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十七日目・ 丸くおさまらない
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期待を胸に出かけた春花だったが、より一層 頭を悩ませる事態
になってしまった。
文机に小黒を置くと、そのまま突っ伏す。 何のために休みまでもらって行ったのか?
全てが徒労に終わった。
(ああーどうしよう……)
このままじゃ、小黒を連れて行くしかなくなる。 だからと言って 旅を諦めることはできない。
次が何時来るかわからないんだから、 諦めたくない。
「はぁ~」
……やっぱり、蔵に隠す?
十個もあるんだ。人の出入りも少ない蔵なら大丈夫かもしれない。
防犯、防火を兼ねているから、壁は厚い。内から音が漏れる心配はまずない。万が一に備えて、人を襲わないように竹簡を置いておけば、まず大丈夫だ。餌だって、食べなくても長い間 一人でも生きてたんだ。死?にしない。それに、休みと言っても半月ほどだし平気だろう。
( ……………… )
否、駄目だ。
旦那様の信頼を失うわけにはいかない。首を振って、その考えを追い払う。
だけど……。
「ああ、もう!」
呑気にイビキをかいている小黒にムカつく。
(全部 こいつのせいだ)
バチンと箱を叩いた。
「痛っ」
しかし、自分の手が痛くなっただけだった。ふうー、ふうーと、手に息を吹き掛けていると、扉が開いて香玉が姿を現した。
しかも、楽しそうな顔で。
(はぁ~)
「春花はどうだった? 道士様のとこに言ってたんでしょう」
二人で向かい合って、お茶を飲みながら春花は ことの顛末を話した。
「全然、駄目でした。李真人様の話では 『何か訳合って 魂と体が別々になったが、体はまだこの世
にある。魂は長い年月のせいで記憶がなくなってしまったというところかな』と、言ってました。結局分かったのは、生き霊ということだけです」
「生き霊? それって小黒は人間で、体があるってこと」
「そうです。それも300年簡 腐らずに」
「ふ~ん」
気のない返事に香玉の興味が、一気に無くなったことが 伝わってくる。
「なんか 拍子抜け。もっとこう すごい 悪霊とかと思ってたの。残念」
(残念? 相変わらず 無責任なことばかり言って)
香玉の言う通り、小黒が悪霊だったら 今頃 誰かが死んでいる。
(一目散に逃げ出してるくせに)
まったく他人事のように言う香玉に呆れる。
香玉が帰り 一人になった春花は、どうしたものかと考えていた。
李真人が成仏させてくれればいいのに、 むやみに手を出して大事になったら困ると断られた。
職務怠慢だ。
どう考えたって、生き霊がうろうろしていることの方が問題だ。
「う~ん」
どうやって李真人を説得しよう……。 金にモノを言わせる?
香玉に頼めば、いくらか 工面してくれるだろう。
駄目だ。
あの部屋を見るからに 清廉な生活をしている。
「う~ん」
だったら 泣き落とし?
駄目だ。
箱を前に平気な姿を見られている。
「う~ん」
他の人を代わりに立てる?
駄目だ。
すぐに劉家の紹介で、同じような箱を見たら小黒だとバレてしまう。
これも全て 頭が硬い李真人 のせいだ。
否、もう一度会って説得してみる? 喋りかけられて うるさいとか、勝手に人のものを食べものから" 気" を取られるとか?
「う~ん」
弱い。 弱すぎる。説得力にかける。やっぱり、お涙ちょうだいものか、悪霊退散的なひどい 被害受けてないと預かってくれないだろう。
「う~ん」
『春花。 どうしたんだ? さっきから行ったり来たりして』
「えっ?」
小黒 に言われてみると、いつまでか 立ち上がっていた。
席に戻ると一服しようとお茶を入れる。
( 何かいい方法はないかな…… )
『春花、悩みか? 力になるぜ』
「 ……… 」
(誰のせいで悩んでいると思っているのよ!)
キッと睨みつけても 小黒は気にしない。楽しそうに体を揺らしている。
300年ぶりに喋れる相手ができたと言うのに、私に対して ありがたみを感じていない。私の代わりの人間が 見つかると……。
(代わり?……代わり!)
