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それぞれの決着
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500年。一人で抱えていた怒りや悲しみ。その全てに今日決着がつく。
エマの部屋の扉を開けるザップたちを見送りながら拳を作る。
ザップは剣を携えていた。
じゃあ、俺は?
(エマに対する 俺の望みは何だろう・・)
*****
ドアを開けた先に待っていたのは ザップ達だった。
何で? 何でザップが ここにいるの? デビットを騙して 一人で逃げられると思ったのに・・。予想よりはるかに早い。
「よお!エマ。そんなカバン持って、旅にでも行くのか?」
ザップがドアの枠に手をついて 行く手を阻む。ゆったりとした口調とは裏腹に、その視線は厳しい。エマは無意識に距離をとる。
逃げ出したザップが戻ってきた理由は分かってる。私達を殺しに来たんだ。
でも、死にたくない。
だって私はまだ、何も手に入れていない。
何人もの人間を殺してきたザップにとって、殺人など日常茶飯時だ。
そしてそれはアンデッドでも同じ。
獲物を見つけた獣のようにザップの瞳孔が小さくなる。
アンデッドとしての死が迫ってくる。
(まだだ。まだ遅くない)
「ザップ・・実は」
もう一度 口当たりのいい言葉で誤魔化せばいい。そうすれば助かる。私なら出来る。
しかし、それを邪魔するように、デビッドが驚きの声を上げた。
「お前が、どうして此処にいる?」
しまった。デビッドがいるのを忘れていた。油断なく私を見ていたザップの視線が動く。
「ちょうど良かった。二人一緒か。探す手間が省けたぜ」
ザップが楽しそうに部屋の中に入ってくる。不味い。不味い。
デビットを騙したことがバレる。
たとえこの場を凌げても、お尋ね者となって 人間にもアンデッドでも追われる身になる。そうなったら逃げ場がなくなってしまう。この状況を覆す秘策が欲しい。親指の末節骨を噛むと必死に策を練る。
しかし、頭が真っ白で 何も浮かんでこない。落ち着くのよ。
ザップの後ろにも男たちがいた。
デビットをザップに押し付けても逃げ切れない。何か考えないと・・。
デビットが私を押しのけてザップに向かって自信満々に、私が渡した魔術書の紙を見せつける。
「どうだ。これを見ろ」
なんてバカなの。エマは思わず天を仰ぐ。私の計画が、これでおじゃんだ。
ザップが紙を見てから デビットの得意げな顔を見て、最後に私を見る。
その目は、私が何をしたかを見通したというように笑ってる。
「デビット。お前はバカだな。ペテン師のエマが、お前を助けると言うか?」
「なっ、何?」
ザップがデビットを小馬鹿にすると魔術書の切れ端を指骨で弾く。
「こんなもの役に立たない」
「そっ、そんな・・」
動揺したデビットが私を見る。顔を背けてその視線を避ける。
ここまで来たら言い逃れはできない。 だったら・・デビットに犠牲になってもらおう。
デビットが逃げればザップたちが追いかける。私はその隙に部屋の外に出ればいい。
「デビット!逃げて。殺されるわ!」
殺されると言う言葉にデビットが反射的に逃げようとザップの横を通り過ぎようとしたが、その前に腕を掴まれて引き戻される。
(全く!何やってるよ)
のろま なんだから。 また計画が失敗した。
「何をする。離せ!俺を殺したら仲間が黙っちゃいないぞ」
デビットが腕を外させようともがく。
するとザップが、のし掛かるようにデビットに顔を近づける。
「じゃあな、デビット」
そう言うとザップがデビットのお腹
に指骨を突き刺す。
「っ」
ザップの指骨を伝ってデビットの血が、ぽたぽたとペルシャ絨毯を汚す。
想定外のことにエマ生まれて初めて言葉を失う。デビットが殺されたというのに悲鳴さえ上がらない。ザップが恨み言の一つも言わずに、あまりにもあっさりとデビットを殺したことにエマは 震え上がる。
そしてそれはザップにとって、言葉は意味を成さないということを示している。すでに彼の中で答えが出ている。
許すか許さないか。
殺すか殺さないか。
じゃあ私は?私も直ぐに殺されるの?
