私が、良いと言ってくれるので結婚します

あべ鈴峰

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酷い男ほど 頼りになる

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ロアンヌはレグールの家で犯人からの連絡を待っていると、 ちょうど使い
を頼まれた子供がやってきた。
立ち会いと言ったが、別人だと犯人に気づかれては不味いからとを断られた。
仕方なく応接室に戻ると、私に気付いた伯爵が手招きする。
「ロアンヌ紹介しよう。ジムだ。ジムは元々この砦で兵士として働いていたが、戦が終わると引退して 山番としてのんびり気ままに暮らしているんだ。 だが、今回 協力してもらおうと引っ張り出したんだ 」
伯爵自ら紹介した事に驚く。
(とても仲がいいんだ)
伯爵がそう言うと、よく日に焼けた白髪頭の人が振り返る。
(やっぱり、そうだ)

会釈すると、ジムに向かって手を差し出す。
「お久しぶりです」
「そうだな」 
すると伯爵が、がっかりした声を出す。
「何だ。会ったことがあるのか?」
「はい。少し……」
デートを邪魔するなとレグールが追い立ててしまったから、まともに話もしていない。だから 正式に紹介されたとは言えないので 言葉を濁す。
握手したジムの手は、引退してると言うが 固くタコの感触がある。
(まるで、現役の兵士だ)
「 ご協力感謝します 」
 どんな理由で 呼ばれたのかは、謎だけど、レグールも伯爵も 信頼を寄せている。


伯爵が居なくなるとジムが隣に並ぶ。
「色々あったようだが、元気にしてたか?」
「ははっ、おかげさまで」
例のリストのことを言ってるのだろう。ジムのところまで噂が広がっているなんて……。
これ以上聞かれないように愛想笑いで誤魔化した。しかし、グイッと顔を近づけてきた。
「レグールのことは生まれた時から知っている。知りたいことがあるなら、何でも聞け。おねしょの回数だった答えられるぞ」
( おねしょって……)
とんでもない発言に驚く。
「そんな長い付き合いなんですか?」
「ああ、元はレグールの父親の従者
だったんだ」
従者は、 幼い頃から面倒見てくれる少し年上の者が選ばれる。時に盾になり、時に兄になり、身の回りの世話をしてもらいながら、苦楽を共にして生活する。
「だから、父親の秘密も知ってる」
顎で伯爵を指すと、ニヤリと私を見て笑う。 何か大きな秘密を知っているみたいだ。
「知りたいか?」
「はい」
ロアンヌは 好奇心に負けて 知りたいと頷くと、更にジムが悪い笑みを浮かべる。どんな秘密だろう。
「耳を貸せ」
ジムに 身を寄せると片手で口元を隠しながら教えてくれた。

「紳士を気取っているが、あの男は妻のストーカーだった」
「ストーカー?」
つまり、奥様を追いかけ回していた。
「よく夫人の屋敷に予定を聞きに行かされたんだ。本人は見守っているだけと言っていたが、やってることはストーカーと変わらない」
やれやれと肩を竦める。
 つまり、偶然を装って会いに行ってたんだ 。そんな努力をしていたなんて……。メロメロだったのね。想像するとおかしい。クスクス笑っていると、またジムが耳打ちする。
「血は争えないってことだ」
「 ……… 」
つまり伯爵のお父様もストーカーだったんだ。驚いて目を見張る。
そんな私を見てジムが満足げに笑った。

そこへ、レグールが戻ってきた。
自然とみんなが その周りに集まる。誰もが、その内容が気になる。
レグールの目が私を捉える。にっこりと笑ったが、私の隣にいるジムに気づくと 顔を強張らせた。
レグールがこちらに来る。
「レグール様……」
「ちょっと待ってて」
「 ……… 」
 私では無くジムの腕を掴むと部屋の隅まで引っ張って行って、何やら話し込んでいる。
ジムに背中をバシバシと叩かれている。だけど、レグールは されるがままになっている。何故だろうと首をかしげて見つめる。

 話が終わったのか、二人でこちらに戻って来た。が、レグールはうんざり顔。それに対してジムは満面の笑み。
やはり師弟関係だからなのか、頭が上がらないらしい。
「どうしたんですか?」
それでも内容が気になって声を掛けると首を振って 断られた。
「何でも無い。それより作戦会議だ」
 そうだ。気になるけど、話しは後。
早くクリスを助けなければいけない。頭を切り替える。

*****

テーブルには、この辺りの地図が広げられていて、席に着くと伯爵がレグールに話すように促す。
「どうだ、何か収穫はあったか?」
「はい。手紙を届けに来た子供に聞いたところ、西側の道から馬に乗って来たと言っていました。身なりは普通の格好していたとのことです。顔はよく見てないと言ってました」
「西側で……馬か……」
情報の少なさに伯爵が険しい顔になる。確かに、捜索する方向が分かったと言っても 山を探すんだから そう簡単ではない。
もっと手掛かりが見つかると思ったのに、これだけではクリスを助けに行けない。

