お人好しアンデッドと フローラの旅は道連れ世は情け。 骨まで愛してる。

あべ鈴峰

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綻びの始まり

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俺たちに罠にかけた犯人を捕まえると言う 話を小耳に挟んだフローラが自分も手伝いと言い出したが、ザップと一緒に 丁寧に断った。フローラが仲間外れにされたと ふてくされていたが、 そういう事は相手がアンデットだし大人のする事だと言うと 渋々引き下がった。我々を救出したことで 自信過剰になっている。
 
リンダの元へ戻るそんなフローラの後ろ姿を 見送りながら 頭蓋骨と 第7頚椎を左右に動かす。

*****

帰る途中で疲れ果てて 睡魔に勝てなくなったフローラの 太ももを自分の 寛骨の上に乗せて おんぶして村へと向かう。肩甲骨と胸椎に 柔らかく暖かいフローラの体が ずっしりとのし掛かって
くる。時々 甘えるように 頸椎に顔を擦りつけてくる。その事が 自分に身も心も委ねているように感じる。
(この時間が 永遠なら良いのに・・)

 夜通し歩いて朝には村に到着した。 ジャックはリンダの父親の誘いを受けて 泊めせてもらう事にした。
 自分は兎も角 フローラはベッドで寝かせてあげたい。

 ジャックは案内さらたリンダの部屋のベッドに骨盤を降ろすと 既に寝ているリンダの横に、おんぶしていたフローラの太ももから 指骨を外して寝かせる。
フローラが起きても俺を探しに来ないように リンダと一緒のベッドに寝かせた。これから我々がする事を フローラには見せたくない。

指骨でフローラの乱れた髪を梳る。
サラサラと指骨と指骨の間を 髪が流れていく。
( フローラ・・)
 未だに自分を一発で見つけ出した事
が信じられない。ザップたちじゃないが 俺の顔に印でも付けたんだろうか? そう疑ってしまうほどだ。
「ジャック。時間だ」
 リンダの父親の言葉に 後ろ髪を引かれる思いで立ち上がる。
「後のことは頼みました」
「ああ、分かってます」
ジャックは最後に もう一度 フローラの寝顔を見てから 起こさないように そっとドアを閉める。


 ザップたちはエマを捕まえる事とは別に 他にも計画を立てていた。その話を聞いた時 過去に囚われいるのは自分だけだと気付かされた。すでにザップたちは明日を見ている。 
それに引き換え俺は ・・過去の亡霊を引き摺っている。

その計画とは 自分達の村に帰る為に
に 足として人間から馬車を奪うと 言うものだった。
森の中を通って帰れば 人間に見つかる可能性は低い。しかし、サイド村は遠く。歩いて帰るには距離も人数も多いし、何より早く帰りたいのが本音だろう。話は理解出来るが、せっかく逃げられたのに どうして また人間の所へ戻る必要があるのかと思ったが、 そうではなかった。
ザップは自信ありげに デビットの手下が この村に俺たちを探しに来ると言った。
「待てば海路の日和ありだ」

 しかし、俺はそう上手くいくとは思わなかった。アンデッドが 、たった一晩で 全員消えたんだ。既に遠くへ逃げたと考えるのが普通だ。
半信半疑のまま 協力すると言った手前 村の入り口に行くと ザップたちが既に 草むらに身を潜めていた。
ジャックは軽く頭蓋骨を下げて ザップの隣に座る。

まだ昼前だ。来るとしても 随分待たされるだろう。そう覚悟していたが 馬車の音が 地面を伝って聞こえてくる。
( 本当に来た!)
 しかも来る時間も当てた。
 驚いてザップを見ると ザップが母子の基節骨をあげる。
 犯人たちを 観察してたんだろう。
 だから、行動が予想できるんだ。
 流石としか言いようがない。

 馬車が停まり 身を屈めて様子を伺っていると デビットの手下らしい男たちが  降りてきた。
単純だな。我々が何の策も講じていないと思っている。 随分見くびられたものだ。 手下たちが 村の中に入ると 同胞達が馬車を奪って 森の方へ誘い込む。愚かな人間は 馬車を取り返そうと後を追いかける。やつらの行く先がゾンビ犬の巣だとも知らずに。

