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三十四日目・事後処理

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    春花は小黒のために買った食べ物を、その場で全て食べきると
すくっと立ち上がった。
(アイツに食べる資格はない!)
大人しくしているとは 思っていなかったが、他人を巻き込んで こんな大胆なことをしでかすとは思わなかった。 
ギリギリと奥歯を噛みしめる。
裏切られた気分だし、何より 全く気付かなかった自分が情けなかった。
(晩御飯を食べなかった時に気づいていれば……)
だけど何より頭に来ているのは、幼い兄妹を利用したことだ。三百年以上生きているのに、大人としての自覚がない。
警戒していた兄と違って、妹の方は懐いているようだった。
(どうせ、調子のいいことを言ったに違いない )
結果的に傷つけるのかと思うと申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
「はぁ~」
やっぱり、連れてくるべきじゃなかった。 強引にでも寺に預かておけば こんな面倒なことにはならなかったのに……。

*****

  「はぁ~」
小黒はため息を一つつく。
本当なら今頃の時間には 二回ぐらい旨い物が食えてたのに……。
春花にバレるかもと ヒヤヒヤしたが、「喉元過ぎれば暑さ忘れる」で、安全が戻ってくると止めると決意したことを取り消ししたくなる。そうだよ。止める必要はない。合図を決めておけば、急な予定変更にも十分 対処できる。
明日にはあの兄弟が訪ねてくるだろうから、その時 決めよう。
(せっかくの金づるだ。手放すのは惜しい)
そうすれば、また 食べ放題だ。
今までは 兄妹に任せていたけれど、今度は自分が食べたいものをリクエストしてみよう。
麺? 鶏肉? お菓子? 
う~ん。悩むな……。
想像するだけで腹が鳴る。

   そんな事を考えているとバタンと大きな音を立てて扉が閉まった。何事かと箱から顔を出すと、目を三角にした春花が俺に向かってくる。
(なっ、何だ!?)
その迫力に身の危険を感じて、とっさにふたを閉めた。
しかし、 
「やってくれたわね!」
春花がそう言うと箱
を持ち上げて 上下に揺さぶる。
「なっ、 何する止めろ!」
閉じ込められた状態では 逃げ場がない 。四方八方に体をぶつけて、しゃべることもままならない。
こいつは癇癪を起こしたタイプの人間じゃないから、何で怒ってるか知らないが、春花が 気が済むまで我慢するしかない。 
ぎゅっと目をつむる。

*****

   「はぁ、はぁ、はぁ、こっ、これくらいにしてやる」
『 ……… 』
 肩で息をしながら箱を机の上に置くと、蓋を開けた。
十分 お灸が据えてだろう。でないと、あの兄妹に顔向けできない。
すると、酔っ払い みたいに小黒がグラグラと体を動かしながら出てきた。
ざまぁみろ!
胸がすっとした。ところが、そのままバタンと倒れてしまった。
「えっ?……小黒。小黒!」
近くにあった筆で突ついたが、びくともしない。
「 ……… 」
どうやら 気を失ったらしい。
その姿に額をポリポリと掻く。


*****

雨が降ってる……。
水滴を顔に感じる。否、全身に。
追い出された!
ハッとして 目を開ける。ところが、目の前に春花がいた。しかも ここは室内だ。
だったらなぜ雨だと勘違いしたんだ?
バシャッ! 
そう思ってると水がかかった。
「やっと起きた」
仁王立ちで俺を見下ろしている春花の冷たい視線に首を傾げる。
「俺、なんかしたか?」
「あんたが、あの兄妹を使って
奇術を見せたんでしょう。奇術を!」
ぎくりとして汗が吹きでる。
「えっ!?」
「とぼけるんじゃないわよ!もうネタは上がってるのよ。
 一瞬で、味も匂いもなくなるんですって」
バンと机を叩かれて振動が伝わってきて カタカタと箱が鳴る。
( 結局 バレたか……)
「ちょっとした遊びだよ。遊び 」

***

    遊びですって!
全く自分がしたことの責任を分かってない。 無責任なやつだ。
「何言ってるのよ。あの兄妹
を探してる人がいたのよ」
「あっ……」
「私たちは旅人だから、この街を離れれば終わるけど。あの 兄妹は ここで暮らすのよ」
その言葉に ハッとしたように 小黒が私を見上げた。

   いくら 気をつけていても所詮子供だ。悪い大人に目をつけられたら 売り飛ばされるかもしれない。
二人で常に行動しているところを見ると親は期待できない。
( どうしたらいいんだろう……)
このままにしておくのは 後味が悪い。金を渡して街を離れると言っても、慣れ親しんだ土地を離れたいと思わないだろう。 頭が痛い。
あの子達に注目が行かないように 小黒の件を処理しないと。
「二人には俺から話すよ」
「どう話すのよ」
「もう出来ないって」
「二 人が納得すると思う?」
「説得する」
「 ……… 」 
おしゃべりだから、うまくごまかせるだろう。
問題は、今まで奇術を見た客たちとその知り合いだ。特別な体験をすると人はどうしても しゃべりたくなる聞いた方は 嘘が本当か確かめたくなる。
あの子達がそういう大人たちに見つかって、奇術を見せろと責め立てられるに違いない。 
十分考えられることだ。あの子たちの今後 思うと 一度話し合った方がいいだろう 。
真実を知れば 怖がって二度と関わりたいとは思わないだろう。
「小黒、兄弟たちが来たら夕飯に誘って」
「本当か?やった!」
「はぁ~」
もう本当に嫌だ。何で私がコイツの 尻拭いをしなくちゃいけないのよ。


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