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呂尚
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ビビアンの質問に答えたフィアナは、人間の食べ物を食べては駄目だとお母さんと約束してたことを思い出した。
ビビアンのその唇から出る言葉を怯えながら聞いていた。
「人間界の物を口にしたら、こちらの世界へは もどれないって」
(ああ!)
聞きたくない言葉に、耳を塞ぎたくなる。
「フィアナのお母さんが言っていたわ」
「なっ、何を言ってるの? 人間の食べ物? ただの果物よ」
本能が、それを認めては駄目だと警告した。だからすぐに反論する。
私の主食は朝露だけど、花の蜜とか果物だって食べることはある。
ビビアンは元人間だから、妖精の事に詳しくない。
きっと思い違いしてるんだ。
「食べたのは、フルーツパンチでしょ。あれには果物の他にも」
「食べたのは果物だけよ」
話に、かぶせるように口を挟むと、ビビアンがムッとして私を見据える。
これ以上聞きたくないと首を振る。
ビビアンがオーバーに騒ぎ立てるけど、これぐらい許容範囲だ。
食べた果物の量を頭で計算する。
林檎四つ分くらいだ。
アルか少食の私を心配して、倒れて
してしまうと食べさせようとしたが、お腹は満腹だった。
しかし、終わっていないとビビアンが回り込んでくる。
「正直に認めて」
「 ……… 」
どうしても私に人間の食べ物を食べると、認めさせたいらしい。しつこく食い下がる。それが、どういう意味か
知ってて聞いてるの? その冷静な態度に、そう聞きたい。
( 友達だと思ってたのに……)
「食べたのが果物だけだったとしても、それ以外の物も一緒に口に入ったでしょ」
「っ」
その通り、シュワシュワした物と一緒に食べた。
どうして? ただの果物なのに、そこまで厳格なの?
ビビアンの話を聞きながら胸が苦しくなっていく。
「いいえ、他の物は食べてないわ」
「フィアナ……」
かたくなに拒否すると、ビビアンが同情する眼差しをする。
鼻の奥がツンとして涙がこみ上げてくる。妖精に戻れないなんて、そんなの絶対駄目!
屁理屈だと分かっている。
だけど、認めたくない。
(私は……私は お母さんの元に戻るんだから……)
「果物よ。どこにでも売ってる ありふれた物よ。そうでしょ? 」
「 ……… 」
「どうして言ってくれないの!」
自分の思い違いだったと、認めてくれとビビアンに詰め寄る。
だけど、ビビアンは悲しそうに首を振るばかりで、その事を曲げようとはしない。
どこまでも冷たい。
「フィアナ……認めて」
ビビアンが諭すように言うが、 そんなこと無理。出来るはずがない。
嫌だ。嫌だ。二度とお母さんに、会えなくなるのも、話をするのも出来
なくなるなんて。
( 認めてしまったら私はどうなるの?)
「ビビアンの勘違いよ。そうよ、きっとそうよ」
そう決めつけて自分を納得させる。「フィアナ!」
いつまでも自分の非を認めない私に苛立って、ビビアンが声を荒げる。
まるで、それが合図だったかのように涙が溢れる。
ごねて、ごねて、ごねまくるしか方法が無い。お母さんに何て言えば言いの? 勝手に人間と結婚して無断外泊。
言いつけを破って人間の食べ物を食べた。そのうえ、もう妖精にも戻れないなんて……。
これ以上の裏切りは無い。
この事を知ったら、きっとお母さんは 私に 失望して 許してくれない。
ずっと、いい子で暮らしてきたのに……。
お母せんとの思い出が次々と蘇る。
毎晩寝る前に、子守歌のように色んなことを教えてくれた。花の蜜の吸い方、鳥に襲われた時の逃げ方、冬を温かく過ごすための知恵。いっぱい。いっぱい、お喋りした。
大切に育ててもらった。それなのに親孝行の一つもしてない……。
やっぱり駄目!