逃げろと頭が命令しても 恐怖で体がすくんで動かない。
ザップが指骨引き抜くとデビットが、そのまま床に倒れて ピクピクと痙攣している。
デビットの目が私をとらえた。でもそれは一瞬で、すぐにその目からすっと光が消える。息絶えたとデビットをブルブルと震えながら見続ける。
死んだ。デビットがが死んだ。次は私の番だ。デビットの手には 私が渡した紙が握られている。
ザップが目の前に立つ。エマは死を覚悟して舌骨を大きく鳴らす。
人間と違ってアンデッドは簡単に死なない。一体どんな方法で私を殺そうとするのか、考えただけで気を失いそうになる。
しかし、ザップは私を無視してカバンの中を漁り始めた。
何してるの?
絶体絶命だと思っていたが、デビットと違い 私をすぐに殺さないで何かを探してる。探し物なら私を殺した後でも出来るのに・・。
まだ、つけ入る隙があるのかもしれない。ザップがお金を自分のポケットに申し込み。
お金?お金が欲しいのね。
これならイケる。
こんなとこで終わるような私ではない。私を誰だと思ってるの。
絶対、諦めない。
「お金なら幾らでもあげるわ。幾ら、幾ら欲しいの?」
「・・・」
エマはベッドサイドの引き出しを開けて、中の金貨を手ですくうとザップに見せる。しかし、私を無視してザップ
が魔術書を取り出すと 鞄を投げ捨てる。
(あっ!私の宝が・・)
思わず奪い返そうとするのは何とか堪える。そんな事をしたら私が魔術書を大切にしているとを知られてしまう 。
それに今は、機嫌を損ねたくない。
ザップが中身をパラパラとめくると、 パタンと魔術書を閉じる。
魔術書は 後から盗めばいい。
命が助かるならザップの靴だって舐めてやる。エマは覚悟を決めると、ザップのズボンを掴んで命乞いする。
「ザップ。ごめんなさい。悪いと思ってるわ。でも、私も仕方なく
デビットに命令されてやったの。だからお願い。命だけは助けて。同じアンデッドでしょ」
「よく言う。この嘘つきが!」
ザップが 私を足蹴にする。しかし諦めずに、もう一度ズボンを掴む。
死人に口なし。いくらでも同情を買うことを言えばいい デビット、あなたの死を無駄にしない。私が生き残るための糧になってもらうわ。
「嘘じゃないわ。デビットに本当に利用された。じゃなかったら 裏切ったりしない」
「もう、誰もお前の話を信用したりしない」
「本当に、本当よ。他の手下に聞いてくれたらわかるわ」
口からでまかせだ。手下の名前も顔も誰一人覚えてない。
ザップが私の胸ぐらをつかんで引っ張り立たせる。その目には激しい怒りが、燃えている。
「お前に分かるか!
便利だから。見分けがつかないからって理由で、 額に番号を書かれた俺達の屈辱が!」
「そっ、それは私じゃないわ。全部デビットがやったことよ」
それは本当のことだ。私も何も聞かされてなかった。
ザップの殺気にも近い 感情を見せられて、足が震える。ザップが突き飛ばすたように手を離す。
「入って来いよ」
ザップが閉まったドアに向かって声をかける。 誰?誰を選んだの?
私の罪を暴く為のデビットの手下?それとも仲間?