『おーい。聞いてるか?』
「 ……… 」
そうだ。 別に李真人じゃなきゃ ないことはないんだ。
小黒は 生き霊。つまり霊に変わりない。 だったら 他の寺でも成仏させられる。小黒は 自分自身のことを忘れている。だったら、小黒の残った家族たちは、とうに死んでいるだろうから、小黒 が消滅しても誰も悲しまない。
『無視するなよ』
「ふふっ」
小黒の残った体には悪いが 諦めてもらおう。
そして、別の魂を入れて有効活用してください。
***
寺に着いた 春花は李真人の寺とは真逆で、人の往来が多い ことに
目を丸くする。
(まるで 祭りだ)
街で一番流行っているのは伊達じゃない。 この寺は縁結びと、安産のご利益があるらしい。
お供え物を渡す行列に並びなが、
これだけ人が多ければ 紛れ込ませても簡単だろうと思った。
抱えている小黒に目を落とす。
風呂敷包みで何重にもしたし、たらふく酒を飲ませたから目を覚まさない。迷惑料としてなけなしのお金をお布施としてつけた。
自分の順番になり、中身が何か聞かれるのではとドキドキしていが、流れ作業みたいに終わってしまった。
呆気ないものだ。
階段を降り切ると振り返って 手を合わせる。騙すようで お寺の人に悪いが これも大義のためだ。
小黒も成仏できれば、きっと来世はまともなモノに生まれ変わるはずだ。そう、 これは全て小黒の為の善行だ。
何度も頷きながら帰路に着いた。
***
春花は 布団を縦半分に捲るとゴロンと寝転がる。
久々に一人で寝られる。
歯ぎしりも、いびきも、寝言も無い。静寂の夜。
このまま寝てしまうのはもったいない。月を愛でる? 本でも読む? 歌でも歌っちゃう?
上掛けを足で挟んで抱き枕のように、寝台の上でクルクルと回転する。
( ……… )
そう 浮かれていたが、やっぱり普通に寝よう。旅に出たら野宿
だってあり得る。休んでおける時に休まないと。
一人ねって最高 と幸せいっぱいで
目を閉じた。
***
ぐっすり寝て、清々しい気分で 身支度を整えてる。
鏡に映る自分を覗き込む。
( 肌の調子がいい)
睡眠は大事だ。 そんなことを思っていると、パタパタと急ぎ足しで誰かが、こちらへ向かってくる音は聞こえる。 こんな朝早くから 誰だろう。
急ぎの仕事でも入ってるのだろうか? 手を止めて 入り口を見ると使用人の枝兼が戸を開けた。 ずっと走ってきたのか 脇腹を抱えて、肩で息をしている。
(まあ もともと ぽっちゃり体型だけど)
「はっ、はっ、はっ、はっ、春………花……。はっ、早く……みっ、店に来てくれ」
「?」
になってしまった。
文机に小黒を置くと、そのまま突っ伏す。 何のために休みまでもらって行ったのか?
全てが徒労に終わった。
(ああーどうしよう……)
このままじゃ、小黒を連れて行くしかなくなる。 だからと言って 旅を諦めることはできない。
次が何時来るかわからないんだから、 諦めたくない。
「はぁ~」
……やっぱり、蔵に隠す?
十個もあるんだ。人の出入りも少ない蔵なら大丈夫かもしれない。
防犯、防火を兼ねているから、壁は厚い。内から音が漏れる心配はまずない。万が一に備えて、人を襲わないように竹簡を置いておけば、まず大丈夫だ。餌だって、食べなくても長い間 一人でも生きてたんだ。死?にしない。それに、休みと言っても半月ほどだし平気だろう。
( ……………… )
否、駄目だ。
旦那様の信頼を失うわけにはいかない。首を振って、その考えを追い払う。
だけど……。
「ああ、もう!」
呑気にイビキをかいている小黒にムカつく。
(全部 こいつのせいだ)
バチンと箱を叩いた。
「痛っ」
しかし、自分の手が痛くなっただけだった。ふうー、ふうーと、手に息を吹き掛けていると、扉が開いて香玉が姿を現した。
しかも、楽しそうな顔で。
(はぁ~)
「春花はどうだった? 道士様のとこに言ってたんでしょう」
二人で向かい合って、お茶を飲みながら春花は ことの顛末を話した。
「全然、駄目でした。李真人様の話では 『何か訳合って 魂と体が別々になったが、体はまだこの世
にある。魂は長い年月のせいで記憶がなくなってしまったというところかな』と、言ってました。結局分かったのは、生き霊ということだけです」
「生き霊? それって小黒は人間で、体があるってこと」
「そうです。それも300年簡 腐らずに」
「ふ~ん」
気のない返事に香玉の興味が、一気に無くなったことが 伝わってくる。
「なんか 拍子抜け。もっとこう すごい 悪霊とかと思ってたの。残念」
(残念? 相変わらず 無責任なことばかり言って)
香玉の言う通り、小黒が悪霊だったら 今頃 誰かが死んでいる。
(一目散に逃げ出してるくせに)
まったく他人事のように言う香玉に呆れる。
香玉が帰り 一人になった春花は、どうしたものかと考えていた。
李真人が成仏させてくれればいいのに、 むやみに手を出して大事になったら困ると断られた。
職務怠慢だ。
どう考えたって、生き霊がうろうろしていることの方が問題だ。
「う~ん」
どうやって李真人を説得しよう……。 金にモノを言わせる?
