お人好しアンデッドと フローラの旅は道連れ世は情け。 骨まで愛してる。

あべ鈴峰

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エマとの因縁

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森の奥の方まで同胞の姿が広がっている。

我々にとって無理なことでも人間が協力すれば簡単に クリア出来る。
人の力が、これほどのものかと改めて その素晴らしさをジャックは感じていた。こうして全員を助けだせた 一番の功労者は フローラとリンダの二人だ。

そう言えば、礼の一つも言っていなかったこと思い出して、横を向くと フローラが半分眠ったまま ふらふら歩いている。
アンデッドだって、きついのに。
 体のある人間に徹夜は、それ以上に堪える。
「 フローラ。おんぶしてやろう」
「とっ、 とんでもない。大丈夫です」
 そう言って、しゃがむと肩甲骨と胸椎をフローラに向ける。しかし、フローラが子供じゃないと両手を振って私の申し出を断る。
 (誰も文句なんて言わないのに・・)

ここにいる全員が フローラには感謝している。 
「いいから」
そう言って腕を掴もうとすると フローラが何かに気を取られている。視線の先を見ると逆流して こちらに向かってくる親子連れがいる。

たぶん、リンダとその 父親だろう。
リンダが 父親の周りを 弾むように飛び回っている。
よほど嬉しいのだろう。
 一生会えない。そう思っていたのに再会できたのだ。 会えなかった長い時間が あるだけに 喜びもひとしおのことだろう。
「もしかしてお父さん? 無事、お父さんに会えたんだ。良かった」
「ああ、そうだな」
 俺たちの姿に気づくと リンダが父親の腕を引っ張ってこちらに向かってきた。

「お父さん。早く、早く」
「分かったから、待ちなさい」
 ジャックはフローラと二人を出迎える。
「お姉ちゃん。お父さん」
リンダが、父親を紹介しようと背中を押す。
「初めましてフローラと申します」
「どうも、リンダの父親です。この度は 娘のわがままを聞いてくださって、 ありがとうございます」
フローラが、頭を下げるリンダの父親の手をとって面をあげさせる。

「とんでもない。私にとってもジャックを助けるのに 手伝ってもらいましたから お互い様です」
そう言ってフローラが 俺を見る。ジャックは、微笑み返すと、リンダの父に向かって手を差し出す。
「初めましてジャックです。フローラの言うとおり、一番頼りになったのはリンダです」
「お姉ちゃんも、お兄ちゃんに会えて良かったね」
「うん。ありがとう」

リンダが、秘密を教えるように口を手で隠して顔を近付けてくる。
「お姉ちゃん。お兄ちゃんがアンデッドなのに『お兄ちゃんが、死んじゃった』って泣いてたんだよ」
「えっ」
「なっ、ちょっとリンダ。しー!」
フローラが慌てて自分の口に指を当ててリンダを黙らせようとする。
「泣いたのか?」
「えっ?あっ、違う。違う。誤解。誤解」
「誤解じゃないよ。本当だよ。お兄ちゃんの服を抱き締めて、こんな風に泣いてた」
「リンダ!しっ!」
「・・・」

フローラが、しまったと言う顔をする。
「フローラ・・すまない」
(やっぱり、泣いたのか・・)
あの時は、急に俺が胴体だけ残して 消えたから、突然一人にされて心細かったに違いない。
フローラが 両手振って間違いだと言う。
「違うの。人間と勘違いしてただけで・・」
「フローラ」
「アンデッドの生態を知らなかった私の早とちりなの。だから、ジャックは気にしないで」
「嘘じゃないもん。この目で見たんだから」
「もう!リンダ」
しかし、はしゃいだ様子のリンダがフローラの泣き真似物する。
「泣いてた。泣いてた。こんな風に」
「分かったから、黙って」
「嫌だ」
「 もう、リンダ!待ちなさい。大人をからかうんじゃないの」
 フローラがリンダを追いかけ出すと、 リンダが笑いながら逃げていく。
父親が見つかってテンションが高いらしくリンダが からかい続ける。

そんな二人を本当の姉妹のようだと笑って見送っていると リンダの父親がやれやれと 頭蓋骨と 第7頚椎を左右に動かす。
どうやらこっちが地らし。 リンダの父親と並んで二人の後をついて行く。


ジャックは、フローラ に無駄に心配させたことを反省していると 額に3の数字が書かれた男は こちらに向かってくる。 その佇まいに 自然と警戒して足が止まる。
「知り合いですか?」
「いや、同じ村の者じゃない」
相手に気付かれないように、そっと尋ねる。
肉体はなくても そこから感じるオーラは 別次元のものだ。 ただのアンデッドじゃない。 俺以上の修羅場をくぐったに違いない。

****

 雰囲気からして、みんなのリーダーらしい。
「俺はサイド村のさ ザップ。今回の件で、お礼を言いたい」
「俺はフローラと旅をしているジャックと言う者です」
目の前に立たれただけで相当な強者だとわかる。 
 ザップが手を出すその手を掴んで握手する。
「少し話がしたい」
ザップが、そう言って 近くの木を指差す。すでに何人か集まっている。
 ジャックは頷くとリンダの父親に目配せして ザップの後をついていく。

*** エマとの因縁**

 皆に一応の礼を言われた後は、これからの事についての話し合いが持たれた。
そこでジャックは、ザップたちの今までの経緯を聞く事になった。

 囚われていた同胞たは、二つの村に、またがっていた。
 ザップのサイド村の連中は 家族を人質に取られて使用人としてこき使われていたらしい。
最初は 拐われたのも月に40人ていどだった。
ところが、ある日を境に1日に20人。40人。50人と、どんどん数が増えた。明らかに可笑しい。そう感じていると、今度は仕事の内容が人殺しや略奪
などの汚れ仕事をさせられるようになった。
どうしてそうなったのか調べると、魔法を使えば、もっと アンデッドが捕まえることが出来ると持ちかけた人物がいた。

