春花の開けてはいけない箱の飼育日誌

あべ鈴峰

文字の大きさ
上 下
40 / 93

三十七日目・餅の物の怪

しおりを挟む
   食事をしながら二人と仲良くなって小黒の正体と、今後について話そうと思ったのに。すでに二人は、小黒をペットだと決めつけているみたいだ。
( 困ったな……)
そんな可愛いものじゃないんだけど……。ポリポリと頭をかく。

   仕方ない。あとは 食事をしながら様子を見て 話を切り出そう。
「さあ、冷めないうちに食事に
しょう」
「は~い」
「はい」
「じゃあ 手を洗ってきて」
素直に二人が井戸に向かう。そんな後ろ姿を見送ると、その視線を 
小黒に向ける。静かにしている。きっと、箱の中で渋面していることだろう。自業自得だ。


    料理は概ね好評のようだ。減っていくおかずを見て笑顔になる。
(麺よりご飯の方が好きなのね)

が進むにつれ話も弾んだ。
兄の名前は 「信」、妹の方は「結」。
名は体を表すじゃないけど 、ぴったりの名前だ。
兄は慎重で心配性。そんな性格では妹に 留守番をさせて自分だけ仕事には行けない。
妹は好奇心旺盛。簡単に小黒の話しに乗ったのも頷ける。兄は妹に弱いものだ 。

   「じゃあ、二人は村を出て ずっと 物乞いして暮らしてたのね 」
「うん 」
「そうです」
 二人には真っ当な生活を送ってほしい。 楽して稼ぐことを覚えるとろくな人間にはならない。 
だけど、いきなり 小黒との縁を切れ (奇術 駄目)と言っても生活がかかっているから、"はいそうですか" とはいかないだろう……。
やはり小黒の正体を教えて 続けられないと納得してもらおう。
びっくりさせることになるけど、そうでもしないと無理だ。

*****

   信はそれとなく小黒をさっきから探していた。食事にさそったのに 同席しないのもおかしいし、紹介してくれないのもおかしい。
ご飯の匂いがしてるのに出てくるけはいがない。
(食い意地が張ってると思ってたけど……)
飼い主に気を使ってるのかな?
ちらりとしせんを向ける。女みたいな優男だ。こういうタイプは切れると怖い。だからかな!?
エサを食べる 皿も見当たらない。外で呼ばれるのを待ってるのか?   厳しそうな飼い主には見えないけど……。ハシですくうたびに 小さく切れていく麺がどんぶりの表面に浮かんでいく。
( これって実は、すいとんなのか!?)


    食後のお茶の時間になった。
これ以上 引き伸ばすのは無理だ。
う~ん。
先に話すか、小黒を先に見せるか、どっちの方がいいかな?
悩む……。
信も、結も、菓子を食べながら キョロキョロしている。焦らすのもここまでだ。
先に小黒を紹介した方が良さそうだ。立ち上がると小黒が入った箱を卓の上乗せた。小さな箱の登場に二人が興味を示す。
『 これ何?』
『知らないよ』
二人が ひそひそと喋りだす。
そうだよね。気になるよね。
『もしかして、この箱に入ってるのかな?』
『それにしても小さいぞ』
『子猫だからだよ』
『だからって、こんな箱に入れるか?』
「小黒、出て来て」 
「………」
「………」
しかし、出て来ない。

コンコン

箱を叩いて 催促するが出てこない 。出たくない その気持ちは分かるけど、元はといえば自分が蒔いた種だ。
「出てきないってら!」
 二人が身を乗り出す。
こうなったら、蓋を開けようとしたが貼り付いたみたいに開かない。

*****

蓋の隙間から二人を見たが、よくいる貧乏人の子供だ。こんな子供を自分の欲のために利用したのかと思うと反省した。だけど表に出たくない。食べ物のいい匂いを嗅ぎながらも我慢した。 
名前呼ばれて いざ 対面すると思ったとたん怖じ気づいてしまった。
「 出てきなさいったら!」
春花が蓋を開けようとするの全力で阻止する。蓋を開けるために必要な隙間を体を使って塞ぐ。


*****

     「小黒!」
ベシッと 箱を叩く。
この期に及んで 隠れようとするなんて本当に無責任なやつだ。
睨みつけていると、
「あの……この中に入ってるんですか?」
「そうよ」
二人が顔を見合わせる。
それ以外は考えてなかったみたいね。
「小黒は犬でも猫でもないのよ」
「 じゃあネズミですか?」
嫌そうな顔で信が聞いて来る。
「違うわ」
「 小鳥?」
「 違う」
「ヘビ?」 
「 違う」
「虫ですか?」
「 違う」
「魚だ!」
「 違う」
二人が次々と生き物の名前をあげる。 そのことが不憫だ。
「 ………」
「……… 」
答えが尽きたのか 二人が黙って首をひねっている。
「この中に入ってるのは生き物じゃないのよ」
「えっ!?」 
「じゃ、じゃあ何ですか?」
二人がまじまじと私を見つめる。兄の信は ごくりと唾を飲み込む。
妹の結が 胸の前で手を組む。
生き霊と言ってもいいが、実態があるから嘘だと思われるかも。
だったら……。
「物の怪よ」
「えっ!?」 
「ええー!」
信が真っ青な顔になり、妹の結は頬を紅潮させた。
「なっ、何の物の怪ですか ?」
「餅よ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

スナイパー令嬢戦記〜お母様からもらった"ボルトアクションライフル"が普通のマスケットの倍以上の射程があるんですけど〜

シャチ
ファンタジー
タリム復興期を読んでいただくと、なんでミリアのお母さんがぶっ飛んでいるのかがわかります。 アルミナ王国とディクトシス帝国の間では、たびたび戦争が起こる。 前回の戦争ではオリーブオイルの栽培地を欲した帝国がアルミナ王国へと戦争を仕掛けた。 一時はアルミナ王国の一部地域を掌握した帝国であったが、王国側のなりふり構わぬ反撃により戦線は膠着し、一部国境線未確定地域を残して停戦した。 そして20年あまりの時が過ぎた今、皇帝マーダ・マトモアの崩御による帝国の皇位継承権争いから、手柄を欲した時の第二皇子イビリ・ターオス・ディクトシスは軍勢を率いてアルミナ王国への宣戦布告を行った。 砂糖戦争と後に呼ばれるこの戦争において、両国に恐怖を植え付けた一人の令嬢がいる。 彼女の名はミリア・タリム 子爵令嬢である彼女に戦後ついた異名は「狙撃令嬢」 542人の帝国将兵を死傷させた狙撃の天才 そして戦中は、帝国からは死神と恐れられた存在。 このお話は、ミリア・タリムとそのお付きのメイド、ルーナの戦いの記録である。 他サイトに掲載したものと同じ内容となります。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

処理中です...