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華燭
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フィアナは 結婚披露宴の準備が整うのを、アルと一緒に家の中から 胸をときめかせて見ていた。
屋敷の庭には白いクロスが掛かったテーブルが幾つもある。そのテーブルの上には綺麗な花と色んな料理に沢山のお酒が並んでいる。既に演奏が始まっていて大勢の人たちが集まってワイワイと談笑していた。
暖かい色のオーラが会場を包んでいる。 その楽しそうな雰囲気に自然と音楽に合わせてリズムを取る。すると、 それを乱すように聞きなれない音が隣から聞こえる。
横を向くとアルが肩を叩いたり首を回したりしている。
(疲れているのね)
部屋に戻って来た時も元気が無かった。何を言われたかは予想がつく。
私も教会に帰ったらお母さんに叱られる。 ずっと良い子でいたのに……。
ビビアンが今夜中に来なかったら、無断外泊だ。きっと、 帰りが遅いと気を揉んでいる。
トントンと叩く音が止まらない。
さすがに心配になる。
「大丈夫ですか? 」
「ああ、問題ない」
アルが、 叩くのを止めて首を横に振る。そう 返事をするけれど 、本当に? と、確かめたくなる。
「さっきまで、親戚連中に花嫁が代わった事で色々言われていたが、ビビアンも了解していると言ったら納得してくれた」
「そうですか……」
ビビアンが、了解しているか どうかは別として、逃げたことを考えれば 違うとは言わないだろう。
「大変でしたね」
ねぎらいの言葉を掛けると、アルが思い出したように私を凝視する。
「そう言えば、ビビアンの行方が分からないと言って キャメロン家の者が聞きに来たが、行き先に何か心当たりはないか? 」
「 ……… 」
フィアナは返事に窮した。
入れ替わったせいか、彼女の存在を感じる。しかし、何処に居るかわまでは分からない。
ビビアンの両親がどんなに心配しているかは、自分の母親の事を考えれば 想像できる。
もしかしたら、何処をほっつき歩いているのかと、怒っているかもしれない。どちらにしろ小言を言われる。
(はぁ~、気が重い)
フィアナは心の中でため息をつく。 すると、アルが顔を覗き込んできた。
「どうした? 浮かない顔をして」
「私の……お母さんも心配していると思って……」
ううん。大丈夫。きっと理由を話せば許してくれるだろう。 言いつけを破ったのは初めてだし。
私の言葉にハッとした様にアルの顔が歪む。どうしたの?
「申し訳ない事をした……」
「アル? 」
「フィアナのご両親に何と言えばいいのか……」
アルが口元に指を当てて悩む。私は結婚すると決めたけど、お母さんの許しを貰って無いない事に、ここに来てやっと気付いたようだ。アルが、私の両肩に手を置く。
「これは私の責任だ。今からでもご両親を迎えに行く。何処に住んでいるんだい? 場所を教えてくれ」
「っ」
(急に、そんなこと言われても……)
ラフィアナの木が母だと言っても、冗談だと思って相手にしてくれない。
どう説明するか言葉を探していると、アルが首を振ったと思ったら
「否、駄目だ。パーティーは中止にして私が直接行こう。そうでないと誠意が伝わらない。……セバス! 」
首を振ったと思ったら誰かの名前を呼ぶ。拙い。事が大きくなるのは避けたい。ビビアンとバトンタッチするとき収拾するのが大変になる。
「アル。駄目」
「どうして?」
今にも 家を飛び出して行きそうな勢いのアルにフィアナは焦り、何とか思いとどまらせようとその腕を掴む。
「アル。待って! 待って! 」
「どうして? 」
困惑したように聞かれて、必死にアルが納得できる理由を考える。
(どうしよう……)
本当のことは言えないし……。何と言えば良いの?
