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誤想

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ビビアンが妖精になったと証明出来ないフィアナは、参列者たちに責められ身の置き場がなかった。すると、そこへ、花婿が良い方法があるので、手伝ってくれないかと言ってきた。

二つ返事でオッケーしたフィアナは、どんな方法だろうとワクワクさながら、花婿の話を聞こうと待っていた。しかし、花婿は鳩か豆鉄砲を食ったようにキョトンとしている。
聞こえなかったのかな?
「私、手伝いますよ」
念のため、もう一度言う。すると、花婿が目を瞬かせる。
「えっ、あっ、ちょっと待っててくれ、考えをまとめるから」
「はい。待ちます」
花婿がそう言うと拳を口に当ててぶつぶつ言い出す。
もしかして考えてなかったの?しっかりした人だと思ったけど違ったみたい。任せて大丈夫かな?
どんな内容かと聞き耳をたてる。
「優しく………………………………」
(優しく?)
難しいことを頼みたいんだろうか?
あっ!でも私、人間じゃないから知らないことも多い。
知ってる事だと良いけど。

「……………興味を引く…………」
(興味?)
心配になって花婿を盗み見見る。
さっきと違って酷く考え込んでいる。まるで、教会にある時計台のおじいさんだ。歳を取っているせいか思い出すのに時間がかかる。その時と同じで他に人の声が耳に入ってない。こう言うときは 気長に待つしかない。
「…………………………………………」
「………」
「…………………………………………」
「………」
フィアナは大人しく言い出すのを待った。しかし、それにしても長い。

「否………………………………………」
「あの……」
待ちきれずに声を掛けると、花婿が待てと言うように片手を上げて黙らせる。その代わり、私の顔を凝視している。余りにも強い視線に穴が開くのではないかと思うほどだ。何で黙って見てるの?
真剣と言うより、獲物を見つけた動物の視線に近い。その視線に思わず自分を抱きしめた。何を考えているか分からない。それでも、約束したから待つしかない。
「……………………同情を…………」
(同情?)
途切れ途切れにしか聞こえない。
諦めたフィアナは、手持ち無沙汰さに周りを見てみる。色んな人間が一様に不機嫌そうな顔をしていて、纏う空気がピリピリしている。
こう言う人間の負の感情は好きでは無い。でも、花婿だけは他の人と違うオーラを出している。
それだけでも傍に居る価値はある。
(まだかなぁ~)

何時まで待つのだろうと思っていると、やっと花婿が話しかけて来た。
「君は誰か好……」
「す?」
でも、途中で止めてしまった。
フィアナは怪訝な顔で花婿を見る。
すると、花婿が私を避けるようにサッと横を向いて、また何か独り言を言っている。
「否、ここは聞かない方が良いだろう。……下手に聞いて……過去の…恋愛…など聞かさ……」
「何が良いんですか?」
「何でも無い。こちらの話だ」
「………」
何も話してくれないから、のけ者にされた気分になる。手伝ってくれないかと言ったのに、気が変わったの?
どうなんだろうと花婿の様子を伺う。
でも、さっきまで怖い顔だったのに、今は楽しそうな顔をしている。表情がガラリと変わって雰囲気がとても明るい。
花婿がこちらを向くと大きく頷く。
それを見てフィアナはパッと笑顔になる。
「それじゃあ、説明するよ」
「はい」
やっと、お手伝い出来る。早く話を聞かさて欲しくてコクコクと頷くと花婿が笑う。

「私の花嫁に、なって欲しい」
「えっ?はっ?何を言ってるんですか!」
お手伝いと言っていたのに。花嫁?無理だと激しく首を振って否定する。
「私はビビアンじゃありせん」
本当の花嫁でもないのに結婚したら、横取りしたみたいになる。
結婚する寸前だったのに。そんな簡単に気持ちを切り替えれるのもの?
(急にどうして?)
花嫁が逃げたから、やけになったの?
「それは、知っている。私は、フィアナに言っている」
「………」
「この場合、入れ替わった事が重要なんだ」
はて?何を言いたいんだろう。
さっきから、色んな言葉を耳にしたが、どれも意味が分からない。
「どう言う事ですか?」
「大事なのは君が、そのドレスを着ている事だ」
「へっ?」
(ドレスって、ただの服でしょ?]
真面目な顔をしているから、本当の事だろう。それにしても……。
花婿にとって、このドレスはどう言う意味のあるのだろう。