ドアが開いてザップの後ろから別の男が姿を現す。見覚えが無い。
でも、相手は私を知っているようだ。
*****
部屋に入るとザップが剣を俺に渡して場所を譲ると自分はドアに凭れかかる。
床に崩れるように座っているエマと改めて対峙したジャックは、縁とはつくづく奇妙なものだと感じる。あんなに探しても見つからなかったのに、フローラに導かれるように再会できた。
ジャックは、エマに話し掛けずに、部屋を見回す。
ザップの言った通り、一目で高級品だとわかるものが飾ってある。宝石のついた小箱を手に取る。
これを買うために何人もの同胞が犠牲になったのかと思うと、静かな怒りがこみ上げる。
エマは何も変わってない。ずっと犯罪を重ねてきただけだ。
憎しみのこもった目でエマを睨み付ける。
償いの時間だ 。
ジャックはエマの前に立つと本心を探ろうと見据える。本当は、その胸ぐらをつかんで怒鳴り散らしたい。でもそれは、ただの憂さ晴らしで 、解決にはならない。
「トニー・ブラウンという男を覚えてるか?」
「ももちろんよ。サイド村の男でしょ」
エマの答えに、許そうという気持ちが跡形もなく消える。
長年詐欺の仕事をしてきたエマが、 いちいち顔など覚えていない。分かっていて、もやはり傷つく。
「違う」
「ああ、ごめんなさい。ミネラル村の男ね」
「・・・」
きっと、アンデッドを集めた数の多い順に言ってるだけだ。そもそも反省していたら、こんな事件起こしてない。
少しでも良心があると期待した自分が愚かだ。
「お前は一生かかっても思い出せない」
「そんな事は無いわ」
もう話すことはないと、頭蓋骨と第7頚椎を左右に動かす。
仲間が死んでいると言うのに謝りもせず、全部人のせいにするようなエマに慈悲などいらない。
「だったらヒントをやろう」
ジャックは抜刀すると、エマの左足の楔状骨に剣を突き刺すと、無言で剣に力を入れる。すると、 乾いた音とともに骨が割れて砕ける。
「ぎゃー!」
これで歩くのは困難になる。
エマの悲鳴が部屋中に溢れる。
「止めて!どうして、こんな酷い事するの?」
「酷いこと?役に立たないアンデッドは、
こうして始末しようと言ったのは、お前だろ!」
痛みにのた打ち回っていたエマが俺を見て目を剥く。
「あっ、あんた・・コロッセオも生き残り?」
「やっと思い出したか。そうだ。俺は、あの地獄のようなコロッセオの生き残りだ!」
俺がどれだけの思いで、あの場所で戦っていたか思い知らせてやる。
剣を引き抜いて、もう一度ど刺そうと持ち上げた。
「そこまでだ」
しかし、いつのまにか戻ってきていたザップにその手を止められる。
離せとザップを見るとザップが駄目たと頸椎を横に振る。
「次は俺の番だ」
「・・・」
ザップの言葉に剣を離す。
恨みを晴らしたいのは俺だけじゃない。ドアの向こうに他の被害者が待っている。
部屋を出ると入れ替わりに別の者が入った。背後から聞こえるエマの悲鳴を聞きながら 歩き出す。
ザップたちが、この後のエマをどうするか知りたい。だが、知ってしまったら、またエマに囚われ
てしまう。そんな気がする。
気持ちを鎮めようと大きく息を吐く。
トニーの仇をとったそれなのに、心が晴れない。これでいいのか? これで許すのか?トニーの両親に終わったと話すべきか?
全て忘れて生きていけるのか?
もう一度、心から笑えるのか?
(・・・)
こんな気持ちのままでは一歩も動けない。ジャックは
何処へも行けず。ただ、その場に立ち尽くす。
「ジャック」
「えっ?」
ザックに声に物思いから覚める。
気付けば日も傾いている。
ずいぶん時間が過ぎたようだ。
「後のことは俺たちに任せて、フローラのところへ行ってやれ」
「フローラ・・」
俺の異変には気付いてだろう。それでも、俺を信用して何も聞かないでいてくれた。無鉄砲なくせに、優しい。
フローラの事を考えると、無邪気な笑顔が浮かんでくる。その顔を思い出すと 胸が温かくなる。 きっと、帰りが遅いと心配してるだろう。
(帰ろ。フローラの元へ)
「わかった。ありがとう」
ジャックはザップに握手
を求めて手を出す。
踏み出した一歩は重い。
でも、フローラが待っていると思うと足取りが軽くなる。
自分の決断が正しかったのか、間違っていたのか、それは分からない。
でも、それでいい。
神様じゃないんだ。誰かが、誰かを罰するのは 難しい。
エマの部屋の扉を開けるザップたちを見送りながら拳を作る。
ザップは剣を携えていた。
じゃあ、俺は?
