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七十日目・悩める若人

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 街の茶屋では悩める若人たちのため息で溢れていた。
その理由は 今流行りの絵に詩を添えて送る恋文が流行っているからだ。
パッとしない自分より下だと思っていた男に先を越された。それは彼らかにとって屈辱でしかない。 
「俺たちだって 詩には自信があるんだ。絵さえ入手できれば……」
しかし、いくら悪口を言っても、 詩はともかく、絵は一朝一夕で上達するものではない。
それでも、男たちは手を変え品を変え何回恋文を贈っている。
ある男は一畳もある絵を贈った。青と白を塗りたくった絵だ。
落書きかと思っても 添えてある詩を読む。
『あなたは青空のように人の気持ちを明るくしてくれる』
こうなると ただの落書きが青空に見えるから不思議だ。
そうなれば 他の女たちを見る目も変わる。
その気もなかったのに 隠れた才能に男の価値が上がる。また、女たちもまた、もらった恋文の数を競っていた。

 次に流行ったのは見立て絵だ。
ただの木片や小石を鳥や小動物に変えるものだ。だが肝心の画力がなければ見立て絵も完成しない。下手な絵でガッカリもされたくない。描いても描いても気に入る作品は出来なかった。そして、良い画材を使えば上手くかけるかもと 若人が画材店の敷居をまたいだ。

  そう考えるものは多く店は繁盛していた。
そうなれば 悪い奴らも集まってくる。
画材を盗んでも、財布を盗んでも、とっちも儲かる。


 荷領は、仲間と連携して財布を盗むことを生業としていた。露天の店主も仲間の一味だ。『スリだ』と腕を捕まえられた時には 財布は別の仲間の手に渡っている。
しかし 関わる人数が多ければ自分の懐に入ってくる金も少なくなる。
でかい金を稼ぎたいと常々思っていた。
「兄貴!  兄貴!」
行き着けの店でワンタンを作っていると聞き慣れた声に食べるのやめた。
仲間が、こっちに向かってくるのが目に入った。大きく手を振っている。
あの喜びよう。金の匂いがプンプンする。
荷領は 大急ぎで 残りをのワンタンを流し込んだ。


✳✳✳

  万城は 花言葉の本のページをめくりながら 何にするか考えていた。
赤いバラ・ あなたを愛する。
忘れな草・ 真実の愛。 胡蝶蘭・ 純粋な愛。
うむ……。
バラは ありきたり。胡蝶蘭は花の色が白だから書くのに 技量がいる。となると忘れな草か。小さくて可愛いし。
これにしよう。
どんな構図がいいかな?
絵の中央、左上、右上、 左下、 右下。
何枚も 下書きを書いては比べてを繰り返していた。絵だけでなく文字を書くから 余白の取り方が難しい。
う~ん。
気づけば 部屋のいたるところに絵が置きっぱなしになっていた。カサカサと紙に触る音に顔を上げると、いつの間にか来ていた厳が 絵を集めていた。兄弟仲は……悪くはないと思う。兄の厳の馬耳東風な態度にイライラするだけだ。蹴落とそうと 何か仕掛けてくるわけでもない。ただぐうたらしているだけだ 。
その厳が自分のところに自ら来た。
そして絵を持ち帰ろうとしている。
(目当ての女でもできたのか?)
 女ができれば 良いところを見せようとしたくなるのは男というものだ。
だったら 協力しないではない。
少しは改心するかもしれない。
「何か欲しい絵でもあるのか?」
そう聞くと下絵を漁っていた厳が パッと顔を輝かせて こっちを見た。
「 悪い堅、五、六枚 適当に描いてくれ」
「五、六枚⁉」
「そうだ。出来上がったら詩に合わせて絵
を選ぼうと思って」 
「………」
 どうも怪しい。 お目当てがいないのか? 
もしかして……。
「詩は 出来てるのか?」 
「まだだ 」
そんなことだろうと思った。こめかみを抑えた。本命がいるわけじゃない。
チヤホヤされたいだけだ。指の隙間から厳を見た。悪びれもせず待っている。
思惑がばれようが、ばれまいが、全く気にしてない。 他の人の評価など 厳にとっては 道端の石ころ。

✳✳✳

   厳はせせこましい 長屋の一角にある知る人ぞ知る 便利屋に来ていた。
ここは質屋に持ち込むと足がつく そんな品を扱ってくれるところだ。 茶を飲んでいた厳は机の上に置いてある 芍薬の絵を手に取った。
(上手いな)
 何かを破いたのか 紙の端が破けている。
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