春花の開けてはいけない箱の飼育日誌

あべ鈴峰

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七十八日目・

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 石岳は 屋敷の外に子供が来ているとの知らせに外に出ると 信が妹と並んで待っていた。

  屋台で団子を食べさせながら 要件を尋ねると ガサガサと懐から紙を取り出して卓の上に広げて 丁寧に手で伸ばした。
中年の男の人相書きだ。
親は死んだと言っていたが、この男とはどう言う関係だ。子供の落書きではなく 大人が書いたみたいなチャンとしたものだ。
「この人を探して欲しいんです」
また人 探しか。重なるものは重なるんだな。
それだけ俺の顔が広いと思われているんだ。 嬉しいような負担なような……。
まあ 一人探すのも二人 探すのも手間は同じだ。渡された人相書きを手にして落としそうになった。万城様の従者としているから それなりに絵を見てきた。
しかしこれは そのどれでもない。
まるで本人がそこに閉じ込められているような絵だ。あまりにもリアル過ぎる。
息遣いさえ聞こえてきそうだ。美しいとかの感想の前に 気味が悪い。
「これは誰なんだ?」
「これの人は」
「泥棒だよ」
信より先に 妹が答えた。確か……結と言ったか。
「 何を盗んだんだ」
「楽お兄ちゃんの書生帖だよ」
「書生!?」
「 違う。写生帖だよ」
「えっ」
思わぬところから情報が入ってきた。
万城様が探しているものと同一人物ということはないだろうが 同じ被害者なら一歩近づいた。この人相が気の男を探せば、郡戸たどり着くかもしれない。
「 その楽お兄ちゃんは 絵師なのか?」
「 違います。 でも絵ば上手です。この似顔絵も 言葉だけで書きました」
「………」
裏稼業のものは、時に争うこともあるが 持ちつ持たれつ。それが、あいつらの生き方だ。
「分かった。探してみる」
「ありがとうございます」
「やったね お兄ちゃん 」


✳✳✳

 宮貫は次の朝には例の家に着いた。
家人が外出するのを待ったが、出かけたのを子供らだけ。若造が一人残った。
どうする? 殺してでも絵を盗むか?
(………)
悩むところだ。 昔は殺しなと 
苦にもしなかった。 だが今では妻も子もいる。 俺が捕まれば 妻子が路頭に迷う。
窃盗と殺人者は罪の重さが違う。
それは刑に服する時間の長さにもつながる。子供は可愛い盛りだ。やはり 殺しはしたくない。俺の美学にも反す。じっと外出するのを待っていると、その前に 子供らが戻ってきてしまった。今日は無理そうだ。
だからといって 石岳を長く待たせられない。
(………)
夜に盗みに入ることも考えないとな。
クルリと踵を返した。

✳✳✳

 万城は、このところ絵に夢中だ。
もっと上手くなりたい。
淡季のところで 大枚をはたいて買った
絵を模写をしていた。
筆の運びに迷いがなく 一本の曲線の中に色の濃淡 、太さの強弱がある。 しかもそれが書かれてるな 写生帖だ。
上には上がいる。そう 痛感させられる。
「う~ん」
出来上がって絵を手本と見比べていると外出していた石岳が帰ってきた。
 「戻りました」
 「何の用だったんだ」
「人探しです 」
「人探し?」
「はい。正確には
泥棒ですが?」
「泥棒?」
ますます分からない。信たちには悪いが、そんな大事なものは持っていると思えない。
「はい。その人相書きを渡されました」
石岳の手元には丸められた紙があった。
受け取ったのか? いくら 子供の
頼みでも安請け合いは良くない。 しかし変に真面目なところがある 石岳が情けで受け取ったと思います 請け負ったとも思えない。 叶わない願いに 希望を持たせるのは罪だ。
私の視線に気づいた石岳が渡してきた。
「信の知り合いも絵を盗まれたそうです」
じゃあその者が描いたのか?
だったらすぐに捕まるだろう。
受け取ると広げた。それを見てハッとして身が強張る。本人がと錯覚した。 この紙が透明だったらその場にいると勘違いする。
肌の質感 、毛の生え際。この者の力量が わかる。もう一人天才が現れた。
「 ちょっと気味が悪いですよね」
 石岳が 渋い顔してる。写実性という点では一番だ。しかし 絵としては 評価の分かれるところだろう。でもこの絵……。
手本と見比べる。この髪の線と、この植物の葉脈の線。人物画と静物画で、違いはあっても似ている。
「 石岳。その信の知り合いの者に合わせて」
 たとえ 本人じゃなかったとしても、知り合って損はない。
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