(エマに対する 俺の望みは何だろう・・)
*****
ドアを開けた先に待っていたのは ザップ達だった。
何で? 何でザップが ここにいるの? デビットを騙して 一人で逃げられると思ったのに・・。予想よりはるかに早い。
「よお!エマ。そんなカバン持って、旅にでも行くのか?」
ザップがドアの枠に手をついて 行く手を阻む。ゆったりとした口調とは裏腹に、その視線は厳しい。エマは無意識に距離をとる。
逃げ出したザップが戻ってきた理由は分かってる。私達を殺しに来たんだ。
でも、死にたくない。
だって私はまだ、何も手に入れていない。
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そしてそれはアンデッドでも同じ。
獲物を見つけた獣のようにザップの瞳孔が小さくなる。
アンデッドとしての死が迫ってくる。
(まだだ。まだ遅くない)
「ザップ・・実は」
もう一度 口当たりのいい言葉で誤魔化せばいい。そうすれば助かる。私なら出来る。
しかし、それを邪魔するように、デビッドが驚きの声を上げた。
「お前が、どうして此処にいる?」
しまった。デビッドがいるのを忘れていた。油断なく私を見ていたザップの視線が動く。
「ちょうど良かった。二人一緒か。探す手間が省けたぜ」
ザップが楽しそうに部屋の中に入ってくる。不味い。不味い。
デビットを騙したことがバレる。
たとえこの場を凌げても、お尋ね者となって 人間にもアンデッドでも追われる身になる。そうなったら逃げ場がなくなってしまう。この状況を覆す秘策が欲しい。親指の末節骨を噛むと必死に策を練る。
しかし、頭が真っ白で 何も浮かんでこない。落ち着くのよ。
ザップの後ろにも男たちがいた。
デビットをザップに押し付けても逃げ切れない。何か考えないと・・。
デビットが私を押しのけてザップに向かって自信満々に、私が渡した魔術書の紙を見せつける。
「どうだ。これを見ろ」
なんてバカなの。エマは思わず天を仰ぐ。私の計画が、これでおじゃんだ。
ザップが紙を見てから デビットの得意げな顔を見て、最後に私を見る。
その目は、私が何をしたかを見通したというように笑ってる。
「デビット。お前はバカだな。ペテン師のエマが、お前を助けると言うか?」
「なっ、何?」
ザップがデビットを小馬鹿にすると魔術書の切れ端を指骨で弾く。
「こんなもの役に立たない」
「そっ、そんな・・」
動揺したデビットが私を見る。顔を背けてその視線を避ける。
ここまで来たら言い逃れはできない。 だったら・・デビットに犠牲になってもらおう。
デビットが逃げればザップたちが追いかける。私はその隙に部屋の外に出ればいい。
「デビット!逃げて。殺されるわ!」
殺されると言う言葉にデビットが反射的に逃げようとザップの横を通り過ぎようとしたが、その前に腕を掴まれて引き戻される。
(全く!何やってるよ)
のろま なんだから。 また計画が失敗した。
「何をする。離せ!俺を殺したら仲間が黙っちゃいないぞ」
デビットが腕を外させようともがく。
するとザップが、のし掛かるようにデビットに顔を近づける。
「じゃあな、デビット」
そう言うとザップがデビットのお腹
に指骨を突き刺す。
「っ」
ザップの指骨を伝ってデビットの血が、ぽたぽたとペルシャ絨毯を汚す。
想定外のことにエマ生まれて初めて言葉を失う。デビットが殺されたというのに悲鳴さえ上がらない。ザップが恨み言の一つも言わずに、あまりにもあっさりとデビットを殺したことにエマは 震え上がる。
そしてそれはザップにとって、言葉は意味を成さないということを示している。すでに彼の中で答えが出ている。
許すか許さないか。
殺すか殺さないか。
じゃあ私は?私も直ぐに殺されるの?
