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追駆
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アルフォンは屋敷に着く前に、フィアナと良好な関係を築きたかった。混乱に乗じてフィアナと結婚したと言う自覚はある。だからこそ、自分が不誠実な男では無いと伝えたかったし、信じて欲しかった。
「フィアナ」
名前を呼ばれて顔を向けると花婿が真剣な顔をしている。
(何か伝えたい事でもあるのだろうか?)
厳しい光を湛えた花婿の瞳に、落ち着いていたはずの心臓が騒ぎ出した。
この瞳は危険だ。
そう思っていると、花婿が徐に帽子を取ると私に向かって深々と頭を下げた。
「私と結婚してくれて有難う。ちゃんと男……夫としての責任はとる」
「あっ、いえ」
正直、花婿が謝ったことに驚いた。
このまま有耶無耶にしてしまうのかと思っていたけど、ちゃんと私のことを考えていてくれてたんだ。
「改めて自己紹介する。私の名前はアルフォン・ローウエル。アルと呼んでくれ」
アルフォンと言うんだ。結婚証明書にサインしたけど、花婿の名前は見なかった。
晴れやかな顔で私を見ていたが、次に喋り出したときには、打って変わって
顔を曇らせた。
「その………まぁ……なんて言うか……まさか土壇場で花嫁が代わるとは思わなかった」
アルが、言いにくそうに言葉をつむぐ。
「……予想外の事でフィアナも驚いただろう?」
「はい」
それでも話を続けた。
そのことが、心を温かくしてくる。
もちろん。驚いた。いくらドレスに選ばれたと言っても、初対面の相手と結婚したんだもの。
アルも同じ。そう思っていたが、当の本人は平気そうで意外な気がした。
きっと無理しているのだ。
だけど……結婚式の話をしてもオーラの色が変わらない。
オーラは嘘をつかない。細かい感情を拾うのは難しいけど、だいたいの気持ちなら解る。そのお陰で酷いめに遭って来なかった。
(ビビアンのこと怒ってないんだろうか?)
でも、ビビアンが逃げ出した事を考えると結婚を嫌がらせそうだ。
また、逃げられたらアルは、立ち直れないかも。
(正直者だし……)
その事を考えると心配だ。
これ以上アルに傷付いて欲しくない。
「あの……本当に私と結婚して良かったんですか? 」
「フィアナは?」
確認しようと切り出したのに、逆に聞かれて困惑する。
私は、ビビアンが来たら元の生活に戻れるとは言えないし……。
何と答えようかと考えているとアルが苦笑いしながら先に答えた。
「私は良かったと思っている。だから、フィアナにもそう思ってもらえるよう努力すると約束する」
アルの真摯な言葉にフィアナは心打たれた。私と仲良く為るために努力を惜しまないと言ってくれた。
フィアナはアルの顔を見つめながら、私を不安にさせたり、安心させたり、不思議な人だと思った。今まで、こんな人に会ったこと無い。
この人ならビビアンが来るまで面倒を見てくれそうだ。
(だけど……)
フィアナは不安から唇を噛む。
体は人間になったし、その生活を見たことはある。
だけど、よく知らないから、何も知らないと呆れられるかも。
チラリと花婿を盗み見すると、目が合った。慌てて取り繕うように微笑むと相手も微笑む。
(………)
花婿に迷惑をかけるかも知れないけど、きっと手助けしてくれる。
新生活には期待は無くて、心配ばかり。
(ううん。きっと大丈夫)
弱気になりそうな自分を励ます。
「しかし、ビビアンは、何処へ行ったんだ? フィアナは聞いてないかい」
「えっと……私もよくは知らないの」
首を捻るアルを見て、こちらへ一生懸命飛んで来ようとしていたビビアンの姿を思い出した。手を振っていたから私を追いかけてくるはずだ。
多分……。
本当に私を探しに来てくれるか心配だけど、彼女が元に姿に戻る為にも私が必要だし。
アルの家で待ち続ければ、きっと来てくれる。だけど、何時来るんだろう。
今晩? 明日? 明後日? 一言も話が出来なかった事が悔やまれる。
何時か分かれば安心して待ってられるのに……。それまでは花嫁として怪しまれないように振る舞わないと。
「ビビアンも結婚が嫌なら嫌と言えばいいものを、どうして直前になって逃げだしたんだ。全く信じられない」
アルが憤慨して帽子を叩く。
こう言うふうに怒る人たちを何人も見て来た。
(アルもその一人だったのね……)
何回か花嫁だけが教会から走り去るのを見た事がある。
そのまま帰ってこない者もいたし、参列者に連れ戻されていた者もいた。大概そうなるとみんな泣いたり、怒ったりして怖い顔になって、とても嫌な雰囲気になる。
「……… 」
「フィアナはビビアンの友達なのかい?」
「えっ?」
アルが思い悩むような視線を向けて来る。理由が知りたいのは理解出来る。
「教会に居るんだから招待客の一人なんだろう?」
そう言われると知り合いだと、認めるしかない。だけど、正直分からない。
アルに嘘をつくのは申し訳ないけど許してもらうしかない。
「えっ、ええ。まぁ……」
初めて会った人間だ。だから、ビビアンがどうして、そうしたかは知らない。結局、言葉を濁して誤魔化すしかない。
「そうか。何か聞いて無いか? 私への愚痴とか?」
「いえ、別にこれと言って……」
アルが首を捻る。私も首を捻った。確かにあの時ビビビアンは逃げ出そうとしていた。何も無いのに逃げたりしない。
(あっ! そうだ)
フィアナはポンと手を打つ。
「ビビアンが、逃げるとき夢の話をしていました」
ビビアンの 夢って何だろう?
