お人好しアンデッドと フローラの旅は道連れ世は情け。 骨まで愛してる。

あべ鈴峰

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上位ランカーに なるための条件

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救出したザップたちが、自分たちをこんな目に遭わせたのはエマと言う女のアンデッドだと言う。ジャックは、その名前に500年前の出来事を思い出していた。

エマに騙されて行方不明になった親友のトニーを探しにジャックは村を出た。

エマの情報は 驚くほど簡単に手に入った。行く先々のアンデッドの村の 全てで 若い男たちを トニーたちと同じように『人間に戻れる』と言って連れ出した。アンデッドになりたての俺たちには最高の 誘い文句だ。
俺は、ただ アンデッドの村を辿るだけで、エマへと近づいていけた。しかしその途中 驚愕の事実を知る。

集められた同胞たちは人間に売られ、女は、見せ物小屋で毒を飲まさたり、拷問されるらしい。
若い男は、闘技場でアンデッド同士の闘いに強制的に参加させられいた。
人間が、その勝敗を賭けて遊んでいると言う。

元は同じ人間だったのに 姿が変わった
とたん異種とみなさらて迫害される。
その街では 人間にとってアンデッドは恐怖の対象ではなく遊び道具でしかない。しかも、使い捨ての・・。

俺はトニーを探すため他のアンデッドに紛れて闘技場に入った。
しかし、この見た目だ。
会う同胞たちに『俺と同じくらいの背丈の茶色の瞳の男を知らないか?』と 尋ね回ったが、情報はえらなかった。
しかも、 闘技場には 毎日何十人もの者が送られてきて何十人もの者が 闘わされ敗者は骨を砕かれ 死んでいく。
その運命は、自分も例外では なかった。

闘技場に連れて行かれた時、 あの自分を飲み込むほどの 人間たちの歓喜に、
完全に恐怖で足がすくんだ。
 頭では、闘わなくてはと分かっていても 体が言うことを聞かない。
初めて手にした剣は重く。ガタガタと揺れていた。
相手の剣が右の上腕骨に 切りつけられてやっと 自分を取り戻した。相手も必死だ。このままでは殺される。
『何のために、ここに居るんだ』
そう自分に 問いかけた。
トニーを探すために生き残る。

無我夢中で剣を振り回しているうちに相手を倒せた。
死ななかったと言う安堵感を 粉々になった骨を 積んだ荷馬車が目の前を通り過ぎて 明日は我が身だと奪い去っていく。
毎日、闘い。目の前を荷馬車が通る。 心は どんどん荒んでいく。

 耐え切れず飛び降り自殺したり、人間を殺した者もいた。
ジャックは、それでも、いつかトニーに会えると信じて、その地獄に 身を投じていた。

 そんなある日 上位ランカーになった者のリストがあることを知った。 早速日付を遡っていくと トニーの名前を見つけた。
『28位。トニー・ヴィスタス』
「トニー・・」
生きてる。
その事実に安堵の涙が流れる。
この闘技場の同じ敷地のどこかに、居る。もうすぐ会える。

その喜んだが、そう簡単ではなかった。上位ランカーたちは、優遇され 住居が我々とは異なった。
トニーに会うためには自分も上位ランカーに成るしかない。

上位ランカーに成る為には、勝ち続けるか、人間のパトロンが必要だった。人間に 媚びる事など出来ない俺は勝ち続ける方を選んだ。しかし、それは想像以上に苛酷だった。
毎回、死に物狂いで闘い続けて、やっと上位ランカーになった。

トニーに会えると喜んで上位ランカーの居住区を探し回った。
しかし・・間に合わなかった。
トニーは既に闘いに負けて死んでいた。
残っていたのは捨て忘れられた靴が片方だけ。
あんなに同胞を殺して、 あんなに痛みに耐えて、 あんなに願っていたのに・・。
 同胞を殺し続けただけの半年だった。

俺の帰りを待っている皆に何て言えばいいんだ。
上位ランカーになったと自慢しろとでも言うのか!
 心をすり減らして ただただトニーに会いたい一心で、ここまで来たのに・・。
ショックに 立ち直れないでいるうちに
暴動が起き。自分たちを陥れた エマ探しが始まった。俺もその仲間に加わった。300人余りのアンデッドたちが 街中を探し回ったが 影も形もなかった。

