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一日目・箱を預かる
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この物語は、曰く付きの箱を押し付けられたことによる春花の 我慢と忍耐の記録です。
事の起こりは……。
*****
70以上の峰が連なり 雲海に包まれて千変万化する仙境の山。
「黄山見ずして、山を見たというなかれ」 と言われるほど 水墨画のように美しい風景が広がる。
その黄山が あるのが安徽省。そして、その安徽省に豪商として名高い 「劉家」がある。
「劉家」に、無い物は ないと言われるほど、 ありとあらゆる物を取り揃えている。
安徽省の中の一つの街全部が劉家の敷地で、中央に母屋があり 東西南北に取引窓口がある。噂では取引窓口から次の窓口まで移動するのに半日かかると言う。 蔵に至っては 1番蔵から100番蔵まである。 そんな劉家の東に、そのまた東に……。ようは 東のはずれの6畳ほどの一室に 二人の娘が、卓に置かれている大きな瓜ほどの 黒漆の箱を間に向かい合って座っている。
どちらも、年の頃は17、8歳。
しかし、その立場は天と地ほど違う。
上座に座っている娘は 絹の長包に、金糸の刺繍が衣装全体に施されていて 結い上げた髪には凝った玉の簪をいくつも挿している。
華やかな美しさがあり、目鼻立ちも はっきりしていて、その衣に劣ることなかった。
下座に座っている娘は 木綿の長包で 襟と袖口に同じく木綿の糸で刺繍が施されている。簡単に結った髪には 簪の一本も挿していない。
切れ長の目で キリリと結ばれた唇は 意識の強さを物語っている。
一目で、育ちの違いがわかる。
二人は 主の娘と使用人の娘として出会ったが 仲は良く。7歳の頃から一緒に暮らしている。
金持ちの劉家の娘である 香玉が、 友であり使用人である春花に向かって黒漆の箱を押しやる。
「春花。この箱を預かって欲しいの」
「 ……… 」
春花は 香玉が 笑顔で差し出した箱を すぐには受け取らない。
中に カエルが入ってるかもしれない。だから、まずは観察してみる。昔ながらの 蓋つきの箱で赤い組紐で結ばれている。玉手箱を連想させる。
( ……… )
春花は香玉の顔を盗み見る。
嬉しそうだ。 と言うことは、何かこの箱に仕掛けがあるのかもしれない。香玉は 小さい時から いたずら好きで、友達や使用人に両親。はては、客にまで 誰彼構わず 餌食にしていた。そのたび 旦那様に、こっぴどく叱られるが 一人娘ということもあり 結局いつも許してしまう。だから未だに、いたずらを仕掛けてくる。
( 恋人が出来たから落ち着いたと思ったのに……。いつになったら、大人になるのやら)
内心 辟易している。しかし、だからと言って 断るという選択肢はない。なぜなら、これは香玉からの挑戦だからた。それに幼馴染でも、私の雇い主の娘なのだ 。
その辺の立場は、弁えている。
でも、前例があるだけに 簡単に受け取るのは躊躇われる。
(本当の事を言うか分からないが、一応聞いてみるか)
「 これは何ですか?」
「 それは………」
「 ……… 」
「呪いの箱よ」
わざと間をあけて香玉が 勿体つけたように言う。
(呪いの箱? これが?)
春花は香玉が 本当の事を言っているのか探ろうと瞳を見る。
人をたぶらかすとき 目をキラキラさせる。
( ……… )
別段、普段と変わりない。
と言う事は、嘘をついていない事になる。
でも、これが呪いの箱だとは 到底思えない。呪いの箱と言ってるわりには 香玉が素手で触っていた。
「 本当に?」
「もちろん。本物よ」
念押ししても答えは同じ。
う~ん。蓋を開けるとかしない限り大丈夫なんだろうか?
