らさなないと見えない。 距離を長くすれば成功するの? そんな疑問がふと頭に浮かんだ。しかし、ビビアンの声に消える。
「 行っくよー!」
「はっ、はい」
気圧されるように返事をすると、すごい勢いでこちらに向かってくる。目を閉じて衝撃に備える。



フィアナは一旦休憩しようとビビアンに 提案した。このまま同じことをしていても意味がない。そう思った。これだけしても上手くいかないのは、どこが間違ってるところがあるからだ。
テーブルの上にドールハウスについてきたテーブルと椅子を並べて、ロージーが探してきてくれた おままごとのカップを置く。
(小さいのに花の絵が描かれている)
その中にティースプーンを使ってお茶を掬ってカップに移す。
その横にスコーンを添える。

「ビビアン。 お茶の用意ができたわ」声をかけても考えに没頭していて聞いていない。
独り言のように何か呟いていた。
頭の中は入れ替わりのことで一杯なようだ。それとなく聞き耳を立てる。
「やっぱり、もっと強くしないと無理なのかなぁ~」
「………」
(もっと強くしないと?)
フィアナは出掛った言葉を飲み込んだ。他の方法にしたらとアドバイスしたいが、変に刺激するともっと色々やられそうで怖い。
「場所が悪いのかしら? 教会で行ってみるとか?」

その隣で邪魔しないように苺をカットする。
「いっそのこと、もう一度ウェディングドレスを着させる?」
しかし、あらやこれやとよく思いつくものだ。それに、直ぐに実行するビビアンのバイタリティは見習うものがある。私も自分の殻に閉じこもっていないで、積極的に人間の世界に溶け込む努力をしなくちゃ。

「ビビアン お茶が冷めるわよ」
もう一度お声をかけても返事がない。眉間にしわを寄せて首をひねり続けている。
「気分転換してほしいのに……」
(!)
悩んでいるビビアンの手に 苺をのせてみた。すると、ムシャムシャ食べ始めた。 条件反射みたいに食べる姿に吹き出しそうになりながら、 食べ終わったタイミングで、また苺を渡す。
するとまた食べ始めた。
「ぷっ」
とうとう 吹き出してしまった。慌てて口を押さえたが、ビビアンは気づいていない。笑いを噛み殺しながら、三個目の苺を渡すと、そのまま口に持っていく。面白い……。何個ぐらい食べるだろう。
ちょっとした好奇心に、急いで追加の苺を切る。


*****

あの後も何度かチャレンジしたが、結局 ロアンヌの額を赤くするだけで終わってしまった。
ビビアンは朝露で身支度を整えながら、フィアナの母親にずっと気になっていた事を思い切って相談してみた。フィアナの母親は長く生きているのだから色々と知恵があるはずだ。妖精の事は妖精に聞くのが一番。


「それで 何回もトライしたって見たんだけど 駄目だったの。どうやったら、私達は元に戻れるの?」
『それは分からないわ』
「っ」
へなへなと木の枝に座り込む。
フィアナの母親なら何でも知っていると思ったのに、 完全に 当てが外れた。 わずかに開いていた扉を閉められた気分だ。
「ほっ、本当に?……」
『力になれなくて、ごめんなさい。大人になってから人間と妖精が入れ替わったのは聞いた事が無いの』
申し訳なさそうにフィアナの母親が謝る。
大人になってから?
あっ!『チェンジリング』か。人間の子供が妖精の子供と入れ替わる。

ただの方便だと思っていた。自分の思うような子供じゃない時の慰めと、あなたの本当の子供は妖精の世界で幸せに暮らしていますよとかの。 だけど、こっちの世界に戻ってきたという話は聞いたことがない。しかし、困ったことになった。
フィアナの母親が知らないなら、 二度と戻れないかもしれない。 
確かめるように問うと
「じゃあ私は、このままなの?」
『それも分からないわ』
首をかしげたみたいに片側だけ葉が落ちる。 普通の入れ替わりと違うということ?
「どう言うこと?」
フィアナの母親が何を言いたいのか、いまいち理解できない。
首を右にかしげる。

『貴女たちは体が入れ替わったわけでもないし、種族が入れ替わった訳でもないの。二人とも妖精なのよ。いったい何が入れ替わったのかしら?』
ビビアンは困ったようにフィアナの母親が言う話しに、雷に打たれたくらいショックを受けた。

その通りだ。

気づかなかった。
教会で妖精のフィアナと 人間の私が
入れ替わった。 だけど、顔も体も見た目も人間の時と変わらないから、種族が入れ替わったと思い込んでいた。
ただ、体のサイズが変わっただけだ。自分が妖精になったり、フィアナが掟を破ったりと、 バタバタしていたが、こうやって落ち着いて考えると 今回の入れ替わりがイレギュラーだということが分かる。
(もっと単純な事だと思っていたのに……)

何が入れ替わったか、その事が分からなければ元に戻る方法が分からないと、 言うことだろう?
見えていたはずの扉が遠のいていく。 目の前にあったはずなのに……。

*****

フィアナは テラスに続く扉を開けて
ビビアンが来るのを待ちながら、アル
に渡された人物紹介を読んでいた。

とうとうパーティーに行くことになった。そう思うと自然と口角が上がる。新しいドレスのオーダーもすんだ。
ダンスも一曲につき1回しか足を踏まなくなった。あとは当日を待つばかり。しかし、主催者が誰なのか覚えないと駄目らしい。
「サム・ウィリアムズ…… 男、58歳、白髪に青い目……」
つまり白髪頭のおじいちゃんがサム・ウィリアムズ? おじいちゃんなんてみんな同じに見える。見分けがつくのかしら? 服には興味があっても、人間の顔など興味がなかった。
首をかしげて悩んでいると、シャラランと音が聞こえる。
(ビビアンた!)

辺りを見回すと両腕をだらりと垂らして、しおれた花のように元気がない姿でビビアンが入ってくる。
一体どうしたんだろうこう。言ってはなんだが、ビビアンは元気が取り柄だ。素早く向かうと 両手を差し出す。 手のひらにポトンとビビアンが落ちる。心なしか顔色が悪い。
「ビビアン。 何があったの?」
目だけ動かして私を見る。弱々しい姿に心配になる。こんなビビアン初めてだ。
「フィアナのお母さんに、 入れ替わるなら 何が入れ替わったのか、はっきりしてからの方が良いと アドバイスされたわ。今回はイレギュラーだから」
「イレギュラー?」


ビビアンがお母さんとした話を私にも話しくれた。
「私達、体の大きさは違うけど同じ妖精でしょ」
「あの時閃光とともに入れ替わったのは確かだけど……」
「そうね……」
そう言われれば、そうだ。じゃあ一体何が入れ替わったんだろう?
皆目検討がつかない。
出された果物に目もくれないほどショック受けているビビアンが 可哀想だ。このままだったら、一生ご両親に会えない。ビビアンも私と同じように、この状況に翻弄されている。
もしかして……これは妖精王から与えられた罰なの?
「妖精王に聞けば分かると思うんだけど……」
「妖精王?」
「そう。妖精王は全ての妖精のことを知ってるのよ。過去も未来は全てなんでも知ってるわ」


フィアナが 自信ありげに言うが、本当だろうか? それに王というだけで全ての妖精の運命を知ってるなんて、あり得るの?
人間の尺度で考えると、あり得ない。

だけど、手がかりを持ってそうなのは妖精王しかいない。無駄足になったとしても聞いてみる価値はある。
「 それでその妖精はどこにいるの?」

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