(んー……)
嘘をつくのは良くない。色々聞かれたらボロが出る。だったら、現実的なことを言おう。
「もう、結婚して しまったんですから、焦らなくても」
「 ……… 」
「それに、今から行ったら帰るのが
夜になってしまいます」
「 ……… 」
アルが無言で 私を見る。
言い訳としては弱い。アルを引き止められるようなことを言わなくちゃ。
「それまで、招待客に待ってもらうつもりですか? 」
「それは……」
私の問いにアルの気持ちが揺れる。
両親の結婚の承諾をもらって、私を安心させたい。 と、言う気持ちもある。
だけど、やっと親戚を説得したことを考えれば、また参列者たちに待ってくれとは、言いにくいはずだ。
私のことは後でいいからと、フィアナはアルの手をギュッと掴むと頷く。
「ですから、このままパーティーをしましょう」
「……フィアナは、それで構わないのかい? 」
「はい。後で挨拶に来てもらえれば大丈夫です」
アルが、 すまなそうに私の顔色を伺う。フィアナはアルを宥めるよう掴んでいる手を叩く。すると、迷っていたアルだったが、分かったと頷く。
「だったら、明日一番に会いに行こう」
「はい。ありがとうございます」
胸が罪悪感で一杯になる。こんなに真剣に対応してくれるのに、私はアルを
騙している。妖精に戻ったら、見えなくなってしまう。だから、許しをこうことも出来ない。なんて自分勝手。
私はアルの手を掴む資格などないと、手を離す。
「お礼を言うの私の方だ」
そう言うと私の手を取って甲にキスした。 男の人が見せる愛情表現のひとつに、頬が染まる。
(アルは、私のこと好きなの? )
「ありがとう。フィアナ。不甲斐ない私を許してくれて」
「っ」
アルの瞳が優しくキラキラと輝く。
私は悪い妖精だ。
フィアナは勘違いしないでと、首を振った。 すると、何を勘違いしたのかアルが私を抱き寄せると、背中をポンポンと叩く。
私が無理していると思ったみたいだ。そんな優しい事されると、後ろめたさに心が痛む。
「ごめ」
つい口から謝罪の言葉が零れそうになる。
「フィアナ? どうした」
「 ……… 」
アルの 気持ちが伝わってくれば、くるほど。後悔が津波のように押し寄せて
私を苛む。
「アル……」
言ってしまいたい。言って楽になってしまいたい。だけど……言えない。
「何か」
私のハッキリしない態度にアルが何か言いかけた時、 扉が開かれ話は立ち消えになってしまった。
振り返ると、使用人が立っていた。
「お二人ともお時間です」
「……分かった。フィアナ、行こう」
アルがそれ以上何も聞かずに私に手を差し出す。フィアナはその手に自分の手を乗せた。下手な言い訳など言っても、嘘をついたことに変わりない。
今日、これ以上アルを振り回したくない。だから、本当の事は秘密にしよう 。自分の中の小さな棘を飲み込む。
*****
ビビアンは 生垣に腰掛けながら 自分の最悪な状況に苛立っていた。 彼女を
助けたくても上手くいかない。
これほど自分が無能だと思ったことは無い。
アルフォンに対して怒りが湧く。
いくら私に捨てられたからといって、 他の女とその場で結婚するなんて、 狂ったとしか思えない。
秒で乗り換えられた。
でも……その原因を作ったの私自身。
「はぁ~」
(………もう済んでしまったことは忘れなさい)
気持ちを切り替えろと自分に言う。 だけど……アルとの結婚を取りやめようと、逃げ出してから 何一つ自分の思い通りにならない。
それが一番腹立たしい。むしゃくしゃして葉っぱに噛みついたが、余りの苦さに吐き出す。
「苦い! ぺっ、ぺっ、ぺっ」
『こら、悪戯は止めなさい』
「っ!」
何処からか声が聞こえる。
生き物の気配もないし、物音もしなかった。しかも、人間の声じゃない。
頭に直接話しかけられている。そんな感じ。
(まさか……幽霊? )
心臓バクバクいわせながら、キョロキョロする。
「誰? 」
いったい、何処から声をかけているのかと、辺りを警戒していると、また声がする。まるで、隣に誰か居るみたいにすぐ側から聞こえる。
『もしかして、新米妖精か?』
「そっ、そうです。一体、誰ですか?」
(新米? )
この声の主は妖精のことに詳しいのかも。姿の見えない相手に返事をすると声の主は意外な者だった。