トニーの敵討ちも出来ないまま、怒りと、後悔を抱えて村に 帰るしかなかった。
俺の部屋には 今もトニーの靴が隠されている。どうしても死んだと言えなかった。トニーの両親は今も どこかで生きていると思っている。事実を知っているのは親父だけ。あの時 縛ってでも止めていればと 何度後悔した事か。

****

「それで、どうする?力を貸してくれるのか」
 ザップの声に我に返る。いつの間にかエマを捕らえに行く算段になっていた。
「 全ての元凶はエマだ。 このまま野放しにしてたら 被害者が増える一方だ」
「そうだ。そうだ 」
同胞たちは、また魔法を使われて家族がバラバラになることを恐れている。 死のない我々にとって それは 終わりのない苦しみになる。

「もちろんです」
自分も加わると二つ返事する。
今度こそ トニーの敵を打つ。
エマを殺してもトニーは戻らない。それでも トニーとの事に、けじめをつけたい。
 エマは今もアンデッドたちを 騙して甘い蜜を吸っている。ずっと、そうして生きてきたんだろう。
だが それも終わりだ。
「それで勝算はあるんですか?」
 アンデット用の罠が仕掛けられていたら手も足も出ない。だからといって、これ以上フローラを巻き込みたくない。
「 それは問題ない。捕まえるのはエマ一人で十分だ」
俺の問にザップが答える。ザップの事だ。何か策があるのだろう。

エマを捕らえれば、自分がした事への
罪滅ぼしになる。
『偽善者』
「えっ?」
下から聞こえて来た声に、ギクリとして  目だけ動かして足元を見ると 何十人もの同胞が、しがみついている。
その俺を見る目に見覚えがある。 全員俺がを殺した者たちだ。

仕方なかったんだ。でなければ自分が殺されていた。だから・・ だから・・
「許してくれ」
 そう言って頭蓋骨の前面を 両方の中手骨と指骨で覆う。
「何をですか?」
闇を追い払うような光輝く声音に頭蓋骨を向けるとフローラの大きな瞳が俺を見ている。
「フローラ・・」
ジャックは、思わず目をそらした。
今の俺には眩しすぎる。

過去を思い出してしまった今では まともに目が合わせられない。
「ジャック?」
「・・・」
「ジャック!」
フローラが苛立ったように俺の袖を引っ張る。 その力の強さに体が傾く。気付けば目の前に フローラの顔が。 目をそらそうとした次の瞬間 両方の頬骨を叩かれた。
「 私に八つ当たりするなんて 酷いです」
  そう言ってプイと腕組みして足をトントンと鳴らす。
 怒った姿にジャックは肩を落とす。 何も知らないフローラに 自分の気持ちを理解しろというのは あまりにも理不尽だ。 フローラの前では今までの俺でいなくてはならない。
「ごめん」
 謝ると、くるりと振り向いたフローラは、すでに笑顔になっている。

「まあ、 何を言われたか知りませんが
 私はしたの味方です。だから、気にしないのが一番です」
ザップたちに、いじめられたと誤解してるフローラの口から出たのは 一番
言ってほしい言葉だ。
だから、ついフローラなら全てを話しても・・。
「フ・・」
自分の罪から逃げたい。赦しを請いたい。そんな気持ちになった自分をもう一人が押し留める。
『甘えるな。お前は闇の中を生きろ』

そうだ。フローラは光のような存在だ。 本当なら私が関わりを持ってはいけない相手だ。今すぐ立ち去るのが正解だ。しかし、フローラには恩がある。それを返さないと、利用するだけの最低な男に なってしまう。
フローラの姉が見つかるまでは側にいるの事を 許してほしい。

「 ジャック?」
「分かった。気にしない」
 自分の過去の全てを飲み込んで ジャックはフローラに笑いかける。
 きっと人間だったら 泣き笑いの表情だろう。
「それで、どんな作戦なんですか?」
参加する気満々のフローラに、苦笑いする。フローラの前では過去さえ消えてしまう。



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