苦渋を舐めてきた同胞たちは 手下たちを殺すことに躊躇がない。気持ちが分かるだけに 止めはしない。 
だが、この事を知っているのは 一部の者だけだ。アンデッドの姿でも みんなの心は 人間だ 。人間を殺して 手に入れたと知ったら 嫌がる者もいるだろう。

 諦めの悪い手下達が その後4回も村に来た。仲間が帰っていない訳ぐらい 思いつくだろうのに・・。
だが そのおかげで 馬車が4台も手に入ったと サップたちが喜んでいた。 
それを見て 逞しいものだと感心する。

*****

 晩御飯を食べて うつらうつらと リンダとフローラが椅子に座ったまま 船をこぐ。その姿を微笑ましく見る。
 大活躍の2人にとっては 忙しい一日だっただろう。
「しかし、良いお嬢さんだね」
リンダの父親が コーヒーの入ったマグをさし渡す。ジャックはマグを受け取りながら フローラが良く言われるのは 自分が 褒められてるようで くすぐったい。

 「人間なのにアンデッドの娘と仲良くしてくれた。こんなありがたい事はない。何より私たちを救ってくれた」
「そうですね。大人しそうに見えますが 行動力だけは 人一倍あります」
姉が拐われても泣き寝入りすることも 誰かに頼ることもせず 自分で成し遂げようとする独立心がある。
誰もが躊躇う事を 簡単に乗り越える。
その辺にいる男より 頼もしい 。

「大事にしてください。 我々を人間として扱ってくれる者は 今は ほとんどいませんから・・」
500年以上経った今では 最初からお互いに受け入れられない存在だ。
人間とアンデッドが 元が同じ人間だという話は おとぎ話になっている。
「分かってます」
コクりと頭蓋骨を下げる。他の同胞等にも言われた 。
そして、その事を一番感じているのは 俺自身だ。今までのことを思い出しても アンデッドとして 差別することなどなかった。 
それだけフローラは 特別な存在だ。

長くアンデッドをやっているが、 ここまで無条件に受け入れられたのは 初めてだ。普通の人間は 我々の姿を見ただけで恐怖から気絶したり 襲いかかってきたりする。
それほどに忌み嫌われている。 
だが、不思議なことに フローラは 最初から俺の事を 一人の男として扱ってくれている。だからか 自分が人間だと勘違いしそうになる。

*****

リンダと手をつないで 食堂に降りて行くと 既に二人は朝ごはんを食べ終えたようで コーヒーを飲んでいた。
「おはようございます」
「おはよう。お父さん 」
 リンダが 私の手を離して 父親に抱きつく。
「ああ、おはよう」
抱き合っている二人を見て ほっこりする。助け出せて本当に良かった。
 同じように2人に笑顔を向けているジャックを見て 顔を曇らせる。
悩みがあるのか 笑っていても 翳りがある。早く 元のジャックに戻って欲しい。

 朝ごはんも食べ終わり 親子で仲良く後片付けをしている姿を見ていると ジャックに肩を叩かれて外へ行こうと窓の外を指さされた。

 こうして二人で並んで 朝の光を浴びていると 旅に出た日のこと思い出す。 あの日も こんなふうに空が青くて 隣にジャックがいた。
空を見て そんなことを懐かしく思って 口角を上げたが、すぐに真顔になる。

 私を連れ出したと言う事は・・悩みを打ち明けてくれるんだろうか・・。
どんな事を言うのかと思うと緊張する。どこか 俯き加減のジャックを見るたびに 胸が重くなる。
どんな話でも 受け入れよう。たとえ、人を傷つけていても きっと理由があるはずだ。

ジャックの異変に 気付いて声をかけようとしたら ザップに相手が 話したくなるまでは、そっとしておけと 止められた。恋愛絡みじゃないから 気にするなと言ってたけど・・。だったら被害者なのかな?犯人のエマって言う人との間に どんな事が あったんだろう。
チラリとジャックを盗み見するが、話しそうにない。

