身代わり花嫁は妖精です!

あべ鈴峰

文字の大きさ
上 下
19 / 59

呂尚

しおりを挟む
ビビアンの質問に答えたフィアナは、人間の食べ物を食べては駄目だとお母さんと約束してたことを思い出した。


ビビアンのその唇から出る言葉を怯えながら聞いていた。
「人間界の物を口にしたら、こちらの世界へは もどれないって」
(ああ!)
聞きたくない言葉に、耳を塞ぎたくなる。
「フィアナのお母さんが言っていたわ」
「なっ、何を言ってるの? 人間の食べ物? ただの果物よ」
本能が、それを認めては駄目だと警告した。だからすぐに反論する。
私の主食は朝露だけど、花の蜜とか果物だって食べることはある。
ビビアンは元人間だから、妖精の事に詳しくない。
きっと思い違いしてるんだ。

「食べたのは、フルーツパンチでしょ。あれには果物の他にも」
「食べたのは果物だけよ」
話に、かぶせるように口を挟むと、ビビアンがムッとして私を見据える。

これ以上聞きたくないと首を振る。
ビビアンがオーバーに騒ぎ立てるけど、これぐらい許容範囲だ。
食べた果物の量を頭で計算する。
林檎四つ分くらいだ。
アルか少食の私を心配して、倒れて
してしまうと食べさせようとしたが、お腹は満腹だった。

しかし、終わっていないとビビアンが回り込んでくる。
「正直に認めて」
「 ……… 」
どうしても私に人間の食べ物を食べると、認めさせたいらしい。しつこく食い下がる。それが、どういう意味か
知ってて聞いてるの? その冷静な態度に、そう聞きたい。
( 友達だと思ってたのに……)
「食べたのが果物だけだったとしても、それ以外の物も一緒に口に入ったでしょ」
「っ」
その通り、シュワシュワした物と一緒に食べた。

どうして? ただの果物なのに、そこまで厳格なの?
ビビアンの話を聞きながら胸が苦しくなっていく。
「いいえ、他の物は食べてないわ」
「フィアナ……」 
かたくなに拒否すると、ビビアンが同情する眼差しをする。
鼻の奥がツンとして涙がこみ上げてくる。妖精に戻れないなんて、そんなの絶対駄目!
屁理屈だと分かっている。
だけど、認めたくない。
(私は……私は お母さんの元に戻るんだから……)
「果物よ。どこにでも売ってる ありふれた物よ。そうでしょ? 」
「 ……… 」
「どうして言ってくれないの!」
自分の思い違いだったと、認めてくれとビビアンに詰め寄る。
だけど、ビビアンは悲しそうに首を振るばかりで、その事を曲げようとはしない。
どこまでも冷たい。

「フィアナ……認めて」
 ビビアンが諭すように言うが、 そんなこと無理。出来るはずがない。
嫌だ。嫌だ。二度とお母さんに、会えなくなるのも、話をするのも出来
なくなるなんて。
( 認めてしまったら私はどうなるの?)
「ビビアンの勘違いよ。そうよ、きっとそうよ」
そう決めつけて自分を納得させる。「フィアナ!」
いつまでも自分の非を認めない私に苛立って、ビビアンが声を荒げる。
まるで、それが合図だったかのように涙が溢れる。

ごねて、ごねて、ごねまくるしか方法が無い。お母さんに何て言えば言いの? 勝手に人間と結婚して無断外泊。
言いつけを破って人間の食べ物を食べた。そのうえ、もう妖精にも戻れないなんて……。
これ以上の裏切りは無い。
この事を知ったら、きっとお母さんは 私に 失望して 許してくれない。
ずっと、いい子で暮らしてきたのに……。

