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八十一日目
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宮貫は物が散乱した床に呆然と立ち尽くしていた。家中の扉という扉を開けた。
タンスの中の物を全部出してくまなく探した。米の入っている壺までひっくり返した。
何でだ! なんで何も見つからない。
写生帖だ。それなりに厚みもある。
何処かの隙間に入ったとは考えられない。
(………)
この前まで写生帖が置いてあった場所に目をやった。認めたくない現実にドクドクと 脈打つ。昨日、下見した時は確かにあった。
他の者に 先を越されたのか?
さっきの気配がそうだったのか?
一攫千金のチャンスを逃したのか?
足の力に抜けそうになる。
それもたった一晩で……。
誰かに出し抜かれたことに腹が立つ。それと同時に踏ん切りがつかず 今日まで 引き伸ばした自分にも腹が立つ。
✳✳✳
小黒は寝台の脚の陰から泥棒を見ていた。
タッチの差で盗まれたなかった。
「あーっ、くそっ、くそっ」
泥棒が手当たり次第に物を投げ捨てている。
完全に八つ当たりだ。
まあ、その気持ちも分かる。 俺だって、そうしただろう。分かる。分かるぞ。
箱の中で何度も頷いた。最後まで取っておいた好物を食われたような気持ちだろう。
好物といえば……。きっと今頃 春花たちはどうしてるんだろう? きっと ごちそうを食べてるんだろうな……。想像したら、なんだか腹が減ってきた。
✳✳✳
ちょっとだけ。 そう思っていたのに……。
筆が滑らかで、顔料の発色は良くて、紙が滲まないとなれば、筆が乗るのはどうしようもない。春花は美しい庭園を前に絵を書き続けていた。
✳✳✳
万城は音を立てないように楽の後ろを陣取ると出来上がっていく絵を見ていた。
特等席の気分だ。
薄墨で軽く下絵を描くと、どんどん 色を置いていく。集中して書いている姿から絵が好きだという気持ちが伝わってくる。
隣同士の色が混じらないように。逆に混じらせてみたり。大きな筆で背景をぼかして書く。しかし、それでいて何かはっきりと伝わる。極細の筆で花粉を一つ粒一粒描いていく。主役には色んな技法を駆使している。見ているだけで勉強になる。
描いてる姿勢が、絵をどう思ってるか感じられる。
✳✳✳
信は結と出された料理を食べながら庭を見ている二人を見ていた。二人ともずっとあの調子だ。
(何が楽しいんだろうか……)
パタンと閉じる音に顔を向けると 卓のそばで写生帖を見ていた石岳さんが手に持っていた写生帖を他の写生帖の上に積んだ。
「これなら 盗まれるのはわかる気がする」
「うん。楽兄ちゃんは絵が
うまいもんね」
「 石岳さんは絵を描くんですか?」
「 いや、でもわかる」
「………」
「………」
「なんだ 信じないのか? これでも万城様のお付きで沢山絵を観てきたんだそ」
「そうなんだ」
「………」
見ただけで、絵の良し悪しがわかるは、不明だけど多少の目利きはあるんだろう。
「ところで、この写生帖どうす?」
「どうするって、何がですが?」
「泥棒に入られたんだろう。それでも持ち帰りか?」
「………」
「………」
確かにまた 泥棒が入るかもしれない。
運が悪ければ 鉢合わせするかもしれない。
それは一番心配していることだ。楽兄ちゃんと相談してみよう。あんまり写生帖に思い出いれがないみたいだし。
✳✳✳
駄目だ……。
ガクッと 肩を落とした。うまく書けない。
次だ。次こそ。そう思って新しい紙を用意しようとしたけど 紙が無かった。
「えっ?」
そんなに描いたのと辺りを見ました。
すると、足の踏み場もないほど描きかけの絵が散乱している。顔料も少なくなっている。調子に乗っていたと自分には呆れて首を振った。すると目の前に万城が居た。
タンスの中の物を全部出してくまなく探した。米の入っている壺までひっくり返した。
何でだ! なんで何も見つからない。
写生帖だ。それなりに厚みもある。
何処かの隙間に入ったとは考えられない。
(………)
この前まで写生帖が置いてあった場所に目をやった。認めたくない現実にドクドクと 脈打つ。昨日、下見した時は確かにあった。
他の者に 先を越されたのか?
さっきの気配がそうだったのか?
一攫千金のチャンスを逃したのか?
足の力に抜けそうになる。
それもたった一晩で……。
誰かに出し抜かれたことに腹が立つ。それと同時に踏ん切りがつかず 今日まで 引き伸ばした自分にも腹が立つ。
✳✳✳
小黒は寝台の脚の陰から泥棒を見ていた。
タッチの差で盗まれたなかった。
「あーっ、くそっ、くそっ」
泥棒が手当たり次第に物を投げ捨てている。
完全に八つ当たりだ。
まあ、その気持ちも分かる。 俺だって、そうしただろう。分かる。分かるぞ。
箱の中で何度も頷いた。最後まで取っておいた好物を食われたような気持ちだろう。
好物といえば……。きっと今頃 春花たちはどうしてるんだろう? きっと ごちそうを食べてるんだろうな……。想像したら、なんだか腹が減ってきた。
✳✳✳
ちょっとだけ。 そう思っていたのに……。
筆が滑らかで、顔料の発色は良くて、紙が滲まないとなれば、筆が乗るのはどうしようもない。春花は美しい庭園を前に絵を書き続けていた。
✳✳✳
万城は音を立てないように楽の後ろを陣取ると出来上がっていく絵を見ていた。
特等席の気分だ。
薄墨で軽く下絵を描くと、どんどん 色を置いていく。集中して書いている姿から絵が好きだという気持ちが伝わってくる。
隣同士の色が混じらないように。逆に混じらせてみたり。大きな筆で背景をぼかして書く。しかし、それでいて何かはっきりと伝わる。極細の筆で花粉を一つ粒一粒描いていく。主役には色んな技法を駆使している。見ているだけで勉強になる。
描いてる姿勢が、絵をどう思ってるか感じられる。
✳✳✳
信は結と出された料理を食べながら庭を見ている二人を見ていた。二人ともずっとあの調子だ。
(何が楽しいんだろうか……)
パタンと閉じる音に顔を向けると 卓のそばで写生帖を見ていた石岳さんが手に持っていた写生帖を他の写生帖の上に積んだ。
「これなら 盗まれるのはわかる気がする」
「うん。楽兄ちゃんは絵が
うまいもんね」
「 石岳さんは絵を描くんですか?」
「 いや、でもわかる」
「………」
「………」
「なんだ 信じないのか? これでも万城様のお付きで沢山絵を観てきたんだそ」
「そうなんだ」
「………」
見ただけで、絵の良し悪しがわかるは、不明だけど多少の目利きはあるんだろう。
「ところで、この写生帖どうす?」
「どうするって、何がですが?」
「泥棒に入られたんだろう。それでも持ち帰りか?」
「………」
「………」
確かにまた 泥棒が入るかもしれない。
運が悪ければ 鉢合わせするかもしれない。
それは一番心配していることだ。楽兄ちゃんと相談してみよう。あんまり写生帖に思い出いれがないみたいだし。
✳✳✳
駄目だ……。
ガクッと 肩を落とした。うまく書けない。
次だ。次こそ。そう思って新しい紙を用意しようとしたけど 紙が無かった。
「えっ?」
そんなに描いたのと辺りを見ました。
すると、足の踏み場もないほど描きかけの絵が散乱している。顔料も少なくなっている。調子に乗っていたと自分には呆れて首を振った。すると目の前に万城が居た。
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