『私はお前の座っている生け垣の精霊だ』
「精霊? 」
まさかと思ったが自分が妖精なんだから存在しても可笑しくない。
なんだかこう言う事があると、自分が妖精になったと実感する。
『そうだ、精霊はありとあらゆる所に存在する。さっきからイラついているようだが、何を困っているのじゃ? 』
こっちの世界の新参者だし、古参に教えを乞うのは当たり前。ビビアンは早速言葉に甘える事にした。
「えっと……じゃあ、どうやったら上手く飛べるのですか?」
『普通に飛べているぞ』
「 ……… 」
本当? アレが 普通なら飛べる意味がない。
『もっとも他の妖精に比べて随分低空飛行だが』
「低空……他の妖精はどの位の高さで飛んでいるんですか?」
『そうだな……皆、空の上の方を飛んどる』
(空の上? )
ビビアンとしては、地上何メートルとか、そう言う数字を 言ってくれると思っていたが、相手は生け垣の精霊。
そんな事を期待するだけ無駄な事。
「空………かぁ……」
(見る分には良いけど……)
空を見ながら暗い気分になる。
空を飛ぶと言うん事は、上へ行くんだから降りる時は……。
高い所へ上ると勝手に膝から力が抜けて、フニャフニャになった足は手摺がないと立っていられなくなる。 一番の問題は 空につまらな掴まる物がないことだ。
『どうした? 』
「高いところが苦手なんです」
『はっ、はっ、妖精のくせに変な事を言う』
(そんなこと言われても、なりたての妖精には無理だ)
でも、そう言ってもられない。あの子を助けに行かなくちゃ。大丈夫。大丈夫。私は出来る。今飛び立とうとする私を生け垣の精が止める。
『夜は危険だから飛ばない方がいい』
その言葉にクスリと笑う。大人は、精霊も人間も変わらない。
「分かりました」
気遣ってくれて、ありがとうと会釈をする。
正直高いところは行きたくない。
でも、ここで愚図愚図していたら日が暮れてしまう。
それまでに何としてもアルフォンの家に着かなくちゃ。
(今行くわ)
女は度胸だ。チャレンジする価値はある。
屋敷の庭には白いクロスが掛かったテーブルが幾つもある。そのテーブルの上には綺麗な花と色んな料理に沢山のお酒が並んでいる。既に演奏が始まっていて大勢の人たちが集まってワイワイと談笑していた。
暖かい色のオーラが会場を包んでいる。 その楽しそうな雰囲気に自然と音楽に合わせてリズムを取る。すると、 それを乱すように聞きなれない音が隣から聞こえる。
横を向くとアルが肩を叩いたり首を回したりしている。
(疲れているのね)
部屋に戻って来た時も元気が無かった。何を言われたかは予想がつく。
私も教会に帰ったらお母さんに叱られる。 ずっと良い子でいたのに……。
ビビアンが今夜中に来なかったら、無断外泊だ。きっと、 帰りが遅いと気を揉んでいる。
トントンと叩く音が止まらない。
さすがに心配になる。
「大丈夫ですか? 」
「ああ、問題ない」
アルが、 叩くのを止めて首を横に振る。そう 返事をするけれど 、本当に? と、確かめたくなる。
「さっきまで、親戚連中に花嫁が代わった事で色々言われていたが、ビビアンも了解していると言ったら納得してくれた」
「そうですか……」
ビビアンが、了解しているか どうかは別として、逃げたことを考えれば 違うとは言わないだろう。
「大変でしたね」
ねぎらいの言葉を掛けると、アルが思い出したように私を凝視する。
「そう言えば、ビビアンの行方が分からないと言って キャメロン家の者が聞きに来たが、行き先に何か心当たりはないか? 」
「 ……… 」
フィアナは返事に窮した。
入れ替わったせいか、彼女の存在を感じる。しかし、何処に居るかわまでは分からない。
ビビアンの両親がどんなに心配しているかは、自分の母親の事を考えれば 想像できる。
もしかしたら、何処をほっつき歩いているのかと、怒っているかもしれない。どちらにしろ小言を言われる。
(はぁ~、気が重い)
フィアナは心の中でため息をつく。 すると、アルが顔を覗き込んできた。
「どうした? 浮かない顔をして」
「私の……お母さんも心配していると思って……」
ううん。大丈夫。きっと理由を話せば許してくれるだろう。 言いつけを破ったのは初めてだし。
私の言葉にハッとした様にアルの顔が歪む。どうしたの?
