春花の開けてはいけない箱の飼育日誌

あべ鈴峰

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四十九日目・空き巣

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   小黒のおもり ばかりでは、かわいそうだと今日は結と一緒に 森へ来ていた。
(小黒にも一人の時間が必要だろう)
「ふ~ん。それで絵を描いて
るんだ」
「そうよ」
道々、自分がどうして この地に来たのか、その目的ともうすぐ帰る ということを伝えた。
帰らないでと ぐずるかと思っていたが、案外 カラッとしている。
ちょっと寂しいが 泣かれるよりはマシだ。そう思ってると結が弾む
声で 何か指さした。
「見て、綺麗な花」
結が 見つけたのは芍薬だった。
観賞用として栽培されることが多いから 自生してるのは珍しい。
『 立てば芍薬、座れば牡丹。
歩く姿は百合の花』という言葉があるが、生薬としても 広く使われている。
(根を乾燥したものが、鎮痙、鎮痛に効果がある)
牡丹科の多年草。東部が原産。茎は六十センチ。葉は互生し、光沢がある。春、茎頭に萼弁 五枚、花弁十枚の紅、白 または 黄色の大型の美花を咲かせる。
「この花も薬になるの?」
「もちろんなるよ」
「そうなんだ。じゃあ この草は?」
そう言って隣に生えている 下草を指さした。
「それはただの雑草」
違うと首を振る。
その後も、あれはどうだ、これはどうだと ずっと質問してきた。
煩わしいが その可愛らしい姿に相手をしてしまう。妹がいたらこんな感じなのかもしれない。
私にも兄妹がいれば楽しかっただろうに……。
香玉とは 姉妹のように育ったが、どちらかというと友達に近い。


   帰る途中 食べられる山菜を見つけ晩御飯のたしにと摘んで 帰ることにした。昨日と今日では 天国と地獄 くらい差のある食卓になりそうだ。帰ると先に帰っていた信が私たちの姿を見つけると 駆け寄ってきて荷物を持ってくれる。
「おかえりなさい 」
「ただいま」
「早かったのね」
「今さっき帰ってきたところです」

   結と一緒に手を洗っていると信
が妹の手を取って洗い出した。
( まるで お母さんみたいだ)
「結、いいい子にしてたか?」
「うん」
「本当か?」
「本当だよ」
信が 妹の手を拭きながら 怪しむように 念押ししてくる。
話に入ってこない小黒に どうしたのかと見ると蓋が閉まったままだ。 




   心配性の信が必要に確認している。
「ふぅ~」
ここまでしつこいと、さすがに同情する。
「はい、はい、そこまで。二人とも晩御飯のお手伝いして」
「はい」
「うん」
米を研いでいる間 結はびしょびしょになりながら 今日採ってきた山菜を洗い。信が慣れぬ手つきで豆腐を切っている。
そんな二人を見ているとほっこりする。暖かい光景だ。
まるで家族のようだ。
そういえば 小黒は?
振り返って様子を見るが静かなままだ。寝てる!? 珍しいことだ。



   食事も終わり お茶を飲んでいると、ずっと黙っていた小黒が
急に喋り出した。みんなが小黒に注目する。
「あのさ、 話があるんだけど……」
そして 小黒が今日の出来事を話し出した。


   
   小黒の話を聞いて首をひねる。
「空き巣が入ったの?」
「そうだ」
「でも 、金目のものなんて……」
嘘だとは思わないけど……。
「仏像は拾って来たものなのに、何でそんなもの持って行くんでしょう」
(あっ!)
何気なく口にした信の言葉が答え導いた。信も空き巣の本当の目的に気づいたようで私を見る。そうだとこくりと頷いた。
私たちにとっては ガラクタだ。
空き巣に取っては奇術を見せる仏像だ。
(これは大変なことになった)
犯人はきっと 万城に呼ばれた 客か、その話を聞いた者だろう。 


   今後について話し合うことにした。でもその前に しておくことがある。 
「もう一度 仏像を手に入れよう」
「えっ?」
「なんで?」
「きっと本物があると思ってまた探しに来るからよ」
中身がないんだから奇術は使えない。偽物だということはすぐばれる。そうなったら また来る。
無かったら腹いせに物を壊されるかもしれない。その場に私たちが
居合わせたら本物を出せと脅されたり、怪我をさせたりするかもしれない。
その光景が目に浮かぶ。
貴族は思うようにならないとすぐ暴力を振るう。
ちょっと待って!
でも、これは……。
奇術の仕事から抜け出せるチャンスだ。 盗まれたと大騒ぎすれば、もう奇術を見せろと言われなくなる。
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