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三十七日目・餅の物の怪
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食事をしながら二人と仲良くなって小黒の正体と、今後について話そうと思ったのに。すでに二人は、小黒をペットだと決めつけているみたいだ。
( 困ったな……)
そんな可愛いものじゃないんだけど……。ポリポリと頭をかく。
仕方ない。あとは 食事をしながら様子を見て 話を切り出そう。
「さあ、冷めないうちに食事に
しょう」
「は~い」
「はい」
「じゃあ 手を洗ってきて」
素直に二人が井戸に向かう。そんな後ろ姿を見送ると、その視線を
小黒に向ける。静かにしている。きっと、箱の中で渋面していることだろう。自業自得だ。
料理は概ね好評のようだ。減っていくおかずを見て笑顔になる。
(麺よりご飯の方が好きなのね)
食
が進むにつれ話も弾んだ。
兄の名前は 「信」、妹の方は「結」。
名は体を表すじゃないけど 、ぴったりの名前だ。
兄は慎重で心配性。そんな性格では妹に 留守番をさせて自分だけ仕事には行けない。
妹は好奇心旺盛。簡単に小黒の話しに乗ったのも頷ける。兄は妹に弱いものだ 。
「じゃあ、二人は村を出て ずっと 物乞いして暮らしてたのね 」
「うん 」
「そうです」
二人には真っ当な生活を送ってほしい。 楽して稼ぐことを覚えるとろくな人間にはならない。
だけど、いきなり 小黒との縁を切れ (奇術 駄目)と言っても生活がかかっているから、"はいそうですか" とはいかないだろう……。
やはり小黒の正体を教えて 続けられないと納得してもらおう。
びっくりさせることになるけど、そうでもしないと無理だ。
*****
信はそれとなく小黒をさっきから探していた。食事にさそったのに 同席しないのもおかしいし、紹介してくれないのもおかしい。
ご飯の匂いがしてるのに出てくるけはいがない。
(食い意地が張ってると思ってたけど……)
飼い主に気を使ってるのかな?
ちらりとしせんを向ける。女みたいな優男だ。こういうタイプは切れると怖い。だからかな!?
エサを食べる 皿も見当たらない。外で呼ばれるのを待ってるのか? 厳しそうな飼い主には見えないけど……。ハシですくうたびに 小さく切れていく麺がどんぶりの表面に浮かんでいく。
( これって実は、すいとんなのか!?)
食後のお茶の時間になった。
これ以上 引き伸ばすのは無理だ。
う~ん。
先に話すか、小黒を先に見せるか、どっちの方がいいかな?
悩む……。
信も、結も、菓子を食べながら キョロキョロしている。焦らすのもここまでだ。
先に小黒を紹介した方が良さそうだ。立ち上がると小黒が入った箱を卓の上乗せた。小さな箱の登場に二人が興味を示す。
『 これ何?』
『知らないよ』
二人が ひそひそと喋りだす。
そうだよね。気になるよね。
『もしかして、この箱に入ってるのかな?』
『それにしても小さいぞ』
『子猫だからだよ』
『だからって、こんな箱に入れるか?』
「小黒、出て来て」
「………」
「………」
しかし、出て来ない。
コンコン
箱を叩いて 催促するが出てこない 。出たくない その気持ちは分かるけど、元はといえば自分が蒔いた種だ。
「出てきないってら!」
二人が身を乗り出す。
こうなったら、蓋を開けようとしたが貼り付いたみたいに開かない。
*****
蓋の隙間から二人を見たが、よくいる貧乏人の子供だ。こんな子供を自分の欲のために利用したのかと思うと反省した。だけど表に出たくない。食べ物のいい匂いを嗅ぎながらも我慢した。
名前呼ばれて いざ 対面すると思ったとたん怖じ気づいてしまった。
「 出てきなさいったら!」
春花が蓋を開けようとするの全力で阻止する。蓋を開けるために必要な隙間を体を使って塞ぐ。
*****
「小黒!」
ベシッと 箱を叩く。
この期に及んで 隠れようとするなんて本当に無責任なやつだ。
睨みつけていると、
「あの……この中に入ってるんですか?」
「そうよ」
二人が顔を見合わせる。
それ以外は考えてなかったみたいね。
「小黒は犬でも猫でもないのよ」
「 じゃあネズミですか?」
嫌そうな顔で信が聞いて来る。
「違うわ」
「 小鳥?」
「 違う」
「ヘビ?」
「 違う」
「虫ですか?」
「 違う」
「魚だ!」
「 違う」
二人が次々と生き物の名前をあげる。 そのことが不憫だ。
「 ………」
「……… 」
答えが尽きたのか 二人が黙って首をひねっている。
「この中に入ってるのは生き物じゃないのよ」
「えっ!?」
「じゃ、じゃあ何ですか?」
二人がまじまじと私を見つめる。兄の信は ごくりと唾を飲み込む。
妹の結が 胸の前で手を組む。
生き霊と言ってもいいが、実態があるから嘘だと思われるかも。
だったら……。
