春花の開けてはいけない箱の飼育日誌

あべ鈴峰

文字の大きさ
上 下
44 / 93

四十一日目・どんな相手なのか

しおりを挟む
   春花は 今日も頑張ったと額の汗を拭う。
「ふぅ~」
時間を気にせず働けるのは いい。
いつもより仕事がはかどった。
やっぱり無意識に 小黒のご飯のことがあるから 早く帰らなくちゃって思ってたのかもしれない。
だけど これで予定通り 終わらせられそうだ。信と結に感謝だ。 

   家が見えてきた。
家に明かりがついている。この感じなんだか 久しぶり。
(いつも真っ暗な家に帰ってきたから)
誰かが待ってるっていいな。
「たっ だいまー!」
元気よく 扉を開けた。が 、なぜかお通夜みたいに暗い。
「なっ何!?」
さっきまでのウキウキしてたのに気分が消えて行く。
元気のない顔で みんながこっちを見る。この暗さは何?
「おかえりなさい……」
「おかえり……」
小黒が 真面目な顔で近付いて来る。
「あのさ 話があるんだ」
 嫌な予感に仰け反る。

 

   小黒から大通りの件を聞いた食卓は、今や どんよりしていた。
せっかく作った料理も ただ冷めていくのをなんとなく見ているだけだ。誰も箸が動かない。
(そんなことが あったなんて……)
大通りには行くなと、注意しろと言っていたのに……。
私も こんなに早く そういう相手に遭遇するとは思わなかった。
どうして通ったんだと怒りたいところだが、結に小黒のこもりにさせたのは私だ。
ああでもない、こうでもないと考えても起こってしまったんだから
仕方ない。
でもなんとかしないと……。
話を聞く限り良家の使用人ではなさそうだ。そうなると頭が痛い。



   二人の証言をもとに 似顔絵を書いてみた。
「楽 兄ちゃん、絵うまい」
「そう思います」
『そうだろう。取り柄はそれだけ だけどな』
自慢したいのか 落としたいのか ドヤ顔の小黒を見てやれやれ と首を振る。
「どう? 誰だかわかるか」
「いいえ」
困ったな……。相手が誰か知りたかったんだけど。
『バックレるか?』
「「 それは絶対ダメ!!」」 
小黒の発言に信と声を揃えて反対する。何より 行かないという選択肢がない。
輩との約束を反故にするなど 死ぬようなものだ。相手には仲間がいるんだから 下手に逃げ回ると追いかけ回される。今夜中に逃げるならともかく。それは無理だ。 
「 明日行かないとダメ。 お兄ちゃん」
「 ……… 」
結が行きたくないと兄の袖を引っ張る。今にも泣きそうな顔をしている。過保護の兄の庇護の元生活してたから、 よほど怖かったんだろう。一緒にいたのが 小黒では しゃべる以外何もできないんだから、誰かを守るなど無理なことだ。
「約束したんだから、守らないと」
「 ……… 」
諭すように信が結の頭をなでる。
結にとって信は父でもあり 母でもあるんだ。それでも結は元気なく 俯いている。

「心配するな。お兄ちゃんが何とかする」
「 ……… 」
「今まで お兄ちゃんが嘘ついたことないだろう?」
「 ……… 」
「信じられないのか?」
「そんなことない」
「 大丈夫。 明日はお兄ちゃんも一緒だから 」
コクリと結首を縦に振る。
そこには兄に対する絶対的な信頼がある。

  そうは言っても信もまだ子供だ。大人の私が力を貸さないと。
「明日は行かないとダメだと思う」
 「僕もそう思います」
どういう輩か分かればいいんだけど……。それが分かるだけで 対処法が変わる。
ただのごろつきなら 力でねじ伏せる。窃盗 集団なら金を払う。
縄張りにしてヤクザなら 義理に訴える。てな具合に。
だけど、信も知らないんだ。ただの旅人の私たちじゃ、この土地の事情が知りようがない。
「じゃあ明日は、結が声をかけられたところに行って」
「妹を置いて行きたいいんですけど」

