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来宅

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フィアナは、アルが何をするのだろうと 首を動かして目で追う。
アルが羽をしげしげと見ている。
どう言う訳かアルに正体がバレてから、羽が出っぱなし。
これは予感だけど、ずっと このままな気がする。
「バレなかったか?」
「はい。何も言われませんでした」
頷くと、アルが首を捻った。
私も同じように首を捻る。
そうなのだ。背中をゴシゴシ洗われたけれど、何も言われなかった。

アルが、唇に指を当てながら考えを巡らせている。
「う~ん。メイドの誰も騒がなかった言う事は……。私以外 見えない言うことか? 」
「多分…… 」
私もその事は不思議だった。何故、アルだけ見えるのか?
アルが特別なのかも? そうでないなら何? 今のところ全く原因が 分からない。アルがストンと肩の力を抜く。
「まぁ、私以外に見られないなら、これで一安心だな」
「はい。一安心です」
その通りだと頷いて返事をする。

羽を隠そうとしたことからも、アルは信用できる。私を酷い目に合わせたりしないだろう。
「他に隠し事は無いだろうな? 」
「有りません」
アルに胡乱な目で見られて、 もう無いと両手を振って否定する。
本当は、ビビアンと入れ替わった事を 秘密にしている。でも、元に戻れば終了なんだから、あえて言う必要は無い。証拠の羽があるのに、私が妖精だと信じさせるのに一苦労した。そんなアルに証拠もない、証人もいない話をしても、時間の無駄だ。
アルは頭が固い。


「アルこそ、何か隠し事があるんじゃないんですか?」
「無い、無い。いたって平凡な男だ」
そっちこそと反撃に出ると、首を振ってアルが自虐的に答える。
フィアナは、アルの返事に首をかしげる。平凡? 人間の平凡は分からないけど、私から見たらアルは特別な人だ。
良いところがいっぱいあるし、何より
嘘をつかない。
みんな人間は嘘つきだと言っていた。でも、アルは違う。
オーラの色を見れば分かる。
「そんな事ありません。アルは、素敵な人です」
「そっ、そうか………フィアナが そう言うなら、そうなんだろう」
アルが困った様に返事をする。もしかして、照れているの? 

アルが逃げるように私の後ろに回る。
「羽は濡れても大丈夫なのか? 」
「平気です。濡れた時は太陽で乾かしていました」
アルが備え付けのタオルを持ってくる。それをじっと見つめる。
タオル。それは……とっても便利な道具だ。

湯船から出てきた時は、台風の日のようにびちゃびちゃだったのに、タオルを使うと、あっという間に水を吸い取ってくれた。
(ビビアンに頼んで一つもらおうかな)
「そうか。でも今は夜だからタオルで拭いてあげよう」
素直に背中を向けるとアルが優しく拭いてくれる。タオル越しに手を動かすから、こちょこちょされているみたい。擽ったさに笑い声がもれる。
「ふふっ」
「神経が通っているんだな」
「そう。だから、自由に動かせるのよ」
そう言うと片方ずつ羽を動かして見せた。羽だって体の一分だもの思い通りになる。
「うわぁ! 凄いな」
アルが感心した様に声を上げる。
そのことが誇らしくて気分が上がる。

「本当に妖精と結婚したんだな……」
「そう言う事になりますね」
ポンと 一歩離れて、アルと向かい合うと 後ろに手を組んでくるりと回る。 その一歩をアルが詰めてくる。
「私の花嫁が妖精なんて誰も想像して無かったろうな……ははっ」
愉快そうにアルが笑顔になる。でも、フィアナは、その笑顔が寂しい。
この結婚が、もう直ぐに終わると、言ったらアルは、どう思うだろう……。
私が元に戻ったら、二度とアルと こんな楽しい時間は持てない。
この瞳も、この笑顔も……。
人間と妖精は同じ空間にいても相容れない存在。私の姿も声も届かなくなる。
( 残念だな……)
アルともっと一緒にいて楽しい時間を過ごしたい。初めてできた人間の知り合いだからか、離れがたい。
「はぁ~……」
別れの予感にため息を吐く。すると、アルがポンと肩に手を置く。
「心配しなくていい。秘密は守る」
約束するかのように口角を上げて私を見る。そうだ。 先のことを心配するより、今を楽しもうと気持ちを切り替える。どれぐらいの時間が残されているか、分かないけれど。
何か、人間じゃないと出来ないことをしてみたい。

