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三十三日目・真相
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絶体絶命のピンチ。そう思っていたけど……。
三人の話に聞き耳を立てていた小黒は 去っていく小さな二つの足音に、安堵のため息をつく。
「はぁ~」
(助かった……)
春花が 話し掛けたときは 生きた心地がしなかった。
兄の方が機転を利かせてくれたんだろう。俺が話を持ち掛けたときも 中々首を縦にふらなかった。慎重な性格らしい。感謝だな。
しかし、人の口に戸は建てられない。今日は助かったが、このまま続けていたら春花にバレるのは時間の問題だ。
俺の身の安全の為にも 今度来たら
勿体無いが、暫く止めると伝えよう。
(出来る事なら、最後にたらふく食いたかったな……)
****
まさか、あの家に住人がいたとは考えもしなかった。
何時 訪ねても物音一つ無く静かだったから空き家だと思い込んでいた。昼は仕事で留守。言われて見れば 納得だ。後ろを振り返ると あの人の姿は無い。追い掛けられなくて良かった。
トボトボと歩く妹の手と手を繋いで歩きながら、考えるのはあの
声の主の事だ。
やはりこの世のものではなかったと確信した。
(姿を見せないのには理由が、あると思ってたけど……)
あの男の人、何か聞きたそうな顔をしていた。きっと、自分の家に異変が起きてることを知ってるんだ。例えば、家に帰ってきたら物が落ちてるとか、そう言う出来事が続いてるのかもしれない。
それで気になって声を描けたのかも。井戸の近くにあった籠にも一人分の食器しかなかった。
(多分、一人暮らしみたいだ)
実は、あの家には外に出られない人が居て、その人が 俺たちに同情して協力してくれたと思っていた。でも、そうじゃなかった。
あの家の人に、そのことを話したら 殺されるかもしれない。
(そもそも 話を受けなければ良かったのに……)
この世にはタダより怖いものはないという。妹がごねても二度と行かない。命の方が大事だ。
*****
春花は薬草を売った その帰り、久々に ごちそうを食べようとウキウキした気分で歩いていた。
(品質が良いと 高値で買い取ってくれた)
財布の紐も緩む。
戻る前にもう一回ぐらい売りに行こう。
匂いに誘われて、あっちで一つ、こっちで二つと、食べ物を色々な店で買っていた。その目が綺麗な菓子に吸い寄せられる。
( これ美味しそう……)
緑豆コウだ。
「おじさん、これ 三つ」
「あいよ」
紙に包んでもらっている間、商品が乗っている皿に目が留まった。
「この皿……」
井戸の所にあった皿と同じだ。
(何で店の皿が我が家に?)
この皿が手がかりになるかも。
だけど、どう見ても平凡な皿だ。
だったら、この店?
人の良さそうな顔の店主?
入れ替わりが激しい客?
人気店という事 以外 分からない。
う~ん。
腕組みして答えを探すように、皿をじっと見ていると、
「あれ? あの兄妹居ないな」
(兄妹!?)
ハッとして声のする方を見ると、若い男が友達と歩きながら辺りをキョロキョロしている。
これは偶然!? いや、必然だ!
やっと手掛かりを見つけた。
「すいません。その兄妹って、十歳ぐらいの男の子と、七歳ぐらいの女の子の兄妹のことですか?」
「そうだよ。見かけたのかい?」
期待に顔を輝かせていたが、私の返事に一変してがっかりした顔になった。
「ええ、でも今日は帰る って言ってました」
「ええー!」
それを慰めるように友達が肩をポンポンと叩く。
「 あの……その二人は 実際には何をするんですか?」
ガッカリしていたが、
二人の話になった途端 、再び 若い男の顔に明かるくなる。
(よっぽど好きなのね)
言いたくて仕方ない そんな顔をしている。
「奇術だよ。奇術」
「奇術?」
とてもそうには見えない。
地味な格好だし、あんなに幼いのに芸ができるの?
(あの皿、子供だから差し入れ)
内の家の所で 見せてるの?
「本当かよ」
「本当だよ。食べ物の味と匂いが一瞬で消えるんだ」
(えっ!?)
ドキーン!
味が無くなる? 匂いも?
どうして、あの兄妹は そのことを知っているの? 小黒の正体がバレたの?
(どうしよう……)
今夜にでも逃げた方がいいかも。
キュッと唇を噛む。一人にするんじゃなかった……。
「あの ボソボソした感じ。お前にも食わせたいよ」
「嘘くさいな」
怪しむ連れの男が首を振る。
「本当だよ。俺以外にもたくさんの人が体験してるんだから。お前も食べれば納得するよ」
「えっ、たくさん?!」
「そうだよ。俺も 他の友達に連れてきてもらったんだ」
( ……… )
逆だ! あの兄妹が小黒に、いいように利用されてるんだ。
(ははぁ~ん)
そういうことか。
これで全ての 辻褄があった。
忘れ去られた皿も、踏みつけられた土も、大家さんが声をかけてきた理由も、アイツが晩御飯を食べられなかったことも、 あの幼い妹
が柱を叩いたことも、兄が私を警戒したことも、全・て・が、今ここに明らかになった。
ありがとうございました。とペコリと頭を下げると家に帰ろうと踵を返した。
待ってろよ。小黒!
