身代わり花嫁は妖精です!

あべ鈴峰

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仕儀

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ビビアンは、掟を破っているかどうか確かめるためにフィアナのもとへ出向いた。その帰り。

猛スピードで飛びながら、教会へ 向かっていた。
掟を破ったことを認めないフィアナと口げんかをしてしまった。
その事が胸に残っていてジリジリと焦がす。
「ムカつくー。何よ。意地悪しているなんて! 私はそんな心の狭い女じゃないわ!」
(……清廉潔白とは言えないけど……)
なにより、人を陥れるような事をすると疑われた事が気に入らない。
怒りの おさまらないビビアンは イライラと空中を急上昇したり、急旋回したりと自分の感情のままアクロバット飛行する。

あんな風に事務的な態度をとったのは、フィアナのお母さんに、もしそうだったら同情するなと釘を刺されていたからだ。
なんでも体に変調があって、妖精の力が次第に衰えていくらしい。
いずれ真実が明らかになるなら、嘘をついても意味はない。
だったら1日でも早く伝えることが、
フィアナの為だ。そう自分を納得させて、悪役を買ってでた。
それでも辛い。

「……ちょっと、言い過ぎたかしら? ……でも、仕方のないことよ」
私だってあんな冷たい態度など取りたくなかった。
だから、ショックでメソメソ泣いているフィアナに更に追い打ちを掛ける様な事はしなかった。
食べたのはフィアナの意思だとしたも、原因を作ったのは私だ。
ハラハラと涙を流して泣いていたフィアナのな姿を思い出すと、ぎゅっと心臓を掴まれたみたいに苦しくなる。

今まで他人など互いに足を引っ張り合うだけで、見栄を張りあう相手でしかなかった。
市井の者も同じだ。機嫌を取ろうと媚を売ったり、関わりを持ちたくないと怯えたりする。
でも、フィアナは違う。
私のわがままにも、嫌な顔をひとつせず待ってくれると言ってくれたし、私の両親のことを気遣ってさえくれた。
フィアナが心から心配してくれるのが伝わって来た。
(それが凄く……嬉しかった)

上手に表現できないけど、対等な感じがする。初めてできた友達と言うか……仲間と言うか……理解者? 
そんな風に相手を認めるなど、私らしくないと言えば、らしくないけど……。
それなのに、あんなに泣かせてしまった。仲良くなりたいのに 嫌われてしまったかも 。やるせなさに溜め息を付く。
「はぁ~」
掟のことを私に、態々確かめに行かせさせたのは、きっとフィアナの母親は、こうなる可能性があると知っていたからた。
( ……… )
手のひらで踊らされてる感は否めない。

気が重いが、この事実を伝えないわけにはいかない。
クイッと空を見上げると教会へに、連れて行ってくれる風の流れを探す。

*****

まんじりともしない一夜が明けた。

フィアナは心配するアル達に一人になりたいと言ってテラスに来ていた。
お茶を淹れるとカップから白い湯気が立ち上る。


「はぁ~」
昨日からため息ばかりついて、" もしも" ばかり考えている。

もし、ウエディングドレスを見に行かなかったら。
もし、ビビアンと入れ替わらなかったら。
もし、アルと結婚しなかったら。
もし、勧められるままフルーツパンチを食べなかったら……。
だけど、それは全て過去のこと。
いくら考えても、願っても、変わることはない。

 「はぁ~」
時を巻き戻すことが出来たら、私は別の選択をしただろうか?
……いいえ、結局同じ選択をしただろう。だって、誰かに脅かされたりしたとかじゃない。
自ら決めたことだ。
だから、余計にこの現状が辛い。
後悔で胸が張り裂けそうだ。
( 誰かのせいに出来たら、自分は被害者だと言えたら、楽なのに……)

思い起こせば、人間の食べ物を食べようとしたことがあった。
初めて嗅ぐ油の臭いに 鼻をクンクンする。匂いを辿っていくと猫のミーナが、生垣の下で何かを食べていた。
隠れているところを見るに、人間の食べ物を盗んだんだろう。
どんな食べ物なかと見に行こうとすると、言ってはダメだと叱られた。

くどくどと言うお母さんの小言を聞き
ながら、どうして猫はよくて妖精はダメなんだろうと考えていた。
その理由を聞いたけどダメなものはダメだと言われただけだった。
理由について教えてくれなかった。
きっと、掟に関することだから真実を言えなかったのかもしれない。
(言えば、自分に罰が下るとか? それともヒントくらい欲しかった)

「はぁ~」
 未練たらしく今朝、飛べるかどうか確かめた。もちろん奇跡は起こらず、飛べなかった。
羽があるのに、どうして妖精じゃないの? 現実とは思えない。でも、現実なんだ。
そう思うと涙がじわりと瞳を濡らす。
風で舞い上がった髪を手で押さえると、その手が羽根に触れる。生まれた時からある体の一部。妖精の象徴ともいえる羽も、いずれ消えるだろう。

「はぁ~」
残り半分になったカップのお茶を覗き込む。
黙ったまま喋らない私に、ロージー達が粗相をしたのかと心配して、機嫌を取ろうと 新しいドレスを着てはと見せたり、美味しいお菓子を用意してくれたりと、慰めようと色々世話を焼いてくれた。
他の人たちも私を気遣ってくれた。 ピンクにオレンジに紫。どの人も温かいオーラをしていた。
それなのに無視してしまった。 
(後で謝らないと……)

 「はぁ~」
ビビアンにも悪いことをしてしまった。ビビアンはお母さんに頼まれただけだ。そらなのに……。
今度会ったらビビアンに、ちゃんと謝ろう。
ビビアンを探して空を見ると、太陽が高く昇っている。もう昼近い。来ないところを見ると、間違いないんだ。
こぼれ落ちた涙を指で拭う。


「はぁ~」
アルにも 真実を言わなくちゃ。
昨日から突然泣き出す私を心配して、お母さんみたいにずっと背中をトントンと叩いてあやしてくれた。 その規則正しい音に、アルの体の温もりに慰められた。
何も聞かずに "大丈夫。大丈夫" "心配ない" "安心して" と、言って辛抱強く面倒を見てくれた。
そんなアルの無償の愛に救われた。
(ずいぶん気持ちの整理も付いた)

妖精の花嫁だと喜んでいたのに、普通の人間になると分かったらアルはガッカリするかな?
それとも同じだと喜んでくれるかな?
「 ……… 」
冷めきったお茶を飲み干すと、音を立ててカップを置く。

これ以上皆を心配させたくない。
どんなに祈っても事実は変わらないんだから、受け入れなくちゃ。
1日でも早く乗り越えよう。
泣きそうになるのを瞬きして堪える。
泣かずに話せるようしないとアルに説明もできない。
 深く深呼吸する。
過去の事より、未来のことを考えよう。けじめとしてお母さんのところ行かなくちゃ。どんな反応するのか考えると怖い。 もし無視されたら……。
むしろ怒ってくれた方がありがたい。
そんな甘いことを考える自分
を叱りつける。
" 罪を犯したなら罰を受けないと駄目でしょ "

妖精として後どれくらい時間が残っているかわからないが、その全てをお母さんに感謝の気持ちを伝えたたい。

新しく注いだお茶は、湯気もたたず黒い色をしていた。
それでも茶に変わりはないと口に含んだが、渋かった。
「ウグッ」
顔をしかめながら、ふと疑問が頭に浮かぶ。
妖精としての寿命は3年。
人間になったら、もっと長く生きられるんだろうか?
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