身代わり花嫁は妖精です!

あべ鈴峰

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縄墨

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不安を抱えたまま一夜が明け、フィアナはアルと朝食をとっていた。すると、アルの頭を ポカスカと殴っている妖精を発見する。
(赤毛に、はしばみ色の瞳。ビビアンだ! )
やっぱり来てくれたんだ。と、喜んだけど……。なぜアルを殴ってるの?
当のアルは気付いていないようだ。
怒っているようだけど、逃げたのはビビアンだ。どちらかと言えばアルの方が被害者なんだけど……。
首をかしげてビビアンの行動を不思議に見ていたが、これで入れ替われる。

そう喜んだそばから、寂しい気持ちに塗り替わる。 でもその気持ちを否定する。これでいいのよ。私は妖精だもの。ここは私が居る場所じゃない。
未練が断ち切れうちに早く、終わりにしよう。
「ビビアン」
小さい声で名を呼ぶ。 するとこちらを向いた。でも、自分を呼んだのかとアルが顔を上げた。今、ビビアンの姿を見られるのは不味い。
アルに説明するのは出来れば避けたい。私が騙したと責められるのは辛いし、アルが傷つく姿を見るのも辛い。

こっちに飛んでくるビビアンをサッと 虫を払うふりをして手の中におさめると、 何事もなかったように席を立つ。
「ご馳走様。少し庭を散歩してから部屋に戻るわ」
「分かった」
くるりとアルに背を向けると、手のひらを少しだけ開ける。
ビビアンが 目をまん丸にして驚いたように私を見る。フィアナは、 静かにしてと口に指を押し当てる。
アルが、追いかけて来ないか念のため、肩越しにチラリと振り返ると、アルが手を上げる。
フィアナは 会釈すると、そそくさとアルから姿が見えないように庭の奥へ移動する。

ここまで来れば大丈夫だろう。辺りを見回してから、手を開くとビビアンが飛び立った
飛んでいるビビアンに目を向ける。
ちゃんと羽が生えて金色の粉をまき散らしている。
間違いなくビビアンは妖精だ。と言う
ことは妖精が二人? 入れ替わったら元に戻れる? ちょっと不安だけど、どうにかなるだろう。

*****

「良かった。来てくれたのね」
ビビアンはにこやかな笑顔で私を出迎えてくれた娘を訝しげに見つめる。
会ったばかりの男と強引に結婚させられて、さぞ酷い一夜を過ごしたのだろうと心配したのに………。
ぐっすりと寝たのか健康そうだ。こっちは精神的にも物理的にも眠れぬ一夜を過ごしたというのに。

寒さで目を覚ましたビビアンは、お腹を空かせながら、一秒でも早くと。
必死でアルフォンの家に来た。
しかし、この差は何? 神経が図太いの? それとも妖精だからなのか謎だ。
こんなことなら、何処かで食事を済ませてから来ればよかった。

取り敢えず、ビビアンは自己紹介する事にした。いくら妖精になったとは言えレディとしての嗜みまで無くなった訳じゃない。スカートを両手で掴んでひざを折る。
「初めまして、ビビアン・ロイドです。よろしくお願いします」
「フィアナ・ラ・ステイルペースです。こちらこそよろしくお願いします」
そう言ってフィアナが、子供みたいに屈託なく笑って手を差し出す。同じ挨拶を返して来ない。
物怖じしない様子からも、市井の者という訳ではなさそうだ。それにこの美しさ、やはり人間じゃない。
ビビアンはフィアナの指を両手で掴んで握手をした。
(挨拶はこれで良し。早速本題に入ろう)
事態を複雑にしたのはフィアナにも責任がある。アルフォンと結婚して教会の外に出て行かなかったら、その場で解決しのはずだ。


ビビアンはフィアナを具に観察する。
" 清らか" その一言に尽きる。
フィアナの様子を見る限るしり、杞憂に終わりそうだけれど、フィアナの口から答えが聞きたい。
「その……昨日の夜……えっと…… だから……その……」
乙女の私が、そのことを口にするのは恥ずかしい。
察してほしいとフィアナを見ると 真面目な顔で続きを待っている。
(はぁ~ 駄目だわ)
相手は妖精だもの仕方ない。
一気に早口でまくし立てた。
「……寝る事以外でアルに何かされた? 例えば服を脱がされたとか、体を触られたとか……」
(あぁ、 神様、頼みます)

ビビアンは祈る気持ちでフィアナの返事を待つ。不安で口から心臓が飛び出しそうだ。
「何かって? 一緒に寝たけど、人間は何かするの? 」
「ううん。なら言いの」
質問の意味が分からないと不思議そうに聞き返して来るフィアナを見て、ビビアンは十字を切った。
(ああ、神様ありがとうございます)
式を挙げたけど、本当の意味で夫婦になった訳でないらしい。
これで、一番の気掛かりが片付いた。すがすがしい気持ちだ。

