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五十八日目・お化け人形

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   月の代わりに空には提灯がともり、薄暗い明かりが道を照らしていた。小黒は、そっと 物陰から顔を出して辺りを見回した。
右よし、左よし。大丈夫。誰もいない。
スタタッと次の物陰隠れようと走っていると、急に近くの家の扉が開いた。

ヘッ!?

漏れた明かりが スポットライトのように自分を照らす。
ギギッと そちらを向くと、後から人形の首もついてくる。
女の子と目が合った。十歳くらいの子だ。その女の子の目が極限まで大きくなる。息を止めたような口が大きく開いた。

キャー!

   悲鳴を上げて女の子が家の中に戻った。それを見て 小黒は完全に失敗したと落ち込んでいた。
見た時はイケる。
そう思ったのに……。
自分の体を見下ろす。
人型のものに入れば手足が自由に動くから便利だと考えた。
布製というのが多少 心配だった。
実際 動いてみると今までで一番
紙の靴を履いているからか 楽に移動できた。
隠れるのも、音を立てないようにするのも、思うがまま。そのせいで調子に乗ってたんだ。
「はぁ~」
とりあえず逃げよう。
スタタッと修行者みたいに 道を横断していると、ばったり 角から出てきた町娘とぶつかりそうになった。

あっ!

まずいとパタンと倒れて 人形のふりをした。何でこうも人間にぶつかるんだ。沈黙は続く。
・・・
どうだ。 大丈夫なのか?
うつ伏せに倒れたせいで相手の様子が分からない。聞き耳を立てていると足音が近づいてくる。
どうする? 逃げるか? このままじっとしているか? 迷っているうちに 町娘に体をつんつんと指でつつかれた。人形のフリをして動かないでいると、町娘がホッとしたような ため息をついた。
そして 足音が遠ざかっていく。
その音を聞いて こっちも ホッとして 体を起こした。
( バレなかった……)

   こうして見つかったら倒れる を繰り返して 街の中を歩いていた。
人形の首と胴体の隙間から場所を確認しながら 大通り へと向かった。
(ここはどこだ?)
あの建物 見覚えがある。
やっと帰れる。
そう思って通りを歩いていた。
しかし、それがまずかった。
堂々と歩いていた。まだ飲食店の閉店時間じゃなかったから、 人目につきすぎた。犬にも追いかけられて、どんどん遠ざかる。
ここまで来るのに苦労した。
大通りから離れたくない。
なんとか犬を巻いて消火用に積んである桶の後ろに隠れる羽目になった。
あとちょっとなのに……。

***

   机の上に広げた地図には調べた
家にバツがついている。
(思ったより調べられなかった……) 
まだまだ家が残っている。

春花は 昨日の反省も含めて探す方法を変えることにした。
調べる方向を信たちと入れ替えても、二日連続で姿を見られたら 怪しまれる。目をつけられたら二度と立ち入れないかもしれない。
( 泥棒の下見だと思われても困る) 
何か もっともらしい理由がないと、信たちみたいに家人や役人に声をかけられた時 逃げられない。
う~ん。
「お兄ちゃん 。お兄ちゃん」
「大変です」
「どうした?」
朝ごはんの饅頭を買いに行っていた信と結が息を切らして戻ってきた。


「人形のお化け!?」
「うん。きっと小黒だよ」
「そうです。中に入って移動しているんだと思います」
「………」 
目撃者も多いらしいから 確かな話だろう。
小黒なら、やりかねない。
昨夜のことなのにすでに街中でその話で持ちきるらしい。
「 それで捕まったの?」
それなら、それで、助ける方法考えないと。
「 ううん。 犬にかけられて どっか行っちゃったんだって」
(やっぱりかい!!)
心の中で突っ込んだ。本当にトラブルメーカー なんだから。
 「最後に目撃されたのはどこ?」

***

    万城は石岳からの報告を聞きながら 地図に印をつけていた。
印の示す場所は大通り。
最後の目撃情報も 大通りだった。
おばけ 人形は今から七年前に流行ったものらしい。人形を買い求めるのは幼い娘がいる親たちだ。となると 今は十一歳から十二歳までの女の子は人形の持ち主で間違いないだろう。人形の代金を考えると 貴族の令嬢か商家の娘だ。
そして 大通りの近くに家を構えている。その中の一軒が人形の持ち主だ。そこまでは分かったが、その後だ。どうしたものかとトントンと筆の柄で顎を叩く。
私では 手詰まりだ。
成人前の女子とは会うことは ままならない。

嘘が一人歩きして金持ちのドラ息子と思われているから断られに決まっている。
う~ん。

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