でも、結婚を当日に取りやめするくらいだから、 すごく大事な夢なんだろう。 今度会ったら聞いてみよう。
「夢か……」
アルが、そう呟くと顎に拳を当てて考えて込んむ。その姿を見て首を傾げる。結婚するはずだった人なのに、 どうして知らないの?
「どんな夢か知らないんですか?」
「………………」
そう聞くと困ったように沈黙する。
それが、 答えなんだと目を丸くする。 結婚する相手なのに?
じっと見つめていると、アルが目をそらす。
「フィアナは 知っているのかい?」
「 いいえ、私も知りません」
「そうか……」
フィアナはアルの落胆した様子に疑問を持つ。まるで私なら答えを知っているかのようだ。もしかして、ビビアンのこと何も知らないの?
「アルは、どうしてビビアンと結婚しようとしたんですか?」
「ああ、 それは。キャメロン男爵とは仕事の付き合いでよく知っているんだ。 その人の娘だからいいと思ったんだけど……」
得意そうに話していたアルの顔が曇る。 男爵のことを信用して、その娘だからと結婚相手に決めたのだ。
それが、まさかこんな事になるとは思っていなかったのだろう。
でも、アルも悪い。
運命のドレスの事を先に言っておけば……。ううん。言っても信じてもらえるはずが無い。もはや、人間にとって妖精はお伽噺の住人なのだから。
アルだって、信じなかったはずだ。
「どうして仲良くしようと思わなかったんですか?」
「いや、いや。 結婚してからお互いのことを知ろうと考えたんだ」
私に言ったように、ビビアンに対しても心を砕いていれば、こんな事態にならなかった。慌てたようにアルが両手を突き出して振る。
「そういうのは結婚前にするんじゃないんですか?」
「それは市井の話。貴族は政略結婚が当たり前だから、そんなものだ」
「政略結婚 ?」
そう言えば……猫のミーナが飼い主が貴族だと、自慢してたっけ。
「貴族の場合、結婚相手は親が決める。それが普通だ」
「………」
アルのオーラに乱れはない。つまり、
そう言うものなんだ……。
人間のことは、やっぱり分からないと肩をすくめる。そんな私を見てアルが苦笑いする。
「式の話しは、ここまで」
分かったと頷くと、気を取り直したアルがこの後の予定を教えてくれた。
「この後パーティーだから、始まるまで家に戻ったら少し休むと良い」
「パーティー?」
一度体験したいと思っていた。
夏の天気の良い日に教会の庭でパーティーが行われているのを見た事がある。美味しい食事、美味しいワイン(飲んだことも食べたこともないが)生演奏にダンス、皆何時も楽しそうに歌い踊り、笑い、手拍子を叩いて囃し立て賑やかで楽しげだった。
「そうだ。結婚披露パーティーがある」
「凄い!」
フィアナは思わず身を乗り出して手を叩いて喜ぶと、アルが面白がる。
「パーティーは好きか?」
フィアナはコクコクと何度も頷く。
楽しげな雰囲気に誘われて、自分も葉っぱをパートナーに、くるくると真似して踊ったことがある。
それに参加できるなんて最高だ。想像しただけで口元が綻ぶ。
「ええ、楽しくて賑やかなのが好き。とっても楽しそうなんですもの。楽しみだわ」
「それはよかった」
アルが、にっこりと微笑むので自分もにっこりと笑い返した。
アルフォンはシートに深く身を沈めて、楽しそうな表情でフィアナがあれやこれやと思いを馳せているその姿を見ながら目を細めた。
「フィアナ」
名前を呼ばれて顔を向けると花婿が真剣な顔をしている。
(何か伝えたい事でもあるのだろうか?)
