春花の開けてはいけない箱の飼育日誌

あべ鈴峰

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四十三日目・銀万城

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   いよいよ 当日になった。
まるで戦に行くようなほど静かな食卓。そういう私も緊張している。
( どうか 上手くいきますように)
 そんな気持ちで信に小黒の入った
仏像を背負わせると、三人を送り出す。
「 ……… 」
 私もこうしてはいられない。
大急ぎで 自分も準備をする。
久々に男装を止めた。輩たちから警戒されないためにも 女の方がいい。 最後に鼻の横に目立つ黒子
を書く。こうすれば 醜女に見える。何より、黒子に目がいって顔を覚えづらい。


   三人は大通りの中ほどにある うどん屋に向かって歩いていた。
(追い付いた……)
つかず離れず自分もついていく。
すると、信たちの姿に気づいた 例の輩が、まるで親戚の子を迎えるかのように立ち上がって手を振っている。それとは対称的に結が男を見て信の後ろに隠れた。本人で間違いないようだ。
「 おー 、来た来た」
図体がだけが大きくなった子供みたいな男だ。機嫌を損ねなければ大丈夫だろう。
ずっと待ってたらしく卓の上には皿が積んである。
相手の素性を探ろうと春花は 近くの屋台の店主に質問した。
「あの男の人は誰ですか?」
「えっ?」 
何か話をしている三人を指さす。
「あの子供と一緒にいる人です」
「あー 銀万城の手下の石岳だよ」
「銀万城!?」
たいそうな名前だ。 役者だって つけない。派手すぎる。
「本名は違うよ。通り名だよ」
驚く 私を見て店主が慌てて否定する。その姿に眉をひそめる。
ただの輩の頭ではないのかな?
「じゃあ この辺りを取り仕切って
るんですか?」
「 違う違う 」
 メカジメ料で生計を立てているということ?
店主が顔の前で手を振る。
「城主の妾の子の一人だよ」
「あぁ~」
金持ちの厄介者か。
どうりで店主の様子が変だった。輩よりタチが悪い相手だ。
親が権力者だから 自分も偉いと勘違いしやりたい放題してるんだ。

   石岳を使いに使うようだから たいした男ではなさそうだ。
使いは主の顔とも言える。
まあ、そういうことなら 対処法は簡単だ。ピンチになったら親に言い付けてやると言えばいい。 親のすねをかじって生活してるんだから 頭が上がらないだろう。
親が 命綱だから悪いことをしていると、耳に入ることが一番恐れる。しかも 相手は子供。
城主としても 息子が貧乏な子供から 食べ物を奪った。
世間体を気にするから、そんな噂は困るだろう。

   信が石岳の視線を遮るように結を後ろに隠す。
「俺一人で大丈夫なんで、妹は置いて行っていいですか?」
「んー」 
危険だと 思ってる様子だ。だから信は どうしても妹を守りたいようだ。それも分かる。初対面の人間的を警戒するのは当たり前だ。
石岳が顎を手にやって考え込んでいる。その目が どうしようかと信の後ろを覗き込む。すると、更に結が信の背中に顔を隠した。
随分 怖かってる。物の怪は平気なのに目も合わせられない。
……決め手は見た目?
確かに 小黒の怖さはゼロだ。

「妹は人見知りなので、新しいところに連れて行きたくないんです」
「んーー」 
そう言っても石岳は決めかねている。自分では判断がつかない様子だ。
「妹は泣き虫なんで、泣かれると困るかと」
「分かった」 
信が言葉を重ねると、やっと石岳が頷いた。泣き虫というのが効いたらしい。

   二人の姿が小さくなったから大丈夫だろう。
何度も振り返って手を振る兄を見送っている結に声をかけた。
「結」
振り返った結が目をまん丸にして、私を上から下まで何度も見返す。
「楽……お兄ちゃん!?  その格好……」
「説明は後」
見失っては困る 。
そう言って結の手を引く。

石岳は大男だからすぐ見つかった。二人は大通りを抜けて 貴族の住まいの方へ向かっているり
( 銀万城は城主のお気に入りなのかな?)
貴族の住まいを庶民は通らないから、こういう人通りが少ない。
だから、居はできない。庶民がウロウロしたら目立つ。
貴族に目をつけられたら最悪だ。
なんとか避けたい。
二 人が入っているのを見届けたら、 一度帰ろう。

   信たちが入ったのは大きな屋敷だった。劉家に住んでなかったら驚いただろう。終わりが見えない塀。これでは 助けにいくのも難しいかもしれない。
( ……… )


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