春花の開けてはいけない箱の飼育日誌

あべ鈴峰

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八十四日目

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 「はぁ~」
信たちが寝て一人になった春花は頭を抱えて悩んでいた。
( どうするのが正解だろう……)
コツコツンと音を立てて小黒が登ってきて卓の上に乗っかった。
「おい! 大丈夫か」
「はぁ~」
体は大丈夫だけど、心は大丈夫じゃない。
そこまで執着しているとは思ってなかった。私にはゴミでも、相手に取っては宝だ。
(………)

 普通、泥棒に入られたくらいで引っ越しはしない。でもそれは、また 入ってくると知らないからだ。無いと分かって 憂さ晴らしをしたのか? 探そうとしたとして 散らかしたのか? それが分からない。
前者なら安心だけど、後者なら……。
私の考えではもう一度来る。そのれは間違い。ここにいるのが危険だ。
「 大丈夫だ。 俺に任せろ」
「………」
ドンと小黒がジャンプして着地した。
多分 幽霊騒ぎを起こそうと考えてるんだろう。だけど、そう上手く行く?
お金はかかるけど高い錠前を買った方が安心だ。否、ちょと待って……。
腕組みしてあれやこれやと頭の中で計算した。食器を新しく買い揃えるくらいなら、外で食べた方が安くつくかもしれない。
「 本当だって。これでももうプロだぞ。経験もある」
「………」
そうなれば 食材も必要がない。
食器は全部割れたから、もう壊れるものはない。衣も布団も汚れたら洗えばいいし、破れたら繕えばいい。だったら引っ越す必要はない。 今まで通りの生活で問題ない。重要なのは、この家にいる時間を少なくすることと、一人にならないことだ。
「 姿が見えないのに声が聞こえるだけで、逃げ出すんだ。面白いぜ」
「わかった」
「おう! 任せとけ」
小黒が卓に頭を打ち付けそうなほど 頷いた。
春花は結論が出て安心した。これで心置きなく明日は迎えられる。

✳✳✳

 信は 真っ暗な部屋で天井を見上げていた。
楽お兄ちゃんも小黒も大丈夫だ。安心して良い、と言うけれど、二人の本心は違うことは分かっている。だけど今の僕では助けるどころか、お荷物になってる。楽お兄ちゃんだけなら一人でどこへでも行ける。
引っ越したってできる。
そうすれば泥棒から逃げられる。
それができないのは僕たちがいるからだ。
これでは恩を仇で返すようなものだ。お寺に戻ることを考えた方がいいかもしれない。
でも、楽お兄ちゃんたちは反対するだろう。結も嫌がるだろう。駄々をこねて泣くかもしれない。それでもみんなを納得させないと。
これ以上は迷惑をかけられない。何とかして説得させられる理由を探さないと。
(う~ん……)

✳✳✳

 この家は俺が守る!
小黒はそう心の中で誓った。
隠れて泥棒がやりたい放題してるのを見ているのは悔しかった。もっと早く隠れるのではなく、追い出すという選択肢を選んでいれば、みんなの落ち込んだ姿を見ることはなかった。あの時はそれが一番だと思ったし、目当ての物が見つからなければ すぐいなくなると思っていた。考えが甘かった……。
今度来たらとっちめてやる。


✳✳✳

  石岳は、つかず離れず二人を追っていた。
「 まだ歩くのか?」
どんどん郊外に向かっている。
どこへ行くのかわからなくて、首をひねりながらついていくと、荒れ寺についた。
隠れ家か?
「俺が盗んだ ってどういうことだよ」
「 とぼけるのか写生帖
 だよ」
あれ!? 宮貫にそこまで詳しく話したか?
さっと 人相書きの男の顔色の変わる。それを見て 犯人で間違いないと確信した。
「 何で言ってくれなかったんだよ。
俺とお前の仲だろ」
自首させる気か? まあそうなれば罪は軽くなるが、その必要はない。信たちは 犯人を捕まえて欲しいとは言っていない。
二度と盗みに入らないように、お灸を据えて
くれと言っていた。二人の間に割って入ろうとした石岳の耳に信じられない言葉が 飛び込んできた。
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