香玉に頼めば、いくらか 工面してくれるだろう。
駄目だ。
あの部屋を見るからに 清廉な生活をしている。
「う~ん」
だったら 泣き落とし?
駄目だ。
箱を前に平気な姿を見られている。
「う~ん」
他の人を代わりに立てる?
駄目だ。
すぐに劉家の紹介で、同じような箱を見たら小黒だとバレてしまう。
これも全て 頭が硬い李真人 のせいだ。
否、もう一度会って説得してみる? 喋りかけられて うるさいとか、勝手に人のものを食べものから" 気" を取られるとか?
「う~ん」
弱い。 弱すぎる。説得力にかける。やっぱり、お涙ちょうだいものか、悪霊退散的なひどい 被害受けてないと預かってくれないだろう。
「う~ん」
『春花。 どうしたんだ? さっきから行ったり来たりして』
「えっ?」
小黒 に言われてみると、いつまでか 立ち上がっていた。
席に戻ると一服しようとお茶を入れる。
( 何かいい方法はないかな…… )
『春花、悩みか? 力になるぜ』
「 ……… 」
(誰のせいで悩んでいると思っているのよ!)
キッと睨みつけても 小黒は気にしない。楽しそうに体を揺らしている。
300年ぶりに喋れる相手ができたと言うのに、私に対して ありがたみを感じていない。私の代わりの人間が 見つかると……。
(代わり?……代わり!)
『おーい。聞いてるか?』
「 ……… 」
そうだ。 別に李真人じゃなきゃ ないことはないんだ。
小黒は 生き霊。つまり霊に変わりない。 だったら 他の寺でも成仏させられる。小黒は 自分自身のことを忘れている。だったら、小黒の残った家族たちは、とうに死んでいるだろうから、小黒 が消滅しても誰も悲しまない。
『無視するなよ』
「ふふっ」
小黒の残った体には悪いが 諦めてもらおう。
そして、別の魂を入れて有効活用してください。
***
寺に着いた 春花は李真人の寺とは真逆で、人の往来が多い ことに
目を丸くする。
(まるで 祭りだ)
街で一番流行っているのは伊達じゃない。 この寺は縁結びと、安産のご利益があるらしい。
お供え物を渡す行列に並びなが、
これだけ人が多ければ 紛れ込ませても簡単だろうと思った。
抱えている小黒に目を落とす。
風呂敷包みで何重にもしたし、たらふく酒を飲ませたから目を覚まさない。迷惑料としてなけなしのお金をお布施としてつけた。
自分の順番になり、中身が何か聞かれるのではとドキドキしていが、流れ作業みたいに終わってしまった。
呆気ないものだ。
階段を降り切ると振り返って 手を合わせる。騙すようで お寺の人に悪いが これも大義のためだ。
小黒も成仏できれば、きっと来世はまともなモノに生まれ変わるはずだ。そう、 これは全て小黒の為の善行だ。
何度も頷きながら帰路に着いた。
***
春花は 布団を縦半分に捲るとゴロンと寝転がる。
久々に一人で寝られる。
歯ぎしりも、いびきも、寝言も無い。静寂の夜。
このまま寝てしまうのはもったいない。月を愛でる? 本でも読む? 歌でも歌っちゃう?
上掛けを足で挟んで抱き枕のように、寝台の上でクルクルと回転する。
( ……… )
そう 浮かれていたが、やっぱり普通に寝よう。旅に出たら野宿
だってあり得る。休んでおける時に休まないと。
一人ねって最高 と幸せいっぱいで
目を閉じた。
***
ぐっすり寝て、清々しい気分で 身支度を整えてる。
鏡に映る自分を覗き込む。
( 肌の調子がいい)
睡眠は大事だ。 そんなことを思っていると、パタパタと急ぎ足しで誰かが、こちらへ向かってくる音は聞こえる。 こんな朝早くから 誰だろう。
急ぎの仕事でも入ってるのだろうか? 手を止めて 入り口を見ると使用人の枝兼が戸を開けた。 ずっと走ってきたのか 脇腹を抱えて、肩で息をしている。
(まあ もともと ぽっちゃり体型だけど)
「はっ、はっ、はっ、はっ、春………花……。はっ、早く……みっ、店に来てくれ」
「?」
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