「そのドレスは特別なドレスだ。言い換えるなら運命のドレスだ」
「運命の……ドレス……」
そうだと花婿が頷く。フィアナは、その続きが聞きたくて ごくりと喉を鳴らす。どんな、いわれがあるのだろう。
知りたくてたまらない私に向かって花婿が説明する。
「ああ、そのドレスは曾祖母の代から我が家に嫁いで来た花嫁たちが着たドレスなんだ」
「まぁ、そんなに由緒正しい物なんですね」
曾祖母。人間の寿命を考えると60年位前の物だ。
(やっぱり、今どきの物では無いと思ったわ)
自分の見立てが合っていたので気分が良い。
「そして、そのドレスは本当の花嫁しか着る事が出来ない。だから、運命のドレスと言われている」
「はぁ……」
本当の花嫁しか?でも、さっきまでビビアンが着ていた。そして、その花嫁は妖精になって逃げた。

まったく理解出来ない。
せっかく、ときめいたのにガッカリだ。嘘をつくなら、もっと、ましな嘘をつけば良いのにと眉をひそめる。
「ドレスが花嫁を選ぶんだ」
「ドレスが!?」
花婿の言葉に驚いてドレスを見る。私たちと同じで精霊が宿っているのだろうか?
「だから、ビビアンからフィアナに入れ替わったんだ。つまり、私の花嫁はフィアナだと言うことだ」
「っ」
花婿の話しに目を見開く。そして同時に自分の身に起こったことを思い出した。
(そう言うことなのね……)
ピタリとピースが嵌まる。私と彼女が入れ替わった原因は、ドレスだったんだ。なるほど、魔法か。それなら納得出来る。

「……だから……その……けっ、結………結婚し…よう…」
凄い。初めて魔法を体験した。フィアナは花婿の両手を掴むと嬉しくて、跳び跳ねる。
「魔法のドレスなんですね」
「えっ?ああ……」
私は妖精なのに何の力も無い。だから、魔法に憧れていた。ドレスが運命の結婚相手を見つけ出すなんてロマンチック。いったい誰が、ドレスに魔法をかけたんだろう……。
(気になるー)
そう言えば、昔お母さんが靴を作る小人が居ると言っていた。じゃあ、これも小人が作ってくれたのかな?
「分かってくれたかな?」
「はい」
貴重な話しをしてくれて感謝しますと、心を込めてニッコリと笑う。
「………」


アルフォンは罪悪感に、苛まれながらも、笑顔を絶やさない。
目をキラキラさせて私を見るフィアナの視線が辛い。しかし、どうしてもフィアナと結婚したい。

*****

ビビアンは泣き出したお父様を見て後悔で胸が押し潰されそうなほど痛む。
(ごめんなさい……)
今すぐ駆け寄って謝りたい。だけど、妖精の体ではままならない。それでも傍に行きたい。
お父様のところへ飛んで行くと、そこへアルフォンがやって来た。いくら見えないとはいえ、気まずくてその場に留まる。

アルフォンが父の肩に手を乗せると
「伯爵。ここは私に任せてビビアンを探しに行って下さい」
そう言って帰るように促す。私が逃げたと言うのに、随分落ち着いている。泣かないまでも、プライドを傷つけられたんだから、父に八つ当たりしても可笑しくないのに……。

父たちが席を立ってもアルフォンの参列者たちは残ったままだ。アルフォンが何を言ったから知らないが揉めている。
(何を言ったんだろう?)
行動を怪しんで目で後を追うと、ウェディングドレスを来たあの娘の所へ戻る。そして、アルフォンが、一方的に話しかけている。その様子に嫌な予感がする。
「まさか……否、でも……」
いくら否定してもアルフォンが彼女を利用しようとしている疑惑が拭いきれない。

*****

「神父さま。続けてください」
花婿がそう言うと私のところ帰って来た。何を続けるの?眉をひそめて花婿を見ていると、晴れやな笑顔で私に手を差しのべる。
「フィアナ」
「………」
なんとなく、その手を掴む事に迷い花婿を見るとニッコリと笑い返された。
「さっ」
その笑顔にドキリとする。そして、もっと見てみたいと思ってしまった。この花婿は何者なの?私をドキドキさせる。フィアナは首を振って心に浮かんだ気持ちを払う。
(どんな人か分からないのに、仲良くなっちゃ駄目)
見知らぬ人間と関わりを持っては駄目だと言われているのに、何も考えずにその手に自分の手を重ねる。

すると、花婿の背後でどよめきが起こる。何かと、そちらを見ると参列者たちが黄色オーラに包まれている。
(好奇心?)
何でそんな気持ちに?何に関心があるのか、訊ねるように花婿を見る。
しかし、花婿は何にも言わずに私の腰を引き寄せてる。
「えっ?なっ、なに?」
突然の事に驚いて身を離して顔を見る。それでも、花婿が前に向かって歩きだす。視線の先にはあるのは祭壇。
「えっ? ちょっと、待って下さい。何処へ行く気なんですか?」
これ以上ついて行きたくないと立ち止まる。教会から出るなら反対方向だ。
不安になって、花婿に聞くと首を傾げて私を見る。
「神父様のところだよ。さっきフィアナが、『分かってくれたかな?』と聞いたら『はい』と返事をしただろう」
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