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五十六日目・新しい入れ物

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   脱出するのに成功したことは したのだが、早くも ピンチを迎えていた。
腹は減ったし 箱は壊れそうだし。
これ以上進むのはもう無理だ。 
屋敷を出たことを 早まったかと、後悔したが もうどうすることもできない。小黒は草むらの隅に隠れて、行き交う人を見ながしていた。
(どうすかなぁ~)
自分ですら何処にいるか分からないんだから、春花たちが俺を見つけるのは期待できない。
自力で どうにかするしかしない。
だったら 夜に紛れて行動しよう。

***

 春花は 信たちと卓上に広げた地図を見ながら、小黒をどうやって探すか 話し合っていた。
「私が思うに 小黒が勝手に 仏像から出たんだと思う」
(余計な事はせず、おとなしく待ってれば良いものを……)
「賛成です」
「結もそう思う」
他の人が仏像の中に小黒が入っていることに気づいたなら大騒ぎになっているはずだ。万城が  何処かの家から引き取ってきたんだから、探すのは貴族街だ。どの家から探したらいいのか。
(こんなことなら 詳しく聞いておけばよかった……)
軒数としては少ないけど、一軒一軒の敷地が広いから見て回るのに時間がかかる。
それに 目立たないよ 移動してるから 目撃情報もないだろう。
「仏像が、ここにあるってことは他の入れ物に入っているんですよね?」
「そうね」
 つまり 箱 もしくはそれに準ずる入れ物、壺とかに入ってるかもしれない。しらみつぶしに探すしかない。
「二人とも、今から言うことに気をつけて探して」
「はい」
「屋敷まわりの草むらや ゴミ置き場……とにかく身を潜めそうな場所を探して」
「分かりました」
「うん」
早速出と出て行こうとする 二人で呼び止めた。
「見つからなくても、暗くなったら帰ってくるのよ」


***

(まずいな……)
箱がそろそろ 壊れそうだ。
裸のままで大丈夫なんだろうか?
今まで箱の外から出たことがない。 もしかしたら 形を保てないかもしれない。初めてのことで不安だ。もし体が消滅したら。
そう考えると怖くなる。
長く生きてきた。だけど一度たりとも箱から出たことがない。
ただ暗いところで、一人 寂しく眠っていただけだ。だけど、春花と旅に出て、この世界に俺の知らないことや、食べたことのない物で溢れていた。
信たちと出会って、春花以外にも 俺と仲良くしてくれる人間がいると知った。
まだ死にたくない。
やりたいことがある。
だからここで諦めたくない。
まずは箱が壊れる前に、次に体を入れる物を探そう。

***

   信たちは西から 私は東から探すことにした。貴族街に来たが 門の前は綺麗にしていて、ゴミの一つも落ちてない。 開けた人通りがある場所にはいない。
もっと 人通りの少ない 暗い場所を探さないと駄目だ。
そう考えて建物の裏手に回った。
雑草が生えてる。家によってはゴミを捨て場になっていたりするところもある。
「小黒…… 小黒……」
名前を呼んでも返事がない。
戸が閉まらない壊れた家具、欠けた食器、 片方しかない靴、墨のついた着物。首がもぎれた人形。
エトセトラ。
手近にあったホウキの柄で、つつきまわしたが 何の反応もない 。
ここにはいないようだ。

***

   信は結と早足で歩いていた。
子供二人で歩いていると、大人たちの 注目を浴びる。あるものは不審がり、あるものは心配して。
これではゆっくり見て回ることもできない。
声をかけられたら最後だ。
いろいろ聞かれて 役人に突き出される。
「お兄ちゃん」
妹の声に振り向くと奥のどん詰まりの場所を指さしていた。 
隙間があった。
隣の塀をそのまま自分の家の塀にしている家も多い。そのせいで小黒が隠れていそうな場所がなかなか見つからなかった。

   草の根をかき分けて 小黒を探していた信は 額の汗を拭う。
ここは外れだ。草がいっぱい生えているだけだ。もし 小黒が通ったなら 草が倒れてるはずだ。 
ここにはそれが無い。
「結、別の場所を探そう」
「うん」
奥を探していた結が戻ってきた。通りへ出ようと結と手をつないだ、その時、
「お前たち ここで何をしている?」
大人の男の声に顔をあげると怖そうな中年の男の人が立っていた。

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