春花の開けてはいけない箱の飼育日誌

あべ鈴峰

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二十七日目・(解決編!?)

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 旅に出て初めて 立ち寄った村は、火の玉が出るという怪しいところだった。しかも、火の玉がボヤ騒ぎを起こしているのを知った春花は、犯人は別にいる。そう考えた。そこで、小黒を使って報奨金目当てで 犯人を探しをすることにした。


  犯人は二人。 一人は右側の 一番端に住んで居る李船いう男。もう一人は、その家の 二軒隣に住んでいる男だ。
(名前が片方しか分からないのは、もう一人が 相手の名前を呼ばなかったからだと小黒が言った) 
「それで、犯人だと言う証拠はあるの?」
小黒が、一部始終見ていたとしても、所詮は生き霊。目撃者にはなれない。私が 変わりに言ったとしても、作り話だと言われておしまいだ。
『ああ、あるぞ』
隣の男が自分の家の物置から、竹竿に吊るした紙に火をつけて、火の玉に見えるように振り回していたらしい。その間、李船は見張りをしていて、見回り当番の男が 火の玉を見つけて騒ぎ出した時を見計らって、火をつける。というものだった。

「なるほど……」 
自分の予想通りの内容に考え込む。
(イタズラにしては手が込んでる)しかも、男二人で……)
『でも、なんでだ。アレぽっちの
火じゃ。 火事にならないぞ』
当番が来てから火をつけたことを考えれば、犯人は今 火事を起こしたいわけじゃない。火の玉が出たと言って、何度も ボヤ騒ぎを起こしてるのは、本当の火事が起きた時、火の玉のせいにできるからだ。つまり これは一種の カモフラージュ。 計画的なものだろう。

 もちろん、昨日来たばかりの私たちには、動機も、誰を狙っているかも分からない。
(知りたいとも思わない)
『今から捕まえに行くか?』
「ううん。それは明日。今日はもう寝よう」
犯人がわかったなら予定通り捕まえて、村長のところへ連れて行って 褒美をもらおう。 その後は村人に任せればいい。


***

 翌朝 背負子を背負って 村長の家
を訪ねると、疲れた様子で出てきた。
「何の用だ」
 今日も顔色が悪い。 昨夜、数人の村人に詰め寄られていたのを見た。早期解決は 村長も望んでいる事だろう。
「実は……」
「実は、何だ?」
村長に告げ口するのを犯人たちに気づかれないように小黒に見張ってもらっている。
背負子の底を指でトントンと叩くと、カタンと蓋が鳴った。
返事が一回。周りに人は居ない。

 さっと、村長のそばに行くと耳打ちする。
「犯人を見たんです」
「犯人? 火の玉 じゃないのか」
「違います」
 驚く村長に向かって激しく首を振って否定する。
( 見たのは小黒だけど)
「紹介してもらった おばあさんから話を聞いたせいか眠れなくて、うつらうつら していたら、人の話し声が聞こえてきたんです」


 全てを話し終えても 村長は捕まえに行こうとはしない。『よくぞ 犯人を見つけたと言ってた』と喜ぶと思ったのに、何も言わない。
深刻そうな顔に、犯人の李船が どうして、そんなことをしたか理由を知っているんだ。『 後はこちらに任せろ』と言われたら、ご褒美がもらえない。このままではまずい。どうしたら……。そうだ!

 村長という立場を考えれば、何らかの結果を出したいはずだ。それに、そうすれば二人に警告することも出来る。
春花は 村長の気を引こうと、袖
を引っ張る。
「村長、二人のイタズラを止めないと」
イタズラの部分を強調して言う。
村長は 二人を捕まえたくないはずだ。
「イタズラ!?」
「そうです。きっと、みんなが驚くのが面白くて調子に乗ってたんですよ。 でも、イタズラにしては悪質すぎます。だから、注意しないと」
私の言葉に 村長がハッとしたように私を見た。
 「そうだ。そうだな」
そう言って腰を上げた。その顔は 明るかった。
「みんなには私から話します」


***

 名探偵の登場だ!
 広場に村人たちを集めると昨夜 見たことを 話した。みんなの 注目が二人に向く。案の定 二人は 証拠があるのか と騒ぎ出した。
「よそ者のくせに首を突っ込むなよ」
「よそ者だから 公平な目で見られるんですよ」
「 ……… 」
いきり立っていた李船が口を閉じた。義理も何もない人間が言うからこそ、真実味が増すものだ。 

 待ってましたとばかりに、
「今から証拠を見せます」
目の前にいる村人を指さして、証拠の釣り竿を探させた。
腰を浮かした李船を、もう一人の犯人が服を引っ張って止めた。
観念したようだ。

 私の言った通り 家の物置から隠してあった 釣り竿が発見された。
「あったぞ!」
わらわらと 村人が集まって 証拠品を取り囲む。
「本当に李船たちが犯人なんだ」
「まったく」
呆れたと村人たちの視線が李船たちに向かう。これで誰もが疑わないだろう。
 「釣竿の先に燃えカスが見えるでしょ」
「本当だ。 じゃあ 火の玉 じゃなかったんだ」
「良かっよ」
しかし、それを数人が苦虫を噛み潰したような顔をして遠巻きに見ているのに気づいた。
(共犯者は もっと いそうだ)
 意外に 根が深い事件なのかもしれない。村が小さければ、小さいほど仲間意識が強くなる。
そうなると、互いを庇い合う。 
たとえ 人を殺したとしても……。


 後ろで縛られて 二人が連れて行かれる。人的被害が無いこともあり、反省の意味で、どこかに隔離するらしい。李船の母親なのか、仕切りに息子を叩いている。
「 これでイタズラの犯人が見つかったから、火の玉事件は、一件落着です」
堂々 そう宣言した。 しかし、それでも疑問を持つ者がいる。私は よそ者で、子供だ。信頼はされていない。 
「火の玉じゃないのに、どうして ボヤ騒ぎが起きたんだ」
「そんなの簡単ですよ。 振り回してるうちに火の玉の部分が、ぶつかって燃え移ったんです。燃やされたのは、聞くところによると 薪とか障子とか 燃えやすい物だったんでしょ」
 「そういうことか 」
まさか 放火されてたとは思いたくないからか、それらしいことを言っただけで納得した。
「だから火事にまでならなかったんです」
「なるほど」
 みんなが小刻みに頷く。
 本当の意味では事件を解決していない。 しかしこれ以上、私が踏み入れてはいけない。 事件を大事にしたくない村長の思惑通り。宴が始まると、誰も何も言わなくなった。
このまま、なし崩しになればいいが……。私のしたことは、ただの時間稼ぎかもしれない 。

***

 翌朝 わずかばかりの謝礼と食料を手に村を後にした。

****

その日の夜。
村の外れで数人の男たちが暗い顔でひそひそと喋っていた。
一人の男が 
「どうする? 計画を変更するか」
 そう言うと正面に立っていた男
が首を振る。
「 いや 、二人が捕まっている今がチャンスかもしれない」
「 どういうことだ?」
 隣の男が焦れたように聞く。
「 本当の火の玉が家に火をつけたと思わせるんだよ」
 その言葉に全員が頷く。どの顔にも笑みが浮かんでいる。

 その晩 、村に火事が起こり 一 人の男が焼死した。

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