箱を手に取って、ひっくり返したりして眺めてみる。別に何の変哲も無い よくある箱だ。
封印の御札が貼っているわけでもない。
それでも念のために隠れた所に焼き印や 、掘られたり書かれたりした形跡がないか 穴が開くほど調べた。しかし、凹みさえな無い。
匂いを嗅ぐ。無臭だ。
耳を近づけて箱を振ってみる。
音もしない。不審な点は無い。
それでも春花は胡散臭そうに香玉を見る。
「本当に、本当? 嘘はついてないわよ」
「 ……… 」
騙してないと香玉が首を振る。
いたずらされた回数は 両手両足の数でも足りない。 騙されないようにと 警戒しているから、今では手の込んだイタズラになってきている。だから、余計に裏があるように感じる。
「もう、疑り深いんだから。お父様が借金の方にもらったの。だから、出て所は、はっきりしてるわ」
「旦那様が?」
真実だと香玉が首を縦に振る。
それを見て春花は、旦那様にも 困ったものだと 内心ため息をつく。
有り余るほど金のある旦那様は、 大抵の物を手に入れてしまった。だから、刺激を求めて 珍しい物や曰く付きの物に手を出すようになった。
旦那様の暇をもて余している姿に、香玉の姿が重なる。
まさしく、この親にしてこの子ありだ。
旦那様を疑うわけでは無いが、 本当に呪いの箱だろうか? 呪いなど 何か災いが起きた時の言い訳にしか過ぎない。 だから、この世に幽霊だの 妖などの類は居るはずが無い。全く信じては いないが……。
無害の物を香玉が私に渡すとは考えにくい。呪いかどうかは別として、私にとって厄介な代物だということは断言できる。
「でも、一つだけ約束して」
「何でしょう」
(約束?)
絶対、私にとって不利な事だ。
どんな無理難題を押し付けてくるのかと身構える。
「絶対に、この箱を開けてはいけないわ。分かった」
「 ……… 」
念押ししてくる香玉の言葉には 『開けなさい』という意味合いを感じる。箱を開けた途端、呪いという名の水とか 墨が 顔に掛かるかもしれない。
開けたら香玉は大笑い。
開けなかったら、怖がりだと馬鹿にされる。そう考えると、この箱を受け取るのは嫌だ。
しかし、断るにしても正当な理由もない。
(仕方ない)
春花は 逃げられないと諦めて箱を受け取ることにした。
「かしこまりました」
香玉に向かって 改まった態度でお辞儀する。すると、私の返事に香玉が静かに微笑む。
その満足げな笑顔を見て 早くも後悔した。
(もしかして……引っかかった?)
*** 1日目・人見知り
香玉が部屋を出て行くと春花は 早速 黒い箱の正体を確かめようと細部にまで目を凝らす。しかし、いくら調べても 何も出ない。絵も書かれていない地味な箱だ。
(それにしても、中身はなんだろ?)
音がしなくて軽いモノ?
花春は 箱を前に腕組みして考えてみる。
紙とか? 紙ねぇ……。
紙で思いつくのは書や絵だけど……。この箱の大きさでは小さすぎて価値のある物が入っているとは考えられない。
「う~ん」
香玉は、いったい何を考えて、これを私に預けたんだろう?
もう十年以上一緒に暮らしているが、未だに何を考えているか よくわからない。
暫く あれやこれやと考えたが 諦める事にした。
何も思いつかない。考えるにしても情報が少なすぎる。この箱のことを考えるのは ここまで。
どうせ中身が何か分からないんだから、考えるだけ時間の無駄だ。
開けては いけないと言われたんだから、言い付けを守ろう。
それが 使用人としての義務だ。
だから、開けない。 平穏無事こそが一番。
なぜ 自ら騒ぎ立てる必要がある。
香玉の つまらぬ遊びに付き合っているほど暇ではない。
考えるのをやめると 本棚を整理して黒い箱を置くと、手を打って埃を払う。
「さてと」
仕事に取りかかろうとモードを、切り替えて文机に座る。
私の仕事は、請求書を書くことだ。この仕事をするために雇われた 訳ではない。私は もともとは、取り引き相手の娘にすぎなかった。でも、薬師として父が流行病で死んでしまい。天涯孤独の身になった私を旦那様が不憫に思い
引き取ってくれた。 大人になると字が綺麗だからと、今の仕事を回して下さった。だから、旦那様には足を向けて寝れない。
それに、一日中机に座って、手を墨で汚すこの仕事を気に入っている。誰も訪ねてこないから、邪魔されることなく自分のペースで仕事をできる。黙々と仕事をこなす。まさにプロの仕事だ。
そのはずなのに……。
春花はキョロキョロと辺りを見回す。
おかしい? 顔を見られているような視線を感じる。
この部屋には私しかいないはずなのに……。
障子の何処かに穴でも開いているのかと思い障子を見たが、それも無い。
気のせい?