厳しい光を湛えた花婿の瞳に、落ち着いていたはずの心臓が騒ぎ出した。
この瞳は危険だ。
そう思っていると、花婿が徐に帽子を取ると私に向かって深々と頭を下げた。
「私と結婚してくれて有難う。ちゃんと男……夫としての責任はとる」
「あっ、いえ」
正直、花婿が謝ったことに驚いた。
このまま有耶無耶にしてしまうのかと思っていたけど、ちゃんと私のことを考えていてくれてたんだ。
「改めて自己紹介する。私の名前はアルフォン・ローウエル。アルと呼んでくれ」
アルフォンと言うんだ。結婚証明書にサインしたけど、花婿の名前は見なかった。
晴れやかな顔で私を見ていたが、次に喋り出したときには、打って変わって
顔を曇らせた。
「その………まぁ……なんて言うか……まさか土壇場で花嫁が代わるとは思わなかった」
アルが、言いにくそうに言葉をつむぐ。
「……予想外の事でフィアナも驚いただろう?」
「はい」
それでも話を続けた。
そのことが、心を温かくしてくる。
もちろん。驚いた。いくらドレスに選ばれたと言っても、初対面の相手と結婚したんだもの。
アルも同じ。そう思っていたが、当の本人は平気そうで意外な気がした。
きっと無理しているのだ。
だけど……結婚式の話をしてもオーラの色が変わらない。
オーラは嘘をつかない。細かい感情を拾うのは難しいけど、だいたいの気持ちなら解る。そのお陰で酷いめに遭って来なかった。
(ビビアンのこと怒ってないんだろうか?)
でも、ビビアンが逃げ出した事を考えると結婚を嫌がらせそうだ。
また、逃げられたらアルは、立ち直れないかも。
(正直者だし……)
その事を考えると心配だ。
これ以上アルに傷付いて欲しくない。
「あの……本当に私と結婚して良かったんですか? 」
「フィアナは?」
確認しようと切り出したのに、逆に聞かれて困惑する。
私は、ビビアンが来たら元の生活に戻れるとは言えないし……。
何と答えようかと考えているとアルが苦笑いしながら先に答えた。
「私は良かったと思っている。だから、フィアナにもそう思ってもらえるよう努力すると約束する」
アルの真摯な言葉にフィアナは心打たれた。私と仲良く為るために努力を惜しまないと言ってくれた。
フィアナはアルの顔を見つめながら、私を不安にさせたり、安心させたり、不思議な人だと思った。今まで、こんな人に会ったこと無い。
この人ならビビアンが来るまで面倒を見てくれそうだ。
(だけど……)
フィアナは不安から唇を噛む。
体は人間になったし、その生活を見たことはある。
だけど、よく知らないから、何も知らないと呆れられるかも。
チラリと花婿を盗み見すると、目が合った。慌てて取り繕うように微笑むと相手も微笑む。
(………)
花婿に迷惑をかけるかも知れないけど、きっと手助けしてくれる。
新生活には期待は無くて、心配ばかり。
(ううん。きっと大丈夫)
弱気になりそうな自分を励ます。
「しかし、ビビアンは、何処へ行ったんだ? フィアナは聞いてないかい」
「えっと……私もよくは知らないの」
首を捻るアルを見て、こちらへ一生懸命飛んで来ようとしていたビビアンの姿を思い出した。手を振っていたから私を追いかけてくるはずだ。
多分……。
本当に私を探しに来てくれるか心配だけど、彼女が元に姿に戻る為にも私が必要だし。
アルの家で待ち続ければ、きっと来てくれる。だけど、何時来るんだろう。
今晩? 明日? 明後日? 一言も話が出来なかった事が悔やまれる。
何時か分かれば安心して待ってられるのに……。それまでは花嫁として怪しまれないように振る舞わないと。
「ビビアンも結婚が嫌なら嫌と言えばいいものを、どうして直前になって逃げだしたんだ。全く信じられない」
アルが憤慨して帽子を叩く。
こう言うふうに怒る人たちを何人も見て来た。
(アルもその一人だったのね……)
何回か花嫁だけが教会から走り去るのを見た事がある。
そのまま帰ってこない者もいたし、参列者に連れ戻されていた者もいた。大概そうなるとみんな泣いたり、怒ったりして怖い顔になって、とても嫌な雰囲気になる。
「……… 」
「フィアナはビビアンの友達なのかい?」
「えっ?」
アルが思い悩むような視線を向けて来る。理由が知りたいのは理解出来る。
「教会に居るんだから招待客の一人なんだろう?」
そう言われると知り合いだと、認めるしかない。だけど、正直分からない。
アルに嘘をつくのは申し訳ないけど許してもらうしかない。
「えっ、ええ。まぁ……」
初めて会った人間だ。だから、ビビアンがどうして、そうしたかは知らない。結局、言葉を濁して誤魔化すしかない。
「そうか。何か聞いて無いか? 私への愚痴とか?」
「いえ、別にこれと言って……」
アルが首を捻る。私も首を捻った。確かにあの時ビビビアンは逃げ出そうとしていた。何も無いのに逃げたりしない。
(あっ! そうだ)
フィアナはポンと手を打つ。
「ビビアンが、逃げるとき夢の話をしていました」
ビビアンの 夢って何だろう?
