私が、良いと言ってくれるので結婚します

あべ鈴峰

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俺の参加は最初から決まっている

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レグールからの課題をどうしたらいいのか、考えながらデートから戻ってきたロアンヌは、玄関で自分の帰りを待ち受けているクリスを見て 内心ため息をつく。

「クリス。ただいま」
「ロアンヌ~。そっ、そのドレスは、どうしたんだい?破れてるよ」
「えっ?」
「まさか、誰かに襲われの?」
クリスの指摘にドレスを見るとスカートの裾が破れている。いつ破れたのだろう。気付かなかった。
レグール様に褒められたのに……。
残念だけど目立つ場所だからもう着られないと 肩を落とす。同じドレスをオーダーするにしても一月は待たないと駄目だ。

破れた箇所を見ていると
「大丈夫。僕に任せてくれれば新品同様に直してあげるよ」
クリスが大船に乗ったつもりで任せろと胸を叩く。そうだ。裁縫の腕は、この城で一番のクリスだもの上手に直してくれる。
「本当に直せる?」
「当たり前だよ。この僕を誰だと思ってるんだい」
ロアンヌはクリスの手を取って上下に揺さぶる。こういう時のクリスは頼りになる。序でに、ドレスのリメイクも頼もう。これで問題解決ね。
「ありがとう。クリス」

「でも、どこで破いたんだい?」
「えっと……。多分、薔薇を見に行った時かな……」
とっさに嘘をついてしまった。
クリスは私が婚約して以来レグールを敵視している。もし、デートしていたと知ったら、どんな事を話したんだと細かく説明を求められる。
「良かった。あの男に会っているんじゃないかと心配したんだ」
「そっ……そうなんだ」
あからさまに、ホッとした様子に複雑な気持ちになる。

会っても無いのに悪い男と決めつけて、レグール様の事を「あの男」呼ばりするクリスに正直頭が痛い。
きっと、私を取られると思って嫌なのだろう。クリスもレグール様と仲良くなって欲しいのに……。

**俺の参加は最初から決まっている**

敷地の見回りを終えて屋敷に戻って来たディーンは、玄関前でウロウロしているクリスを見つける。
(またロアンヌ様を待ってるのか?)
まるで心配性の父親だな。呆れて肩を竦めると使用人口へと向かった。その時、
「ディーン!」
名前を呼ばれたので声のする方を見るとクリスが脱兎のごとく俺に向かって走って来る。
何だ。俺を待ってたのか?

「遅いよ。何処で油売ってたんだよ」
口を尖らせながら俺の顔を見た途端文句を言って来る。お前じゃないんだから仕事に決まってるだろう。そう喉まで出かかったが止めた。人の話を聞かないクリスに言っても無駄だ。
「俺に何か用か?」
そう切り出すと不機嫌だった顔が一変、興奮したように上気した顔で俺に両腕を掴む。
「ディーン。協力してくれ」
「えっ?まぁ……俺に出来る事なら、そりゃ協力するよ」
「そうか、そうか。男に二言は無いな」
本当だろうなと掴んでいる腕を揺さぶって来る。テンションが高い。何だか嫌な予感がする。

「それで何をするんだ?」
「決まってるだろう。『数うちゃ当たる』作戦の決行の時が来たんだ」
クリスが腕を突き上げると、俺を見てニヤッと笑う。そんな作戦聞いた事も無い。
「………」
ディーンは心の中で何も聞かずにオッケーした自分を呪う。俺の馬鹿。どうして自ら面倒ごとを引き受けるんだ。どうせクリスの事だ。穴だらけの作戦で、俺が手伝わないと上手くいかないに決まってる。

何だかんだ言っても結局、俺もクリスに甘い。どうしても手伝いたくなる。
「それで、どんな作戦なんだ?」
「ふふん。聞いたら腰を抜かすぞ」
自信満々で言うクリスの鼻息が荒い。これは……感情だけで考えた作戦だ。
はぁ~。俺が手直ししないと駄目なパターンだ。
使用人口へと並んで歩きながらクリスの計画を聞く度、気が重くなる。

