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説伏
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ウェディングドレスを見ようと教会の中に入ったフィアナだったが、花嫁の逃亡劇に巻き込まれてしまう。
** 説 伏 **
花嫁と正面衝突したその瞬間、真っ白い光線が放たれた。そこまでは覚えいる。
「痛い……」
フィアナは、痛む額を押さえて、よろよろしながら目を開ける。すると、目の前に見た事も無い妖精がいる。
相手の妖精も驚いて自分を見ている。どこの妖精だろう。妖精を見るのは久しぶりだ。是非お友達になりたい。
「何処から来たの?」
仲良くなろうと声を掛けたが、何か違和感を覚える。
同じ妖精なのに小さく見える。私より小さい妖精なのだろうか?
体のサイズを比較しようと自分の体
を見てギョッとした。服が変わってる。ミニドレスだったのにロングドレスになっている。このドレス見覚えのある。
(えっ?……これって……)
ウエディングドレスだ。
どうなってるの?と、小首を傾げる。
ヒントを探していたフィアナは、
目の前の妖精をもう一度見て唖然とする。さっきまでこのドレスを着ていた花嫁だ。彼女が小さいんじゃ無い。私が大きくなったのだ!それに服まで変わっている。
“入れ替わった?”
そんなの、信じられない。
こんな魔法みたいな事が起きるの?
でも、本当だ。ロングドレスを着ている実感がある。彼女は魔法使い?
逃げる為に私と入れ替わった?
でも、その割には目を真ん丸にして私を見つめている。逃げる気配も無い。
(う~ん)
でも、その理由を彼女なら知っているかも知れない。話しかけようしたが、
誰かに凄い勢いで腕を引っ張られてた。
*****
ビビアンは逃げている途中に眩しい何かにぶつかった。その光が消えたと思ったら、目の前に娘が行き成り現れて度肝を抜かれた。凄く大きいまるで巨人。余りの大きさに驚いたが、更に驚く出来事が。
娘の後ろに立っているのはアルフォン。その隣には付添人の……。
ぐるりと見まわしたビビアンは信じられない事実に驚愕する。みんなが巨人になったんじゃない。私が小人になったんだ。
「ははっ」
あり得ない現実に、笑うしかない。
眩暈を感じて、現実逃避するかのように気を失ったフリをしようとしたが、ぱたりと倒れない。
えっ、何故?
後ろを振り向くとトンボの様な細長い白い羽が四枚見える。小人の体に羽?
(どっ、どう言うこと?まっ、まさか妖精になったの?)
追い打ちをかけるような事実に、全身から血の気が引く。
「こんなの望んでない!」
思わず天に向かって文句を言ったが、 はたと思い出す。
(そうだ。祈った……)
このままじゃ逃げきれない。そう思って、誰でもいいから助けて!と。
そう言ったけど……。 これは予想外だ。でもどうして彼女はここに?招待客の中にいない。こんな美人なら忘れるはずない。その理由を聞こうとしたのに、それより先にアルフォンが娘の腕を掴んで捕まえたと腕の中に納める。
「ちょっと、私が先よ」
割り込みしてきたアルフォンに文句を言おうと近づこうとしたが、何故か逆にどんどん離れていく。
(えっ?どうして?いったいどうなっているの?)
自分がどうして、後ろへ飛ばされているのかも、止める事が出来ないのかも、何もかも理解出来ない。
じっとしていても動く。泳ぐみたいに両手を動かして流れに逆らっても、全く進まない 。それどころが後ろへ進んでいく。何故?どうして?なんで ?疑問だらけの連続にパニックになる。
「誰か!助けてー!」
しかし、なす術なく、流れに身を任せるしかない。
*****
「えっ?」
気づいたときには見知らぬ男の人の腕の中に居た。風の悪戯かベールが、ふわりと持ち上がって相手の灰色の瞳とぶつかる。
フィアナは目を瞬かせながら、その瞳を覗き込む。男の人も驚いているらしく金色の虹彩がハッキリと見て取れる。男の人は、かすかにウエーブがかかった黒い髪に目鼻立ちのはっきりした顔立ちをしている。背も高く、上からのしかかる様に自分と目を合わせている。
(綺麗だ……)
私は妖精だから、人間を美しいと思わないのに……。
どうしてか目の前の男の人の瞳は美しいと感じていた。
(この瞳、何処かで見たことがある。何処で、見たんだろう?)
