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六十三日目・御触れ
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春花は夜が明けると、小黒はどうなっているのかと信たちを連れて 役所に行った。
すでに たくさんの人が 一目見ようと中を伺っている。しかし、それを 門番たちが槍をバッテンにして誰も入れないと鬼の形相で私たちを威嚇していた。
「これじゃあ見ることはできないですね」
「 そうだな」
( 全然見えない」
結が ぴょんぴょん飛んで見ようとしているが 大人たちに邪魔されている。
「中がどうなっているか知ってる?」
知らないと信が首を振る。
確かに 真っ当な暮らしをしていたら 縁のない場所だ。ここが 安徽省なら いくらでも手はあるが、身分を偽っている今の状況ではどうすることも出来ない。見たいと言っても 見せてはくれないだろう。
なす術がない。
チラリと万城の顔が浮かんだが すぐ消えた。
願いを聞いてくれるほどの関係性ではない。
「 信、結。一旦帰ろう」
「えー まだ見てないよ」
「結、役人の人がいるから見れないよ」
そう言って飛び跳ねている結の手を掴んだ。
でも、どうするんだろう。
捕まえたのはいいけれど 相手はお化け人形だ。
どう決着をつけるんだろう。
多分その時がチャンスだ。
✳✳✳
遅めの朝食をとっていた万城は父上からの命で 本宅である呂俯に赴いていた。
呂布。
それが 父上の名だ。
(普段は、自分の家があるから別に住んでいる)
父上に お茶を入れて出すと 自分の分もついだ。
「竜泉寺で供養するんですか?」
由緒正しいわけでも 徳の高い僧が いるわけでもない。
「だそうだ。 一目見ようと役所に大勢の人が押しかけているそうだから、町の者たちに見れるようにして、安心させたいと考えている」
城主としても 頭の痛い話だ。
人ならば、いくらでも方法がある。
しかし、お化けとなると話は別だ。
供養するために護摩焚きをすることにしたそうだ。確かに、目の前で人形が燃えるのを見れば落ち着きを取り戻すだろう。いくら 役人が処分したと言っても、信じきれないだろうし。
それで一番大きな寺院を選んだのか。
昼前に話がついているところを見るに、竜泉寺の方も利があると受け入れたんだろう。
(参拝者数も増えるでしょうし)
「 本当に動かなくなったんですか?」
「ああ、両手足に釘をつけてあるそうだ」
あそこまで梃子摺らせたのに、あっけない 終わり方だな。一気に茶を飲み干すとトンと置いた。何だか手柄を横取りされた気分になる。
「それで、どうして私を呼び出したんですか?」
庶子の私が表に出るのはおかしい。
「はぁ~」
父上が重い ため息つくと茶碗を置いた。
「厳のやつが怖がって行きたくないと駄々をこねたんだ」
「あっ、ああ……」
城主の父上は 当然 出席する。そうなれば そこは 社交の場。 嫡男である厳が出席しなくてはいけない。しかし、兄の厳は臆病で、痛いのも怖いのも駄目だ。
カエルを投げつけられて気を失ったのは有名な話だ。だからと言って風流でもない。
(絶対 母親のせい。自分が過保護に育てたせいだ)
「堅、頼む」
「分かりました」
泣く子は勝てねい。
嫌がる厳を説得できなかったんだろう。自分が代わりに出席すると知って、歯ぎしりしている姿が目に浮かぶ。今頃ならわた煮えくりかえ
っていることだろう。
ニ日後に父上と同行することになった。
✳✳
春花は "お触れ"を見て目の前が真っ暗になった。公衆の面前で小黒が焼かれる。
タイムリミットは二日。
乱入する?
