春花の開けてはいけない箱の飼育日誌

あべ鈴峰

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七十七日目・完全

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 宮貫は淡季の店の使用人に袖の下を渡して情報を買った。群戸が売ったの絵だった。
今 流行りの絵恋文に使う絵か……。
良い絵は天井知らずとも言うし。
淡季が買い取るぐらいだから 危険を貸す 価値はある。俺に 予想があってたな。
明日にでも盗みに入ろう。

店を後にして帰り道。
どうやって絵を隠すか考えていた。くるくると丸めて竹筒に入れれば水筒や天秤の竿の中にも隠せる。たたんで着物の間で挟めば 手に持つことも出来る。誰も気にもとめない。
だから見つからないように 運ぶことができる。おまけに軽いし、持ち運びやすい。

前祝いにと、酒を買って帰ると 暗がりからぬっと男が現れた。背が高くガタイも良い。その上 強面の顔。何処と無く見覚えがある。
提灯の明かりに照らされた男は……。
「石岳」
15年ぶりでも分かる。義理兄弟の盃を交わした相手だ。 そして、俺たちを逃すため 一人で戦い続けら一人で罪をかぶった男。
そのまま処刑されると思ったのに生き残った。(死んでくれた方が罪悪感に苛まれないのに……)
正直 会いたくない。だが、こうして自由で生きていられるのは全て石岳のおかげ、  恩義がある。一歩も動かず俺の様子を伺っている。そんな 石岳に向かってアゴをしゃくる。
 「入れよ」




  酒を継ぐと一人で かぶりつきたいところだが、買ってきた鳥のももを食べやすいように 箸でほぐした。ずっと連絡を断っていたのに急に どうしたんだ。風の噂では銀 万城の用心棒をしてると聞いている。順風満帆のはずなのに、どうしてまたこっちの世界に足を踏み入れるんだ?
「それで話は何なんだ?」
「えっ」
「 だから わざわざ 訪ねて来たんだろう」
「ああ、うん。……郡戸って、言うスリ
を知ってるか?」
「えっ?」
何で石岳の口から郡戸の名前が出てくるんた。
「何で知りたいんだ?」
「万城様が会いたいとおっしゃってる」
「………」
万城は遊び人で有名だけど……。
何でスリが必要なんだ? 何か仕事を頼むのか? ちょっと考えられない。金も女も思いのままなのに。
「 お前は顔が広いだろう。直接知らないなら知ってる人を紹介してくれ」
「 なんで 郡戸にこだわるんだ? 他にもスリはいるだろう」
そう聞くと 石岳が、どうしようかと 暫く考えていた口を開いた。
「そのスリが持ち込んだ絵の持ち主を知りたいんだそうなんだ」
「えっ!?」
「そう。絵だ」
これはまずいことになった。ヘタをすれば先を越される。だからと言って 知らないと言えば 他のやつのもとへ 行く。
俺にのところへ 訪ねてきたということは、よほど役に立ちたいと思っているんだろう。
時間が必要だ。
「分かったり探してみるから少し待ってくれないか 」
「そうか、悪いな」
「いってことよ」
 ポンポンと背中を叩いた。
これで大丈夫だろう。
「それで、今までどうしてたんだ?」
そう言って酒を継ぎ足した。



✳✳✳

 「 ただいま~」
「帰り。待ってたぞ」
戸を開けると小黒が箱の角を立ててコンコンとこっちに飛んできた。喜ぶ 様子に泥棒が来たらしいと 察した。

信たちには 自分たちで晩御飯を食べなと買い物に行かせてた。その間に 春花は 小黒の証言
を元に似顔絵を書き出した。
「目はこう…… 横に長い。鼻は ……小鼻が膨らんでた。唇は厚い。それと……肌の色は少し黄色」
何度かの書き直しを 経て泥棒の似顔絵が完成した。
「 こんな感じ?」
出来上がりを小黒に見せると体を振り回した。
「出来たの?見せて」
大人しく食事をしていた結が箸を放り投げて飛んでくる。
「 行儀が悪いぞ」
そう言いながらも信も箸を持ったまま 絵を覗き込んできた。
「 この人が ドロボウ?」
「そうだ」
「あれ この人 ……」
信が箸でトントンと自分の額を叩きながら首をひねっている。
「知ってる人?」
「ん~~どこかで会った気がするんです」
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