受け入れたくない。
震える唇を突き出して食ってかかる。
「信じない。……信じないわ。ビビアンは私に意地悪しているのよ!」
「なっ、どうして私があなたに意地悪するのよ! 自分の思い通りにならないからって、人に八つ当たりしないで」
怒ったビビアンが腕組みして私を睨みつける。
そうかもしいれない。 だけど……。
涙が溢れて、氷のように冷たくなった頬を温かい涙が流れ落ちて行く。
「ううっ、だったら、誤解だって言って……。私は掟を破ってないって言って……」
「 ……… 」
「言ってよ! どうして言ってくれないの………」
「………」
ビビアンは首を縦に振らない。
すがるように頼んでも、ビビアンは顔を背けて何も言ってくれない。
その事実が私を打ちのめす。
ビビアンの中では、私が既に黒判定なんだ 。いくらビビアンの足にしがみついて、お願いしても覆ることはないんだ。
もう、妖精に戻れない。
人間になりたくて、なったわけじゃないのに。
(どうしてこんな事に……)
私の好奇心が、すべてを駄目にしてしまった。お母さんに対する裏切りだ。そう考えると取り返しのつかないことをしてしまったと、その場に崩れ落ちる。
「うっ、うっ、うっ」
「………」
後悔しても後悔しきれない。その思いが自分をどんどん苛んでいく。
私を心配しているのかにビビアンが飛び回る。
そんな気遣いも、今の私には意味がない。
涙が頬を伝って地面に模様を描く。
心の中では分かっている。
だけど……だけど……。
全てを失ってしまうなんて信じられない。
「取り敢えず、この事はフィアナのお母さんに報告するわ」
そう言うと私の周りを飛んでいたビビアンが、グンと上に向かって飛んだ。
その動きにつられて顔を動かすと、ビビアンと目が合った。けれど、すぐに逸らされた。一瞬見えたビビアンの瞳には 辛そうな気持ちが表れていた。
「さよなら」
「待って! ビビアン!」
少しでも娘で入る時間を引き延ばそうと引き留めようとしたが、ビビアンが飛び立ってしまった。
フィアナは小さくなっていく後ろ姿を、なすすべなく見る事しか出来なかった。止めどなく流れる涙が全てをぼんやりと映し出す。
(あぁ、そうか……だからか)
飛べない理由が分かった事に、皮肉なものだと笑う。
人間に憧れていた。
人間になって、ドレスを着て舞い上がっていた。いずれ時が来てビビアンと入れ替われば、楽しい思い出になると
何も考えずに過ごしていた。
妖精になれば全てが元通りになると、高を括っていた。しかし、その代償は余りにも大きい。3年の寿命。2年が過ぎて……後一年しか お母さんといられないのに……。
「フィアナ?」
アルの声に振り返ると 私のすぐ後ろに
立っていた。 泣いている私に驚いて駆け寄ってくる。
「どうして泣いているんだい? 誰かに何か言われたのかい」
心配するアルの優しい声音が私を包み込む。この腕の中で全て夢だと思いたい。
「アル……」
" 辛い" "悲しいよ" 言いたい事が胸に溢れ過ぎて上手く言葉にならない。
「フィアナ、お願いだから……泣かないで……何があったのか教えてくれ」
「わっ、私……」
フィアナは口から出かかった言葉を飲み込んだ。口にしたら真実だと認めたようなものだ。まだ、心のどこかで、
一縷の望みを捨てきれないでいた。
「何だい?」
「……何でも……ないから」
目にゴミが入っただけだと誤魔化して、ゴシゴシと涙を拭うとアルに笑顔を向ける。しかし、アルは聞きたそう私を見ている。
「フィアナ……」
首を振って質問しようとするアルを止める。そうしないと、全て告白してしまいそうだ。
こんなに心から心配してくれているのに、どうしても言えない。 それなのにアルにしがみ付く。
今の私にはアルしか残ってない。
身勝手だと知っている。
でも、押し潰れそうな心を一人では抱えきれない。
アルは何も聞かずに私を強く抱きしめてくれる。
なんでもないと言いながらフィアナが、しゃっくりを上げて細い肩を震わせている。
私がいない間にフィアナに何があったんだ。話してくれたら、いくらでも助けられるのに。
( 私は無力だ ……)
そこまで信頼してくれていないのかと思うと寂しい。それでも、私の腕の中で 泣いている事を考えればチャンスはある。だから、いつかきっと教えてくれる日がくる。
ビビアンのその唇から出る言葉を怯えながら聞いていた。
「人間界の物を口にしたら、こちらの世界へは もどれないって」
(ああ!)