フィアナは男の人と見つめ合ったまま固まっていた。人間に触れるのも、異性を間近で見るのも初めてで、どうしていいのか分からない。
「きっ、きっ……君は誰だ?」
先に我に返った男の人が掠れた声で聞いて来た。熱があるのか耳が赤い。
「わっ、私はフィアナ・ラ・スティルペースです」
「どうして、そのドレスを着ているんだ?」
フィアナは慌てて男の人と離れると、礼儀正しく自己紹介した。それなのに男の人は、自分の名前ではなく疑問を口にする。男の人が、ドレスを顎でしゃくる。
「えっ」
その言葉にドキリとする。
私がドレスを勝手に着たから怒ってるのかも。ううん。泥棒したと思われてるのかも知れない。花嫁から奪った訳では無い。
「ちっ、違うの。これは……」
男の人に、誤解だと両手を振る。
だけど、証拠がない。
いつしか両手が、だらりと下がる。
「ごめんなさい……私も分かりません」
「分からない?」
そうですと頷く。
気付いたら着ていた。自分でもどうしてそうなったか分からない。そう言うって、信じてもらえる自信もない。だけど、どうしてそんな事を気にするんだろう?
(あっ!)
相手の服装を見て花婿だと気付いた。当然、花嫁が別人になってしまったんだもの、さぞショックを受けているだろう。
私が見に来なければ、近くで見ようとしなければ、こんな事には…。
自分が原因の一つだと自覚しているから罪悪感に唇を噛む。
「私の予想ですけど………入れ替わったのではないかと……思います」
申し訳ない気持ちが溢れる。私に出来るのは誠実に対応するだけだ。
「入れ替わった?」
「たぶん……」
確信が無いが、多分当たっている。私がウエディングドレスを着ているのが何よりの証拠だ。それにあの妖精は赤い髪をしていた。魂だけでなく体ごと入れ替わったんだ。
「どうやって、ビビアンと一瞬で入れ替わったんだ?」
「さぁ、それは分かりません」
フィアナが首を捻りながら答えると男の人が怪訝な顔で見つめて来る。視線にいたたまれず、避けるように俯く。
「入れ替わった!」
突然、大きな声と共に赤毛の中年の男が私たちの間に割って入って来た。
びっくりして後ずさりすると、花婿が
自分の背中に隠してくれ庇てくれた。
「伯爵。落ち着いてください」
「落ち着いてなどいられるものか!」
助けてと風の強い日に木にしがみ付くように、フィアナは無意識に花婿の服をギュッと掴む。
「ああ、私のビビアンが……」
赤毛の中年の男が頭を抱えてしまった。青いオーラに包まれている。
きっと、この人は花嫁のお父さんだ。
(どうしよう……私のせいだ)
眼の前の光景に狼狽えていると花婿がクルリと此方を向くと私の両肩を持つ。
「兎に角、今すぐビビアンが何処にいるのか言うんだ。そうすれば、丸く収められる」
「ビビアン?」
初めて聞く名前に小首を傾げていると、花婿がお見通しだと言うようにふんと鼻で笑う。
「ビビアンに頼まれたのだろう」
「頼まれたって何の事ですか?」
そう聞くと花婿のオレンジ色のオーラに紫色が混ざり出した。私に対して苛立ってる。
「何をとぼけている。さっきまで、そのウエディングドレスを着ていた娘だ」
そう言われて、ハッとする。
誰のこと言っているのか分かった。私と入れ替わった娘はビビアンと言う名前らしい。何で気付かなかったんだろう。ちょっと考えれば分かる事だったのに……。
「どうやら思い出したようだな」
「確かに知っていますけど、さっき会ったばかりです」
「さっき?何処で会ったんだ」
花婿が、勢い込んで聞いて来る。
そう言えばあの子は何処に居るんだろう。この教会の何処かに居るはずなんだけどと、辺りを見回す。しかし、姿がない。花婿の機嫌をこれ以上悪くさせたくないのに……。
だけど、これ程、人が居ては見つけるのは難しい。
(どうしよう……)
この状況を説明してくるのはビビアンしか居ないのに。妖精になったと言っても嘘をついているとしか思われない。
(お母さんの所へ行って相談したい。そしたら、良い方法を教えてくれるのに……)
どうしたものかと悩んでいると、花嫁のお父さんが脅迫してきた。
「今すぐ、ビビアンをここに連れて来い。それが出来ないなら、私にも考えがある」
「っ」
(考え?)