「それが、エマだ」
「えっ・・」
500年ぶりに聞く名前に頭蓋骨を殴られたようなショックを感じて目の前が歪む。
「人間にとってアンデッドは無敵の上に 服を着替えれば見分けもつかない。 復讐しようよにも、手がかりがないから 依頼者が分からず完全犯罪になる」
「嫌な、考えだ」
足元が揺れて立っていられない。
そんな・・皆が血眼になって探したのに見つからなかった あのエマなのか?
「全部、エマのせいだ。あいつがデヴィッドに話を持ちかけなければ 俺たちはこんな目に遇わなかった!」
同胞の一人が吐き捨てるように言う。

「エマって・・エマ・カンダニアか?」
どうか、本人であって欲しい。そうすればトニーの仇が うてる。
「なんだ。知ってるのか? だったら、お前も騙されたのか?」
「あっ、否 、騙されたのは親友です・・」
直接の被害者は、俺ではない。
でも、エマの事を考えると 自動的に親友のトニーの顔が浮かぶ。
生まれたときからの幼馴染で、アンデッドになったときもお互いに支えあって乗り越えた。そんな半身とも言えるトニーが・・。

どれほどの苦しみを味わったか。今もあの時の事を思い出すと 自責の念に駆られる。
ジャックは、とっくに無くなったはずの心臓の痛みに胸をかきむしる。


 あれは・・アンデッドになって3年目の春だった。

 これも運命と受け入れて村は一応の落ち着きを取り戻していた。
そんな時エマが村にやってきた。
 自分の村人以外で初めて見るアンデッドに村中が色めき立つ。
 エマの村は ほとんどの者が死んでしまい 仕方なく村を捨てて 旅をしていとの話だった。
その話に皆が同情して 一緒に、この村に住もうと誘ったが エマは、ある人物に会いに行くと言って 断った。

 村の連中は 外の情報に飢えていたせいもあり おしゃべり上手のエマは すぐに人気者になって、連日トニー達は押しかけていた。
 俺は仕事があって直接聞けなかったが、トニーからその話をよく聞いていた。
それをハラハラ、ドキドキして聞いた。
トニーから聞くだけでも楽しいんだ。
本人から聞いたら、もっと楽しいだろう。昔のように目を輝かせて話すトニーを見て俺は嬉しかった。


そんなある日。
トニーが 夜中に訪ねてきた。エマが人間に戻してくれる人間を知っているから、それに、ついて行く。その為に 旅費を貸してくれと無心に来た。

直感的に、嘘だと感じた。
そんな甘い夢を見れるほど俺は楽観的な考えは持てない。しかし、 だからと言って、その考を否定など出来ない。
一緒に行こうと誘われたが、俺はエマを信用できなかった。
「博士が一瞬で俺たちをアンデッドにできたなら同じように一瞬で人間に戻せる方法があってもおかしくないだろう?」
「それは・・否定できないが エマの言っていることが真実かどうか、分からないじゃないか。今までだって 旅人に痛い目にあってきただろう。忘れたのか?」

「今までは今までだ。同じアンデッドの エマは違う。俺たちに嘘をつかない」
 トニーの信じたい気持ちも分かる 。しかし、何人ものよそ者と 接してきた俺の勘が 嘘だと言っている。
「お前たちは騙されているんだよ。世の中うまい話はない」
「じゃあ、戻れるチャンスを逃せって言うのか?」
「それは・・」
もちろん 俺の感が外れる可能性もある。だか・・。
 口ごもるとトニーが 自分の肋骨を叩く。

「この体を見ろ。これで生きていると言えるか? 家族なのに声を聞かないと誰だか分からないんだぞ 。そんなこと俺には耐えられない 」
「・・・」
「こんな姿で生きるくらいなら 死んだほうがましだ !」
「トニー・・」
「だから確かめに行く。たとえ騙されてもチャンスがあるなら 俺はそれにかける」
「そんなギャンブルみたいな考え方なら行くな」

死が無いアンデッドだからこそ、慎重に行動しないと取り返しがつかない。
トニーが俺の両方の前腕骨を掴んで揺さぶる。
「ジャック。どうして俺の気持ちをわかってくれないんだよ !」
「お前こそ、どうして俺の気持ちはわかってくれないんだ !。何かあったら、帰ってこれないんだぞ」
「大丈夫。必ず帰ってくる」
「駄目だ」
奇跡を願っている相手にそれを諦めろとは言えない。ジャックは、トニーから目をそらした。

結局トニーと口論になり そのまま別れてしまった。 次の朝、仲直りしようと 家を尋ねたときには、すでに家を抜け出した後だった。


数日後、一緒にエマについて行ったトーマス一人だけが 骨の一部を失った状態で帰ってきた。 村を出ると幌馬車が用意されていて すでに何人ものアンデッドが囚われていた。騙されたことに気づいたトニーが トーマスたちを逃がしてくれたらしい。 逃げる途中で、みんなとはぐれてしまい トニーや他の皆が、どうなったかは知らないという。

(だから、言ったのに・・)
ジャックは、上顎骨と下顎骨を擦りあわせて歯牙を鳴らす。
俺が探しに行くしかない。

しかし、それが長い試練の始まりだった。
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