逃げろと頭が命令しても 恐怖で体がすくんで動かない。
ザップが指骨引き抜くとデビットが、そのまま床に倒れて ピクピクと痙攣している。
デビットの目が私をとらえた。でもそれは一瞬で、すぐにその目からすっと光が消える。息絶えたとデビットをブルブルと震えながら見続ける。
死んだ。デビットがが死んだ。次は私の番だ。デビットの手には 私が渡した紙が握られている。
ザップが目の前に立つ。エマは死を覚悟して舌骨を大きく鳴らす。
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しかし、ザップは私を無視してカバンの中を漁り始めた。
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絶体絶命だと思っていたが、デビットと違い 私をすぐに殺さないで何かを探してる。探し物なら私を殺した後でも出来るのに・・。
まだ、つけ入る隙があるのかもしれない。ザップがお金を自分のポケットに申し込み。
お金?お金が欲しいのね。
これならイケる。
こんなとこで終わるような私ではない。私を誰だと思ってるの。
絶対、諦めない。
「お金なら幾らでもあげるわ。幾ら、幾ら欲しいの?」
「・・・」
エマはベッドサイドの引き出しを開けて、中の金貨を手ですくうとザップに見せる。しかし、私を無視してザップ
が魔術書を取り出すと 鞄を投げ捨てる。
(あっ!私の宝が・・)
思わず奪い返そうとするのは何とか堪える。そんな事をしたら私が魔術書を大切にしているとを知られてしまう 。
それに今は、機嫌を損ねたくない。
ザップが中身をパラパラとめくると、 パタンと魔術書を閉じる。
魔術書は 後から盗めばいい。
命が助かるならザップの靴だって舐めてやる。エマは覚悟を決めると、ザップのズボンを掴んで命乞いする。
「ザップ。ごめんなさい。悪いと思ってるわ。でも、私も仕方なく
デビットに命令されてやったの。だからお願い。命だけは助けて。同じアンデッドでしょ」
「よく言う。この嘘つきが!」
ザップが 私を足蹴にする。しかし諦めずに、もう一度ズボンを掴む。
死人に口なし。いくらでも同情を買うことを言えばいい デビット、あなたの死を無駄にしない。私が生き残るための糧になってもらうわ。
「嘘じゃないわ。デビットに本当に利用された。じゃなかったら 裏切ったりしない」
「もう、誰もお前の話を信用したりしない」
「本当に、本当よ。他の手下に聞いてくれたらわかるわ」
口からでまかせだ。手下の名前も顔も誰一人覚えてない。
ザップが私の胸ぐらをつかんで引っ張り立たせる。その目には激しい怒りが、燃えている。
「お前に分かるか!
便利だから。見分けがつかないからって理由で、 額に番号を書かれた俺達の屈辱が!」
「そっ、それは私じゃないわ。全部デビットがやったことよ」
それは本当のことだ。私も何も聞かされてなかった。
ザップの殺気にも近い 感情を見せられて、足が震える。ザップが突き飛ばすたように手を離す。
「入って来いよ」
ザップが閉まったドアに向かって声をかける。 誰?誰を選んだの?
私の罪を暴く為のデビットの手下?それとも仲間?
