お人好しアンデッドと フローラの旅は道連れ世は情け。 骨まで愛してる。

あべ鈴峰

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旅の再開・そして、グリッド村へ

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火の爆ぜる音に目を覚ますと、ジャックが黙って焚き火を見ている。

皆を助けられたし、犯人も捕まったし、ザップからお礼にと、馬車とお金もらった。
これで、お姉ちゃんのところへ早く行ける。
(・・・)

すべてが、良い方向へ向かってるはずなのに・・。
ジャックは眠れないほど、一人で辛い思いを抱えている。
 私に向けるジャックの笑顔は、何故か泣いているように見える。
ああ、どうして私は、力になれないんだろう。

聞くところによると、エマという女の人は詐欺師だと言う。
きっと、ジャックも騙されて嫌な思いをしたはずだ。話しを聞こうジャックに声をかけようとしたが、ザップに止められた。
「フローラは17年しか生きていないが、ジャックは500年も生きているんだ。色々あって当たり前だ」
だから、折り合いをつけるまで待ってやれと言われた。

どんな話でも聞くのに・・。
何も言ってくれないのは、私を信用してくれていないようで寂しい 。
私はジャックと思いを分かち合いたい。話せば、悲しみは半分に、喜びは倍になるとお父さんが言っていた。
私だって、分かってる。
たとえ知りたくても 無理やり聞き出そうとするのは、自己満足に過ぎない。 だから、その時が来る日を気長に待つつもりだ。

だかと言って、悲しみに暮れている
ジャックを放ってはおけない。
(・・・)
 フローラは、むくりと起き上がり、 ジャックの隣に座る。すると、ジャックが、ハッとしたように私を見る。
「起こしてしまったか。すまない。今火を消す」
「・・・」
 何か言おうと思ったのに、何も出てこない。完全に見切り発車だった 。何か言葉を用意していた訳ではない。ただ気持ちだけで、起き上がってしまった。

「フローラ?」
事情も何も知らない今の私に、慰めの言葉など見つからない。
 私に出来るのは身も心もジャックに向きあうこと。
言葉が無理なら傍にいよう。
「私も焚き火が見たくなったんです」
そう言うと、自分の頭をジャックの肩にもたれかける。

*****

フローラが俺のことを心配して、気遣ってくれるのは、有り難い。
でも今の俺に、それに答えられる
余裕はない。
聞きたい事もたくさんあるだろうに、 俺の気持ちを尊重して、何も聞かないで傍にいてくれる 。
それだけでも十分救われる。


 小さくなった焚き火に 追加の薪を放り込むと体動かすと 自分の大腿骨にストンとフローラの頭が落ちてくる。完全に熟睡してる。
篝火に照らされた可愛い寝顔を見ながら、ジャックはフローラの髪を撫で付ける。

沈んでいた心に暖かな思いが広がる。 フローラが居てくれてよかった。居なかったら、前に進もうとは思わなかっただろう。
いつのまにか自分にとって、大切な存在になっていた。
込み上げて来た愛しさに、かすかに下顎骨が上がる。
 ふと、ザップの言葉が蘇る。


 リンダの家でザップとウイスキーのグラスを傾けながら、お互いのことを語り合った。
いつしか話しは救出したときの話題になった。

「俺はとうの昔に、人間に見切りをつけた。だから、フローラがお前を助けに来た時は、夢だと思った。 そしてフローラが、頭蓋骨なのにお前を見つけた時は、奇跡だと思った。 そして、お前に抱きついた時は、 愛だと確信した」
「・・・」
やれやれと、ジャックは頚椎を動かす。随分ロマンチストな男だ。

 真面目な顔で切々と言われても、ジャックは肯定も否定も出来ない。
フローラとの間に芽生えた絆が、男女の愛とは思えない。だが・・。
「俺達、アンデッドは恋愛の対象になりませんよ」
姿を見られただけで、悲鳴をあげられる存在なのに、愛だなんて・・。
すると、ザップが俺に向かって、分かってないと指骨を振る。

「俺たちは元人間だ。アンデッドになったからって、人間の感情まで失くしたわけじゃない。だから、心がある」
「・・・」
ザップが自分の胸骨を叩く。
確かに、そうだけど・・。
いくら俺たちがそう思っていても、 人間伝わるはずがない。
「俺はお前が羨ましい」
「俺ですか?」
「俺だってフローラのことを可愛いと思う。もう少し若ければ、口説いてた」
ザップが指骨で下顎 骨を撫でる。

「何言ってるんです」
人間のフローラを口説こうとするくなんて呆れる。
 「考えてもみろ。俺達は、本物のアンデッドじゃない。つまり、本物のアンデッドのような考え方は出来ないんだ」
「それは、そうですけど・・」
だからといって、人間の女にちょかいをかけて良いことには、ならない。

「人間を襲いたいとか、食いたいとか、思ったことがあるか?」
「そんなこと思ったことも、ありませんよ 」
ザップが 身を乗り出して意見を求める。
「だったら、人間だ」
「考え方が、極端すぎますよ」
「ジャック。俺が言いたいのは、人間の人生は短い。あっという間に死ぬ。だから、その一瞬一瞬を大切にしないと後悔するぞ」
「後悔って・・。 俺に、どうしろって言うんですか」