( ……… )
香玉から変な物を渡されたから 神経質になってるんだ 。気にしすぎだと、それを振り払うように首を振る。
そう思って仕事に戻るが、 やはり視線を感じる。間違いない。このチリチリとした感じ。
いったい、誰が覗いているんだ?
平凡な日々を送ってる私など、覗いても 楽しくないのに……。どこの物好きだろう。そう考えていると一人思い当たる 人物がいる。
香玉だ。
ははーん。
そう言うことね 。私が呪いの箱と聞いて 怖がる様子を見て楽しむつもりだ。でも、どうやって?そこまで考えてピンと来る。きっと誰かに私を何処からか見張らせてるんだ。 だから、この視線は、そこの相手のものだ。
その手には乗らない。覗いている者を見つけ出して 香玉の前に引きずり出してやる。
( ……… )
相手の居場所を突き止めようと、物音が聞こえないかと耳をすましてみる。しかし、何も聞こえない。だったら春花は相手の不意をつこうとパッと天井を見る。居ない。じゃあ次は 右、左と首を動かし続けたが 犯人も見付からないし、 部屋の壁には穴も開いていない。残念ながら、それらしい隙間もなかった。
後、確かめていないのは床と背後だ。 でも 今振り返ってもさすがに相手も警戒しているだろう。相手が油断するまで待って、もう一度しかけてみよう。
待っている間に 請求書を二枚仕上げると、筆を戻す。
充分時間は経ったはずだ。
クルリと背後を見る。何もない。じゃあ 床かだと足元を見るが、やはり 穴の一つも開いてない。
これは……部屋の外ではなく、中から見られてると言う事だ。
昨日まで、こんなことは無かった。部屋に人が入れるほどの大きな家具も無いし、隠れられるような衝立も無い。そう考えてる最中も視線を感じる。
昨日と今日で変化といえば……。
自然と視線が 本棚に置いてある黒い箱に行く。
しかし、蓋が開いた形跡もないし、紐も解けていない。
でも、今は視線を感じないけど、考えられるのは アレしかない 。
私を見ていた犯人は あの箱の中に居るだろうか?
( ……… )
事の起こりは……。
*****
70以上の峰が連なり 雲海に包まれて千変万化する仙境の山。
「黄山見ずして、山を見たというなかれ」 と言われるほど 水墨画のように美しい風景が広がる。
その黄山が あるのが安徽省。そして、その安徽省に豪商として名高い 「劉家」がある。
「劉家」に、無い物は ないと言われるほど、 ありとあらゆる物を取り揃えている。
安徽省の中の一つの街全部が劉家の敷地で、中央に母屋があり 東西南北に取引窓口がある。噂では取引窓口から次の窓口まで移動するのに半日かかると言う。 蔵に至っては 1番蔵から100番蔵まである。 そんな劉家の東に、そのまた東に……。ようは 東のはずれの6畳ほどの一室に 二人の娘が、卓に置かれている大きな瓜ほどの 黒漆の箱を間に向かい合って座っている。
どちらも、年の頃は17、8歳。
しかし、その立場は天と地ほど違う。
上座に座っている娘は 絹の長包に、金糸の刺繍が衣装全体に施されていて 結い上げた髪には凝った玉の簪をいくつも挿している。
華やかな美しさがあり、目鼻立ちも はっきりしていて、その衣に劣ることなかった。
下座に座っている娘は 木綿の長包で 襟と袖口に同じく木綿の糸で刺繍が施されている。簡単に結った髪には 簪の一本も挿していない。
切れ長の目で キリリと結ばれた唇は 意識の強さを物語っている。
一目で、育ちの違いがわかる。
二人は 主の娘と使用人の娘として出会ったが 仲は良く。7歳の頃から一緒に暮らしている。
金持ちの劉家の娘である 香玉が、 友であり使用人である春花に向かって黒漆の箱を押しやる。
「春花。この箱を預かって欲しいの」
「 ……… 」
春花は 香玉が 笑顔で差し出した箱を すぐには受け取らない。
中に カエルが入ってるかもしれない。だから、まずは観察してみる。昔ながらの 蓋つきの箱で赤い組紐で結ばれている。玉手箱を連想させる。
( ……… )
春花は香玉の顔を盗み見る。
嬉しそうだ。 と言うことは、何かこの箱に仕掛けがあるのかもしれない。香玉は 小さい時から いたずら好きで、友達や使用人に両親。はては、客にまで 誰彼構わず 餌食にしていた。そのたび 旦那様に、こっぴどく叱られるが 一人娘ということもあり 結局いつも許してしまう。だから未だに、いたずらを仕掛けてくる。
( 恋人が出来たから落ち着いたと思ったのに……。いつになったら、大人になるのやら)
内心 辟易している。しかし、だからと言って 断るという選択肢はない。なぜなら、これは香玉からの挑戦だからた。それに幼馴染でも、私の雇い主の娘なのだ 。
その辺の立場は、弁えている。
でも、前例があるだけに 簡単に受け取るのは躊躇われる。
(本当の事を言うか分からないが、一応聞いてみるか)
「 これは何ですか?」
「 それは………」
「 ……… 」
「呪いの箱よ」
わざと間をあけて香玉が 勿体つけたように言う。
(呪いの箱? これが?)
