春花の開けてはいけない箱の飼育日誌

あべ鈴峰

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七十三日目・詩は二流、絵は一流

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 万城がその絵を初めて見たのは自分の詩を
桃花に届けに行った時だった。

 街の有名茶屋ではしばしば 令嬢たちによる自慢大会が開かれていた。わざわざ人目につくところでやるとはどこまで自尊心が高いんだか。内心 呆れていたが 興味もあった。
勝負の仕方は自分に送られ恋文のその数をその出来で競っていた。そしてそれが 令嬢たち自身の順位になっていた。
そしてそれを目当てに野次馬の客が押し寄せて 賑わっていた。
 一位を競っているのは東の 黄燐と西の香蓮。
黄燐は 数で、香蓮は質で勝負をしていて 現在 同率一位だ。
二人とも自信満々だ。

 少し離れた その一角で桃花と、それを見ていた。
 「はい。これ約束のものだよ」
恋文を渡していた。今回は色々と大変だった。下描きも、色塗りも何度もやり直した。時間も金もかかった。
「ふふっ、 ありがとう」
子供のように瞳がキラキラしている。
待ちに待っていたというところかな。
こんなに喜んでくれるなら、もっと早く渡せば良かった。
「 綺麗……」
感嘆の声あげた桃花が私を盗み見る。
「勿忘草なのね……」
「 当たり前だろ」
そっと 膝に手を置くと、桃花が頬を染めて絵を抱きしめた。ずっと桃花 一筋。あと一年もしたら夫婦になりたい。そう考えいる。
 父上も交際を反対しないから大丈夫だろう。
「おおー!」
野次馬の声に視線を向けると、まだやっている。絵をジッと見ている桃花になんとなく問う。
「 どっちが勝つと思う?」
 「黄燐ね」
 二人を見もしないでキッパリ
 と言い切った。そんな桃花に驚いた。
 「何か知ってるのか?」
「見てればわかるわ」
「………」
 そう言うとお茶を口にした。
(何か知ってるっぽいな……)
そういうことなら待とう。
その後も勝負は続き どう見ても西の香蓮
方が優勢だ。
だが 桃花は余裕で茶菓子に舌鼓 している。
「これ美味しい。おかわりしていい?」
「ああ」
「すいません」


「オオォー!!」
 一段と大きな声に二人を見ると黄燐 が一枚の絵を手にしていた。
サラリと書かれた花の絵だ。
茶会の席でお題を受けて書いたような素描だ。それに近い。それだけに絵師の技量を求められる。
「すごいな……」
「でしょ。添えてある詩は二流だけど絵は一流よ」
これ見よがしに香蓮を見る黄燐は意地悪な笑みを浮かべている。
香蓮が悔しさな顔をしているのが、口を閉じたままだ。次はないようだ。いや 見せたくないんだろう。あの絵の後では、どんな
大作でもかすんでしまう。
この街に、こんな実力者がいたとは……。是非 会ってみたい。
「桃花、絵を描いたなが 誰か知っているか?」
 買ったんですって」
 知らないと桃花が首を振った。
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