お母せんとの思い出が次々と蘇る。
毎晩寝る前に、子守歌のように色んなことを教えてくれた。花の蜜の吸い方、鳥に襲われた時の逃げ方、冬を温かく過ごすための知恵。いっぱい。いっぱい、お喋りした。
大切に育ててもらった。それなのに親孝行の一つもしてない……。
やっぱり駄目!
受け入れたくない。
震える唇を突き出して食ってかかる。
「信じない。……信じないわ。ビビアンは私に意地悪しているのよ!」
「なっ、どうして私があなたに意地悪するのよ! 自分の思い通りにならないからって、人に八つ当たりしないで」
怒ったビビアンが腕組みして私を睨みつける。
そうかもしいれない。 だけど……。
涙が溢れて、氷のように冷たくなった頬を温かい涙が流れ落ちて行く。
「ううっ、だったら、誤解だって言って……。私は掟を破ってないって言って……」
「 ……… 」
「言ってよ! どうして言ってくれないの………」
「………」
ビビアンは首を縦に振らない。
すがるように頼んでも、ビビアンは顔を背けて何も言ってくれない。
その事実が私を打ちのめす。

ビビアンの中では、私が既に黒判定なんだ 。いくらビビアンの足にしがみついて、お願いしても覆ることはないんだ。
もう、妖精に戻れない。
人間になりたくて、なったわけじゃないのに。
(どうしてこんな事に……)
私の好奇心が、すべてを駄目にしてしまった。お母さんに対する裏切りだ。そう考えると取り返しのつかないことをしてしまったと、その場に崩れ落ちる。
「うっ、うっ、うっ」
「………」
後悔しても後悔しきれない。その思いが自分をどんどん苛んでいく。

私を心配しているのかにビビアンが飛び回る。
そんな気遣いも、今の私には意味がない。
涙が頬を伝って地面に模様を描く。
心の中では分かっている。
だけど……だけど……。
全てを失ってしまうなんて信じられない。
「取り敢えず、この事はフィアナのお母さんに報告するわ」
そう言うと私の周りを飛んでいたビビアンが、グンと上に向かって飛んだ。
その動きにつられて顔を動かすと、ビビアンと目が合った。けれど、すぐに逸らされた。一瞬見えたビビアンの瞳には 辛そうな気持ちが表れていた。
「さよなら」
「待って! ビビアン!」
少しでも娘で入る時間を引き延ばそうと引き留めようとしたが、ビビアンが飛び立ってしまった。

フィアナは小さくなっていく後ろ姿を、なすすべなく見る事しか出来なかった。止めどなく流れる涙が全てをぼんやりと映し出す。
(あぁ、そうか……だからか)
飛べない理由が分かった事に、皮肉なものだと笑う。

人間に憧れていた。
人間になって、ドレスを着て舞い上がっていた。いずれ時が来てビビアンと入れ替われば、楽しい思い出になると
何も考えずに過ごしていた。
妖精になれば全てが元通りになると、高を括っていた。しかし、その代償は余りにも大きい。3年の寿命。2年が過ぎて……後一年しか お母さんといられないのに……。


「フィアナ?」
アルの声に振り返ると 私のすぐ後ろに
立っていた。 泣いている私に驚いて駆け寄ってくる。
「どうして泣いているんだい? 誰かに何か言われたのかい」
心配するアルの優しい声音が私を包み込む。この腕の中で全て夢だと思いたい。
「アル……」
" 辛い" "悲しいよ"  言いたい事が胸に溢れ過ぎて上手く言葉にならない。
「フィアナ、お願いだから……泣かないで……何があったのか教えてくれ」
「わっ、私……」
フィアナは口から出かかった言葉を飲み込んだ。口にしたら真実だと認めたようなものだ。まだ、心のどこかで、
一縷の望みを捨てきれないでいた。

「何だい?」
「……何でも……ないから」
目にゴミが入っただけだと誤魔化して、ゴシゴシと涙を拭うとアルに笑顔を向ける。しかし、アルは聞きたそう私を見ている。
「フィアナ……」
首を振って質問しようとするアルを止める。そうしないと、全て告白してしまいそうだ。
こんなに心から心配してくれているのに、どうしても言えない。 それなのにアルにしがみ付く。
今の私にはアルしか残ってない。
身勝手だと知っている。
でも、押し潰れそうな心を一人では抱えきれない。
アルは何も聞かずに私を強く抱きしめてくれる。