「はい。おしまい」
そのことを、あれやこれやと考えているうちに拭き終わっていた。
 アルに声をかけられて我に返る。( 全然痛くなかった)
アルの優しく丁寧な作業に好感を持った。男の人なのに優しい手つきだ。
羽が濡れてしまうと長い時間飛べなかった。今日は直ぐに飛べそうなくらい羽が軽い。
「ありがと……」
お礼を言おうと振り返ると、アルが拭き終わったタオルを不思議そうに見ている。タオルには金色の粉が付いている。だけど、金色なのに虹色に輝いている。
「これは……何だ?」
「妖精の粉です」
羽を動かすと、キラキラと粉が舞う。アルが 両手を広げて落ちてくる妖精の粉をポカンと子供みたいに口を開けて見ている。
「これが……魔法の粉か……」
「えっ」
(あっ……)
そうだよね。そう考えるのが普通だ。アルの期待に満ちた目に愛想笑いする。妖精といえば魔法。人間界では、そうなっている。もちろん魔法使える妖精がいる。
だけど私は……。

「フィアナは、どんな魔法が使えるんだ? 」
どうしよう……。本当の事を言ったら、がっかりするかな? でも、見せてと言われたら嘘をついても ばれてしまう。夢を壊す事になるかもしれないけれど、正直になろう。
「それが…… 私は使えないんです」
「そうなのか? 」
アルの意外そうな顔にプライドがチクリとする。まったく何の力も無いと思われるのは悔しい。
「あっ、でもでも、オーラは見えます」
「オーラ? 」
聞き返すアルを見てフィアナは頭を悩ませる。説明が難しい。
オーラは生きているものなら、動物だって持っている。顎を指でトントンと叩きながら考えをまとめる。
う~ん。物で例えば通じるかな。
「そうですねぇ~。感情の幕のようなモノが、色になって見えるんです」
「ふ~ん」
アルの気のない返事に、ムッとする。生きていく上で、とっても大切で便利なものなのに!

 そのことを分からせたいと細かく説明する。
「人間にもあるんですよ。でも人間は、その時々でオーラの色が変わるんです。黙っていても、怒っていたら赤くなるし」
炎の感じを出そうとメラメラと両手を揺らしながら上下する。
「悲しい時は青くなります」
両手を目に押し付けて泣いたふりをする。
「なるほど、つまり顔で笑っていても、怒っていたり、悲しんだりしていると言うことか」
コクコクと顎に指を当てながら納得した。そういう事を言いたかった。尊敬する。アルの両手を掴んで上下に揺さぶる。
「そう、その通り」
アルが照れたように鼻をポリポリと掻いていたが、ハッとしたように私を凝視する。

「つまり……フィアナは……私の感情が見えていたのか? 」
「そうですよ。それで結婚したんです」
「えっ?……どう言う意味だ」
「嘘をついていなかったからです」
「えっ? なっ、何で……そっ、そう思うんだい? 」
アルが焦ったように訪ねてくる。フィアナは、不思議に思いながら、嘘つきが出すオーラの色について語る。
「嘘をつきは、たいてい人を騙すことに、優越感に浸っているので、赤と黄緑色のオーラです。だけど、アルは
基本黄色とピンク色でした」
「ピッ、ピンク色って、どういう意味があるんだ? 」
「色の濃さでも違いますが、優しさ、献身、慈愛、母性愛とかです」
「ふ~ん」
また考え込んでしまったような返事に凹む。
やっぱり、オーラの色が見えるだけじゃ、パッとしないか……。

アルに良いところを見せたかったのに……。
そうだ。妖精といえば、コレでしょ。
ポンと手を打つ。
きっと私が飛んだところを見たら腰を抜かすかも。 そんなアルの姿を思い描くとワクワクする。
羽に力を入れて、力強く動かすと風が体の回りに出来る。すると、突然の風にアルが避けようと腕で庇を作る 。
「アル。見て! 」
ふわりと、いつものように足が 床から離れるはずなのに。
(どうして? )
飛ぼうとするが全然飛べない。
今度こそ、羽に精一杯力を込めて動かす。つむじ風のようにカーテンが引っ張られる。だけど、足が床についたままだ。
もう一度。もう一度。もう一度。もう一度。何度もするが、一向に飛べる気配がない。
こんなこと初めてだ。風邪で高熱を出した時だって、飛べたのに。
どうして……。

人間の体になったから重くて飛べないの?でも、その分羽も大きくなったし、羽からは金色の妖精の粉がちゃんと出ている。
人間サイズに行ったから勘がつかめないのかも。
妖精の粉で床が、虹色に埋め尽くされている。それをフィアナは、ぼんやりと見つめる。妖精の力が残っているのに何故?

ショックで体の力が抜けていく。
「フィアナ! 」
「アル……」
肩を揺さぶられて反射的に顔を向けると、アルの顔が間近にあった。
その目が私の心を読むように、じっと見つめて来る。
「どうした? 」
「……飛べないんです! ……私………飛べないん……です……」
「フィアナ……」
どうしようとアルのシャツを掴む。

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