ドアが開いてザップの後ろから別の男が姿を現す。見覚えが無い。
でも、相手は私を知っているようだ。
*****
部屋に入るとザップが剣を俺に渡して場所を譲ると自分はドアに凭れかかる。
床に崩れるように座っているエマと改めて対峙したジャックは、縁とはつくづく奇妙なものだと感じる。あんなに探しても見つからなかったのに、フローラに導かれるように再会できた。
ジャックは、エマに話し掛けずに、部屋を見回す。
ザップの言った通り、一目で高級品だとわかるものが飾ってある。宝石のついた小箱を手に取る。
これを買うために何人もの同胞が犠牲になったのかと思うと、静かな怒りがこみ上げる。
エマは何も変わってない。ずっと犯罪を重ねてきただけだ。
憎しみのこもった目でエマを睨み付ける。
償いの時間だ 。
ジャックはエマの前に立つと本心を探ろうと見据える。本当は、その胸ぐらをつかんで怒鳴り散らしたい。でもそれは、ただの憂さ晴らしで 、解決にはならない。
「トニー・ブラウンという男を覚えてるか?」
「ももちろんよ。サイド村の男でしょ」
エマの答えに、許そうという気持ちが跡形もなく消える。
長年詐欺の仕事をしてきたエマが、 いちいち顔など覚えていない。分かっていて、もやはり傷つく。
「違う」
「ああ、ごめんなさい。ミネラル村の男ね」
「・・・」
きっと、アンデッドを集めた数の多い順に言ってるだけだ。そもそも反省していたら、こんな事件起こしてない。
少しでも良心があると期待した自分が愚かだ。
「お前は一生かかっても思い出せない」
「そんな事は無いわ」
もう話すことはないと、頭蓋骨と第7頚椎を左右に動かす。
仲間が死んでいると言うのに謝りもせず、全部人のせいにするようなエマに慈悲などいらない。
「だったらヒントをやろう」
ジャックは抜刀すると、エマの左足の楔状骨に剣を突き刺すと、無言で剣に力を入れる。すると、 乾いた音とともに骨が割れて砕ける。
「ぎゃー!」
これで歩くのは困難になる。
エマの悲鳴が部屋中に溢れる。
「止めて!どうして、こんな酷い事するの?」
「酷いこと?役に立たないアンデッドは、
こうして始末しようと言ったのは、お前だろ!」
痛みにのた打ち回っていたエマが俺を見て目を剥く。
「あっ、あんた・・コロッセオも生き残り?」
「やっと思い出したか。そうだ。俺は、あの地獄のようなコロッセオの生き残りだ!」
俺がどれだけの思いで、あの場所で戦っていたか思い知らせてやる。
剣を引き抜いて、もう一度ど刺そうと持ち上げた。
「そこまでだ」
しかし、いつのまにか戻ってきていたザップにその手を止められる。
離せとザップを見るとザップが駄目たと頸椎を横に振る。
「次は俺の番だ」
「・・・」
ザップの言葉に剣を離す。
恨みを晴らしたいのは俺だけじゃない。ドアの向こうに他の被害者が待っている。
部屋を出ると入れ替わりに別の者が入った。背後から聞こえるエマの悲鳴を聞きながら 歩き出す。
ザップたちが、この後のエマをどうするか知りたい。だが、知ってしまったら、またエマに囚われ
てしまう。そんな気がする。
気持ちを鎮めようと大きく息を吐く。
トニーの仇をとったそれなのに、心が晴れない。これでいいのか? これで許すのか?トニーの両親に終わったと話すべきか?
全て忘れて生きていけるのか?
もう一度、心から笑えるのか?
(・・・)
こんな気持ちのままでは一歩も動けない。ジャックは
何処へも行けず。ただ、その場に立ち尽くす。
「ジャック」
「えっ?」
ザックに声に物思いから覚める。
気付けば日も傾いている。
ずいぶん時間が過ぎたようだ。
「後のことは俺たちに任せて、フローラのところへ行ってやれ」
「フローラ・・」
俺の異変には気付いてだろう。それでも、俺を信用して何も聞かないでいてくれた。無鉄砲なくせに、優しい。
フローラの事を考えると、無邪気な笑顔が浮かんでくる。その顔を思い出すと 胸が温かくなる。 きっと、帰りが遅いと心配してるだろう。
(帰ろ。フローラの元へ)
「わかった。ありがとう」
ジャックはザップに握手
を求めて手を出す。
踏み出した一歩は重い。
でも、フローラが待っていると思うと足取りが軽くなる。
自分の決断が正しかったのか、間違っていたのか、それは分からない。
でも、それでいい。
神様じゃないんだ。誰かが、誰かを罰するのは 難しい。
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