春花は香玉が 本当の事を言っているのか探ろうと瞳を見る。
人をたぶらかすとき 目をキラキラさせる。
( ……… )
別段、普段と変わりない。
と言う事は、嘘をついていない事になる。
でも、これが呪いの箱だとは 到底思えない。呪いの箱と言ってるわりには 香玉が素手で触っていた。
「 本当に?」
「もちろん。本物よ」
念押ししても答えは同じ。
う~ん。蓋を開けるとかしない限り大丈夫なんだろうか?
箱を手に取って、ひっくり返したりして眺めてみる。別に何の変哲も無い よくある箱だ。
封印の御札が貼っているわけでもない。
それでも念のために隠れた所に焼き印や 、掘られたり書かれたりした形跡がないか 穴が開くほど調べた。しかし、凹みさえな無い。
匂いを嗅ぐ。無臭だ。
耳を近づけて箱を振ってみる。
音もしない。不審な点は無い。
それでも春花は胡散臭そうに香玉を見る。
「本当に、本当? 嘘はついてないわよ」
「 ……… 」
騙してないと香玉が首を振る。
いたずらされた回数は 両手両足の数でも足りない。 騙されないようにと 警戒しているから、今では手の込んだイタズラになってきている。だから、余計に裏があるように感じる。
「もう、疑り深いんだから。お父様が借金の方にもらったの。だから、出て所は、はっきりしてるわ」
「旦那様が?」
真実だと香玉が首を縦に振る。
それを見て春花は、旦那様にも 困ったものだと 内心ため息をつく。
有り余るほど金のある旦那様は、 大抵の物を手に入れてしまった。だから、刺激を求めて 珍しい物や曰く付きの物に手を出すようになった。
旦那様の暇をもて余している姿に、香玉の姿が重なる。
まさしく、この親にしてこの子ありだ。
旦那様を疑うわけでは無いが、 本当に呪いの箱だろうか? 呪いなど 何か災いが起きた時の言い訳にしか過ぎない。 だから、この世に幽霊だの 妖などの類は居るはずが無い。全く信じては いないが……。
無害の物を香玉が私に渡すとは考えにくい。呪いかどうかは別として、私にとって厄介な代物だということは断言できる。
「でも、一つだけ約束して」
「何でしょう」
(約束?)
絶対、私にとって不利な事だ。
どんな無理難題を押し付けてくるのかと身構える。
「絶対に、この箱を開けてはいけないわ。分かった」
「 ……… 」
念押ししてくる香玉の言葉には 『開けなさい』という意味合いを感じる。箱を開けた途端、呪いという名の水とか 墨が 顔に掛かるかもしれない。
開けたら香玉は大笑い。
開けなかったら、怖がりだと馬鹿にされる。そう考えると、この箱を受け取るのは嫌だ。
しかし、断るにしても正当な理由もない。
(仕方ない)
春花は 逃げられないと諦めて箱を受け取ることにした。
「かしこまりました」
香玉に向かって 改まった態度でお辞儀する。すると、私の返事に香玉が静かに微笑む。
その満足げな笑顔を見て 早くも後悔した。
(もしかして……引っかかった?)