   信が話を遮ってきた。信にとってそれが一番重要なことなのだろう。しかし、肝心の結が嫌がった。
「やだ。結も一緒に行く」
「駄目だ。 お前はお留守番」
怖い大人に会うことより、兄と離れることの方が怖いんだ。
きっと、幼心に兄の身を案じでいるんだろう。
「嫌だ! 嫌だ」
「 ……… 」
地団駄を踏んで嫌がる結を前に信
が口を引き結ぶ。それは私も同じ。なんとか説得したい。
だけど、結も頑なだ。

「はぁ~」
ホントに相手が誰たが知りたい。
私の予想ではそんな、勝手な事をするのは相手をごろつき。
どうせ 女の気を引こうとしてるだけなんだ。そんなクソみたいな理由だ。父さんと旅している時 腐るほど見てきた。
どいつも こいつも 自分の自尊心を満足させたいだけだ。

気に触ったら暴力を振るわれるのは確定だ。だけど、反抗しなければ相手は子供だ。どつかれるぐらいで済む。 私が一緒に行けば それも回避できる。問題は奇術を見せる場所だ。雰囲気からして、どこか別の場所で奇術を見せることになる。
小黒だけなら出たとこ勝負でいいけど。信はそうはいかない。
小黒の事を聞かれるかもしれない。その辺も考えないと……。
出所を聞かれたら古寺で拾ったことにすればいい。
ちょっと調べれば二人が 暮らしていたことは みんなが知っていることだから 信じるだろう。

   やることも考えることも いっぱいある。こんなところで時間を無駄に出来ない。
「行くのは信と小黒にしよう」
私を見たみんなが 何か言いたそうに口を開く。そんな、みんなに 向かって 早口で続きを言う。
「結と私は 万が一に備えて後ろをついていく」
その返事に みんなが満足した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

スナイパー令嬢戦記〜お母様からもらった"ボルトアクションライフル"が普通のマスケットの倍以上の射程があるんですけど〜

シャチ
ファンタジー
タリム復興期を読んでいただくと、なんでミリアのお母さんがぶっ飛んでいるのかがわかります。 アルミナ王国とディクトシス帝国の間では、たびたび戦争が起こる。 前回の戦争ではオリーブオイルの栽培地を欲した帝国がアルミナ王国へと戦争を仕掛けた。 一時はアルミナ王国の一部地域を掌握した帝国であったが、王国側のなりふり構わぬ反撃により戦線は膠着し、一部国境線未確定地域を残して停戦した。 そして20年あまりの時が過ぎた今、皇帝マーダ・マトモアの崩御による帝国の皇位継承権争いから、手柄を欲した時の第二皇子イビリ・ターオス・ディクトシスは軍勢を率いてアルミナ王国への宣戦布告を行った。 砂糖戦争と後に呼ばれるこの戦争において、両国に恐怖を植え付けた一人の令嬢がいる。 彼女の名はミリア・タリム 子爵令嬢である彼女に戦後ついた異名は「狙撃令嬢」 542人の帝国将兵を死傷させた狙撃の天才 そして戦中は、帝国からは死神と恐れられた存在。 このお話は、ミリア・タリムとそのお付きのメイド、ルーナの戦いの記録である。 他サイトに掲載したものと同じ内容となります。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

前世を思い出しました。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。

棚から現ナマ
恋愛
前世を思い出したフィオナは、今までの自分の所業に、恥ずかしすぎて身もだえてしまう。自分は痛い女だったのだ。いままでの黒歴史から目を背けたい。黒歴史を思い出したくない。黒歴史関係の人々と接触したくない。 これからは、まっとうに地味に生きていきたいの。 それなのに、王子様や公爵令嬢、王子の側近と今まで迷惑をかけてきた人たちが向こうからやって来る。何でぇ?ほっといて下さい。お願いします。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

ドマゾネスの掟 ~ドMな褐色少女は僕に責められたがっている~

ファンタジー
探検家の主人公は伝説の部族ドマゾネスを探すために密林の奥へ進むが道に迷ってしまう。 そんな彼をドマゾネスの少女カリナが発見してドマゾネスの村に連れていく。 そして、目覚めた彼はドマゾネスたちから歓迎され、子種を求められるのだった。

処理中です...