既に一泊してる。
いくら誘拐されたとしてもクリスの我慢にも限界がある。
何度も一緒に森に出かけていたけれど、行くと泣き言ばかり言っていた。
" 虫が飛んできた"  "草で擦り傷ができた "  " 靴が泥だらけになった"
どうして、苦手なのについてくる理由がわからない。
「はぁ~」
大丈夫だろうか?
焦りが募っていく。 誘拐犯に我が儘
言ってないと、いいけどと……。
隣にいるディーンを見ると、私と同じように顔を曇らせている。捜索が 行き詰まっている。
そう思っていた。しかし、そうじゃなかった。レグールに焦りは感じられない。いや、余裕さえ感じる。

「私の予想ですが、変装もせずに子供に接触したことから、犯人が態々迂回してきたとは考えにくいです」
バレるはずがないと油断してるんだ。
レグールが地図にチェスの駒を一個一個、置きながら説明を始めた。
「西側にある山小屋は、ここと、ここと、ここと、ここの四か所」
距離的にスペンサー邸に近くても、幹線道路から遠かったり、 間に谷があったり、どの小山も問題がある。
(私だったら……)

「馬で往復しても不審に思われない時間を割り出すと……」
理論立てて自分の推理を話すレグールを尊敬する。
きっと、戦いの実勢経験の違いだ。
戦では相手の行動を予想して、先回りして罠を仕掛けたり、奇襲したりする。
「ここと言う結論になります」
レグールが 一番怪しいと思う小屋を指差す。みんなが地図に置かれたチェスの駒を見る。
 (ここにクリスがいるのね)
しかし、ジムが新しく チェスの駒を
を掴むと
「いいや、こっちだな」
と言って地図に置く。

レグールが怪訝そうな顔でジムを見る。
「そんなところに小屋があったか?」
「 そこは材木置き場だ」
ジムの代わりに伯爵が答えた。
「 材木置き場?!
「知らなくて当然だ。使われるのは1年のうは数ヶ月だから」
材木置き場。聞いただけで粗末な小屋が浮かぶ。服が汚れるのが一番嫌いなクリスタだ。
そんな場所だったら、きっと一睡もできない 。

ジムの反対意見をレグールが顎に手を乗せて精査する。
「確かに、その小屋でも時間的に可能だが、そんな 掘っ立て小屋と言っていいくらい荒れ果てている。そんな所へ伯爵令嬢を連れて行くか?」
確かに ルーカスが送ってきた手紙の内容から 好意があると考えられる。それならば、少しでも良い環境の所へ連れて行くのが普通だ。
「どう考えてもこっちが正しい」
間違っていると、レグールがジムの置いた チェスの駒を払いのける。
それでもジムは 平然としている。
態度を変える様子が無い。その自信はどこから? 根拠を知りたいと質問する。
「どうして、そう思うんですか?」
「昨日の夜。灯りを見た」
「えっ?」
「なっ!」
「はぁ~」
「マジで?」
ジムが、あっけらかんと答えたので、その場に居た全員が驚く。

レグールが 顔を引きつらせてジムを睨んでいる。 自信満々だっただけに、レグールの立場がない。 誰もが気を使って口をつぐむ。 気詰まりな中、ジムだけが してやったりと笑っている。
「このクソ爺。だったら最初から言えよ!」
机にバンと手をつくとジムに詰め寄る。面目丸つぶれと言ったところだろう。可哀想にジムの前ではまるで子供だ。青筋立てて怒るレグールには同情する。
「自信満々で説明したのが馬鹿みたいじゃないか!」
レグールが吠える。
当のジムは全く相手にしていない。
誰だって好きな人の前では恰好良いところを見せたいものだ。それを言った後で、違うと言うなんて、なかなか悪の強そうな人だ。 同情を禁じ得ない。


「うぐっぐっ」
ジムが両手を前で振りながら降参だと私の後ろに隠れた。
「怖い。怖い」
「黙れ!」
それが、怒りを煽る。 顔を真っ赤にして拳を振り上げる。二人にやり取りに目を丸する。
すると そんなレグールに向かって夫人が相手にするなと首を振る。
「レグールいいから、続けなさい」
「 ……… 」
 それでも降ろそうとはしなかった。今にも喧嘩が始まりそうな状態に私とディーンが息を詰める。
伯爵がポンとレグールの肩に手を置く。
「レグール……」
伯爵に窘められて、レグールが振り上げた拳を降ろす。グッと我慢して深呼吸して怒りを抑えている。 伯爵夫妻の様子からも、これが初めてではないのだろう。三人とも被害者らしい。

腹の虫が治まらなくてジムを睨み付けて居たレグールだったが、気を取り直して咳払いをすると話を続けた。
「コホン! なら、こっちに行こう」
「そんなに簡単に決めていいんですか?」
素直にジムの意見を取り入れた事に疑問が湧く。確かに 灯りを見たと言っているが、そこにクリスが居ると決めつけるのは早計だと思う。
「酷い男だが。ジムに限って見間違いと言うことは無い。この山の事は、この男が一番熟知している」
「そうなんですか……」
レグールが言うならそうなんだろう。
だから伯爵もレグールも呼んだんだ。

「身代金の受け渡し時刻は午後3時。
それまで時間があるから、犯人も油断してるはずだ」
「隙を突くんですね」
やっと俺の出番かと、ディーンが意気揚々と話に加わった。
いよいよクリスの救出にむかう。
 (待っててね。今 助けに行くから)



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