お人好しアンデッドと フローラの旅は道連れ世は情け。 骨まで愛してる。

あべ鈴峰

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姉との再会

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ジャックは、路地でフローラと向かい合いながら揺れる心を何とかしようとしていた。

愛ゆえに痛みを感じない。 その言葉に振り回されたくない。そう思っているのに……。

思わず突き刺してしまったフローラの体から指骨を抜く。
(本当にフローラは、私を愛している
のか?)
そんな答えを望んで問う。 
「だって、自分の体に 他人の体の一部が入った事なんかありませんから」
しかし、フローラの返事に肩透かしを受けてガクッとする。
 本人にその意思はない。
やはりフローラが得意気体質なだけだ。
さっきアンデッドと人間の間にハーフが生まれると聞いたばかりのジャックにとってフローラが言った事を意味深に受け取ってしまうのは仕方の無いこと。

フローラは正直な感想を言っているだけなのに、 俺ときたら深読みしすぎ。
いろんな意味で恥ずかしくて 下顎骨を上下させる。
乙女なんだから そんなことを言っては駄目だと注意したいが、 言えば理由を聞かれる。 それは説明したら 突き飛ばされて逃げていく。 そして、俺への信頼はガタ落ち。

フローラは、まだまだ子供だ。 
忘れるんだ。さっきの老人の戯れ言だ。
「ジャックは 経験あるんですか?」
「えっ?」
「だから、自分の体に 他人の体の一部が入った事です」
(入れられた?)
ジャックの 脳裏に関係を迫ってきたボール(男)の顔が浮かぶ。
あんな経験、二度とゴメンだと身震いする。
「とんでもない。俺は正真正銘男だ」
「はぁ? 知ってますけど……」
「………」
不思議そうな顔で俺を見る純真なフローラの瞳と、まともに目を合わせられない。何も知らない事が、良い事なのか悪い事なのかも、もはやジャック
にはそれさえも分からない。
「なんか変なこと言いました?」
 ジャックは頚椎を横に動かすと、全ての引き金になった自分の10本の指骨を見る。

そんなに力を入れたつもりはないのに、手袋を突き破って 末節骨が出ている。
「………」
 するとフローラが俺の肩はポンと叩くので、何事かと頭蓋骨を上げる。
「買ってあげますから、心配しないでください」
「………」
手袋が破けたことを悲しんでいると勘違いしたフローラが 俺に向かって頷く。そんな姿を見てジャックは、クスリと笑いフローラの頭を撫でる。 
フローラに恋や愛の話など まだ早い。

** 姉を求めて **

ジャックは夜中から、なんとか手に入れたウイリアム家の間取り図を前に、もし自分ならどこをフローラの姉の部屋にするか考える。フローラの話では まだ結婚していないらしい。

フローラが姉を思うように、姉の方もフローラを思っているはずだ。
たった一人の妹に、何も言わずに結婚するとは思えない。 
と言うことは、ただいま説得中か、準備中と考えていい。村に連れ帰って半月以上経っているのに結婚の日取りが決まっていないことが証拠だ。
と、なると主寝室は除外。
条件としては人目を避けて出入りができる部屋。
そして、もちろん一番上等な部屋だろう。

だが二人で歩いている姿を見たことが無いと聞く。
よほど嫉妬深いのか? それとも内気で、まだ告白できないのか?
ウィリアムの評判は良い。
そう、とても ……。
だけど、裏を返せば 相手の気持ちを考えるタイプ。ノーと言われたら相手がその気になるまで待つ。粘り強いのは良いが、こと女に関してはそれが仇になると思う。
ローラと同じ考えなら 物より心。
(姉妹だから似るだろう)
しかし、心を捕らえるのは難しい。

だが、 良い事もあった。領主の仕事があるから、ほぼ毎日同じパターンで生活している。これだと侵入する時間帯を割り出すのは簡単だ。
「ジャック、何してるんですか?」
 いつのまにか起きたフローラが背後からテーブルを覗く。
「フローラの姉さんが居そうな部屋を考えていたんだ」
「う~ん。だったら、この部屋じゃないですか」
フローラが迷わず見取り図の一部屋を指差す。そこは中庭に面した真正面の部屋だ。予想外の答えに首をひねる。
自分が考えた条件からすれば、 リストの最後の方だ。