三人の話に聞き耳を立てていた小黒は 去っていく小さな二つの足音に、安堵のため息をつく。
「はぁ~」
(助かった……)
春花が 話し掛けたときは 生きた心地がしなかった。
兄の方が機転を利かせてくれたんだろう。俺が話を持ち掛けたときも 中々首を縦にふらなかった。慎重な性格らしい。感謝だな。
しかし、人の口に戸は建てられない。今日は助かったが、このまま続けていたら春花にバレるのは時間の問題だ。
俺の身の安全の為にも 今度来たら
勿体無いが、暫く止めると伝えよう。
(出来る事なら、最後にたらふく食いたかったな……)
****
まさか、あの家に住人がいたとは考えもしなかった。
何時 訪ねても物音一つ無く静かだったから空き家だと思い込んでいた。昼は仕事で留守。言われて見れば 納得だ。後ろを振り返ると あの人の姿は無い。追い掛けられなくて良かった。
トボトボと歩く妹の手と手を繋いで歩きながら、考えるのはあの
声の主の事だ。
やはりこの世のものではなかったと確信した。
(姿を見せないのには理由が、あると思ってたけど……)
あの男の人、何か聞きたそうな顔をしていた。きっと、自分の家に異変が起きてることを知ってるんだ。例えば、家に帰ってきたら物が落ちてるとか、そう言う出来事が続いてるのかもしれない。
それで気になって声を描けたのかも。井戸の近くにあった籠にも一人分の食器しかなかった。
(多分、一人暮らしみたいだ)
実は、あの家には外に出られない人が居て、その人が 俺たちに同情して協力してくれたと思っていた。でも、そうじゃなかった。
あの家の人に、そのことを話したら 殺されるかもしれない。
(そもそも 話を受けなければ良かったのに……)
この世にはタダより怖いものはないという。妹がごねても二度と行かない。命の方が大事だ。
*****
春花は薬草を売った その帰り、久々に ごちそうを食べようとウキウキした気分で歩いていた。
(品質が良いと 高値で買い取ってくれた)
財布の紐も緩む。
戻る前にもう一回ぐらい売りに行こう。
匂いに誘われて、あっちで一つ、こっちで二つと、食べ物を色々な店で買っていた。その目が綺麗な菓子に吸い寄せられる。
( これ美味しそう……)
緑豆コウだ。
「おじさん、これ 三つ」
「あいよ」
紙に包んでもらっている間、商品が乗っている皿に目が留まった。
「この皿……」
井戸の所にあった皿と同じだ。
(何で店の皿が我が家に?)
この皿が手がかりになるかも。
だけど、どう見ても平凡な皿だ。
だったら、この店?
人の良さそうな顔の店主?
入れ替わりが激しい客?
人気店という事 以外 分からない。
う~ん。
腕組みして答えを探すように、皿をじっと見ていると、
「あれ? あの兄妹居ないな」
(兄妹!?)
ハッとして声のする方を見ると、若い男が友達と歩きながら辺りをキョロキョロしている。
これは偶然!? いや、必然だ!
やっと手掛かりを見つけた。
「すいません。その兄妹って、十歳ぐらいの男の子と、七歳ぐらいの女の子の兄妹のことですか?」
「そうだよ。見かけたのかい?」
期待に顔を輝かせていたが、私の返事に一変してがっかりした顔になった。
「ええ、でも今日は帰る って言ってました」
「ええー!」
それを慰めるように友達が肩をポンポンと叩く。
「 あの……その二人は 実際には何をするんですか?」
ガッカリしていたが、
二人の話になった途端 、再び 若い男の顔に明かるくなる。
(よっぽど好きなのね)
言いたくて仕方ない そんな顔をしている。
「奇術だよ。奇術」
「奇術?」
とてもそうには見えない。
地味な格好だし、あんなに幼いのに芸ができるの?
(あの皿、子供だから差し入れ)
内の家の所で 見せてるの?
「本当かよ」
「本当だよ。食べ物の味と匂いが一瞬で消えるんだ」
(えっ!?)
ドキーン!
味が無くなる? 匂いも?
どうして、あの兄妹は そのことを知っているの? 小黒の正体がバレたの?
(どうしよう……)
今夜にでも逃げた方がいいかも。
キュッと唇を噛む。一人にするんじゃなかった……。
「あの ボソボソした感じ。お前にも食わせたいよ」
「嘘くさいな」
怪しむ連れの男が首を振る。
「本当だよ。俺以外にもたくさんの人が体験してるんだから。お前も食べれば納得するよ」
「えっ、たくさん?!」
「そうだよ。俺も 他の友達に連れてきてもらったんだ」
( ……… )
逆だ! あの兄妹が小黒に、いいように利用されてるんだ。
(ははぁ~ん)
そういうことか。
これで全ての 辻褄があった。
忘れ去られた皿も、踏みつけられた土も、大家さんが声をかけてきた理由も、アイツが晩御飯を食べられなかったことも、 あの幼い妹
が柱を叩いたことも、兄が私を警戒したことも、全・て・が、今ここに明らかになった。
ありがとうございました。とペコリと頭を下げると家に帰ろうと踵を返した。
待ってろよ。小黒!
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