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七十五日目・絵師を探せ
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群戸は三人が外出するのを見届けると、人目を避けるように家に近づいた。
桟に置いた紐を引っ張って、また開けようとしたが 何の手応えもなく。紐だけが手に残った。
「………」
やっぱり 一冊まるまる 盗んだのがまずかったか……。これは家主にバレてるな。
どうする? 止めるか……。
手の中の紐をじっと見た。
最初は ちまちま盗んでいたが 、淡季が直接まとめて持ってくるなら 三倍の値段で買取る。その言葉につられて 一冊 持ち出した。
絵が書いてあれば色が塗られてなくても高く売れた。かなりの金になった。
もう手下として働かなくてもいい。
だったら、荷領に抜けがけしたとバレ前に足を洗うべきか?
でも、もっと持ってこいと言っていた。
売るなら今がチャンスだ。
最後の一 仕事にするか。
金はたくさんあって困るものでもない。
あと一冊だけ 盗んでやめよう。
そう決めたが、チリッと背中に視線が刺さる。パッと振り向いた。
誰もいない。でも、つけられている。
こういうものは肌で感じる。
紐を素早懐にしまうと、その場を離れた。
✳✳✳
コクン コクン。
小黒は 首を上下に動かしながらも、ぐっすりと眠っていた。皆が出て行ってしばらくは緊張してが、すぐに飽きて、あくびが出て、気づけば 船を漕いで、今に至る。
✳✳✳
万城は兄の厳の常連の店に来ていた。
「邪魔するよ」
金に困ると 私の絵を盗んでは、ここに売りに来ていた。淡季とは面識はないが互いのことは知っている。そんな関係だ。
だからか、私を見ても驚く様子はない。
そのまま中に入ると目の前に座る。
「 今日は売りに来たんですか?」
と言いながらお茶を出した。
「 それとも 買いに来たんですか?」
全く……大方の予想はわかっているだろうに。
子供だと馬鹿にする。返事はせずにクイッと茶を飲み干した。いい茶だ。
「芍薬の花の絵を書いた絵師を紹介して欲しい」
すると 淡季が小さく首を振る。
「はぁ~」
ため息をつくと金の入った巾着を置いた。こういう輩には金が全てだ。
「まいど」
巾着の口を開けて中身を確認すると引き出し
にしまった。
「 あれは盗品だよ」
「なっ」
開いた口がふさがらない。
しかし、そもそもここで売っているものだ。
当たり前といえば当たり前。
「 それで誰から買い取ったんですか?」
「………」
ニッコリと笑うだけ。
「ほら」
ニつ目の巾着を置く。
どこまでもガメつい奴だ。
「群戸というスリだよ」
「スリ⁉」
「そうだ 」
頷いた。何でスリが絵を盗む?
スリの知り合いなどいない。
「はぁ~」
これからの手間を考えた。これは一筋縄ではいかないな。
✳✳✳
小黒は
生暖かい息にハッとして目を覚ました。その中にかすかにネギの匂いが混ざっている。
人だ!
少し 蓋を開けて覗くと 三十代前半の男が不思議そうに俺を見てた。
こいつが泥棒か?
よししっかり観察してやる。
群戸は茶屋で時間を潰して戻ってきた。
中に入ってはいいが これはどういう状況だ?
無造作に積まれてる写生帖の上に箱が置いてある。
何で乗せてる? 意味が分からない。
室内だ。風で飛ばされる事もないのに。
見た目のより重いのか?
寝台の布団を見たが、沈んでない。
(………)
それを丁寧に見た。
持ち上げると何かが動くとか?
どこを見ても細工の跡がない。
そういうカラクリがあるのは知っているが 、
高価だ。室内の感じからして 金持ちではなさそうだ。
(………)
不安だがここまで来たんだ。
「 南無阿弥陀仏。 南無阿弥陀仏」
お経を唱えながら 箱に手を添えた。
桟に置いた紐を引っ張って、また開けようとしたが 何の手応えもなく。紐だけが手に残った。
「………」
やっぱり 一冊まるまる 盗んだのがまずかったか……。これは家主にバレてるな。
どうする? 止めるか……。
手の中の紐をじっと見た。
最初は ちまちま盗んでいたが 、淡季が直接まとめて持ってくるなら 三倍の値段で買取る。その言葉につられて 一冊 持ち出した。
絵が書いてあれば色が塗られてなくても高く売れた。かなりの金になった。
もう手下として働かなくてもいい。
だったら、荷領に抜けがけしたとバレ前に足を洗うべきか?
でも、もっと持ってこいと言っていた。
売るなら今がチャンスだ。
最後の一 仕事にするか。
金はたくさんあって困るものでもない。
あと一冊だけ 盗んでやめよう。
そう決めたが、チリッと背中に視線が刺さる。パッと振り向いた。
誰もいない。でも、つけられている。
こういうものは肌で感じる。
紐を素早懐にしまうと、その場を離れた。
✳✳✳
コクン コクン。
小黒は 首を上下に動かしながらも、ぐっすりと眠っていた。皆が出て行ってしばらくは緊張してが、すぐに飽きて、あくびが出て、気づけば 船を漕いで、今に至る。
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万城は兄の厳の常連の店に来ていた。
「邪魔するよ」
金に困ると 私の絵を盗んでは、ここに売りに来ていた。淡季とは面識はないが互いのことは知っている。そんな関係だ。
だからか、私を見ても驚く様子はない。
そのまま中に入ると目の前に座る。
「 今日は売りに来たんですか?」
と言いながらお茶を出した。
「 それとも 買いに来たんですか?」
全く……大方の予想はわかっているだろうに。
子供だと馬鹿にする。返事はせずにクイッと茶を飲み干した。いい茶だ。
「芍薬の花の絵を書いた絵師を紹介して欲しい」
すると 淡季が小さく首を振る。
「はぁ~」
ため息をつくと金の入った巾着を置いた。こういう輩には金が全てだ。
「まいど」
巾着の口を開けて中身を確認すると引き出し
にしまった。
「 あれは盗品だよ」
「なっ」
開いた口がふさがらない。
しかし、そもそもここで売っているものだ。
当たり前といえば当たり前。
「 それで誰から買い取ったんですか?」
「………」
ニッコリと笑うだけ。
「ほら」
ニつ目の巾着を置く。
どこまでもガメつい奴だ。
「群戸というスリだよ」
「スリ⁉」
「そうだ 」
頷いた。何でスリが絵を盗む?
スリの知り合いなどいない。
「はぁ~」
これからの手間を考えた。これは一筋縄ではいかないな。
✳✳✳
小黒は
生暖かい息にハッとして目を覚ました。その中にかすかにネギの匂いが混ざっている。
人だ!
少し 蓋を開けて覗くと 三十代前半の男が不思議そうに俺を見てた。
こいつが泥棒か?
よししっかり観察してやる。
群戸は茶屋で時間を潰して戻ってきた。
中に入ってはいいが これはどういう状況だ?
無造作に積まれてる写生帖の上に箱が置いてある。
何で乗せてる? 意味が分からない。
室内だ。風で飛ばされる事もないのに。
見た目のより重いのか?
寝台の布団を見たが、沈んでない。
(………)
それを丁寧に見た。
持ち上げると何かが動くとか?
どこを見ても細工の跡がない。
そういうカラクリがあるのは知っているが 、
高価だ。室内の感じからして 金持ちではなさそうだ。
(………)
不安だがここまで来たんだ。
「 南無阿弥陀仏。 南無阿弥陀仏」
お経を唱えながら 箱に手を添えた。
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