ビビアンのお父さんの低い声音に心臓がギュッと締め付けられる。
人間は大人でも子供でも、とくに男は
乱暴だと猫のミーナが言っていた。
殴られるのも叩かれるのも怖い。
暴力を受けたみんなは血を流して泣いていた。
「伯爵。脅してどうするんですか?」
「君は冷静過ぎる。ビビアンが心配じゃないのか!」
「………」
二人が凄い顔で睨みあっている。
(何か言わないと……)
フィアナは必死に何か手がかりは無いかと教会中を見渡していると、壁の所からこちらに向かって飛んできている妖精が見えた。
「居ました!……あそこです」
ビビアンを指さすと、みんなが一斉に壁を見た。だが、直ぐに全員の視線が自分に戻って来る。何で私を見るの?直ぐにその理由が分かった。私の目には羽の輝きまではっきりと見える。でも、人間には見えてない。どうしてこんな重要なこと忘れてたんだろう。
「何を言っている?馬鹿にしているのか!」
「嘘をつくならもっとマシな嘘をつけ」
「ビビアンを何処へやった」
「お願いだから。ビビアンを返して」
「何の恨みがあって、こんな事をするのだ」
参列者たちに怒鳴られて縮こまる。
皆が私に敵意の視線を向けて来る。怖い。怖い。人間たちの赤黒い色オーラに竦み上がる。
「ちっ……違う…のに……」
(きっと私のこと、嘘つきだと思ってる……)
ちゃんと証明することが出来れば……。でも、見えないモノを信じろとは言えない。どうすることも出来ないことがもどかしい。
すると、ビビアンのお父さんが泣き出して更に状況が悪くなる。
「ビビアン。私の可愛いビビアン。怒らないから出てきておくれ」
慰めようと周りの人間たちが、どんどん集まって来る。
一人だけで良いから私を信じて欲しい。誰も味方が居ない。
その事が悲しくて、悲しくて仕方ない。フィアナは、いたたまれず、みんなの視線を避けるように俯いて背を向ける。
(お母さん……会いたいよ)
誰かが私の肩をトントンと叩く。面を上げると花婿が頭を下げた。
「済まない。みんな悪気は無いんだ。ビビアンが煙みたいに消えたから恐れているだけなんだ」
「いいんです。分かっていますから」
気持ちは分かると首を振る。すると、花婿が騒ぎの輪から私を連れ出す。
「二人ともビビアンに振り回されてしまったな」
「そうですね。ても、私よりあなたの方が大変です」
自嘲気味に花婿がそう言うと私に優しく笑いかける。自分だって酷い目に遭ったのに、見ず知らずの私にも気遣ってくれる。その気持ちが嬉しい。
そう言えば、花嫁が逃げたのに花嫁の父と違って落ち着いている。オーラの色も黄緑色とピンクのマーブル模様だ。哀しみの色を表す色が少しも混じってない。悲しくないのだろうか?
「まあ、この後の収拾を考えると頭が痛いよ」
やれやれと花婿が肩を竦める。確かにと同情すると、花婿が顔を近づけて、内緒話したいのか小声で話しかけて来た。
「フィアナ。どうだろう。事態を収拾する良い方法があるんだけど、手伝ってくれないかい?」
う~ん。どんな事を手伝だえばいいんだろう?想像もつかない。だけど、早くお母さんの所へ戻りたいし……。オーラの色は綺麗で私に好意的だ。だったら……。
「はい。お手伝いします」
「えっ?」
アルフォンは、フィアナの即答に面食らう。どう言いくるめようかと、考えていた身としては、素直すぎるフィアナの反応に良心が痛む。
しかし、これはチャンス。
** 説 伏 **
花嫁と正面衝突したその瞬間、真っ白い光線が放たれた。そこまでは覚えいる。
「痛い……」
フィアナは、痛む額を押さえて、よろよろしながら目を開ける。すると、目の前に見た事も無い妖精がいる。
相手の妖精も驚いて自分を見ている。どこの妖精だろう。妖精を見るのは久しぶりだ。是非お友達になりたい。
「何処から来たの?」
仲良くなろうと声を掛けたが、何か違和感を覚える。
同じ妖精なのに小さく見える。私より小さい妖精なのだろうか?