*** 1日目・人見知り
香玉が部屋を出て行くと春花は 早速 黒い箱の正体を確かめようと細部にまで目を凝らす。しかし、いくら調べても 何も出ない。絵も書かれていない地味な箱だ。
(それにしても、中身はなんだろ?)
音がしなくて軽いモノ?
花春は 箱を前に腕組みして考えてみる。
紙とか? 紙ねぇ……。
紙で思いつくのは書や絵だけど……。この箱の大きさでは小さすぎて価値のある物が入っているとは考えられない。
「う~ん」
香玉は、いったい何を考えて、これを私に預けたんだろう?
もう十年以上一緒に暮らしているが、未だに何を考えているか よくわからない。
暫く あれやこれやと考えたが 諦める事にした。
何も思いつかない。考えるにしても情報が少なすぎる。この箱のことを考えるのは ここまで。
どうせ中身が何か分からないんだから、考えるだけ時間の無駄だ。
開けては いけないと言われたんだから、言い付けを守ろう。
それが 使用人としての義務だ。
だから、開けない。 平穏無事こそが一番。
なぜ 自ら騒ぎ立てる必要がある。
香玉の つまらぬ遊びに付き合っているほど暇ではない。
考えるのをやめると 本棚を整理して黒い箱を置くと、手を打って埃を払う。
「さてと」
仕事に取りかかろうとモードを、切り替えて文机に座る。
私の仕事は、請求書を書くことだ。この仕事をするために雇われた 訳ではない。私は もともとは、取り引き相手の娘にすぎなかった。でも、薬師として父が流行病で死んでしまい。天涯孤独の身になった私を旦那様が不憫に思い
引き取ってくれた。 大人になると字が綺麗だからと、今の仕事を回して下さった。だから、旦那様には足を向けて寝れない。
それに、一日中机に座って、手を墨で汚すこの仕事を気に入っている。誰も訪ねてこないから、邪魔されることなく自分のペースで仕事をできる。黙々と仕事をこなす。まさにプロの仕事だ。
そのはずなのに……。
春花はキョロキョロと辺りを見回す。
おかしい? 顔を見られているような視線を感じる。
この部屋には私しかいないはずなのに……。
障子の何処かに穴でも開いているのかと思い障子を見たが、それも無い。
気のせい?
( ……… )
香玉から変な物を渡されたから 神経質になってるんだ 。気にしすぎだと、それを振り払うように首を振る。
そう思って仕事に戻るが、 やはり視線を感じる。間違いない。このチリチリとした感じ。
いったい、誰が覗いているんだ?
平凡な日々を送ってる私など、覗いても 楽しくないのに……。どこの物好きだろう。そう考えていると一人思い当たる 人物がいる。
香玉だ。
ははーん。
そう言うことね 。私が呪いの箱と聞いて 怖がる様子を見て楽しむつもりだ。でも、どうやって?そこまで考えてピンと来る。きっと誰かに私を何処からか見張らせてるんだ。 だから、この視線は、そこの相手のものだ。
その手には乗らない。覗いている者を見つけ出して 香玉の前に引きずり出してやる。
( ……… )
相手の居場所を突き止めようと、物音が聞こえないかと耳をすましてみる。しかし、何も聞こえない。だったら春花は相手の不意をつこうとパッと天井を見る。居ない。じゃあ次は 右、左と首を動かし続けたが 犯人も見付からないし、 部屋の壁には穴も開いていない。残念ながら、それらしい隙間もなかった。
後、確かめていないのは床と背後だ。 でも 今振り返ってもさすがに相手も警戒しているだろう。相手が油断するまで待って、もう一度しかけてみよう。
待っている間に 請求書を二枚仕上げると、筆を戻す。
充分時間は経ったはずだ。
クルリと背後を見る。何もない。じゃあ 床かだと足元を見るが、やはり 穴の一つも開いてない。
これは……部屋の外ではなく、中から見られてると言う事だ。
昨日まで、こんなことは無かった。部屋に人が入れるほどの大きな家具も無いし、隠れられるような衝立も無い。そう考えてる最中も視線を感じる。
昨日と今日で変化といえば……。
自然と視線が 本棚に置いてある黒い箱に行く。
しかし、蓋が開いた形跡もないし、紐も解けていない。
でも、今は視線を感じないけど、考えられるのは アレしかない 。
私を見ていた犯人は あの箱の中に居るだろうか?
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