お人好しアンデッドと フローラの旅は道連れ世は情け。 骨まで愛してる。

あべ鈴峰

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ようこそパラダイスへ

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グリッド村の入り口まで来たのは良いが、村に入るには入村料を払えと ゴロツキに迫られた。

 ザップからもらった金を使って入村料を払うかどうかフローラに尋ねると
「決めました。夜、忍び込みましょう」
「えっ?」
そう言って、悪戯っ子のようににっこりと笑う。
ジャックはフローラの言葉に、下げた 下顎骨が戻らない。 決断力といい、行動力といい、もしかしたら自分の想像以上に男前なのかも。

「だって腹が立つじゃないですか。人の足を見て」
払いたくない気持ちは分かるが、危険を冒す必要はない。
リンダの件が上手く行ったから、今度も上手くいくと思っている節があるが・・。
しかし判断を任せた以上、 同意するしかない。



ところが、村に侵入できそうな場所が見つからない。普通の村と違って 塀の切れ目もなく。塀自体が高い。 
諦めるよう説得しようとフローラを見ると、目を皿のようにして探している。
(・・・)

フローラに付き合って、村の周りをうろうろしていると、見知らぬ男が声をかけてきた。
「あんた達村に入りたいんだろう?」
そう言って男が、すべてを見通したと言うようにニヤニヤ笑う。
見るからに怪しいが、こういう裏で小銭を稼ごうという輩は何処にでもいる。声を掛けてきたところをみると、何か当てがあるらしい。
蛇の道は蛇。表があれば裏もある。

ジャックはフローラを背に隠して、交渉に入る。
「ああ、そうだ」
「だったら一人銀貨1枚で、裏口から入れてやるよ」 
それなら手持ちのお金で中に入れる。
(裏口ねぇ・・)
しかしこの男を信じていいものか、躊躇っていると、後ろからフローラが外耳道に口を近づける。

「ジャック。1/3の値段で入れるならお得です」
確かに。もし騙されたら取り戻せばいいだけの事だ。そう腹をくくる。
「分かったよ」
 ジャックは男に向かって金を払う。
「二人分だ」
「毎度」
男が嬉しそうに懐にしまうと、板壁をドンと両手で押す。
すると、扉のように塀が開いて出入口になる。
(塀を扉にするとは・・)
奇想天外の方法に唖然とする。

男が驚いている俺たちを楽しそうに見る。自慢の装置なんだろう。
これなら見つかっても逃げられる。
なかなか考えられている。


塀の扉をくぐり無事村へ入れた。
夜も遅いというのにグリット村は、昼のように明るく、音が溢れている。繁華街という言葉が頭に浮かぶ。

宿を探すか、聞き込みに行くか、これからどうするか考えていると、後ろに隠れていたフローラが前に出る。
「フローラ?」
何をする気なのかと見ていると、通りすがりの男を捕まえて気軽に声をかけた。
 「お兄さんを情報通と見込んで 、聞きたいことがあるんだけど?」
(情報通?)
どこがだ。ただの軽薄な男だ。

「よく分かってるじゃないか。お嬢ちゃん」
 煽てられて男が気を良くする。
しかしどうして、こんな男に媚を売る。意味がわからない。
 私の方が何倍も役に立つと、内心憤慨する。
「半月くらい前に、金髪の美人さんが新人として、入店したと思うんだけど。知りませんか?」
 姉探しの情報を集めか。理由は納得できたが、この調子で他の男達に声を掛けていたら目をつけられる。

「半月前・・ああ、パラダイスのところに入ったキャサリンの事か?」
「キャサリン・・その娘の名前はキャサリンって言うんですか?」
フローラが単刀直入に質問するので、ジャックは身構える。聞くのは簡単だが、嘘をつかれたり怪しまれたりしたら、どうするつもりだ。
本当にフローラは怖いものなし。
この性格では、いずれトラブルに巻き込まれる。私が傍にいて守ってやらねばなるまい 。

「本名かどうかは分からないが、キャサリンと呼ばれてる」
「ふ~ん」
「おいおい。まさか、騒ぎ起こす気じゃないだろうな?」
ペラペラと喋りすぎたと、途端に男の顔が厳しくなる。
フローラの姉同様 、無理やり連れて来られた娘たちを 家族が探しに来て、ひと悶着起こすのは考えられる。
これはヤバい。本当のことを言えば警戒されて村を追い出される。
 だからと言って、適当な言葉で逃げるには、それなりの理由を言わないと。

怪しむ男の態度に冷や汗が流れる。
何とかしようとしたが 、それより先にフローラが話を収めた。  
「違いますよ。同じ村の子が、ここに売られたって聞いたから。紹介してもらおうと思ったんです」
フローラが 否定するように両手を振る。しかし、男はまだ怪しんでいる。

「田舎暮らしには飽き飽きしてるんです。この村なら、楽して稼げるんでしょ?」
フローラが男の視線を誘導するように
ドレスを撫でる。
 フローラが着ているドレスは コットン素材。靴は履きふるされていて田舎娘丸出し。野宿続きで、シワも多い。
ジャックは改めてフローラが、なりふり構わず。姉を探していることに気づかされる。
年頃の娘なのに、紅の一つもさしてない。