体のサイズを比較しようと自分の体
を見てギョッとした。服が変わってる。ミニドレスだったのにロングドレスになっている。このドレス見覚えのある。
(えっ?……これって……)
ウエディングドレスだ。
どうなってるの?と、小首を傾げる。
ヒントを探していたフィアナは、
目の前の妖精をもう一度見て唖然とする。さっきまでこのドレスを着ていた花嫁だ。彼女が小さいんじゃ無い。私が大きくなったのだ!それに服まで変わっている。
“入れ替わった?”
そんなの、信じられない。
こんな魔法みたいな事が起きるの?
でも、本当だ。ロングドレスを着ている実感がある。彼女は魔法使い?
逃げる為に私と入れ替わった?
でも、その割には目を真ん丸にして私を見つめている。逃げる気配も無い。
(う~ん)
でも、その理由を彼女なら知っているかも知れない。話しかけようしたが、
誰かに凄い勢いで腕を引っ張られてた。
*****
ビビアンは逃げている途中に眩しい何かにぶつかった。その光が消えたと思ったら、目の前に娘が行き成り現れて度肝を抜かれた。凄く大きいまるで巨人。余りの大きさに驚いたが、更に驚く出来事が。
娘の後ろに立っているのはアルフォン。その隣には付添人の……。
ぐるりと見まわしたビビアンは信じられない事実に驚愕する。みんなが巨人になったんじゃない。私が小人になったんだ。
「ははっ」
あり得ない現実に、笑うしかない。
眩暈を感じて、現実逃避するかのように気を失ったフリをしようとしたが、ぱたりと倒れない。
えっ、何故?
後ろを振り向くとトンボの様な細長い白い羽が四枚見える。小人の体に羽?
(どっ、どう言うこと?まっ、まさか妖精になったの?)
追い打ちをかけるような事実に、全身から血の気が引く。
「こんなの望んでない!」
思わず天に向かって文句を言ったが、 はたと思い出す。
(そうだ。祈った……)
このままじゃ逃げきれない。そう思って、誰でもいいから助けて!と。
そう言ったけど……。 これは予想外だ。でもどうして彼女はここに?招待客の中にいない。こんな美人なら忘れるはずない。その理由を聞こうとしたのに、それより先にアルフォンが娘の腕を掴んで捕まえたと腕の中に納める。
「ちょっと、私が先よ」
割り込みしてきたアルフォンに文句を言おうと近づこうとしたが、何故か逆にどんどん離れていく。
(えっ?どうして?いったいどうなっているの?)
自分がどうして、後ろへ飛ばされているのかも、止める事が出来ないのかも、何もかも理解出来ない。
じっとしていても動く。泳ぐみたいに両手を動かして流れに逆らっても、全く進まない 。それどころが後ろへ進んでいく。何故?どうして?なんで ?疑問だらけの連続にパニックになる。
「誰か!助けてー!」
しかし、なす術なく、流れに身を任せるしかない。
*****
「えっ?」
気づいたときには見知らぬ男の人の腕の中に居た。風の悪戯かベールが、ふわりと持ち上がって相手の灰色の瞳とぶつかる。
フィアナは目を瞬かせながら、その瞳を覗き込む。男の人も驚いているらしく金色の虹彩がハッキリと見て取れる。男の人は、かすかにウエーブがかかった黒い髪に目鼻立ちのはっきりした顔立ちをしている。背も高く、上からのしかかる様に自分と目を合わせている。
(綺麗だ……)
私は妖精だから、人間を美しいと思わないのに……。
どうしてか目の前の男の人の瞳は美しいと感じていた。
(この瞳、何処かで見たことがある。何処で、見たんだろう?)
