春花の開けてはいけない箱の飼育日誌

あべ鈴峰

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六十一日目・阿鼻叫喚

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   初めは 小さな音だった。
逃げる小黒と追う万城と石岳。
ところが 物が割れたり、壊れたり、提灯の明かりが行ったり来たり。次第に人々は目を覚まし始めた。そこへ 役人が登場した。
役人も追いかけっこに加わると、物音も 灯りも10倍になった。
もう無視できないほど騒ぎになっていた。こうなると 人々は外で何が起こっているのか気になりだした。やがて、不安と好奇心から人々は外へと意識を向けた。

   わずかに開けた隙間に家族が群がり、仲間が群がる。小さなおばけ人形が逃げ回る。それを大きな役人たちが追いかける。そんな光景に夢中になっていた。
誰もが窓を開け、戸を開け、鈴なりなりなっていた。そして、それは まるで芝居を見ているように、一喜一憂していた。
そして誰もが、お化け人形が 退治されて、安心安全が戻ってくるのを望んでいた。お化け人形が どんどん追い詰められ始めた。いつしか 人々は固唾を飲んで、その時を待っていた。
そして、その時が来た。
お化け人形に矢が刺さった。
これで誰もが 全てが終わる。
そう思っていた。

**

   矢の勢いに体が持っていかれる。このままでは捕まってしまう。そう 小黒は焦っていたが、こればかりは自分でどうする事も出来ない。されるがままになっていると、ビリビリと不吉な音が頭上から聞こえる。
見上げると首と胴体をつなぐ縫い目のところが裂け始めた。
(これは……幸運か? それとも不運か?)

プツン。

その音と共に人形の胴体だけが急降下する。スパッと、矢が刺さ った人形の頭が近くの建物の壁に突き刺さる。
(嘘っーー!)
数秒差でどさっと胴体が地面に着地した。
ビリビリビリリーン。
足元から衝撃や上へと上がってくる。結構な距離だった。生き霊 なのに体が痛みを感じる。
「ううっ」
唸り声を上げていたが 、ハッとして走り出した。今が逃げるチャンスだ。



   街中の人々が見守る中、タタタタッとお化け人形の胴体だけが 闇へと消えていった。

・・・

 一瞬の静寂。
そして、

ぎゃあああー!

絶叫。その声は皆の希望が打ち砕かれた声だった。ある者は焦点の合わない目で笑いだし、ある者
は 大声で泣き出した。あるもう
は 悲鳴を上げて やみくもに逃げ出し、ある者は口から泡を吹いて気を失った。まさに 阿鼻叫喚と化していた。

***

 まるで地獄絵図。
そんな中 万城は呆然と お化け人形のいなくなった道を見つめていた。いち早く現実に戻った役人たちが、何やら集まって策を練っている。正気を保っていられるのは実際に お化け人形とやり合った
者だけだ。それだけ 一筋縄で行かないと、ある程度予想していたのだ。相手は化け物だ。簡単には行かない。
「万城様……」
気遣うように石岳がそっと声をかけてきた。
( もう疲れた……)
小さくため息をつくと、
「 ご苦労様」
石岳の肩をトントンと叩いて、労った。後は役人たちに任せよう。
きっと退魔用の武器とかがあるだろう。


***

 ぐっすり寝ていた春花だったが、地響きのように聞こえた声に 目を覚ました。嫌な感じが漂っている。信たちを起こさないように外に出ると、大家さん達も外に出ていた。何かあったみたいだ。

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