身代わり花嫁は妖精です!

あべ鈴峰

文字の大きさ
上 下
10 / 59

禁秘

しおりを挟む
アルと一緒に、結婚披露パーティーに出席していたフィアナは、アナからの
"ファーストダンス"の誘いに、その手をとった。
しかし、踊りだそうとして、自分が妖精で、人間と踊ったことが無い事を思い出した。
私のせいで、アルに恥をかかせるわけにいかない。
今からでも、止めた方が良いのかも。
「アル……私、言って無かったけど、踊った事が無いの」
ぞっと、アルに耳打ちする。

人間は簡単に踊っていだけど、初心者の私には難しいだろう。
下手だったらアルを失望するかもしれない。
「スッテプは良いから、私の手を放さない事。それと、足下ではなく私を見つめること。いいね」
「はい」
不安な私と違って、アルは さして気にする様子が無い。
心配だけどアルに任せよう。私に出来ることは限られている。素直に分かったと頷く。

アルがスッテプを踏み出した。フィアナはバランスを取りながら、転ばない様につま先立ちで、とっとっとと、歩くようにしてついて行く。
ロングドレスだから、こうしても見つからない。アルの足を踏まないし、姿勢も安定している。これで正解らしい。
(よかった……)

初めてのダンスで 緊張していたが、上手く踊れると分かると、その事が嬉しくて 楽しくて仕方ない。
今、夢が叶ったのだ。昔、葉っぱや花びらを相手に踊ったことがある。
でも、こんなに楽しくなかった。
人間の真似などして、何が楽しいのか分からないと皆が言っていたが、フィアナは羨ましくて仕方無かった。
『あんなふうに笑顔になるのは、きっと魔法がかかってるんだ』 そう思っていたけれど、本当だった。だって、私も笑顔だから。


リラックスしてリードを任せて踊っていると、アルが意味有り気な表情を浮かべた。
悪戯を思いついた人みたいな顔だ。
共犯者になるのかと思うと、ハラハラドキドキする。
(何? 何をする気なの? )
そう思っていると、踊りが変わる。
前に行ったり、後ろに行ったり、横に行ったり、ターンや複雑なステップを踏み始めた。
(悪戯って、これだったのね)
負けてられないとついて行くと、アルが私をクルリと一回転させる。

スカートが、傘みたいに回る。
それが面白くて声が出る。
「ふふっ」
するとアルが、くすりと笑う。そして、右に左に私をクルクルと回転させる。 回るたびに、笑みが増えていく。気づけば口角を思い切り上げて声を出して笑っている。
私に、つられるようにアルも声を出して笑っている。
何で笑っているのか自分でも分からない。ただ、自分が大声で笑っていることに気づいて、また笑ってしまう。
そんなことの繰り返し。
バイオリンやピアノの音、周りからの囃子たてる声、溢れて出す笑い声、笑顔の花婿、豪華なウエディングドレス。その全てが私を満たしてくれる。

しっかりと手を繋いでいる私たちの周りを、景色が流れて何が何だかわからなくなる。それでかまわない。
アルが手をつないでいてくれれば、それで十分。
私たちを中心に 次第に他にも踊る人が増えて、グルグルと回るロンド。
皆が楽しそうに笑い踊る。
その事が私を楽しくさせる。
(ああ、これが幸せなのだ……)
何が楽しいのか、はっきりとしない。
ただ理屈抜きに楽しくて仕方ない。
“幸福”そうお母さんが言っていた。人間は自分が幸福だと温かく優しいオーラを出すと。まさに今がそれだ。私の周りには幸せのオーラが溢れ、自分からもオーラが出ている。
他の人の幸せが自分を幸せにする。お母さんとの穏やかな幸せではなく、弾むような軽やかな心躍る幸せ。
フィアナは初めて人間の"幸福"を実感していた。