もしかして、二人きりにしようと気を利かせただけ?
(やっぱり、そう簡単には話してくれそうにない)
でも、このままでは駄目だ。何とか元気づけよう。何が良い方法はないかな  腕組みして 首をひねって考える。
 とは言っても 他所の村だし 旅の途中だから 何も手に入らない。
・・・んっ?
 そうだ。 あった。 ザップさんと同じ村の ジミーさんからコーヒー豆をもらったんだ。 高級品だと言っていた。

「ジャック 後で豆を挽いて 久々に美味しいコーヒーを飲ませてあげるね」
「・・・」
「ジャック?」
 返事もせずに 私に真剣な目を向けてくる。いつもと違う その視線に  胸がざわつく。
何をしゃべる気なんだろう。そわそわと落ち着きなく続きを待つ。

「どうして俺だと分かったのだ?」
「えっ?」
 ジャックの質問にフローラは 目をパチパチさせる。
そっち?
でも、わざわざ聞くんだからジャックにとっては 大切な事なんだろう。

 でも どうしてと、聞かれても・・。
 ずっと一緒にいるんだから 自ずと分かる。でも ジャックの真面目な顔を見るに、そういう感覚的な答えが聞きたい訳じゃなさそうだ。
「頭蓋骨だけでは 親でも見分けがつかないんだ」
 「それは・・多分 ジャックしかアンデッドを知らないからです」
「それに・・」
 フローラは背伸びすると ジャックの両頬に手を添えて 大好きなザックの瞳を覗き込むと 心の中で 『心配事があるなら 私に言って』と願う。

 私に突然 頬を抑えられて 驚いたジャックの瞳孔が 形を変える。
「なっ」
「簡単ですよ。この青白い肌に 目の虹彩」
「虹彩か・・ それなら個人差があるな」
 ジャックが、なるほどと 小刻みに頷く。望んだ答えのようだ。ジャックの虹彩の模様を覚えるほど ずっと側に居た事になる。

フローラも一つ覚えている事を口にする。
「もう一つは匂いです」
「匂い?」
「そうです。ジャックの頭からはセージの匂いがします」
 ジャックの頭に鼻を近づけてクンクンと匂いを嗅ぐ。最初に会った時から、この香りがしていた。
「セージか・・」
気に障ったのかジャックが私の手を外す。 元気付けようと思ったのに また元気がなくなってしまった・・。
良い匂いなのに、どうして嫌いなんだろう。
「何か あるんですか?」
「セージは博士が俺たちを実験する際に 使った薬剤の一つだ」
ああ、そうなんだ。 500年以上経ってるのに まだ臭いが 残ってるんだ。
それだけ深く骨に染み込んでいる。
そして、それは 忌まわしい記憶を呼び起こすんだ。だから、嫌いなんだ。
でも、だからといって 洗って落ちるものじゃない。

「でも、私はこの匂い 好きですよ。嗅いでいると心が落ち着ます」
「・・・」
そう言うと思い切り息を吸い込む。
 ジャックが嫌いでも私は好きだ。そうを伝えたい。でも、ジャックは無反応だ。なかなか自分の思いを伝えるのは難しい。

 **綻びの始まり**

年代物の家具に囲まれた部屋で エマはドレスの裾を翻す。 テーブルの上にはでデカンタに入れられた高級ワインが置いてある。しかし、グラスに注ぐこともせず 何本も身に付けているネックレス もてあそびながら落ち着きなく行ったり来たりする。

 エマはアンデッドたちが一晩で 全員いなくなったと聞いた時は 自分の耳を疑った。 何故ならアンデッドたちの力だけでは この村から出れないからだ。 だが、頭と胴体の どちらも空っぽになってるの倉庫を見たときは、信じざる得なかった。
残党が後から救出に来られないように、念には念を入れて 頭と胴体を別々の倉庫に保管して、頭がある倉庫の方には魔方陣を仕掛けた。
それなのに・・。

(人間が手助けした?)
 そんなバカな。
自分の頭に浮かんだ考えを否定する。
アンデッドは 恐ろしい存在。人間の敵だ。そんなモノに同情する人間など居ない。
それなら何故?どうやって? 誰が? 次々と疑問が頭を駆け巡る。だが、明確な答えなど出ない。
(・・・)
言い知れぬ不安に 親指の末節骨を噛む。

この感覚、前にもあった・・。
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