フィアナは男の人と見つめ合ったまま固まっていた。人間に触れるのも、異性を間近で見るのも初めてで、どうしていいのか分からない。
「きっ、きっ……君は誰だ?」
先に我に返った男の人が掠れた声で聞いて来た。熱があるのか耳が赤い。
「わっ、私はフィアナ・ラ・スティルペースです」
「どうして、そのドレスを着ているんだ?」
フィアナは慌てて男の人と離れると、礼儀正しく自己紹介した。それなのに男の人は、自分の名前ではなく疑問を口にする。男の人が、ドレスを顎でしゃくる。
「えっ」
その言葉にドキリとする。
私がドレスを勝手に着たから怒ってるのかも。ううん。泥棒したと思われてるのかも知れない。花嫁から奪った訳では無い。
「ちっ、違うの。これは……」
男の人に、誤解だと両手を振る。
だけど、証拠がない。
いつしか両手が、だらりと下がる。
「ごめんなさい……私も分かりません」
「分からない?」
そうですと頷く。
気付いたら着ていた。自分でもどうしてそうなったか分からない。そう言うって、信じてもらえる自信もない。だけど、どうしてそんな事を気にするんだろう?
(あっ!)
相手の服装を見て花婿だと気付いた。当然、花嫁が別人になってしまったんだもの、さぞショックを受けているだろう。
私が見に来なければ、近くで見ようとしなければ、こんな事には…。
自分が原因の一つだと自覚しているから罪悪感に唇を噛む。
「私の予想ですけど………入れ替わったのではないかと……思います」
申し訳ない気持ちが溢れる。私に出来るのは誠実に対応するだけだ。
「入れ替わった?」
「たぶん……」
確信が無いが、多分当たっている。私がウエディングドレスを着ているのが何よりの証拠だ。それにあの妖精は赤い髪をしていた。魂だけでなく体ごと入れ替わったんだ。
「どうやって、ビビアンと一瞬で入れ替わったんだ?」
「さぁ、それは分かりません」
フィアナが首を捻りながら答えると男の人が怪訝な顔で見つめて来る。視線にいたたまれず、避けるように俯く。
「入れ替わった!」
突然、大きな声と共に赤毛の中年の男が私たちの間に割って入って来た。
びっくりして後ずさりすると、花婿が
自分の背中に隠してくれ庇てくれた。
「伯爵。落ち着いてください」
「落ち着いてなどいられるものか!」
助けてと風の強い日に木にしがみ付くように、フィアナは無意識に花婿の服をギュッと掴む。
「ああ、私のビビアンが……」
赤毛の中年の男が頭を抱えてしまった。青いオーラに包まれている。
きっと、この人は花嫁のお父さんだ。
(どうしよう……私のせいだ)
眼の前の光景に狼狽えていると花婿がクルリと此方を向くと私の両肩を持つ。
「兎に角、今すぐビビアンが何処にいるのか言うんだ。そうすれば、丸く収められる」
「ビビアン?」
初めて聞く名前に小首を傾げていると、花婿がお見通しだと言うようにふんと鼻で笑う。
「ビビアンに頼まれたのだろう」
「頼まれたって何の事ですか?」
そう聞くと花婿のオレンジ色のオーラに紫色が混ざり出した。私に対して苛立ってる。
「何をとぼけている。さっきまで、そのウエディングドレスを着ていた娘だ」
そう言われて、ハッとする。
誰のこと言っているのか分かった。私と入れ替わった娘はビビアンと言う名前らしい。何で気付かなかったんだろう。ちょっと考えれば分かる事だったのに……。
「どうやら思い出したようだな」
「確かに知っていますけど、さっき会ったばかりです」
「さっき?何処で会ったんだ」
花婿が、勢い込んで聞いて来る。
そう言えばあの子は何処に居るんだろう。この教会の何処かに居るはずなんだけどと、辺りを見回す。しかし、姿がない。花婿の機嫌をこれ以上悪くさせたくないのに……。
だけど、これ程、人が居ては見つけるのは難しい。
(どうしよう……)
この状況を説明してくるのはビビアンしか居ないのに。妖精になったと言っても嘘をついているとしか思われない。
(お母さんの所へ行って相談したい。そしたら、良い方法を教えてくれるのに……)
どうしたものかと悩んでいると、花嫁のお父さんが脅迫してきた。
「今すぐ、ビビアンをここに連れて来い。それが出来ないなら、私にも考えがある」
「っ」
(考え?)