もし純潔を失っていたら、結婚を決めたのがフィアナだったとしても、後味が悪い。昨夜はいわゆる新婚初夜だ。アルフォンが 逃げられないように、既成事実を作ると思っていたが、強引に事を進め無かった事に 安心した。
まだ紳士としての自覚があったようだ。
これから先はアルフォンとフィアナの問題。私は関係無い。


さっさと、入れ替わって日常に戻ろう。これ以上両親に悲しい思いをさせたくない。簡単には許してくれないだろうけど、元気な姿を見せたい。
「フィアナ 、早速……」
「どうしたの? ビビアン」
ビビアンは幻でも見ているかのようにフィアナの背中の羽を見た。
なっ、何で羽があるの?
私と入れ替わったのだから人間と可笑しい。
昨日の教会での出来事を事細かく思い返してみた。確かに羽は無かった。
こんな大きな物 見落とすはずが無い。

「どっ、どうしてフィアナにも羽があるの? 」
「ええ。それが、どうやら服の中に隠れていたみたいなの」
私の疑問にフィアナも不思議だと首を捻る。羽ってそんなに柔らかった?
いや、そんなはずはない。自分が妖精
になったから分かる。
念の為にとビビアンはフィアナの後ろに回って背中の羽が本物かどうか確かめた。羽が背中から突き出ていて、見た所張り付けた様子も無い。本物の羽だ。
「フィアナも妖精なの? 」
「多分……」
それじゃあ、入れ替わっても意味が無いじゃない。
一難去ってまた一難とはこの事だ。次から次へと問題が起きて頭が痛い。
一体どうなっているのと頭を抱える。どうしよう……。

羽を生やした私を見て、両親はどう思うかしら……。 余計に心配させるだけ。
「ビビアン。私達入れ替わってしまったでしょ、だから早く戻らないと」
「戻る? 」
先のことを考えると" はい "と即答できない。フィアナは、体が小さくなるから大丈夫だろうけど私は……。
「ビビアンは元に戻りたくないの? 」
「 ……… 」
自分の提案を困った様にフィアナが問う。答えはノーだ。戻りたい。
だけど、戻っても妖精だと一人に見えないし、声も聞こえないかもしれない。昨夜の出来事がまざまざと甦って、泣きそうになるのをぐっと堪えた。泣いても何も解決しない。
「ビビアン。聞いているの? 」
フィアナの声に我に返ったビビアンは 現実と向き合う。

「元に戻るのは、もう少し待ってほしいの」
姿の事もあるが、昨日の今日だ。このまま元に戻ったら、また最初に逆戻りしてアルフォンと結婚させられてしまうかもしれない。そんなのは嫌だ。
結婚するにしても、よく考えたい。
将来のことだ。ここで妥協する訳にはいかない。自分で納得しないと一歩も踏み出せない。
「でも……」
フィアナの続きの言葉を手を出して遮る。フィアナの気持ちも分かる
けど待ってほしい。
「2、3日でいいの。考える時間をちょうだい」
「だけど……」
「お願い。私にとっては、一生の問題なの」
「 ……… 」
渋るフィアナに向かって拝み倒す。
帰りたい気持ちは私も一緒だ。だけど、協力して欲しい。
「このおとりよ。お願い」
「……分かったわ」
「ありがとう」
こくりと頷くフィアナに、向かって
自分も頷く。
とにかく、一人になって考えよう。

「ぐぅ~」
その時お腹が大きな音を立てて、忘れるなと自己主張する。
クスリとフィアナに笑われて、恥ずかしさに顔が赤くなる。
しかし、腹が減ってはなんとやらだ。
「フィアナ…… 悪いんだけど、何か食べさせてくれない」
「分かったわ」
そう言うと、了承も得ずに勝手に私を掴んで肩に乗せた。
(今といい、先といい、妖精の移動手段は人なの? )
一何 落ちないようにフィアナの肩に
座る。

フィアナは、食べ物を探してアルと朝食を食べてたテーブルに戻った。
すると、気を利かせてかアルが食べ物を残していた。

むしゃむしゃと食べる、その食欲旺盛なビビアンの姿を見て微笑む。
( よほど、お腹が空いていたの)
「お茶をちょうだい」
ビビアンのリクエストにテープを見ます。しかし、空のカップしかない。
「 待ってて、お茶を貰ってくるわ」
「えっ、フィアナ? 」
席を立とうとするのを、止めるようなビビアンの怪訝そうな声に顔を向ける。
「なあに? 」
「 お茶を淹れたことないの? 」
「 入れる? ……あーそうか! ポットに入れるのね」
そうだ。人間はポットから、お茶を注いでいた。お茶もらうためには、ポットが必要なのね。
ポンと手を打つとポットを掴んだ。
ところが、ビビアンが飛んできてポットの蓋の上に乗る。


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