*****


ビビアンはアルフォンの 家を探しているうちに迷子になっていた。何か分かる場所を探そうとしているうちに、自分の家を見つけた。

一目、両親の姿を見たいと中を覗き込む。
( ……… )
居間のソファーで、着替えもせずに項垂れてお互いに、肩を寄せ合って支え合っている。そんな両親の姿に、自分がとんでも無い事をしてしまったと改めて思い知らされる。
罪の重さを唇を噛みしめて耐える。
(画家になりたい。ただ、それだけだったのに……)
今頃は、散々怒られて自室で反省しているはずだったのに……。まさか、こんな事になるなんて誰も想像していなかった。
(ああ、どうして……逃げてしまったのだろう)
こんなふうに姿を消すつもりはなかった。

現実は厳しく両親を無意味に悲しませる結果になってしまった。胸が押しつぶされているように重く苦しくて痛む。窓の桟に停まると窓ガラスに額を押し付ける。
運命のいたずらに為す術もなく、後悔の涙が溢れる。ただ、涙が溢れる。
「ごめんなさい……」
小さな声で謝ったが、その声は夜に吸い込まれて誰にも届かない。

*****

フィアナは座って皆が楽しそうな様子を眺めていた。
(これって、いつまで続くんだろう……)
踊ったせいか、さっきより足の痛みが強くなった。
隣に座っているアルを横目で見ながら気付かれない様に靴を脱ぐ。
さっきは赤くなっているだけだったけど……。血が出ているかも知れない。見たくないけど……。
確認したほうがいいだろう。
足を見ようとテーブルクロス掴むと、
クイッ、クイッと、指を動かして手の中に集める。
横目でアルを見る。大丈夫。気づいてない 。すっとテーブルクロスを掴んだ手を持ち上げようとしたが、それより早く誰がにテーブルクロスが捲られた。
(えっ?)

驚いて相手を見るとアルだった。
不味い! 
慌てて足を隠そうと脱ぎ捨てた靴を履こうとしたが、
私の靴をアルが拾う。
フィアナは、アルの手にある自分の靴から、アルへと視線を動かす。
内心バレてしまった事に、がっかりする。
(絶対気づかないと思ったのに ……)
アルに向かって硬い笑みを浮かべて、返してほしいと手を出す。
しかし、アルが首を振って断ると、私の靴を持ったまま立ち上がった。何がしたいのかわからず、行動を目で追う。
(私の靴をどうするの? )

「部屋に戻ろう」
そう言うと私をヒョイと抱き上げる。
「えっ? でもまだ、皆さんいますよ」
披露宴なのだから、主役の私たちが抜けて良いの?
小首を傾げる。
しかし、アルは誰にも何も告げずに、私を抱きかかえて歩き出した。
すると、背後で口笛や私たちを冷やかす声がする。
なんで騒いでいるの? ゲストたちを見るが、怒りの赤いオーラじゃない。
(どういうこと? 全くわからない)
「いいのさ。それがお約束だから」
約束って、何の約束? どんな約束か
知りたくてアルを見ると耳のふちが赤くなっている。ますます分からなくて首をひねる。
「お約束? 」
「 ……… 」
尋ねてもアルは 何も言わず 歩き続ける。



さっきの部屋に戻るとアルが壊れ物を扱うように、そっとベッドに私を下ろす。そして、もう一方の靴を脱がせると、二つ揃えて置く。
隣に座ると、気づかうように私を見つめる。私もアルにお疲れさまと見つめる。 それから、私の手を取ってさすりながら、アルが優しい言葉を掛けてくれた。
「疲れたろう。メイドに頼んで湯あみの用意をさせる。その後、手当をしよう」
そう言って心配そうに、私の足を見る。
「湯あみ?」
手当は分かるけど、湯あみって何?
「ああ、湯浴みが終わったら、
この薬を塗って……」
アルがポケットから 小さな入れ物を外へ出すとそれを私に見せようと此方を見たが突然立ち上がる。
その目が私では無い何処かを見ている。 大きく見開いた瞳 蒼白な顔 驚く
いったい急にどうしての?