でも、結婚を当日に取りやめするくらいだから、 すごく大事な夢なんだろう。 今度会ったら聞いてみよう。
「夢か……」
アルが、そう呟くと顎に拳を当てて考えて込んむ。その姿を見て首を傾げる。結婚するはずだった人なのに、 どうして知らないの?
「どんな夢か知らないんですか?」
「………………」
そう聞くと困ったように沈黙する。
それが、 答えなんだと目を丸くする。 結婚する相手なのに?
じっと見つめていると、アルが目をそらす。
「フィアナは 知っているのかい?」
「 いいえ、私も知りません」
「そうか……」
フィアナはアルの落胆した様子に疑問を持つ。まるで私なら答えを知っているかのようだ。もしかして、ビビアンのこと何も知らないの?
「アルは、どうしてビビアンと結婚しようとしたんですか?」
「ああ、 それは。キャメロン男爵とは仕事の付き合いでよく知っているんだ。 その人の娘だからいいと思ったんだけど……」
得意そうに話していたアルの顔が曇る。 男爵のことを信用して、その娘だからと結婚相手に決めたのだ。
それが、まさかこんな事になるとは思っていなかったのだろう。
でも、アルも悪い。
運命のドレスの事を先に言っておけば……。ううん。言っても信じてもらえるはずが無い。もはや、人間にとって妖精はお伽噺の住人なのだから。
アルだって、信じなかったはずだ。
「どうして仲良くしようと思わなかったんですか?」
「いや、いや。 結婚してからお互いのことを知ろうと考えたんだ」
私に言ったように、ビビアンに対しても心を砕いていれば、こんな事態にならなかった。慌てたようにアルが両手を突き出して振る。
「そういうのは結婚前にするんじゃないんですか?」
「それは市井の話。貴族は政略結婚が当たり前だから、そんなものだ」
「政略結婚 ?」
そう言えば……猫のミーナが飼い主が貴族だと、自慢してたっけ。
「貴族の場合、結婚相手は親が決める。それが普通だ」
「………」
アルのオーラに乱れはない。つまり、
そう言うものなんだ……。
人間のことは、やっぱり分からないと肩をすくめる。そんな私を見てアルが苦笑いする。
「式の話しは、ここまで」
分かったと頷くと、気を取り直したアルがこの後の予定を教えてくれた。
「この後パーティーだから、始まるまで家に戻ったら少し休むと良い」
「パーティー?」
一度体験したいと思っていた。
夏の天気の良い日に教会の庭でパーティーが行われているのを見た事がある。美味しい食事、美味しいワイン(飲んだことも食べたこともないが)生演奏にダンス、皆何時も楽しそうに歌い踊り、笑い、手拍子を叩いて囃し立て賑やかで楽しげだった。
「そうだ。結婚披露パーティーがある」
「凄い!」
フィアナは思わず身を乗り出して手を叩いて喜ぶと、アルが面白がる。
「パーティーは好きか?」
フィアナはコクコクと何度も頷く。
楽しげな雰囲気に誘われて、自分も葉っぱをパートナーに、くるくると真似して踊ったことがある。
それに参加できるなんて最高だ。想像しただけで口元が綻ぶ。
「ええ、楽しくて賑やかなのが好き。とっても楽しそうなんですもの。楽しみだわ」
「それはよかった」
アルが、にっこりと微笑むので自分もにっこりと笑い返した。
アルフォンはシートに深く身を沈めて、楽しそうな表情でフィアナがあれやこれやと思いを馳せているその姿を見ながら目を細めた。
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