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十五日目・ 正体見たり枯れすすき

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 春花は ずっと待っていた許可が下りて 華西に行けると手を叩いて喜んでいたが、小黒を預かってくれる者が1人もいなくて困り果てていた。
呪いが原因だから、お金を払
うと言っても駄目だろう。だからと言って、置いったら 迷惑をかけるのは、目に見えている。
私がいないから調子に乗って、わがままを言って皆を困らせてる姿が目に浮かぶ。
香玉も吏元様も 新婚旅行に行っているから 捕獲できる人もいない。

 だけど、連れて行くのは邪魔になるし、おしゃべりに付き合わされる。 それはもっと嫌だ。
( ……… )
やっぱり、呪いの箱と言う異名が一番の問題だ。 
そう思って由来を聞こうとしたら。聞きたかったら お願いしろですって! 誰が 下げるものですか。 そういう態度を取るなら私だって、竹簡を待って近づくと 小黒が慌てたように体を左右に振る。
『 待て、待て。 冗談だよ』
「ふん」
最初から 言うことを聞けば いいのに。ドンと、わざと大きな音をさせて竹簡を置く。くるりと振り返ると腕組みして顎でしゃくる。
「だったら、とっとと話しなさいよ」
『俺は……』 
「俺は?」 
『俺は……』 
「俺は?」 
小黒が躊躇がちに口を開いたが、一向に話そうとしない。 簡単に口にできないということは、ものすごい逸話があるのかもしれない。 期待してグイッと身を乗り出した。どんな話だろう。実は 箱の底は地獄と繋がっているとか? それとも 出てるのは体の一部で、本当は山のように大きいとか?
どんな話だろうとワクワクして待っているのに、
『俺は……』
そう言うと、また 口を閉じた。 
もったいつける 小黒にイライラして脅かす。
「ああ、もう! 鬱陶しい。話さないなら、今晩は 外で寝かせるわよ」
考えてみれば、自分で動けないんだから、外で飼ってもいいのでは? 犬と変わりないし。どうして思いつかなかったんだろう。

『 俺は……呪いの箱じゃない』
 小黒が叫ぶように言う。
しかし、その言葉が頭に入ってこない。はて?と首を傾げる。
呪いの箱 違い? もう1個あるの?
「なっ、 何ですって?」
『 だから……』
小黒が、おどおどしながら チラチラ 私の顔色うかがってくる。
 それを見て、んっ? 首をさら傾ける。
『だから、呪いの箱じゃないんだよ!』
もう一度、同じことを言われて初めて、その言葉が脳内で処理された。
 呪いの箱じゃない?

 ふざけたことを言うなと、小黒にガンを飛ばす。小黒は 普通の生き物とは 明らかに違う。物の怪以外とは思えない。でも、緊張して私の反応を待っている顔に嘘はなさそうだ。
(どういうことだろう?)
呪いの箱だと 自分って言ったくせに……。???!
(まさか、香玉と共犯?)
騙されていたのかと カッと頭に血が上る。しかし、よくよく考えれば、見た目も、言動も、 呪いの箱 としての要素はゼロだ。
香玉が そう言うから、そのまま信じたのだ。 
(馬鹿だった……)

「もう……」
こんな 薄っぺらい小黒の話なの興味ない。話さなくていいと、手で払おうとしたが、ハタと気づく。 小黒が ただの物の怪だと証明するのに役に立つかもしれない。
「詳しく話して」
『 実は……』
そう言って 小黒 が話し始めた。


 小黒の話では、気づいた時には 箱 の中にいて、 それ以前の記憶は無いとのことだった。箱から出してもらおうと、声をかけたら物の怪
だと怖がられて 誰も尋ねて来なくなったそうだ。 それで、300年もの間、小黒のことを放っておかれたらしい。
だけど、普通に考えれば道士などに頼んで退治してもらったり、 封印してもらったりするのに。
どうもおかしい。

「だったら 呪いの箱って話はどこから来たの?」
『 それは、来た人間たちが俺の声に驚いて怪我したり、気が触れたと誤解されたりとかしたんだよ』
「なるほど……」
それはそうか。 香玉さえ 気を失った。小心者なら 驚いて怪我をしたり、声が聞こえたりしたら悩むだろう。 怖がって仕事を辞めたりした者もいうことか。
「う~ん」
害がないと言い切れないが、人を襲ったりはしないことがないようだ。
「やっと外は出られたのに、また蔵 に戻されるのが嫌だったから、どんな人間か 見定めようと 覗いてたんだ」
(それであの視線か)
本人は気を使ったつもりだったんだろうが、 逆効果だ。私だから問題にならなかったが、他の人ならその日のうちに逃げ出しただろう。

「香玉と会いたがらなかったのはなんで?」
「やっと俺のことが平気な人間にあったんだ。他所へ行きたくなんかないだろう。それが嫌だったんだよ」
「 ……… 」
小黒的には、話し相手ができた上に、食事もつく。離れたくない気持ちはわかる。
ずっと、薄暗い蔵の中で一人ぼっちで長い時間を過ごしたから、その反動おしゃべりなのかも。
旦那様のように物好きな人に渡って。そして、巡り巡って 私が預かることになったということか。
( ……… )
他人から見れば 呪いの箱に変わりない。 同情するところはあるが、厄介者は厄介者だ。
小黒の話を聞いたが、結局 何一つ
解決しななかった。


***

 春花は久しぶりに、小黒のことについて相談しようと 香玉の部屋を訪ねていた。

十八畳もある応接室は、全ての柱が朱塗りで純金を使って蝶とか花とかの 模様が描かれている。
それは、それは、豪華で、自分が座っている椅子もきっと高級品だ。棚に飾ってある花瓶たどの置物も 名のある人の作品だ。
丸く切られた窓から庭の花がよく見える。 香玉の部屋を一言で言うなら、ただただ 贅を尽くしている。の一言だ。

 その高級品の玉の卓にため息とともに突っ伏す。見たこともない 繊細な作りの菓子が並べられている。 美味なのは確かだ。 でも今日はそれにさえ手が伸びない。
「はぁ~」
隣で香玉がお茶をすすりながら、私の悩みの深さも知らないで、 無責任な発言をする。
「連れて行けばいいじゃない」
「嫌よ」
毎日、うるさくてかなわないのに、連れて行ったらせっかくの旅が台無しだ。
それでなくても荷物が多い。
現実的に考えて、これ以上、荷物は増やせない。だいたい、アイツ
は、おんぶに抱っこで、私ばかりが損することになる。
(歩けないんだから)
「香玉から言ってよ。 小黒 は無害だって」
「 私の言葉を信じると思う」
「!」 
香玉が横目で 私を見る。
そうだった。 いたずら好きの香玉が言っても誰も信じない。だったら吏元様に頼む? だめだ。 香玉の許嫁だ。 じゃあ、 旦那様? ダメだ。 香玉の父親だ。 小黒を預けたのが 香玉だとみんな知っている。
「はぁ~」
手立てが、ない。
 どうしよう……。
「でも、小黒の面倒を
 見るのは春花の仕事でしょ」
「っ」
そう言われると言い返す言葉がない。 本当にどうして 了解したんだろう。 返す返すも残念で仕方ない。
香玉が茶碗を置いてお菓子に手を伸ばす。 気楽なもんだ。 こっそり 祝い の品に、小黒を忍び込ませよてみようか。 そんなことを考えていると、香玉の視線が私に向ける。
「だったら、お寺に預けたら?」

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