私が、良いと言ってくれるので結婚します

あべ鈴峰

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親は何でも知っている

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ディーンは、クリスがロアンヌ様とレグール様の二人が、婚約してないと言い張る根拠が知りたかった。
「貴族の婚約は婚約式が終わってからだ」
「はぁ~」
クリスの意見を聞こうとした俺が馬鹿だった。イライラと頭を掻く。ここまで自分本意だったとは……。
単に、ロアンヌ様とレグール様が交際している事実を受け入れたくないだけだ。
「そんなの、お前の屁理屈だろ」
「そんな事は無い」
如何にも自分は正しいと言う様に、腕組みして何度も頷く。だけど、貴族は噂がたっただけでも、責任をとって結婚しなくちゃいけないんだから、もう手遅れだろう。クリス以外の全員が二人は結婚すると思っているし。

「レグール様とお似合いだと思うけど……」
「何言ってる! ロアンヌに一番似合うのは僕だ。だから一刻も早く、ロアンヌの目を覚まさせないといけないんだ。それが僕の使命なんだ!」
そう言って食ってかかるように、迫ってくる。クリスは何事も自分の都合のいい方に考える癖がある。
「クリス。その使命は自分の為のものだろう」
そう指摘するとクリスが言葉に詰まったものの、それでも自分の考えを変えない気らしい。
「ぐっ…… ディーン。君は誰の味方なんだよ?」
「えっ?」
難しい質問だ。自分の雇主はアルフォード伯爵だ。だから、娘のロアンヌ様の命令も聞く。だが、クリスは親友で、ロアンヌ様の事を好きなのは耳にタコができるほど聞かされている。
どちらか側に付くかは難しい。どちらも大事だし、今の関係を壊したくない。

返事に困っていると、クリスが俺の手を強く両手でギュッと握る。
「僕の味方だよね?」
俺を見るクリスの目は、すたられた仔猫のように頼りなげだ。
「ねっ!」
「んっ……んん……」
念押ししてくるクリスを直視できない。 自然と視線を外すと、その後を追いかけてくる
「だったら、僕に協力してくれるよね!」
この前失敗してたばかりなのに、まだ諦めてないのか?
これ以上、打つ手は無いはずだ。
(………)
ここでキチンと、自分の考えを言って置かないと酷い無茶振りをさせられそうで怖い。

「クリス。人間引き際が……」
「分かってる。皆まで言うな」
話しはじめようと口を開くが、クリスが手を突き出して言葉を遮った。
「僕が一歩出遅れてるのは百も承知だ。だが、逆転出来ないほど遅れてるわけじゃない。だから、どうしてもロアンヌを振り向かせたいんだ」
「………」
多分、クリスの言う振り向かせたいとは、ロアンヌ様に恋愛対象として意識してもらおうという事だろう。
クリスの事をロアンヌ様は男だと認識はしてる。しかし、着せ替えごっこに付き合ってる時点で論外だ。
昔、止めさせようとした事があるけど『ロアンヌが喜ぶなら何でもする』と言っていた。本人は尽くしてるつもりだろうが、それが恋愛対象じゃないと決定づけてると気付いてない。
「クリス………あのな」
諦めろと諭そうとしたが、それを挫くようにクリスが棒切れのような腕を突き上げる。

「だから、諦めない!」
「………」
すっかりヤル気のクリスを見てディーンは、目を伏せる。ロアンヌ様を一番傷つけてるはクリスだ。
(どこに、自分より綺麗な男に傍に居て欲しいと思う)
もう少し顔が不細工だったら、もう少し背が高かったら、もう少し逞しい体をしていたら、もう少し剣さばきが上手かったら、ロアンヌ様の乙女心もときめいただろう。
しかし、どれ一つ持って無い。まさに神の気まぐれとしか言えない。
そんなクリスが哀れでしかない。
(もう、二歩も三歩も遅れていて、勝ち目は限り無くない)
そう忠告したい。
だけど……。見た目や性格のせいで、女々しいと男爵家の爪弾き者だったクリスに、 手を差し伸べたのはロアンヌ様だ。 自分の居場所を見つけたと、思ったんだろう。
だから、その手を離したくない と思ってしまうのは仕方ない。 その気持ちが分かるから、手助けせずにはいられない。
「ほら、ディーンも。おう!」
「………おぅ」
仕方なく小さな声でエールを送って腕を少しだけ上げた。それでも、クリスは満足したらしい。
「そこで、新しい作戦を考えてくれ」
「はっ?」
そう言って俺に期待の目を向ける。しかし、ディーンは丸投げして来たクリスを見て首を振って断る。この前だって無理難題を言って来た。