「申し訳ない事をした……」
「アル? 」
「フィアナのご両親に何と言えばいいのか……」
アルが口元に指を当てて悩む。私は結婚すると決めたけど、お母さんの許しを貰って無いない事に、ここに来てやっと気付いたようだ。アルが、私の両肩に手を置く。
「これは私の責任だ。今からでもご両親を迎えに行く。何処に住んでいるんだい? 場所を教えてくれ」
「っ」
(急に、そんなこと言われても……)
ラフィアナの木が母だと言っても、冗談だと思って相手にしてくれない。
どう説明するか言葉を探していると、アルが首を振ったと思ったら
「否、駄目だ。パーティーは中止にして私が直接行こう。そうでないと誠意が伝わらない。……セバス! 」
首を振ったと思ったら誰かの名前を呼ぶ。拙い。事が大きくなるのは避けたい。ビビアンとバトンタッチするとき収拾するのが大変になる。
「アル。駄目」
「どうして?」
今にも 家を飛び出して行きそうな勢いのアルにフィアナは焦り、何とか思いとどまらせようとその腕を掴む。
「アル。待って! 待って! 」
「どうして? 」
困惑したように聞かれて、必死にアルが納得できる理由を考える。
(どうしよう……)
本当のことは言えないし……。何と言えば良いの?
(んー……)
嘘をつくのは良くない。色々聞かれたらボロが出る。だったら、現実的なことを言おう。
「もう、結婚して しまったんですから、焦らなくても」
「 ……… 」
「それに、今から行ったら帰るのが
夜になってしまいます」
「 ……… 」
アルが無言で 私を見る。
言い訳としては弱い。アルを引き止められるようなことを言わなくちゃ。
「それまで、招待客に待ってもらうつもりですか? 」
「それは……」
私の問いにアルの気持ちが揺れる。
両親の結婚の承諾をもらって、私を安心させたい。 と、言う気持ちもある。
だけど、やっと親戚を説得したことを考えれば、また参列者たちに待ってくれとは、言いにくいはずだ。
私のことは後でいいからと、フィアナはアルの手をギュッと掴むと頷く。
「ですから、このままパーティーをしましょう」
「……フィアナは、それで構わないのかい? 」
「はい。後で挨拶に来てもらえれば大丈夫です」
アルが、 すまなそうに私の顔色を伺う。フィアナはアルを宥めるよう掴んでいる手を叩く。すると、迷っていたアルだったが、分かったと頷く。
「だったら、明日一番に会いに行こう」
「はい。ありがとうございます」
胸が罪悪感で一杯になる。こんなに真剣に対応してくれるのに、私はアルを
騙している。妖精に戻ったら、見えなくなってしまう。だから、許しをこうことも出来ない。なんて自分勝手。
私はアルの手を掴む資格などないと、手を離す。
「お礼を言うの私の方だ」
そう言うと私の手を取って甲にキスした。 男の人が見せる愛情表現のひとつに、頬が染まる。
(アルは、私のこと好きなの? )
「ありがとう。フィアナ。不甲斐ない私を許してくれて」
「っ」
アルの瞳が優しくキラキラと輝く。
私は悪い妖精だ。
フィアナは勘違いしないでと、首を振った。 すると、何を勘違いしたのかアルが私を抱き寄せると、背中をポンポンと叩く。
私が無理していると思ったみたいだ。そんな優しい事されると、後ろめたさに心が痛む。
「ごめ」
つい口から謝罪の言葉が零れそうになる。
「フィアナ? どうした」
「 ……… 」
アルの 気持ちが伝わってくれば、くるほど。後悔が津波のように押し寄せて
私を苛む。
「アル……」
言ってしまいたい。言って楽になってしまいたい。だけど……言えない。
「何か」
私のハッキリしない態度にアルが何か言いかけた時、 扉が開かれ話は立ち消えになってしまった。
振り返ると、使用人が立っていた。
「お二人ともお時間です」
「……分かった。フィアナ、行こう」