聞きたくない言葉に、耳を塞ぎたくなる。
「フィアナのお母さんが言っていたわ」
「なっ、何を言ってるの? 人間の食べ物? ただの果物よ」
本能が、それを認めては駄目だと警告した。だからすぐに反論する。
私の主食は朝露だけど、花の蜜とか果物だって食べることはある。
ビビアンは元人間だから、妖精の事に詳しくない。
きっと思い違いしてるんだ。
「食べたのは、フルーツパンチでしょ。あれには果物の他にも」
「食べたのは果物だけよ」
話に、かぶせるように口を挟むと、ビビアンがムッとして私を見据える。
これ以上聞きたくないと首を振る。
ビビアンがオーバーに騒ぎ立てるけど、これぐらい許容範囲だ。
食べた果物の量を頭で計算する。
林檎四つ分くらいだ。
アルか少食の私を心配して、倒れて
してしまうと食べさせようとしたが、お腹は満腹だった。
しかし、終わっていないとビビアンが回り込んでくる。
「正直に認めて」
「 ……… 」
どうしても私に人間の食べ物を食べると、認めさせたいらしい。しつこく食い下がる。それが、どういう意味か
知ってて聞いてるの? その冷静な態度に、そう聞きたい。
( 友達だと思ってたのに……)
「食べたのが果物だけだったとしても、それ以外の物も一緒に口に入ったでしょ」
「っ」
その通り、シュワシュワした物と一緒に食べた。
どうして? ただの果物なのに、そこまで厳格なの?
ビビアンの話を聞きながら胸が苦しくなっていく。
「いいえ、他の物は食べてないわ」
「フィアナ……」
かたくなに拒否すると、ビビアンが同情する眼差しをする。
鼻の奥がツンとして涙がこみ上げてくる。妖精に戻れないなんて、そんなの絶対駄目!
屁理屈だと分かっている。
だけど、認めたくない。
(私は……私は お母さんの元に戻るんだから……)
「果物よ。どこにでも売ってる ありふれた物よ。そうでしょ? 」
「 ……… 」
「どうして言ってくれないの!」
自分の思い違いだったと、認めてくれとビビアンに詰め寄る。
だけど、ビビアンは悲しそうに首を振るばかりで、その事を曲げようとはしない。
どこまでも冷たい。
「フィアナ……認めて」
ビビアンが諭すように言うが、 そんなこと無理。出来るはずがない。
嫌だ。嫌だ。二度とお母さんに、会えなくなるのも、話をするのも出来
なくなるなんて。
( 認めてしまったら私はどうなるの?)
「ビビアンの勘違いよ。そうよ、きっとそうよ」
そう決めつけて自分を納得させる。「フィアナ!」
いつまでも自分の非を認めない私に苛立って、ビビアンが声を荒げる。
まるで、それが合図だったかのように涙が溢れる。
ごねて、ごねて、ごねまくるしか方法が無い。お母さんに何て言えば言いの? 勝手に人間と結婚して無断外泊。
言いつけを破って人間の食べ物を食べた。そのうえ、もう妖精にも戻れないなんて……。
これ以上の裏切りは無い。
この事を知ったら、きっとお母さんは 私に 失望して 許してくれない。
ずっと、いい子で暮らしてきたのに……。
お母せんとの思い出が次々と蘇る。
毎晩寝る前に、子守歌のように色んなことを教えてくれた。花の蜜の吸い方、鳥に襲われた時の逃げ方、冬を温かく過ごすための知恵。いっぱい。いっぱい、お喋りした。
大切に育ててもらった。それなのに親孝行の一つもしてない……。
やっぱり駄目!
