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明敏
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フィアナは、アルが帰ってきたという知らせに、大急ぎで玄関ホールに向かう。
朝食の後、私に何も言わないで どこかへ行ってしまった。
一言、お礼を言いたいのもあるが、それ以上にドレス姿を見せたかった。
(綺麗だと言ってくれるかな?)
踊り場に出ると、下でアルが男の使用人と喋っている。
「アル。おかえりなさい 」
声をかけるとアルが クルリと振り返る。その目に、私が うつると嬉しそうに口角を上げる。階段を降りていく私を掴まえるように近づいて来た。
「 ただいま」
と言って私を持ち上げて下ろした。
フィアナは、ドレスを見せるために アルの前で一回転する。
こうすれば、後ろ姿も見せられる。
「どう? 素敵でしょう。似合っている?」
「ああ、よく似合っている。気に入ってくれて嬉しいよ」
フィアナは 腕を組んでアルと階段を登りなから、質問する。
「どこへ出かけてたんですか?」
アルが 傍に居ないと、一人取り残されたようで心細い。
ロージー 達が居てくるけど 、アルとは違う。
「フィアナの使う物を調達してたんだ」
「私が使うものですか?」
「そうだよ」
アルが 内緒話するように 私の耳元に顔を近づける。
「フィアナは妖精だから、人間の持ち物は持ってないだろう」
「っ」
その言葉にハッとして身をひく。
そして、気づいた。恐る恐る確かめる。
「もしかして……あのドレス……」
「そうだよ」
( ……… )
やっぱり、私のために店 一件落着分の品物を買ったんだ。
自慢げに微笑まれて、フィアナは頬を引きつらせる。
いくら妖精でも、それが すごく大金
だということは想像がつく。
私のためだと分かっても……。
アルが私を気遣ってくれるほど、気が重くなる。
「後から他の物も見繕っておいたから、届くと思う。それまでは 不自由かもしれないけど、今あるので我慢してくれ」
「 ……… 」
私の手をぎゅっと握るアルは、申し訳ない顔をしている。
でも、 本当に? と聞きたい。
だって、オーラがキラキラと輝いてて浮かれているのが分かる。
( 買い物好きらしい)
いろいろ買ってくれても、ほとんど使わずじまいになる。
アルに散財させるのかと思うと、申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
止めたいけど、本当のことは言えないから黙っているしかない。
だけど…… 減らすことはできる!
それとなく何を買ってきたのか聞いてみる。
「何が届くんですか?」
「そうだな……日用品は香水に化粧品とか、文房具は 便箋、ペンにインクにカードなど 細々とした物だ。大きいものだと机と」
「ストップ!ストップ!」
両手を前に突き出した止めると、アルがピタリと口を閉じる。そんなに沢山
いらない。文字の書けない私に文房具は必要ない。机にいっては、今あるので十分だ。
気を悪くさせないように顔色を伺いながら言葉を並べる。アルが、じっと私を凝視している。
「えっと……机は …要らないかな?」
私のことを思ってしてくれている事だから、きっぱりとは断れない。
(怒ってる?)
アルの反応を見ようと、顔を見ると私を凝視していたアルがにっこりと笑う。
「そうだね。フィアナが使うんだから、フィアナが好きなものを選ぼう」
「えっ?」
さっきより、オーラの色が、濃くなって眩しいくらい輝いている。
「明日にでも一緒に店に行こう」
「はっ? ……ははっ、そうですね。そうしてくれると、ありがたいです」
無駄遣いを阻止できた事になるのかな? よくわからないけど、気に入らないと言えば買わずに済みそうだ。
上機嫌のアルを見ていると、自分も気分が良くなる。
「そうだ。 ドレスのプレゼントへのお礼にお茶を淹れてあげる」
ビビアンとの特訓の成果を披露したい。我ながら、すごく頑張った。
「お茶?」
「そう、お茶」
驚いたのか、アルの足が止まる。
妖精の私が、お茶を淹れるなんて思ってもなかったと思う。
早く行こうとアルの腕を引っ張っる。
アルフォンは、朝食を食べたテーブルに座りフィアナの淹れたお茶を一口飲んだだけで笑顔を作る。
(う~ん。予想通りの味)
きっと見様見真似で淹れたんだろう。だけど、努力していることには好感が持てる。フィアナは人間として生きていくと決めたんだ。
努力賞ということで。
「美味しいよ」
そう答えると、何も知らないフィアナが笑顔になる。
(あっ!……これは……。まっ、良いか……)
「おかわりは?」
「もちろん貰うよ」
たとえ、拷問のような味でも飲み干す。心の中で固く決意する。
笑顔でカップを渡す。
アルに、二杯目のお茶を注いで差し出す。
「今日は、楽しかったかい?」
「はい。ロージーたちと、たくさん話をしました」
ドレスには、デイドレスとナイトドレスがある。ディナーを食べる時には着替える。 パーティードレスと言うのがあって、 豪華な装飾品をたくさんつける。 それ以外にも、お茶会など、お出かけ用のドレスがあると教えてくれた。1日に何度も着替えることに驚く私に、これ普通だと言う。
「そうか、それで どんな話をしたんだい?」
どんな話と聞かれても…… ドレスの話ばっかりだったけど……。 男のアルに話してもつまらないだろう。他に 何を話したかな……。
思い出してみる。
そうだ。新しいドレスを着たならデートするべきだと言っていた。若い男女なら必ず すると言っていた。 確かに家の中に閉じこもっているのは性分
じゃない。どこか 自然の多い所に行きたい。
「デートの話をしました」
「えっ?」
「アル。デートです。デートしましょ」
アルが私の提案に酷く動揺して、目に見えて落ち着きがなくなる。何か疚しい事が有るのだろうか?