ビビアンのお父さんの低い声音に心臓がギュッと締め付けられる。
人間は大人でも子供でも、とくに男は
乱暴だと猫のミーナが言っていた。
殴られるのも叩かれるのも怖い。
暴力を受けたみんなは血を流して泣いていた。
「伯爵。脅してどうするんですか?」
「君は冷静過ぎる。ビビアンが心配じゃないのか!」
「………」
二人が凄い顔で睨みあっている。
(何か言わないと……)
フィアナは必死に何か手がかりは無いかと教会中を見渡していると、壁の所からこちらに向かって飛んできている妖精が見えた。
「居ました!……あそこです」
ビビアンを指さすと、みんなが一斉に壁を見た。だが、直ぐに全員の視線が自分に戻って来る。何で私を見るの?直ぐにその理由が分かった。私の目には羽の輝きまではっきりと見える。でも、人間には見えてない。どうしてこんな重要なこと忘れてたんだろう。
「何を言っている?馬鹿にしているのか!」
「嘘をつくならもっとマシな嘘をつけ」
「ビビアンを何処へやった」
「お願いだから。ビビアンを返して」
「何の恨みがあって、こんな事をするのだ」
参列者たちに怒鳴られて縮こまる。
皆が私に敵意の視線を向けて来る。怖い。怖い。人間たちの赤黒い色オーラに竦み上がる。
「ちっ……違う…のに……」
(きっと私のこと、嘘つきだと思ってる……)
ちゃんと証明することが出来れば……。でも、見えないモノを信じろとは言えない。どうすることも出来ないことがもどかしい。
すると、ビビアンのお父さんが泣き出して更に状況が悪くなる。
「ビビアン。私の可愛いビビアン。怒らないから出てきておくれ」
慰めようと周りの人間たちが、どんどん集まって来る。
一人だけで良いから私を信じて欲しい。誰も味方が居ない。
その事が悲しくて、悲しくて仕方ない。フィアナは、いたたまれず、みんなの視線を避けるように俯いて背を向ける。
(お母さん……会いたいよ)
誰かが私の肩をトントンと叩く。面を上げると花婿が頭を下げた。
「済まない。みんな悪気は無いんだ。ビビアンが煙みたいに消えたから恐れているだけなんだ」
「いいんです。分かっていますから」
気持ちは分かると首を振る。すると、花婿が騒ぎの輪から私を連れ出す。
「二人ともビビアンに振り回されてしまったな」
「そうですね。ても、私よりあなたの方が大変です」
自嘲気味に花婿がそう言うと私に優しく笑いかける。自分だって酷い目に遭ったのに、見ず知らずの私にも気遣ってくれる。その気持ちが嬉しい。
そう言えば、花嫁が逃げたのに花嫁の父と違って落ち着いている。オーラの色も黄緑色とピンクのマーブル模様だ。哀しみの色を表す色が少しも混じってない。悲しくないのだろうか?
「まあ、この後の収拾を考えると頭が痛いよ」
やれやれと花婿が肩を竦める。確かにと同情すると、花婿が顔を近づけて、内緒話したいのか小声で話しかけて来た。
「フィアナ。どうだろう。事態を収拾する良い方法があるんだけど、手伝ってくれないかい?」
う~ん。どんな事を手伝だえばいいんだろう?想像もつかない。だけど、早くお母さんの所へ戻りたいし……。オーラの色は綺麗で私に好意的だ。だったら……。
「はい。お手伝いします」
「えっ?」
アルフォンは、フィアナの即答に面食らう。どう言いくるめようかと、考えていた身としては、素直すぎるフィアナの反応に良心が痛む。
しかし、これはチャンス。
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