なんでもないと言いながらフィアナが、しゃっくりを上げて細い肩を震わせている。
私がいない間にフィアナに何があったんだ。話してくれたら、いくらでも助けられるのに。
( 私は無力だ ……)
そこまで信頼してくれていないのかと思うと寂しい。それでも、私の腕の中で 泣いている事を考えればチャンスはある。だから、いつかきっと教えてくれる日がくる。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さな恋のトライアングル

葉月 まい
恋愛
OL × 課長 × 保育園児 わちゃわちゃ・ラブラブ・バチバチの三角関係 人づき合いが苦手な真美は ある日近所の保育園から 男の子と手を繋いで現れた課長を見かけ 親子だと勘違いする 小さな男の子、岳を中心に 三人のちょっと不思議で ほんわか温かい 恋の三角関係が始まった *✻:::✻*✻:::✻* 登場人物 *✻:::✻*✻:::✻* 望月 真美(25歳)… ITソリューション課 OL 五十嵐 潤(29歳)… ITソリューション課 課長 五十嵐 岳(4歳)… 潤の甥

君は妾の子だから、次男がちょうどいい

月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、彼女は片田舎で遠いため会ったことはなかった。でもある時、マリアは妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。

私の入る余地なんてないことはわかってる。だけど……。

さくしゃ
恋愛
キャロルは知っていた。 許嫁であるリオンと、親友のサンが互いを想い合っていることを。 幼い頃からずっと想ってきたリオン、失いたくない大切な親友であるサン。キャロルは苦悩の末に、リオンへの想いを封じ、身を引くと決めていた——はずだった。 (ああ、もう、) やり過ごせると思ってた。でも、そんなことを言われたら。 (ずるいよ……) リオンはサンのことだけを見ていると思っていた。けれど——違った。 こんな私なんかのことを。 友情と恋情の狭間で揺れ動くキャロル、リオン、サンの想い。 彼らが最後に選ぶ答えとは——?

【完】まさかの婚約破棄はあなたの心の声が聞こえたから

えとう蜜夏☆コミカライズ中
恋愛
伯爵令嬢のマーシャはある日不思議なネックレスを手に入れた。それは相手の心が聞こえるという品で、そんなことを信じるつもりは無かった。それに相手とは家同士の婚約だけどお互いに仲も良く、上手くいっていると思っていたつもりだったのに……。よくある婚約破棄のお話です。 ※他サイトに自立も掲載しております 21.5.25ホットランキング入りありがとうございました( ´ ▽ ` )ノ  Unauthorized duplication is a violation of applicable laws.  ⓒえとう蜜夏(無断転載等はご遠慮ください)

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

【完結】「聖女として召喚された女子高生、イケメン王子に散々利用されて捨てられる。傷心の彼女を拾ってくれたのは心優しい木こりでした」

まほりろ
恋愛
 聖女として召喚された女子高生は、王子との結婚を餌に修行と瘴気の浄化作業に青春の全てを捧げる。  だが瘴気の浄化作業が終わると王子は彼女をあっさりと捨て、若い女に乗 り換えた。 「この世界じゃ十九歳を過ぎて独り身の女は行き遅れなんだよ!」  聖女は「青春返せーー!」と叫ぶがあとの祭り……。  そんな彼女を哀れんだ神が彼女を元の世界に戻したのだが……。 「神様登場遅すぎ! 余計なことしないでよ!」 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します。 ※他サイトにも投稿しています。 ※カクヨム版やpixiv版とは多少ラストが違います。 ※小説家になろう版にラスト部分を加筆した物です。 ※二章に王子と自称神様へのざまぁがあります。 ※二章はアルファポリス先行投稿です! ※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。 「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」 ※小説家になろうにて、2022/12/14、異世界転生/転移・恋愛・日間ランキング2位まで上がりました! ありがとうございます! ※感想で続編を望む声を頂いたので、続編の投稿を始めました!2022/12/17 ※アルファポリス、12/15総合98位、12/15恋愛65位、12/13女性向けホット36位まで上がりました。ありがとうございました。

処理中です...