ドキドキして楽しいとサマンサが、言ってたけど違うのかな?
「どっ、どうして、急にそんな事を
言い出すんだい」
「メイドたちがデートはした方が良いとアドバイスしてくれたんです」
「えっ、ああ……」
どうも、アルは乗り気ではない。
出かけられなくなるかと思うと残念だ。がっくりと肩を落とす。
「アルは私とデートするの嫌なんですか?」
「そんな事は無い」
否定するが、顔は肯定している。
私と目を合わせたくないらしく、あちらこちらを見て、はぐらかそうとしている。
そんなに苦手なことなの?
「だったら本当の事を言ってください」
フィアナはアルを胡乱な目で見ながら畳み掛けるように聞く。すると、観念したのか理由を早口で喋りだした。
「べっ、別に、した事が無いとか、沈黙が怖いとか、二人きりだと何を話していいか分からないとか、親戚以外の女性と喋ったことが無いとか、食事中、食べ物を突つきまわしているとか、意味有り気な笑い方をするとか、そう言った理由じゃないから。決して、そう言う理由じゃないから」
「 ……… 」
あまりの早口に、何一つ分からないと
目をパチパチする。
(そう言う理由じゃないなら、どんな理由なの?)
何が言いたいのか伝わってこない。
もう一度尋ねようとすると、アルが視線を避けるように横を向きながら話題を変えた。
「とっ、所でビビアンから、あの後何か連絡はあったかい
?」
その言葉に ドキリとする。
今朝 会ったばかりだ。
ビビアンに待つと約束しているから、そのことは秘密だ。
何故、私に聞いてきたんだろう。
「いいえ。でもどうして?」
ビビアンと会ったことは知られているのか、それとなく探りを入れてみる。
何か気づいた事がでも あるのだろうか? それだと不安だ。
「ビビアンの両親が帰って来ないと心配して家に訪ねて来たからだ」
(そうか。妖精になったから、姿が見えないんだわ)
「でも、そう言う事なら、そう伝えるよ」
この事をビビアンに伝えないと……。
席を立って部屋に戻ろうとするアルに、諦めきれないフィアナは、もう一度 誘ってみる。
「アル。本当にデートに行かないんですか?」
「っ」
振り向いたアルは赤い顔をしている。何か言おうと口を開け閉めしていたが、結局何も言わないで足早に立ち去ってしまった。
その後ろ姿を見ながら口を尖らせる。
「デートしてみたいのに……」
(デートか……)
何処かで、聞いた事が……。
あっ!そうだ。
蝶のフラン。
思い出した。仲良さそうに男女が並んで歩いているのを見て、蝶のフランが羨ましいと言っていた。どうして、そう思うにと聞くと、子供には分からないと言って鼻で馬鹿にされた。蝶の一生は短い。だから、先に生まれた私よりフランの方が早く大人になる。あの時も分からなかったけど、今も分からない。フランが、 そう言うくらいだから、やっぱりワクワクするような事に違いない。
でも、よほど嫌なのかアルは逃げるみたいに 立ち去ってしまった。
「デートって本当に何なんだろう?」
楽しいこと? それとも楽しくないこと? どっち?
*****
今日も色々あったけど、終わろとしている。一日が短く感じる。
アルの隣で 眠ろうと目を閉じたが、何か忘れてることに気づいて目を開ける。
(何を忘れてるんだろう)
頭の中で一つ一つ確かめてみる。
ビビアンに会った。
お母さんの伝言も頼んだ。
後は………そうだ。
飛べないことをすっかり忘れていた。こんな大事なことを忘れるなんて……。アルの事は言えない。
私も浮かれてた。
明日の朝、確かめよう。
朝食の後、私に何も言わないで どこかへ行ってしまった。
一言、お礼を言いたいのもあるが、それ以上にドレス姿を見せたかった。
(綺麗だと言ってくれるかな?)