アルがそれ以上何も聞かずに私に手を差し出す。フィアナはその手に自分の手を乗せた。下手な言い訳など言っても、嘘をついたことに変わりない。
今日、これ以上アルを振り回したくない。だから、本当の事は秘密にしよう 。自分の中の小さな棘を飲み込む。
*****
ビビアンは 生垣に腰掛けながら 自分の最悪な状況に苛立っていた。 彼女を
助けたくても上手くいかない。
これほど自分が無能だと思ったことは無い。
アルフォンに対して怒りが湧く。
いくら私に捨てられたからといって、 他の女とその場で結婚するなんて、 狂ったとしか思えない。
秒で乗り換えられた。
でも……その原因を作ったの私自身。
「はぁ~」
(………もう済んでしまったことは忘れなさい)
気持ちを切り替えろと自分に言う。 だけど……アルとの結婚を取りやめようと、逃げ出してから 何一つ自分の思い通りにならない。
それが一番腹立たしい。むしゃくしゃして葉っぱに噛みついたが、余りの苦さに吐き出す。
「苦い! ぺっ、ぺっ、ぺっ」
『こら、悪戯は止めなさい』
「っ!」
何処からか声が聞こえる。
生き物の気配もないし、物音もしなかった。しかも、人間の声じゃない。
頭に直接話しかけられている。そんな感じ。
(まさか……幽霊? )
心臓バクバクいわせながら、キョロキョロする。
「誰? 」
いったい、何処から声をかけているのかと、辺りを警戒していると、また声がする。まるで、隣に誰か居るみたいにすぐ側から聞こえる。
『もしかして、新米妖精か?』
「そっ、そうです。一体、誰ですか?」
(新米? )
この声の主は妖精のことに詳しいのかも。姿の見えない相手に返事をすると声の主は意外な者だった。
『私はお前の座っている生け垣の精霊だ』
「精霊? 」
まさかと思ったが自分が妖精なんだから存在しても可笑しくない。
なんだかこう言う事があると、自分が妖精になったと実感する。
『そうだ、精霊はありとあらゆる所に存在する。さっきからイラついているようだが、何を困っているのじゃ? 』
こっちの世界の新参者だし、古参に教えを乞うのは当たり前。ビビアンは早速言葉に甘える事にした。
「えっと……じゃあ、どうやったら上手く飛べるのですか?」
『普通に飛べているぞ』
「 ……… 」
本当? アレが 普通なら飛べる意味がない。
『もっとも他の妖精に比べて随分低空飛行だが』
「低空……他の妖精はどの位の高さで飛んでいるんですか?」
『そうだな……皆、空の上の方を飛んどる』
(空の上? )
ビビアンとしては、地上何メートルとか、そう言う数字を 言ってくれると思っていたが、相手は生け垣の精霊。
そんな事を期待するだけ無駄な事。
「空………かぁ……」
(見る分には良いけど……)
空を見ながら暗い気分になる。
空を飛ぶと言うん事は、上へ行くんだから降りる時は……。
高い所へ上ると勝手に膝から力が抜けて、フニャフニャになった足は手摺がないと立っていられなくなる。 一番の問題は 空につまらな掴まる物がないことだ。
『どうした? 』
「高いところが苦手なんです」
『はっ、はっ、妖精のくせに変な事を言う』
(そんなこと言われても、なりたての妖精には無理だ)
でも、そう言ってもられない。あの子を助けに行かなくちゃ。大丈夫。大丈夫。私は出来る。今飛び立とうとする私を生け垣の精が止める。
『夜は危険だから飛ばない方がいい』
その言葉にクスリと笑う。大人は、精霊も人間も変わらない。
「分かりました」
気遣ってくれて、ありがとうと会釈をする。
正直高いところは行きたくない。
でも、ここで愚図愚図していたら日が暮れてしまう。
それまでに何としてもアルフォンの家に着かなくちゃ。
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