「物の怪よ」
「えっ!?」
「ええー!」
信が真っ青な顔になり、妹の結は頬を紅潮させた。
「なっ、何の物の怪ですか ?」
「餅よ」
( 困ったな……)
そんな可愛いものじゃないんだけど……。ポリポリと頭をかく。
仕方ない。あとは 食事をしながら様子を見て 話を切り出そう。
「さあ、冷めないうちに食事に
しょう」
「は~い」
「はい」
「じゃあ 手を洗ってきて」
素直に二人が井戸に向かう。そんな後ろ姿を見送ると、その視線を
小黒に向ける。静かにしている。きっと、箱の中で渋面していることだろう。自業自得だ。
料理は概ね好評のようだ。減っていくおかずを見て笑顔になる。
(麺よりご飯の方が好きなのね)
食
が進むにつれ話も弾んだ。
兄の名前は 「信」、妹の方は「結」。
名は体を表すじゃないけど 、ぴったりの名前だ。
兄は慎重で心配性。そんな性格では妹に 留守番をさせて自分だけ仕事には行けない。
妹は好奇心旺盛。簡単に小黒の話しに乗ったのも頷ける。兄は妹に弱いものだ 。
「じゃあ、二人は村を出て ずっと 物乞いして暮らしてたのね 」
「うん 」
「そうです」
二人には真っ当な生活を送ってほしい。 楽して稼ぐことを覚えるとろくな人間にはならない。
だけど、いきなり 小黒との縁を切れ (奇術 駄目)と言っても生活がかかっているから、"はいそうですか" とはいかないだろう……。
やはり小黒の正体を教えて 続けられないと納得してもらおう。
びっくりさせることになるけど、そうでもしないと無理だ。
*****
信はそれとなく小黒をさっきから探していた。食事にさそったのに 同席しないのもおかしいし、紹介してくれないのもおかしい。
ご飯の匂いがしてるのに出てくるけはいがない。
(食い意地が張ってると思ってたけど……)
飼い主に気を使ってるのかな?
ちらりとしせんを向ける。女みたいな優男だ。こういうタイプは切れると怖い。だからかな!?
エサを食べる 皿も見当たらない。外で呼ばれるのを待ってるのか? 厳しそうな飼い主には見えないけど……。ハシですくうたびに 小さく切れていく麺がどんぶりの表面に浮かんでいく。
( これって実は、すいとんなのか!?)
食後のお茶の時間になった。
これ以上 引き伸ばすのは無理だ。
う~ん。
先に話すか、小黒を先に見せるか、どっちの方がいいかな?
悩む……。
信も、結も、菓子を食べながら キョロキョロしている。焦らすのもここまでだ。
先に小黒を紹介した方が良さそうだ。立ち上がると小黒が入った箱を卓の上乗せた。小さな箱の登場に二人が興味を示す。
『 これ何?』
『知らないよ』
二人が ひそひそと喋りだす。
そうだよね。気になるよね。
『もしかして、この箱に入ってるのかな?』
『それにしても小さいぞ』
『子猫だからだよ』
『だからって、こんな箱に入れるか?』
「小黒、出て来て」
「………」
「………」
しかし、出て来ない。
コンコン
箱を叩いて 催促するが出てこない 。出たくない その気持ちは分かるけど、元はといえば自分が蒔いた種だ。
「出てきないってら!」
二人が身を乗り出す。
こうなったら、蓋を開けようとしたが貼り付いたみたいに開かない。
*****
蓋の隙間から二人を見たが、よくいる貧乏人の子供だ。こんな子供を自分の欲のために利用したのかと思うと反省した。だけど表に出たくない。食べ物のいい匂いを嗅ぎながらも我慢した。
名前呼ばれて いざ 対面すると思ったとたん怖じ気づいてしまった。
「 出てきなさいったら!」
春花が蓋を開けようとするの全力で阻止する。蓋を開けるために必要な隙間を体を使って塞ぐ。
*****
「小黒!」
ベシッと 箱を叩く。
この期に及んで 隠れようとするなんて本当に無責任なやつだ。
睨みつけていると、
「あの……この中に入ってるんですか?」
「そうよ」
二人が顔を見合わせる。
それ以外は考えてなかったみたいね。
「小黒は犬でも猫でもないのよ」
「 じゃあネズミですか?」
嫌そうな顔で信が聞いて来る。
「違うわ」
「 小鳥?」
「 違う」
「ヘビ?」
「 違う」
「虫ですか?」
「 違う」
「魚だ!」
「 違う」
二人が次々と生き物の名前をあげる。 そのことが不憫だ。
「 ………」
「……… 」
答えが尽きたのか 二人が黙って首をひねっている。
「この中に入ってるのは生き物じゃないのよ」
「えっ!?」
「じゃ、じゃあ何ですか?」
二人がまじまじと私を見つめる。兄の信は ごくりと唾を飲み込む。
妹の結が 胸の前で手を組む。
生き霊と言ってもいいが、実態があるから嘘だと思われるかも。
だったら……。
「物の怪よ」
「えっ!?」
「ええー!」
信が真っ青な顔になり、妹の結は頬を紅潮させた。
「なっ、何の物の怪ですか ?」
「餅よ」
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