踊り場に出ると、下でアルが男の使用人と喋っている。
「アル。おかえりなさい 」
声をかけるとアルが クルリと振り返る。その目に、私が うつると嬉しそうに口角を上げる。階段を降りていく私を掴まえるように近づいて来た。
「 ただいま」
と言って私を持ち上げて下ろした。
フィアナは、ドレスを見せるために アルの前で一回転する。
こうすれば、後ろ姿も見せられる。
「どう? 素敵でしょう。似合っている?」
「ああ、よく似合っている。気に入ってくれて嬉しいよ」
フィアナは 腕を組んでアルと階段を登りなから、質問する。
「どこへ出かけてたんですか?」
アルが 傍に居ないと、一人取り残されたようで心細い。
ロージー 達が居てくるけど 、アルとは違う。
「フィアナの使う物を調達してたんだ」
「私が使うものですか?」
「そうだよ」
アルが 内緒話するように 私の耳元に顔を近づける。
「フィアナは妖精だから、人間の持ち物は持ってないだろう」
「っ」
その言葉にハッとして身をひく。
そして、気づいた。恐る恐る確かめる。
「もしかして……あのドレス……」
「そうだよ」
( ……… )
やっぱり、私のために店 一件落着分の品物を買ったんだ。
自慢げに微笑まれて、フィアナは頬を引きつらせる。
いくら妖精でも、それが すごく大金
だということは想像がつく。
私のためだと分かっても……。
アルが私を気遣ってくれるほど、気が重くなる。
「後から他の物も見繕っておいたから、届くと思う。それまでは 不自由かもしれないけど、今あるので我慢してくれ」
「 ……… 」
私の手をぎゅっと握るアルは、申し訳ない顔をしている。
でも、 本当に? と聞きたい。
だって、オーラがキラキラと輝いてて浮かれているのが分かる。
( 買い物好きらしい)
いろいろ買ってくれても、ほとんど使わずじまいになる。
アルに散財させるのかと思うと、申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
止めたいけど、本当のことは言えないから黙っているしかない。
だけど…… 減らすことはできる!
それとなく何を買ってきたのか聞いてみる。
「何が届くんですか?」
「そうだな……日用品は香水に化粧品とか、文房具は 便箋、ペンにインクにカードなど 細々とした物だ。大きいものだと机と」
「ストップ!ストップ!」
両手を前に突き出した止めると、アルがピタリと口を閉じる。そんなに沢山
いらない。文字の書けない私に文房具は必要ない。机にいっては、今あるので十分だ。
気を悪くさせないように顔色を伺いながら言葉を並べる。アルが、じっと私を凝視している。
「えっと……机は …要らないかな?」
私のことを思ってしてくれている事だから、きっぱりとは断れない。
(怒ってる?)
アルの反応を見ようと、顔を見ると私を凝視していたアルがにっこりと笑う。
「そうだね。フィアナが使うんだから、フィアナが好きなものを選ぼう」
「えっ?」
さっきより、オーラの色が、濃くなって眩しいくらい輝いている。
「明日にでも一緒に店に行こう」
「はっ? ……ははっ、そうですね。そうしてくれると、ありがたいです」
無駄遣いを阻止できた事になるのかな? よくわからないけど、気に入らないと言えば買わずに済みそうだ。
上機嫌のアルを見ていると、自分も気分が良くなる。
「そうだ。 ドレスのプレゼントへのお礼にお茶を淹れてあげる」
ビビアンとの特訓の成果を披露したい。我ながら、すごく頑張った。
「お茶?」
「そう、お茶」
驚いたのか、アルの足が止まる。
妖精の私が、お茶を淹れるなんて思ってもなかったと思う。
早く行こうとアルの腕を引っ張っる。
アルフォンは、朝食を食べたテーブルに座りフィアナの淹れたお茶を一口飲んだだけで笑顔を作る。
(う~ん。予想通りの味)
きっと見様見真似で淹れたんだろう。だけど、努力していることには好感が持てる。フィアナは人間として生きていくと決めたんだ。
努力賞ということで。
「美味しいよ」
そう答えると、何も知らないフィアナが笑顔になる。
(あっ!……これは……。まっ、良いか……)
「おかわりは?」
「もちろん貰うよ」
たとえ、拷問のような味でも飲み干す。心の中で固く決意する。
笑顔でカップを渡す。
アルに、二杯目のお茶を注いで差し出す。
「今日は、楽しかったかい?」
「はい。ロージーたちと、たくさん話をしました」
ドレスには、デイドレスとナイトドレスがある。ディナーを食べる時には着替える。 パーティードレスと言うのがあって、 豪華な装飾品をたくさんつける。 それ以外にも、お茶会など、お出かけ用のドレスがあると教えてくれた。1日に何度も着替えることに驚く私に、これ普通だと言う。
「そうか、それで どんな話をしたんだい?」
どんな話と聞かれても…… ドレスの話ばっかりだったけど……。 男のアルに話してもつまらないだろう。他に 何を話したかな……。
思い出してみる。
そうだ。新しいドレスを着たならデートするべきだと言っていた。若い男女なら必ず すると言っていた。 確かに家の中に閉じこもっているのは性分
じゃない。どこか 自然の多い所に行きたい。
「デートの話をしました」
「えっ?」
「アル。デートです。デートしましょ」
アルが私の提案に酷く動揺して、目に見えて落ち着きがなくなる。何か疚しい事が有るのだろうか?