レグール様の噂を聞いたクリスが、自分に無い物ばかり持っていると、焦って俺に所へ助けてくれと来た。
そして、凄い勢いで質問攻めされた。
「どうやったら筋肉がつくんだ。背は?背はどうしたら高くなる。体重は?体重はどうやって増やせるんだ」
「クリス。待て、待て」
如何やら見た目の男らしさで負けたと勘違いしている。
まぁ、落ち着けと両手を出して宥める。しかし。クリスは止まらない。
「体が無理なら、剣でも何でもいいから、今すぐ強くなれるモノを教えてくれ」
この場合の男らしさは、見た目でも強さでもない。
その姿勢なのに……。たとえ、年下だとしても考え方が大人ならば ロアンヌ様だって男として見るはずだ。
「いいか、俺が言ってるのは」
「説明はいいから。サッサと教えろよ」
ことごとく俺の話を止めたくせに、その態度には閉口する。
一日や二日で体が変わったり、上達したりするなら誰も苦労はしない。
そもそも、クリスに騎士っぽい事は無理だ。剣を振れば筋肉痛。馬に乗れば落馬。弓を引く力も無い。そんな力も体力も根性も無いクリスには、無情だが現実を伝えるしかない。
「クリス今からじゃ武術の方も上手くならない」
「そんな……じゃあ僕にどうしろと言うんだよ!僕には時間が無いのに~」
「………」
頭を抱えて部屋の中を行ったり来たりして困ってる。しかし、放っておく。
また、作戦が失敗したら俺に責任を押し付けて来るに決まっている。

クリスが、何か思いついたのか俺の前に立ち止まる。
「ディーン。騎士道精神だ」
「はぁ?」
「弱き者を助けるんだ」
「っ」
言うに事欠いて、それか?何が、弱き者だ。騎士道で言う弱者は女子供とかだ。健康な男子は対象外だし、恋愛問題なら尚更だ。
「助けろと言われて、誰が好き好んで助けるか!」
怒鳴りつけるとクリスが俺を指さした。
「なら、お前は騎士になれないな」
「なっ」
俺が騎士になりたいのを知ってるから、言いたい放題だ。自分の思うように人を動かそうとするその性格、最悪だ。
「おっ……お前」
何か言い返そうとするが、気持ちばかりが先走って言葉が出てこない。何時もは仔犬みたいに尻尾を振ってすり寄って駆るくせに、時々こうやって噛みついて来る。厄介な犬だ。
「良いから、良いから。ほら、座って、ささっ」
「クッ、お前……」
怒ってる俺に余裕で話しかけて来ると、背中を押して強引に座らせられた。完全に舐められている。情けない。
(神様。俺に言葉を!)


*親は何でも知っている

ロアンヌは馬車に揺られながら侍女のアンと一緒にレグールの屋敷へと向かっていた。

まだ到着もしていてないのと言うのに、緊張感に包まれていた。
何故なら今日は、私がレグール様の両親にご挨拶する日だからだ。
マナーとか厳しい方なのだろうか?
(どんなご両親なのだろう……)
お母様が、困ったときはアンがフォローしてくれるから大丈夫だと言って下さったけど……。出来ればアンの手は借りたくない。失敗したとしても自分で何とかしたい。
そんな事を考えていたせいか、胃が痛い。兎に角落ちつこうと深呼吸する。
(リラックス。リラックス)
しかし、皮肉な物で、そう思うえば思うほど固くなる。
「到着まで時間があります。今から気を張っていらっしゃったら、つかれる頃には倒れてしまいますよ」
「分かっているけど……」
不安な気持ちを悟られないように、ぎゅっと握って手の中に隠す。

私を気に入ってくださってるのはレグール様だけ。だから、どうしてもレグール様のご両親に気に入られたい。その為にも今回の面談を何としても成功させたい。でないと、他の人ように、クリスの方が良いと言われてしまう。
「はぁ~」
(クリスみたいに、にっこりするだけで、皆を魅了させられたら……)
私にその力があればと、考えると俯いてしまう。
「しゃんとなさいませ!」
条件反射でアンの注意にハッとして背筋を伸ばすと、これでいいかしらとアンを見る。
「そうです。それです。今のロアンヌ様をレグール様がご覧になったら惚れ直してくださるかも知れませんよ」
「っ」
アンの言葉に頬が緩む。
今日のドレスは自信がある。
(似合っていると褒めてくださるかも)
私の瞳が映えるように、配色された青色と水色の生地をワザとずらしてテーピングした様に見せる作りになっていて、スカートはふんわりと広がってるけど幼過ぎない。可愛いと言うより綺麗がぴったりのドレスだ。

皺がつかない様にスカートを撫でた手が止まる。
送りだしてくれたお母様も見違えると言って応援しえくれた。
『ロアンヌ。女にとってドレスは防具なのよ。最高の物を手に入れたんですもの、絶対に成功するわ』
思い出したお母様の言葉に勇気を貰う。
(そうよ。自信を持とう)
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