「どうして、そう思うんだ?」
「お姉ちゃんは、 花が好きだからです。ここなら一日中花を見てられます」
「………」
フローラの姉の顔を知らない人間が多いという事は、部屋に閉じ込められて自由に外出できない。 と、考えるのが普通だ。
「成程……」
警備のことばかり考えていたが、フローラの姉の気を引きたいなら考えられる。我が儘は叶えてやらないと 機嫌を損ねられる。

「じゃあ、 一番に調べてみよう」
「いつ入るか決めたんですか?」
「ああ、 フローラが姉さんを探してるのが知られる前の方が都合がいい」
 2、3日、調べてみたが 、何故か屋敷の警備が薄い。本当に治安がいいのか? もしくは私兵が居るのか? 
まぁ、出たとこ勝負になりそうだ 。
それに 、相手が惚れた女の妹となれば 殺されることはないだろう。
「それで、どんな計画ですか?」
「今回は一緒に侵入しよう」
 初めての家では使用人に見つかった場合は逃げ切れない。戦ったことのないフローラは剣を向けられただけで、すくみ上がってしまう。

こういう時こそ、 経験のある俺が必要だ。
「一緒にですか?」
そうだと頷くとフローラが 嬉しそうに両手を口に当てる。
「それなら安心ですね」
「ああ」
 初めて二人で行動できるのは ジャックにとっても安心できる。 
この前、助けてもらったから 今度は俺の番だ。

*****

フローラはベッドの上に 荷物を並べて荷造りをしていた。
いよいよ明日だ。
明日、お姉ちゃんに会える。 
そう思うと期待と不安が交錯する。

貴族になってしまったお姉ちゃんは、
田舎者の妹を受け入れてくれるだろうか?貧乏な生活に戻りたくないと 私を追い出すだろうか?
 連れて来られてからずっと、この街で暮らしいるらしい。
(………)
私のこと心配じゃないの? どうして、私を探さないの? 裕福な生活に慣れて、私の事などどうでもいいの?

ううん。
姉ちゃんは私を捨てたりしない。きっと閉じ込められてて、出歩けないんだ 。肖像画が意外で、お姉ちゃんの姿を見た人はいない。 
そんなの可笑しい。
恋人同士なら二人で出かけるはずだ
…… じゃあ、相手を嫌っているんだろうか? もしそうなら助けに行かなくちゃ。 
私を待っているなら、その手を掴んで帰る。 私を持っていないなら……ジャックの手を掴んで帰ろう。

お姉ちゃんが、変わってないと信じたい。でも…… 親の反対を押し切って 駆け落ちする人もいる。 家族である私ではなく、恋人の方が大事なら……。
諦めて、私は一人で村に帰るしかない。 お姉ちゃんの幸せを願っている。 でも一抹の寂しさがある。
「はぁ~」
フローラはため息を吐くと ポスッとベッドに頭を乗せる。
ひとりぼっちになるのかな?
 両親が死んで、 お姉ちゃんが結婚して家を出て……。家に住んでるの私だけ。 ひとりぼっちは嫌だ。
 お姉ちゃんの幸せが私の幸せだったのに……。

「どうした?」
ポンとジャックの手が頭に乗る。
気づかないうちに部屋に入ってきていた。
「 何でもありません」
そうだ。 ひとりじゃない。 
お姉ちゃんを取られも、ジャックが残ってる。フローラはそれを確かめるように、ジャックに抱きつく。
「心配しない。きっと姉さんに会えるさ」
そう言うとジャックは私の頭を何度も頭を撫でる。
私を甘やかせてくれる人。 甘えていい相手。フローラは もっと撫でてとせがむように ジャック胸に自分の頬を擦り付ける。

*****

宿を出発するとジャックはフローラと ウィリアム家の門の近くに身を潜める。 あたりは薄暗く 早朝ということもあり静かだ。
一番鳥も鳴いてはいないだろう。
横を見るとフローラも、おとなしくじっとしている。 触れたところから、ぬくもりが伝わってくる。 このことが落ち着かせてくれる。

ガタゴトと 牛乳を運ぶ荷馬車が近づいてくる。 時間通り。門番が欠伸をしながら門を開けると屋敷に戻っていく。
ジャックはフローラと手をつないで、 荷馬車の横を身を低くして 門番に気付かれないように通り過ぎる。

無事屋敷に 侵入する事に成功した。
だが、これからだ。
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