ドキドキして楽しいとサマンサが、言ってたけど違うのかな?
「どっ、どうして、急にそんな事を
言い出すんだい」
「メイドたちがデートはした方が良いとアドバイスしてくれたんです」
「えっ、ああ……」
どうも、アルは乗り気ではない。
出かけられなくなるかと思うと残念だ。がっくりと肩を落とす。
「アルは私とデートするの嫌なんですか?」
「そんな事は無い」
否定するが、顔は肯定している。
私と目を合わせたくないらしく、あちらこちらを見て、はぐらかそうとしている。
そんなに苦手なことなの?
「だったら本当の事を言ってください」
フィアナはアルを胡乱な目で見ながら畳み掛けるように聞く。すると、観念したのか理由を早口で喋りだした。
「べっ、別に、した事が無いとか、沈黙が怖いとか、二人きりだと何を話していいか分からないとか、親戚以外の女性と喋ったことが無いとか、食事中、食べ物を突つきまわしているとか、意味有り気な笑い方をするとか、そう言った理由じゃないから。決して、そう言う理由じゃないから」
「 ……… 」
あまりの早口に、何一つ分からないと
目をパチパチする。
(そう言う理由じゃないなら、どんな理由なの?)
何が言いたいのか伝わってこない。
もう一度尋ねようとすると、アルが視線を避けるように横を向きながら話題を変えた。
「とっ、所でビビアンから、あの後何か連絡はあったかい
?」
その言葉に ドキリとする。
今朝 会ったばかりだ。
ビビアンに待つと約束しているから、そのことは秘密だ。
何故、私に聞いてきたんだろう。
「いいえ。でもどうして?」
ビビアンと会ったことは知られているのか、それとなく探りを入れてみる。
何か気づいた事がでも あるのだろうか? それだと不安だ。
「ビビアンの両親が帰って来ないと心配して家に訪ねて来たからだ」
(そうか。妖精になったから、姿が見えないんだわ)
「でも、そう言う事なら、そう伝えるよ」
この事をビビアンに伝えないと……。
席を立って部屋に戻ろうとするアルに、諦めきれないフィアナは、もう一度 誘ってみる。
「アル。本当にデートに行かないんですか?」
「っ」
振り向いたアルは赤い顔をしている。何か言おうと口を開け閉めしていたが、結局何も言わないで足早に立ち去ってしまった。
その後ろ姿を見ながら口を尖らせる。
「デートしてみたいのに……」
(デートか……)
何処かで、聞いた事が……。
あっ!そうだ。
蝶のフラン。
思い出した。仲良さそうに男女が並んで歩いているのを見て、蝶のフランが羨ましいと言っていた。どうして、そう思うにと聞くと、子供には分からないと言って鼻で馬鹿にされた。蝶の一生は短い。だから、先に生まれた私よりフランの方が早く大人になる。あの時も分からなかったけど、今も分からない。フランが、 そう言うくらいだから、やっぱりワクワクするような事に違いない。
でも、よほど嫌なのかアルは逃げるみたいに 立ち去ってしまった。
「デートって本当に何なんだろう?」
楽しいこと? それとも楽しくないこと? どっち?
*****
今日も色々あったけど、終わろとしている。一日が短く感じる。
アルの隣で 眠ろうと目を閉じたが、何か忘れてることに気づいて目を開ける。
(何を忘れてるんだろう)
頭の中で一つ一つ確かめてみる。
ビビアンに会った。
お母さんの伝言も頼んだ。
後は………そうだ。
飛べないことをすっかり忘れていた。こんな大事なことを忘れるなんて……。アルの事は言えない。
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明日の朝、確かめよう。
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