ザップがフローラに告白させようと俺をそそのかしてくる。自分は村に 帰るのに、なんて無責任な大人なんだ。
「フローラは、アンデッドのお前を受け入れるだけの広い心がある。そんな相手に出会えるのは稀だ」
「・・・」
言われなくても、一番実感しているのは俺自身だ。躊躇なく声をかけ、体に触れ、 笑いかけてくる。それがどんなに嬉しい事か・・。
黙って聞いていたリンダの父親が口を開く。

「私もそう思います。 ジャックの元気がないと心配してました」
「・・・」
「何とも思わないヤツのことを心配するか?」
「死んでしまったと、泣いたりしませんよ」
「・・・」
 二人にフローラが俺のことを好きだと言われて、失くしたはずの心臓がドキドキする。いや、可笑しくない。
人間だった時の記憶が、そう思わせてるんだ。しかし、俺はアンデッドで、フローラは人間。 所詮種族が違う。
でも、何かがあるのは真実。
それは信頼だとおもう。
お互いに相手のことを大切に思っている。

 今にして思えば、 俺たち2人は最初から普通とは無縁だった。
 人間に興味を持ち、 アンデッドを頼り、 人間に助けられ、アンデッドを・・。

** グリット村へ**

 モントス村での一件も無事解決して、やっとグリッド村へと
さし掛かったが、 長い長蛇の行列ができている。

 落ち着いた様子からトラブルではない。いつも混んでるのか?有名な観光地なのか?
隣に座っているフローラに目を向けると、ソワソワしている。
もうすぐ、姉に会えると言う気持ちが 、フローラの中に 期待と焦りが 落ち着きなくさせている。
早く再会させてあげたい。その為にも、情報が欲しい。

「フローラ。グリット村が、どんな村か知ってるか?」
ただ聞いただけなのに、余程嫌なのかフローラが鼻に皺を寄せる。
どうしてそんなことをするのか、全く身に覚えがないジャックは真正面から
 見つめ返す。すると、フローラが両手を挙げて首を振る。

「とぼけないでください。グリット村と言ったら、美女村で有名なんですよ」
「美女村?そんなこと言われても、知らない」
「本当ですか~」
今更とぼけるきかと、フローラが肩をすくめる。その仕草に、さすがにムッとする。村の別名と 、ローラの態度から 大体の想像はつくが、そういう男だと思われるのは心外だ。
今も昔も、清廉潔白だ

「フローラ。俺を見ろ。500年前からアンデッドなんだぞ。行ければかないだろう」
「 ・・あっ、そうでした」
 人間もアンデットも男は皆同じと
ひと括り
にして、軽蔑していたフローラだったが、やっと納得したようだ。
どうもフローラは、俺のことを人間だと考えがちだ。

「この行列は美女目当ての男どもと、娘を売りに来た親たちの列です」
「・・・」
 何とも言いようがない。興味があると言っても、ないと言っても、何か言われる。 返事に困る内容だ。
「でも、何かあったんでしょうか?全然動きませんね」
フローラが 身を乗り出して先頭を見て来ると馬車を降りる。
今日も元気だ。
かけていくフローラを見送るとて手綱を緩める。

馬車を手に入れたことで、旅がが楽になった。ザップに感謝だな。
サントス村から2日でグリッド村かに
着いた。今夜は、久しぶりにフローラをベッドで寝かせてあげられる。

 そんな事を考えていると、ふくれっ面のフローラが戻ってくる。
「どうした。何かあったのか?」
「聞いてくださいよ。村に入りたいなら入村料を払えって言うんですよ」
「入村料?」
そんなモノを取る
村などを聞いたことも無い。ヤクザが考えそうなことだ。

フローラと一緒にジャックは馬車の物陰から男達を観察する。どう見てもゴロツキだ。話してわかる奴らじゃない。
「やっぱり、悪い奴らですか?」
「ああ、旅人たちをカモにしてるんだろう。あの見た目だ。大概の者はトラブルを避けたがるからな」
「まったく、どこまでむしりとりば気が済むのよ」
フローラが弱者をいたぶると目を三角にする。
確かに腹立たしいことだが、村に入らないわけにはいかない。
 (金か・・ )

「一人いくらだ?」
「銀貨3枚です」
「フローラ、いくら持ってる?」
 フローラが自分の手のひらをに手持ちを出す。ジャックは、その手のひらに自分の財布の中身を出す。
二人で中身を確認してため息をつく
「「ふぅ~」」
1人分にもならない。
「どうする。ザップから貰った金を使うか?」
 貰った金を使うかどうか、決めるのはフローラだ。金を失う代わりに早く村に入るか、 今後のためにとっておくか。
「そうですね・・」
 フローラが顎を指で叩きな考える。
運良くこの村で姉が見つかったとしても、帰りのことを考えれば 少しは取っておきたい。

「決めました。夜、忍び込みましょう」

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