*****

どんどん強くなる風に負けまいとロアンヌは踏ん張りながら待ち合わせ場所に向かう。
早朝デートに出かける私をアンが引き止めたけど、大丈夫だと言って出掛けたが……。

雲行きが怪しくなって来た。家を出たときより空が暗くなってきている。ロアンヌは飛ばされないように帽子を押さえて空を見る。
「これは、不味いかも……」
この山 独特の天気の急変だ。地元の人はコロコロと変わる天候を夫婦喧嘩と呼んでいる。
急に雨が降るのは妻が泣いていて、雷が落ちるのは夫が怒っているからだと言う。
ロアンヌ自身、何度も経験している。運悪く今日はその日なのかも。

レグール様と会うだけでも試練があると言う事なのだろう。
(レグール様、待っていて下さる。絶対行きます!)
だったら、乗り越えて見せる。そんな強気になれるのも相手がレグールだからだ。これが、クリスなら風に吹き飛ばされて、私に助けを求めて泣いている。でも、レグール様なら逆に私を見つけてくださる。そう信じられる。
だから、歩む足を止めない。
「ロ……アン……ヌ……」
風の音に混じって私を呼ぶ声がする。
この声は間違いない。
立ち止まって辺りを見まわすと愛馬の嵐に乗ったレグール様が私に向かって来る姿を見つけた。
(ああ、やっぱり、私のヒーローだわ)
ロアンヌは大きく手を振って合図を送る。
「レグール様―!」

レグールが傍まで来ると馬上から私を軽々と抱き上げて自分の前に座らせる。
風に声が、かき消されない様に私の耳元に口を近付けて訊ねて来る。自分も風に負けないように元気な返事を返す。
「大丈夫か?」
「はい。平気です」
左腕を私の腰に回し、右腕で巧みに手綱を捌いて嵐を走らせる。
何処へ行くのか知らないけれど、これで安心できる。レグール様と一緒だと全部、お任せしてしまいたくなる。レグールにチラリと視線を向ける。その精悍な顔を見ただけで、甘いときめきを覚える。もっと刺激が欲しくなる。

はしたないと思われるかもしれないけれど、自分からレグールの体にしがみ付く。
これは振り落とされない為だと自分で正当性を主張して、その男らしい香りと温かさを肌で感じる。すると、レグール様の胸が小さく震える。寒いのかと見上げると今にも笑いだしそうな顔をしている。
「レグール様。何がおかしいのですか?」
「えっ?」
「レグール様?」
レグールがハッとしたように私を見る。自分が思い出し笑いをしている事に気付いてなかったようだ。どんな内容なのか聞こうと顔を見ると微笑みで黙らせられた。でも、その表情は、聞いて欲しくないと言うより、言いたくないと言う感じだ。この二つは似ているけど違う。
最初は、NOだけど、あとのは、条件が整えば話しても良いと言う事になる。
「もうすぐ、洞窟に着くから、そこで天気が良くなるまで避難しよう」
私の返事も待たずに、レグールはそう言うと嵐の脇腹を蹴った。

*****

洞窟で風が弱まるのを待ちながらロアンヌは、黙ったままのレグールに何と声を掛ければ良いのか悩んでいた。何時もの様な 気さくな感じは無く、近寄りがたい雰囲気が纏わりついている。
(クリスにリメイクして貰って、新品同様のドレスにしたつもりなんだけど……)
何も言って下さらないは、及第点ではないから?

空はまだ黒く、暫くは此処に居なくてはいけないみたいだ。ちらりとレグールを見たが難しい顔をしたままだ。何かあったのかも知れない。婚約者なのだから、どんな悩みでも力になれるなら手を貸したい。
私に話せないような秘密なら、その後問題になる。
(でも何と言えば……)
思うような言葉が出てこなくて、 口を閉じそうになる。
 そんな自分を励ます。弱気になっては駄目。

レグール様を理解するには会話が一番重要だ。
何度も会話を重ねれば、そのうち考えだって分かるようになる。女主人になる為の教育として小さい時から大人の会話や領民たちの話に耳を傾けてきた。誰もが正直に話すわけじゃない。言葉の裏に隠れている相手の思惑を読み取る必要がある。今こそその力を発揮するチャンスだ。
そうよ。そうしなくちゃ、と自分を鼓舞して声を掛けた。
「あの………」


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