「アル?」
声を掛けると、ビクッとして 薬の入った容器がアルの手から転がり落ちる。コロコロと転がってベッドの脚にぶつかって止まる。
それを拾おうとせず、アルが 震える指で私の後ろの方を指さす。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。 ご都合主義のハッピーエンドのSSです。 でも周りは全くハッピーじゃないです。 小説家になろう様でも投稿しています。

子持ちの私は、夫に駆け落ちされました

月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。

【完結】婚約破棄されたので田舎に引きこもったら、冷酷宰相に執着されました

21時完結
恋愛
王太子の婚約者だった侯爵令嬢エリシアは、突然婚約破棄を言い渡された。 理由は「平凡すぎて、未来の王妃には相応しくない」から。 (……ええ、そうでしょうね。私もそう思います) 王太子は社交的な女性が好みで、私はひたすら目立たないように生きてきた。 当然、愛されるはずもなく――むしろ、やっと自由になれたとホッとするくらい。 「王都なんてもう嫌。田舎に引きこもります!」 貴族社会とも縁を切り、静かに暮らそうと田舎の領地へ向かった。 だけど―― 「こんなところに隠れるとは、随分と手こずらせてくれたな」 突然、冷酷無慈悲と噂される宰相レオンハルト公爵が目の前に現れた!? 彼は王国の実質的な支配者とも言われる、権力者中の権力者。 そんな人が、なぜか私に執着し、どこまでも追いかけてくる。 「……あの、何かご用でしょうか?」 「決まっている。お前を迎えに来た」 ――え? どういうこと? 「王太子は無能だな。手放すべきではないものを、手放した」 「……?」 「だから、その代わりに 私がもらう ことにした」 (いや、意味がわかりません!!) 婚約破棄されて平穏に暮らすはずが、 なぜか 冷酷宰相に執着されて逃げられません!?

傲慢令嬢は、猫かぶりをやめてみた。お好きなように呼んでくださいませ。愛しいひとが私のことをわかってくださるなら、それで十分ですもの。

石河 翠
恋愛
高飛車で傲慢な令嬢として有名だった侯爵令嬢のダイアナは、婚約者から婚約を破棄される直前、階段から落ちて頭を打ち、記憶喪失になった上、体が不自由になってしまう。 そのまま修道院に身を寄せることになったダイアナだが、彼女はその暮らしを嬉々として受け入れる。妾の子であり、貴族暮らしに馴染めなかったダイアナには、修道院での暮らしこそ理想だったのだ。 新しい婚約者とうまくいかない元婚約者がダイアナに接触してくるが、彼女は突き放す。身勝手な言い分の元婚約者に対し、彼女は怒りを露にし……。 初恋のひとのために貴族教育を頑張っていたヒロインと、健気なヒロインを見守ってきたヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、別サイトにも投稿しております。 表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

【完結】彼の瞳に映るのは  

たろ
恋愛
 今夜も彼はわたしをエスコートして夜会へと参加する。  優しく見つめる彼の瞳にはわたしが映っているのに、何故かわたしの心は何も感じない。  そしてファーストダンスを踊ると彼はそっとわたしのそばからいなくなる。  わたしはまた一人で佇む。彼は守るべき存在の元へと行ってしまう。 ★ 短編から長編へ変更しました。

【完結】悪役令嬢は3歳?〜断罪されていたのは、幼女でした〜

白崎りか
恋愛
魔法学園の卒業式に招かれた保護者達は、突然、王太子の始めた蛮行に驚愕した。 舞台上で、大柄な男子生徒が幼い子供を押さえつけているのだ。 王太子は、それを見下ろし、子供に向って婚約破棄を告げた。 「ヒナコのノートを汚したな!」 「ちがうもん。ミア、お絵かきしてただけだもん!」 小説家になろう様でも投稿しています。

小さな恋のトライアングル

葉月 まい
恋愛
OL × 課長 × 保育園児 わちゃわちゃ・ラブラブ・バチバチの三角関係 人づき合いが苦手な真美は ある日近所の保育園から 男の子と手を繋いで現れた課長を見かけ 親子だと勘違いする 小さな男の子、岳を中心に 三人のちょっと不思議で ほんわか温かい 恋の三角関係が始まった *✻:::✻*✻:::✻* 登場人物 *✻:::✻*✻:::✻* 望月 真美(25歳)… ITソリューション課 OL 五十嵐 潤(29歳)… ITソリューション課 課長 五十嵐 岳(4歳)… 潤の甥

処理中です...