駄目だ。役人たちがいるからたどり着けない。 私の力ではどうすることも出来ない。だからといって 見殺しにも出来ない。
頼れる人がいない。
頼れるのは自分だけ。その自分は無力。
ここのままで 小黒が死ぬのを待つだけだ。
どうしたらいいんだろう……。
すでに たくさんの人が 一目見ようと中を伺っている。しかし、それを 門番たちが槍をバッテンにして誰も入れないと鬼の形相で私たちを威嚇していた。
「これじゃあ見ることはできないですね」
「 そうだな」
( 全然見えない」
結が ぴょんぴょん飛んで見ようとしているが 大人たちに邪魔されている。
「中がどうなっているか知ってる?」
知らないと信が首を振る。
確かに 真っ当な暮らしをしていたら 縁のない場所だ。ここが 安徽省なら いくらでも手はあるが、身分を偽っている今の状況ではどうすることも出来ない。見たいと言っても 見せてはくれないだろう。
なす術がない。
チラリと万城の顔が浮かんだが すぐ消えた。
願いを聞いてくれるほどの関係性ではない。
「 信、結。一旦帰ろう」
「えー まだ見てないよ」
「結、役人の人がいるから見れないよ」
そう言って飛び跳ねている結の手を掴んだ。
でも、どうするんだろう。
捕まえたのはいいけれど 相手はお化け人形だ。
どう決着をつけるんだろう。
多分その時がチャンスだ。
✳✳✳
遅めの朝食をとっていた万城は父上からの命で 本宅である呂俯に赴いていた。
呂布。
それが 父上の名だ。
(普段は、自分の家があるから別に住んでいる)
父上に お茶を入れて出すと 自分の分もついだ。
「竜泉寺で供養するんですか?」
由緒正しいわけでも 徳の高い僧が いるわけでもない。
「だそうだ。 一目見ようと役所に大勢の人が押しかけているそうだから、町の者たちに見れるようにして、安心させたいと考えている」
城主としても 頭の痛い話だ。
人ならば、いくらでも方法がある。
しかし、お化けとなると話は別だ。
供養するために護摩焚きをすることにしたそうだ。確かに、目の前で人形が燃えるのを見れば落ち着きを取り戻すだろう。いくら 役人が処分したと言っても、信じきれないだろうし。
それで一番大きな寺院を選んだのか。
昼前に話がついているところを見るに、竜泉寺の方も利があると受け入れたんだろう。
(参拝者数も増えるでしょうし)
「 本当に動かなくなったんですか?」
「ああ、両手足に釘をつけてあるそうだ」
あそこまで梃子摺らせたのに、あっけない 終わり方だな。一気に茶を飲み干すとトンと置いた。何だか手柄を横取りされた気分になる。
「それで、どうして私を呼び出したんですか?」
庶子の私が表に出るのはおかしい。
「はぁ~」
父上が重い ため息つくと茶碗を置いた。
「厳のやつが怖がって行きたくないと駄々をこねたんだ」
「あっ、ああ……」
城主の父上は 当然 出席する。そうなれば そこは 社交の場。 嫡男である厳が出席しなくてはいけない。しかし、兄の厳は臆病で、痛いのも怖いのも駄目だ。
カエルを投げつけられて気を失ったのは有名な話だ。だからと言って風流でもない。
(絶対 母親のせい。自分が過保護に育てたせいだ)
「堅、頼む」
「分かりました」
泣く子は勝てねい。
嫌がる厳を説得できなかったんだろう。自分が代わりに出席すると知って、歯ぎしりしている姿が目に浮かぶ。今頃ならわた煮えくりかえ
っていることだろう。
ニ日後に父上と同行することになった。
✳✳
春花は "お触れ"を見て目の前が真っ暗になった。公衆の面前で小黒が焼かれる。
タイムリミットは二日。
乱入する?
駄目だ。役人たちがいるからたどり着けない。 私の力ではどうすることも出来ない。だからといって 見殺しにも出来ない。
頼れる人がいない。
頼れるのは自分だけ。その自分は無力。
ここのままで 小黒が死ぬのを待つだけだ。
どうしたらいいんだろう……。
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