春花の開けてはいけない箱の飼育日誌

あべ鈴峰

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五十九日目・懸賞金

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   首のちぎれた人形が主を探して毎夜彷徨っている。その噂は あっという間に広がり、たった一夜にして街は恐怖に陥った。  
覚えのある娘たちは怖いと泣き。
子供を持つ親たちは戦々恐々としていた。ある者は倉をひっくり返し、ある者は同じ物を作り、ある者は寺院にお祓いに行った。
誰もが自分では無いという証拠を探していた。

   女の子たちは 泣き続け、 家人たちはガタガタとと震えながら寝ずの番をしていた。 

**

   密かに探そうと思っていた春花と信たちだったが予想外に大事になっていて手が出せないでいた。
春花は 壁に貼られている"お触れ"を見て開いた口がふさがらないでいた。人形に懸賞金をかけてまで探している。それも一枚や二枚じゃない。通りを役人たちが 徒党
を組んで歩き回っている。
どうやら 役人たちも本格的に動き出している。懸賞金目当ての町人と役人がいたるところに出没して、ありとあらゆるものをひっくり返して探しているから、人でごった返していた。

   これでは、私たちが 小黒を見つける前に他の人が見つけ出しそうだ。
「お兄ちゃん。どうする?」
「とりあえず 私たちも探そう」
そう答えると信たちも頷いた。
これなら どんな所にいても 誰も怪しまれない。最悪 捕まったら 牢屋へ迎えに行けばいい。
(拘束されていても抜け出せるし)
大通りまで来たなら 我が家へ向かってたはずだ。だったら、帰り道を順に探せばいい。

**

 万城は石岳から話を聞いて顔を曇らせた。話を聞こうと思ったが 今言ったら日に油だ。
(父上に頼んで 販売台帳を手に入れたのに……)
けれど、このまま何もしないというのは気が収まらない。
懸賞金をかけた家も気になる。
桃花に頼んで 探りを入れてもらおう。

**

   小黒は見つからないし、邪魔者扱いで どこへ行ってもはじき出された。 このままじゃ 疲れるだけだ。休憩しようと茶屋に入るとちょうど 講談師がお化け人形の話をしていた。
「あれって小黒の話?」
「 違うよ」 
「人形を大切になさいって話よ」
店の奥に一段高いところがあり、長机の前に講談師が 扇を広げたり
声音を変えたりしながら、主に会いたい一心で自我の芽生えた人形が旅をする話をしていた。
恐ろしいけれど、主に対する恋しさが溢れていて、健気な人形の話に仕上がっている。
即興で作った割には上出来だ。
その話に涙ぐむ者もいる。
壊れた人形 一つで、ここまで盛り上がってるとは……。
よほど 娯楽に飢えているんだろう。
「信、結。出るよ」
小さく 首を振って店をの外に出た。

**

   一方その頃小黒は いまだに消火用の桶のところに隠れていた。朝、ガタガタと物音に目を覚ますと若い町人の 男が水がめや家の隙間までくまなく何かを探している。
(落し物か?)
その男の視界に入らないように 水瓶を一周してなんとか見つからなかった。男が居なくなってホッと
したのも束の間、次から次へと 人がやってきた。老若男女とバラバラで目的が分からなかった。

  聞き耳を立てて話を総合すると、
俺を探していることが分かった。
これは早々に別のモノに移らないと、 ひどい目に遭いそうだ。
この前はお経で済んだが 火あぶりでもされたら たまったもんじゃない。 そう分かっているのに人が途切れない。これでは何処へも行けない。夜になるのを待つか。

   こうして誰も 小黒を見つけられないまま夜が更けていった。
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