受け入れたくない。
震える唇を突き出して食ってかかる。
「信じない。……信じないわ。ビビアンは私に意地悪しているのよ!」
「なっ、どうして私があなたに意地悪するのよ! 自分の思い通りにならないからって、人に八つ当たりしないで」
怒ったビビアンが腕組みして私を睨みつける。
そうかもしいれない。 だけど……。
涙が溢れて、氷のように冷たくなった頬を温かい涙が流れ落ちて行く。
「ううっ、だったら、誤解だって言って……。私は掟を破ってないって言って……」
「 ……… 」
「言ってよ! どうして言ってくれないの………」
「………」
ビビアンは首を縦に振らない。
すがるように頼んでも、ビビアンは顔を背けて何も言ってくれない。
その事実が私を打ちのめす。
ビビアンの中では、私が既に黒判定なんだ 。いくらビビアンの足にしがみついて、お願いしても覆ることはないんだ。
もう、妖精に戻れない。
人間になりたくて、なったわけじゃないのに。
(どうしてこんな事に……)
私の好奇心が、すべてを駄目にしてしまった。お母さんに対する裏切りだ。そう考えると取り返しのつかないことをしてしまったと、その場に崩れ落ちる。
「うっ、うっ、うっ」
「………」
後悔しても後悔しきれない。その思いが自分をどんどん苛んでいく。
私を心配しているのかにビビアンが飛び回る。
そんな気遣いも、今の私には意味がない。
涙が頬を伝って地面に模様を描く。
心の中では分かっている。
だけど……だけど……。
全てを失ってしまうなんて信じられない。
「取り敢えず、この事はフィアナのお母さんに報告するわ」
そう言うと私の周りを飛んでいたビビアンが、グンと上に向かって飛んだ。
その動きにつられて顔を動かすと、ビビアンと目が合った。けれど、すぐに逸らされた。一瞬見えたビビアンの瞳には 辛そうな気持ちが表れていた。
「さよなら」
「待って! ビビアン!」
少しでも娘で入る時間を引き延ばそうと引き留めようとしたが、ビビアンが飛び立ってしまった。
フィアナは小さくなっていく後ろ姿を、なすすべなく見る事しか出来なかった。止めどなく流れる涙が全てをぼんやりと映し出す。
(あぁ、そうか……だからか)
飛べない理由が分かった事に、皮肉なものだと笑う。
人間に憧れていた。
人間になって、ドレスを着て舞い上がっていた。いずれ時が来てビビアンと入れ替われば、楽しい思い出になると
何も考えずに過ごしていた。
妖精になれば全てが元通りになると、高を括っていた。しかし、その代償は余りにも大きい。3年の寿命。2年が過ぎて……後一年しか お母さんといられないのに……。
「フィアナ?」
アルの声に振り返ると 私のすぐ後ろに
立っていた。 泣いている私に驚いて駆け寄ってくる。
「どうして泣いているんだい? 誰かに何か言われたのかい」
心配するアルの優しい声音が私を包み込む。この腕の中で全て夢だと思いたい。
「アル……」
" 辛い" "悲しいよ" 言いたい事が胸に溢れ過ぎて上手く言葉にならない。
「フィアナ、お願いだから……泣かないで……何があったのか教えてくれ」
「わっ、私……」
フィアナは口から出かかった言葉を飲み込んだ。口にしたら真実だと認めたようなものだ。まだ、心のどこかで、
一縷の望みを捨てきれないでいた。
「何だい?」
「……何でも……ないから」
目にゴミが入っただけだと誤魔化して、ゴシゴシと涙を拭うとアルに笑顔を向ける。しかし、アルは聞きたそう私を見ている。
「フィアナ……」
首を振って質問しようとするアルを止める。そうしないと、全て告白してしまいそうだ。
こんなに心から心配してくれているのに、どうしても言えない。 それなのにアルにしがみ付く。
今の私にはアルしか残ってない。
身勝手だと知っている。
でも、押し潰れそうな心を一人では抱えきれない。
アルは何も聞かずに私を強く抱きしめてくれる。
なんでもないと言いながらフィアナが、しゃっくりを上げて細い肩を震わせている。
私がいない間にフィアナに何があったんだ。話してくれたら、いくらでも助けられるのに。
( 私は無力だ ……)
そこまで信頼してくれていないのかと思うと寂しい。それでも、私の腕の中で 泣いている事を考えればチャンスはある。だから、いつかきっと教えてくれる日がくる。
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