「そういう事なら、俺が面倒を見てもいいんだぜ」
調子になった男が、馴れ馴れしくフローラの肩を抱く。その態度に無性に苛立つ。自分の物を勝手に使われた気分になる。これ以上フローラが触られることに我慢ならない。

*****

奴隷商人の情報を教えてくれた酒場の店主の言う通りに男に声をかけると、
何度やっても簡単に引っかかる。
調子に乗ってる男に、もう用済みだと、きっぱり断ろうとすると
「悪いが、先約がある」
(先約?)
ジャックが横から口を挟むと、私の肘を掴んで歩き出す。

何も聞いていないが、おとなしく従いながらフローラは、さっきの男に軽く頭を下げる。後で絡まれると面倒だ。
「そんなに、あの男が良いのか?」
不満があるのか、ジャックがぶっきらぼうに聞いてくる。
良いも何も、1番口が軽そうだから声をかけただけだ。
何でそんな事を聞くんだろうと思いながら答える。
「別に、普通のおじさんですから、何とも思ってません」

「だったらどうして、愛想を振りまく」
愛想?全く身に覚えがない。
だが、はたと気づく。
さっきのおじさんに気があると誤解してるんだ。
愛想を振りまくだけで必要な情報が手に入るな、安いものだと私は割り切っているが 、ジャックにしてみれば、 媚を売っているようで面白くないんだろう。

「分かりました。これから気をつけますから、早速お店に行ってみましょう」
「・・・」
フローラはまだ機嫌の治らないジャックに腕組みすると、店にが立ち並ぶ方へ歩き出す。
本人がいなくても、見た目が分かれば、お姉ちゃんかどうか判断できる。
(どうかお姉ちゃんでありますように)

** パラダイス**

お店の前でジャックと一緒に、やたら大きくて派手な看板を見上げる。
しかも、貴族の家のようにレンガの塀に囲まれている。店は門の向こうにあるようだ。

男の言う店とはここらしい。
『パラダイス』
なんとも安直な名前にげんなりするが、美女目当ての男どもにはヨダレものの名前だろう。
ジャックが、店を食い入るように見ている。
(何がアンデッドよ)
やっぱり、男には変わりない。
きっと、どんな美女がいるか想像してるんだ。

横目で鼻の下を伸ばしているジャック
を見る。私だってそれなりの格好すれば、そこそこ可愛いのに。
「入ってみます?」
投げやり気味にそう聞くと、ジャックが首を横に振る。
「用心棒がいるから、アンデッドだという事がすぐばれる」
ジャックの言葉に店の入り口を見ると、大柄な男が通せんぼするように立って睨みを利かせている。
本当だ。 客引きしてるわけじゃない。高級店?それとも危険な店?

私たちの視線に客と勘違いした用心棒が先手を打ってくる。
「うちは高級店なんで、そういう格好の人は入れませんよ」
私たちを見下したような態度にムッとして詰め寄る。
入る気も、入るお金も無いが、 そう言われると頭にくる。

「なっ、お客を選ぶっていうの?」「そうだよ。だから入りたかったら、もっとマシな格好して出直してこい」
 用心棒が野良犬を追い払うように、私達を手で追いたてる。
高級店に勤めてるからって、自分も高級になったと勘違いしていることに腹が立つ。

「なんですって!」
「フローラ、いいから」
ジャックが私の肩をつかんで、怒っても無駄だと引き戻そうとする。
頭では分かってる。喧嘩しても意味がないことは。
だけど、言われっぱなしは癪に障る。
「でも~」
「フローラ」
ジャックに引きずられて、その場から立ち去る。
どいつも、こいつも、守銭奴ばかり。この村にまともな人間はいないの?

 用心棒が見えなくなる所まで来て、やっとジャックが立ち止まる。
「いくら言っても入れてくれないよ」
「だったら、どうするんですか?」
店に入らないとキャサリンが姉か確かめられない。
フローラはふて腐れると、ジャックに八つ当たりする。
簡単に引き下がるから、ああ言う横暴な奴がのさばるんだ。 

アイツらの言いなりになって、新品の服を着るのは負けた気がする。
「俺たちの目的は従業員の方だから、 無理に店に入る必要はない」
「・・ そうでした」
 ジャックの指摘に本当の目的を思い出す。
「でも、従業員は何処に住んでるんです?」
店が終わるのを待って、後をつける?

ジャックがコンコンと店の塀を叩く。
「これだけ敷地が広いんだ。メイドたちの住まいも中にあるんじゃないか?」

***

言い出しっぺは俺だが 、今のこの状況は・・。
パラダイスの敷地の様子を探らせるためにフローラを肩車したが 、うら若き乙女を跨らせるなど、して良い事何だろうか?
 他の人が見たらどう思われるか。

 しかし鎖骨と第一肋骨に程よい重量感と温かさ。他人の体をこれほど心地よいと思ったことはない。
早く見つけてもらわないと、誘惑に負けてしまう。  
「どうだ。見えるか?」
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